月9日にマイクロソフトによる公式サポートが終了する「ウィンドウズXP」だが、「7」や「8」などへの切り替えをまだ行っていない中小企業も少なくない。4月以降もXPを使い続けることの危険性について、ITライターの柳谷智宜氏に聞いた。

──いよいよウィンドウズXPのサポートが終了します。

柳谷 ウィンドウズは「ビスタ」、「7」「8」と順調にバージョンアップを重ねたこともあり、すでに2008年にXP搭載PCの出荷が終了、09年にはマイクロソフトによるOS単体の販売も終わりました。しかし販売が終了した後も「XPが欲しい」というユーザーの声が消えることはなく、多くの人がそのまま使い続けてきました。なかにはわざわざダウングレードする権利を使って、XPを無理やりプリインストールしてビジネス向けPCを販売するメーカーもありましたが、それも2010年に不可能になっていて、すでに3年前からXP搭載PCの新規販売は終了しています。

──根強い人気があるのですね。

柳谷 人気があるというより、「XPしか使えない」という人が仕方なく手を出しているというのが実情でしょう。マイクロソフトもこうした現実に配慮し、販売終了後もXPのサポート期限をこれまで何回も延長してきました。最新の発表では、サポートが今年4月まで、悪意あるプログラムに対する防御手段の提供は2015年まで行うこととされています。しかしこれはあくまでもマイクロソフトの「温情」と考えた方がいい。何度も延長されてきたサポートサービスは4月9日に正真正銘終わりを迎えます。まだ未対応の企業は一刻も早く切り替えを実施したほうがよいと思います。

ハッカーの「やりたい放題」に

──一番怖いのはやはりセキュリティー面でしょうか。

柳谷 もちろんです。不正行為は、ただのいたずらから、銀行のIDやパスワードを盗み出して勝手にお金を引き出すといった経済的な被害をもたらすものまでさまざまですが、いたちごっことはいえこれまではマイクロソフトがその都度対応してきたことで安全性が担保されてきました。しかしサポート終了後は防御策がすべてストップします。完全に無防備な状態になり、ハッカーのやり放題になってしまう大変危険な状況になるということです。

──あまり危機感のない企業もあるようですが……。

柳谷 残念ながら「自分の会社のPCには、大した情報が入っているわけではない。大丈夫だろう」と楽観的に考えている経営者もいます。この油断と思い込みは全く間違っています。犯罪者が行うのは自動プログラムによる総当たり方式。情報には関係がなく、インターネットにつないでいるパソコンはほぼすべて、常に不正プログラムからの攻撃を受け続けていると考えてください。これまで被害を受けずに済んだのは、最新版のウイルス対策プログラムやセキュリティーソフトがこれらの脅威を未然に防いでいたからです。

──具体的にはどんな被害が想定されるでしょうか。

柳谷 偽のウェブサイトなどへのアクセスを通じ不正プログラムをPC内に潜みこませ、キーボードからの入力履歴を自動送信する「キーロガー」という手法が代表的でしょう。ユーザーが入力したIDやパスワードが筒抜けになってしまうわけですから、銀行口座のお金を不正に使われてしまう可能性もあります。またPC内のファイルを直接転送する不正プログラムもまだまだ怖い存在です。「機密情報などない」と思っている方もいるようですが、やはりメールの内容や住所録が不特定多数にさらされるのはまずい。見積書や請求書などの日常的な資料でもいったん流出してしまえば、企業としての信用を失ってしまいます。無防備な状態のXPを使い続け、機密情報の漏えいや技術営業データの流出が発生すれば、損害賠償請求などの法的問題に発展する危険性が極めて高くなるということを自覚する必要があります。

──ネットにつながなければ安心なのでは?

柳谷 確かに、インターネットとの通信を完全に遮断すれば問題はないかもしれません。しかし真の意味でスタンドアローンの状態で使うのはなかなか難しいものです。たとえばUSBメモリーなどの外部記憶媒体でデータをやりとりした場合は、メモリーを介して不正プログラムが侵入するおそれがあるなど、インターネットに接続したのと同様のリスクが発生します。またそもそも知らぬ間にそのPCに不正プログラムが潜んでいる場合も十分考えられ、その場合は、スタンドアローンとして使用しているPCが社内ネットワークにウイルスをばらまいてしまうことにもなりかねません。

人的コストもムダになる

──安全面のほかにも「XPを使うべきでない理由」はありますか。

柳谷 企業の生産性向上を大きく阻害させてしまうことが指摘できるでしょう。まず慣れ親しんだアプリケーションがそのうち使えなくなります。XPパソコンは32ビットですが、「ウィンドウズビスタ」から徐々に、そして「ウィンドウズ7」で一気に、「ウィンドウズ8」ではほとんど64ビットに移行してきており、ユーザーが意識しないところで64ビットへの切り替えが着々と進んでいます。「XPモード」や「XP仮想化」などの手法を用いれば、64ビットのPCで32ビットのアプリケーションを使うことは可能ですが、逆は難しい。当然、今後はソフトウエア会社によるアプリケーションの32ビット対応はなくなっていくので、今まで使っていたアプリケーションをアップデートしながら使い続けるためには64ビットで動く「7」や「8」が必要になるのです。さらに問題なのは、ソフトウエアが使えないだけでなく、企業の生産性低下に直接結びつく要因にもなるということです。

──というと?

柳谷 IT専門調査会社IDCが2012年にまとめた報告書によると、PCを再起動させるのにかかる平均的な時間はXPが4.1分なのに対し、「7」は1.4分でした。この差はバカになりません。たった3分の違いですが月で計算すると1時間にもなり、企業単位で数十台、数百台にもなれば相当な時間のロスになるでしょう。いわばそれだけの作業時間をどぶに捨てていることになり、払わなくてもよい人的コストを負担している状態になるのです。また最新版に比べメンテナンスやサポートに余計な時間がかかるのも問題です。そもそもサポートが終わるということは、故障したPCを復旧する手立てがなくなるということ。代替機を入手するのも困難ですし、当然部品の供給も終了することから修理もままなりません。そうなれば生産性はがた落ちになりますし、従業員の勤務環境も悪化してしまいます。

──とはいっても、「お金がないので新しいPCを買えない」という声も聞こえてきそうですが。

柳谷 気持ちは分かりますが、無為無策のままサポート期限を迎えてしまうのだけは絶対に避けるべきです。とにかく切り替えることが大事だと肝に銘じること。経営者は強い意思を持って来たるべきリスクを回避する責任があると思います。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2014年3月号