"会計"という言葉に、敏感に反応する経営者はそうはいない。高度成長期には、どんぶり勘定でも十分に儲かり、逆に、バブル崩壊以降の低成長時代に入ると、日々の売り上げを稼ぎ出すことに汲々とするあまり、業績管理など二の次というのが実態となってしまったからだ。

 しかし、言うまでもなく会計とは企業経営の羅針盤である。「会計を知らない経営者は、免許を持たないドライバーのようなもの」といっても過言ではないだろう。苦しい時こそしっかり足もとを固めないとぼろぼろと崩壊してしまう。

 では、経営者が知っておくべき、そして実践すべき会計とはどんなものなのか。

 多くの中小企業経営者は、会計を義務と考えると同時に、どこか「他人ごと」だと感じている。まずは、経理担当者任せの業績・計数管理は、いびつな経営を生み出す第一歩であることを肝に銘じるべきであろう。

 そもそも会計とは、倒産を防ぎ健全経営を行うために創られた制度。つまり会社を強くするための武器であり、もっといえば経営者の権利だともいえる。ここが重要なポイントである。経営者が、会計を申告・納税のための「面倒な義務」だと考えているなら、それは根本的に間違っているし、残念な機会損失を重ねていることにもなる。「会計は義務」という固定観念はいますぐとっぱらうことである。会計という武器(権利)を有効に活用することで、企業経営をいかようにも方向付けることができるからだ。そんなせっかくの権利を行使しない手はない。

「現状認識」と「意思決定」の狭間

 かなりの割合の中小企業経営者は自信ありげに「数字は私の頭の中にすべて入っている」と発言する。が、はたして本当にそうなのだろうか。われわれが取材を重ねるうちに、見えてきたのは彼らのいう「すべて」とは「おおよそすべて」であること。そして、この「おおよそ」こそ大きな落とし穴だということである。神奈川県のアパレル関連の多店舗チェーン社長の話が分かりやすい。

 「店舗AとBが赤字であることは頭では分かっていましたが、なんとなくやり過ごしていました。苦労してせっかく作った店舗なのでなるべく生かしたいという気持ちが無意識に働いていたのかもしれません。ところが、ある日、顧問税理士に在庫を含めた具体的かつ実質的な赤字額を見せられた時、ショックを受けました。私の頭のなかの見積もりと大差はなかったのですが、実際の数字をもとに説明されると危機感が募り、すぐさま、その2店舗をスクラップしました」

 以降、この会社は、利益体質を維持したまま店舗のスクラップ&ビルドを進め、5年前の取材時に比べ2倍の規模となっている。

 この経営者は重ねていう。

 「あのまま、多店舗化に突っ走っていたら、間違いなく資金繰りに窮していました。顧問税理士に助けられました」

 これは極めて典型的なケースである。つまり、「現状認識」と「意思決定」までの間には深い溝があり、その溝を埋めるのが具体的かつ精緻なデータというわけだ。

いまこそ「会計」を行使せよ

 そこで本特集では、読者の方々に、ぜひ、会計という権利を行使し、そして、いままでとは違う世界を垣間見ていただきたいという思いをベースに取材・構成をこころみた。当編集室では、年間約250社ほどの中小企業を取材し、併せて多数の会計人の話を聞いてきた。その経験をもとに、「理想的な会計」を実践するための七つのキーワードを以下に挙げる。

 ①発生主義の徹底
 ②適時・正確な記帳の実践
 ③月次決算の早期化
 ④部門別管理の実践
 ⑤改ざん不可能なシステム
 ⑥会計専門家の指導・助言
 ⑦業績管理体制(PDCAサイクル)の社内構築

 ちなみに、平成24年2月に公表された「中小企業の会計に関する基本要領」(中小会計要領)では「適時に、整然かつ明確に、正確かつ網羅的に会計帳簿を作成しなければならない」と強調されているが、七つのキーワードはそれを完璧に履行するものである。

 経営者がこれらをすべて理解し、経営に組み込むことができれば、カンパニーパワーを2~3割増しとすることも可能だろう。次ページからひとつひとつ解説していくことで、「理想的な会計」を明らかにしていく。

掲載:『戦略経営者』2014年4月号