アベノミクス効果によって景気が回復していることもあり、当社も冬季賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場を教えてください。(土木工事業)
今年の冬季賞与の相場を占うために、前提となる景気・業績動向からみておきましょう。
第2次安倍内閣の経済政策、いわゆる「アベノミクス」が始まってほぼ1年が経ちましたが、日本経済は回復軌道をたどり、企業業績も改善してきました。2013年上半期には、2四半期連続で実質経済成長率が前期比年率で4%前後と久方ぶりの高さとなったほか、日銀短観9月調査によれば、2013年度の経常利益は全規模・全産業ベースで9.2%の増益の計画になっています。
先行きを展望しても、今年初めに策定された緊急経済対策により、公共事業が景気を支えることが期待できます。加えて、日本銀行が積極的な金融緩和スタンスを継続するなか、円安基調が続き、景気回復・企業業績堅調の基調は崩れないとみられます。
以上は大手企業を含む全体的な状況ですが、中小企業の景況感や業績についてはどうでしょうか。日銀短観9月調査の業況判断DIでは、大企業が13ポイントの「良い超」であるのに対し、中小企業は4ポイントの「悪い超」となっています。経常利益も、2013年度計画で大企業が13.9%増となっているのに対し、中小企業ではわずか1.7%増にとどまっています。
中小企業の業況・業績の改善に遅れがみられるのは、今回の景気回復局面の性格による面があります。それは、円安が景気回復・業績改善に大きな寄与をしていることです。円安は主に大手の輸出企業にとってプラスが大きい形ですが、その一方で、中小企業には内需型が多く、円安によるコスト高のマイナスが目立つケースがみられます。円安は輸入資材の価格を引き上げるほか、電力やガソリンなどのエネルギーコストを高騰させるからです。こうした構図は当面続き、中小企業の業績改善幅は、大企業に比べ限られた状況が続くものとみられます。
以上を前提に、今冬の賞与の動向を展望しましょう。2012年の冬季賞与は、従業員30人以上でみて、前年比▲1.1%、5人以上でみて同▲1.5%となっており、規模の小さい企業ほど、賞与の支払いが少なかったことが示唆される数字となっています。
今年度は、夏の賞与では大手企業がすでに高めの伸びの支払いをしており、冬も前年比プラスが予想されます。しかし、中小企業については、業況改善が遅れているほか、労働分配率などから見て、人件費負担も大手に比べて重く、今年の冬の賞与も、前年並みか若干これを下回ると予想されます。
もっとも、これはあくまで平均的な姿であり、業界やセクター、個々の企業によっても状況は異なるでしょう。とりわけ中小企業は多様であり、経営戦略によって賃金の支払いのあり方は大きく違ってくると思われます。
世の中の潮流も無視できません。政府はデフレ脱却に向けて、政労使協議を設け、来春の賃上げの環境づくりを整備しています。賃金はあくまで最終的には個社が決めるものですが、世の中の動きは従業員も気にするところです。
賞与は、基本的には従業員の成果に報いるものですが、モチベーションを左右するものでもあります。その意味では自社の戦略を基軸に置きつつ、世の中の潮流も踏まえたうえで戦略的に今冬の賞与を決めることが重要でしょう。