インターネット上でおこなわれる誹謗中傷、いわゆる「ネット炎上」が止まらない。従業員や来店客の投稿した画像や文章が、ときに店舗を閉鎖させるほどのインパクトをもつ。いかに炎上リスクに備えるべきか、対応策をさぐった。
Q なぜ最近、インターネット上の炎上が多発しているのでしょうか。
A 大きな要因としてソーシャルメディア利用者数が急増していることが挙げられます。ツイッターとフェイスブックは国内に2,000万人をこえるアクティブユーザーがいると言われています。ツイッターは相手の承認なしに誰でも自由に閲覧できるため、人間関係が非常に不安定な状態といえます。自分の発言を友人ぐらいしか見ていないと思い込み「飲酒運転なう」とか「キセルなう」とか安易に投稿してしまうとリツイートされて、あっという間に拡散されます。
Q 炎上はどのように広がっていくのでしょうか。
A ツイッターやユーチューブなどに投稿された文章、写真、動画が火種となります。最近の具体例では飲食店従業員が厨房の冷蔵庫内で寝そべっている写真や、豚丼を山盛りにしたテラ豚丼の作り方の動画等があります。まずこうした投稿を発見した人が「2ちゃんねる」で取り上げ、メッセージのやりとりが始まります。2ちゃんねるは、いわばコンテンツ製造工場であり、投稿した人の個人情報が暴かれることもあります。話題となっているネタは「まとめサイト」に掲載され、ツイッターで記事のURLが広まります。以上のコンテンツをつくる人、編集する人、運ぶ人に役割分担され負のエコシステムが循環しはじめるのは、およそ6時間足らずですが、ここまではぼやの状態といえるでしょう。
その後「J-CASTニュース」や「ロケットニュース24」をはじめとした速報系ニュースサイトで取り上げられると、ツイッターを利用していない人々の目にもとまることになります。これらのサイトは「エキサイトニュース」や「ライブドアニュース」といった有名ポータルサイトにニュースを配信しているため、いっきに火が回ります。いわゆる炎上ですね。さらに「Yahoo!JAPAN」に掲載されると翌日のスポーツ新聞や、テレビの情報番組で取り上げられる可能性が高まります。
Q 炎上が起こる要因を教えてください。
A 炎上のパターンを図表((『戦略経営者』2013年12月号P23)に掲げました。最近増えているのは、一般従業者の不適切発言・行為による炎上です。ツイッターへの悪ふざけ投稿が顕著な例ですが、お店の食材を粗末に扱った写真や来店客の悪口をアップし、炎上にいたるケースが多発しています。誰もが知っている店舗や企業ほど、炎上への沸点は低くなります。炎上させたいと思っている人たちの目的が個人や企業に社会的制裁を加えることだからです。飲食、小売業などのBtoC企業はとくに注意するべきでしょう。BtoB企業であっても、従業員のマナーが地域住民のあいだで悪評となっている場合もあり注意が必要です。
自社でソーシャルメディアを活用しているかどうかは関係ありません。携帯電話利用者のうちスマートフォンユーザーが半数を占めるようになったいま、街なかを歩いている人たちは、いわば記者といえます。もはやどこかで誰かが見ているというレベルではなくなりました。一般従業者によるリスクに加えて、社長によって生じるリスクにも気をつける必要があるでしょう。
Q 社長によって生じるリスクとは具体的にどんなことを指しますか。
A 企業経営者によるツイッターやブログでの不用意な発言に端を発した炎上のことです。たとえば「おいしくなかった」とツイートした来店客に対して飲食チェーンの社長が「二度と来るな」と発言し物議をかもしたり、あるネット衣料販売会社の経営者は、ツイッターで商品送料に注文をつけた購入客に反論して騒動になりました。概して経営者はバイタリティー旺盛で発言の影響力が大きいため、炎上をまねく沸点が低いのです。ですから発信は内容を慎重に検討してからにしてください。
私もツイッターを日ごろ利用していますが、フォロワー数が少なかった初期のころは、面識のある方ばかりだったので思ったことを気軽に発信できました。でも100人を上回ると知らない人の方が多くなります。3秒ルールとよんでいますが、顧客、同僚、部下、友人、知人、家族が投稿した文章を読んで気分を害さないか、ツイートボタンを押す前に考えるようにしています。できるだけ断言口調を避け、政治、宗教は話題にしません。
Q 炎上を発見する有効な手段はありますか。
A 大企業ではモニタリングツールを用いて、ウェブ上の自社に関する書き込みをチェックしているケースが増えています。具体的には企業名、社長名、ブランド名などをキーにして、前日比ないしは前週比で200%を上回る口コミがあれば、担当者にメールで知らせる仕組みです。プレスリリースによる反響であれば問題ありませんが、商品やサービスに関して悪い評判が立っているなら、手を打つ必要があります。このような口コミ分析ツールは月額15万円程度で利用することができますが、自社に関する風評を手軽にしらべる方法として、ヤフーのリアルタイム検索をおすすめします。ツイッター、フェイスブックも含めたウェブ上の投稿件数、内容を把握できます。データを切り出して加工したり、メールで知らせる機能はついていませんが、ネット上の評判を測る上で有効です。定期的にチェックする習慣をつけておくとよいでしょう。
Q 炎上予防のリスク対策はどう進めればよいのでしょうか。
A 従業員がソーシャルメディアを利用するさいの注意点を記した「ソーシャルメディアガイドライン」を策定する方法があります。大企業では5割以上が策定を完了しているのではないでしょうか。ソーシャルメディア活用の指針を「ソーシャルメディアポリシー」としてホームページで公開している企業もそのなかで1割程度あります。
アルバイト・パート従業員の多い外食チェーン店やコンビニでは、リーフレットをつくり定期的に教育をおこなっているところもあります。ソーシャルメディアを個人的に利用しているアルバイト・パート従業員の比率は高まっていますが、ネットリテラシーが備わっているとはかぎりません。不用意な投稿によって損害賠償で訴えられたり、会社を解雇になってしまった事例をしっかり教え、危機意識を持ってもらうことが重要です。140字のつぶやきが人生を一変させるリスクをはらんでいることをくりかえし教育するようにしてください。
Q 自社にまつわる炎上を見つけたときの対処ポイントは?
A 炎上を見つけると誰しも、すべきでないことを着手しようとする傾向があります。会社にとってマイナスイメージとなる書き込みを何の説明もないまま削除しようとしたり、反論して火に油を注いでしまったりしがちです。従業員による不適切発言、悪質ないたずら、情報漏えい等があれば隠ぺいせず、社長自らが1日でもはやく真摯に謝罪するのが先決です。数日後では延焼がひどくなるだけなので、6時間ないしは12時間以内に発生している状況を把握し、正しい手を打つようにしてください。
おととしの3.11をきっかけに多くの企業が緊急連絡網を整備しなおしたことと思いますが、ネット上で自社に関する悪い評判を発見したら、何分以内に誰にどんな手段で伝えるのか、エスカレーションフローを最低限決めておくべきです。かつては人のうわさも75日といわれましたが、いったんネット上に掲載された文章、画像、映像は半永久的に残るため、企業にとって消し去りたい出来事もなかなか忘れ去られません。不祥事が風化されにくい世の中になったことを肝に銘じておくべきでしょう。
- Profile
- いけだ・のりゆき 1973年生まれ。トライバルメディアハウス代表。ネットマーケティング会社クチコミマーケティング研究所所長、バイラルマーケティング専業会社代表等を経て現職。キリン、P&G、トヨタ自動車などのソーシャルメディアマーケティングを手がける。『ソーシャルメディアマーケター美咲Ⅰ/Ⅱ』(翔泳社)、『ソーシャルインフルエンス』(アスキー・メディアワークス)、『フェイスブックインパクト』(宣伝会議)など著書・共著多数。
(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)