医療検査器材の製造、販売を手がけている東洋器材科学。高品質な製品づくりにより「検査器材のトーヨー」として業界内で確固たる地位を築いている。「もともと数字が好き」と語る佐藤英輔社長に、利益を生む経営の着眼点をきいた。

製販一体の強み生かし安心のブランドを構築

東洋器材科学:佐藤社長(前列左)

東洋器材科学:佐藤社長(前列左)

──検査器材を幅広く扱われていると聞いています。

佐藤 医療向けの使い捨て可能な、いわゆるディスポーザブル製品全般を取り扱っています。メーンは臨床検査で用いられるシャーレや試験管、スポイトといったプラスチック製品です。採尿容器(尿スピッツ)などは人間ドックで使用されているので、一般の方にもなじみがあるかもしれません。

──製品ラインアップは相当ありそうですね。

佐藤 ざっと1,300点ぐらいでしょうか。主力商品の「エコ採便管」は月に2,000万本ほど出荷しています。近年の傾向として感じるのは、容器の小型化が進んでいるということです。医療技術が進歩し、少ない採取量で検査できるようになったからでしょう。当社では販売だけでなく製品の企画、製造も行っているので、お客さまのご要望を製品づくりに生かせる点が強みですね。創業来扱っているロングセラー商品も一部ありますが、多くは市場ニーズに対応し改良してきました。

──具体的には?

佐藤 以前、尿スピッツのふたを開ける作業をしていた取引先の従業員さんから「1日中この仕事をしていると腱鞘炎になってしまう」という話を聞いたことがありました。数本のふたを取るだけなら手にかかる負荷はわずかですが、1日に数百個こなすとなると、かなりの負担に感じられてしまうわけです。中身が漏れず、それでいて開けやすいふたの開発には長年取り組んできました。

──器材の中に菌が入り込まないよう、衛生管理も重要です。

佐藤 弊社の製品は、すべてガンマ線照射装置で滅菌処理したうえで出荷しています。衛生面で信頼性の高いガンマ線による滅菌に取り組んだのは、業界初の試みでした。最近では「東洋器材から購入すれば安心」という評価が確立していると感じています。
 病原性大腸菌O157による集団感染が起こったのが96年でしたが、当社の採便官が普及する引き金になった出来事でもありました。保健所などから大口の注文が入り売上高が伸び、以来業績は下がることなく推移しています。

──業界内でブランドイメージが確立していると……。取引先の開拓はどのように?

佐藤 3人の営業担当者をおき、各地で開催されている学会や展示会に積極的に出展するようにしています。病院の先生方や一般企業の方々に製品をアピールすることで、新たな商談につながっています。40年間培ってきた知識と経験を生かし、大手の会社がカバーしきれていないニーズを発掘できる貴重な場です。

──カギになるのは人材です。

佐藤 弊社はベテランの社員が多く、人材育成をとくに重視しています。財務データの見方や、営業スキルをテーマにした社外の研修会によく参加してもらっていますが、1人あたり年間100万円ほど教育費として投資しています。

──先ごろ金融機関の団体から優良企業表彰を受けられたそうですね。

佐藤 手前みそになりますが、3月に東京都信用金庫協会などが主催する優良企業表彰制度で優秀賞をいただきました。しんきん協議会に加盟している企業会員2万社の中から選ばれたらしく、大変光栄に感じています。長田会計さんのご指導により、黒字経営を実践してきたのが評価されたのではと思っています。

業績をオープンにし社員の粗利意識を醸成

──長田顧問税理士とは長いお付き合いだとか。

佐藤 金融機関の方から長田先生を紹介されたのが、会社を設立して2年後のことですから40年近くになります。長田先生と宇都宮市にあるTKCの電算処理センターを見学したこともあります。コンテナのような大型コンピューターが並ぶ部屋を見て圧倒されましたね。これはすごいなと。

──自計化されたいきさつを教えてください。

佐藤 『FX2』が提供されてほどなくして、長田先生に利用をすすめられ即決しました。社内で立てた目標を数字で進捗管理したいと思っていたので、『FX2』の考え方はマッチしていたのです。もともと数字が好きなほうですから。毎月の売上高を記録に残しているのは、創業以来の習慣です。
 手書きで伝票を書いていたころは大変でした。毎月の監査が終わるまで業績がよくわからない。まな板の上のコイのような状態です。たぶんこのぐらい儲かっているだろうという手探りの世界でした。いまは日々経理担当者が伝票入力し、ふだん私が使っているパソコンにも『FX2』が登録されているので、タイムリーに業績を把握できています。

──『FX2』のどんな機能を活用されていますか。

佐藤 おもな勘定科目に枝番をつけ、取引先ごとの内訳金額がわかるようにしています。たとえば売上高でいうと全社売り上げのうち、上位50社の占める割合が60%をこえていれば安定期ととらえています。《変動損益計算書》では目標と実績を見くらべ、目標を達成するための打ち手を検討しています。具体的な数字をベースにしないと、なあなあになってしまいますから、すべて数字として表れるのはありがたいです。
 それと『FX2』のメリットは金融機関に借り入れを申し込み《科目残高一覧表》などの提出をもとめられたとき、ものの5分もあればFAXで送ることができる点。おのずと信用力アップにつながっているのではないかと思います。

長田 私の事務所の関与先企業様を眺めても、数字につよい経営者がいる会社は業績が伸びていることは確かです。佐藤社長が計数管理を重視されている点は、顧問契約当初から感じていました。私が税務顧問を引き受けてから一貫して黒字経営を続けられていますが、決してたやすいことではありません。

田中 仕訳の入力も非常に正確で、修正いただく箇所はほとんどないです。月次監査のときお伝えした修正点は訂正加除履歴としてシステムに残るので、翌月には正しく入力していただいています。

──毎期、計画を立てられているそうですね。

佐藤 商品別、得意先別、担当者別の3つの観点から検討し、計画を作りあげています。重視しているのは限界利益です。月次で粗利額を正確に把握するため、毎月末に棚卸しをしています。だから大みそかに大掃除をしなくていい。デッドストックはほとんどありません。弊社は3月決算ですが、4月初旬に全社員を集め経営計画の発表会をひらき、6月には金融機関を訪問し業績を説明しています。
 その成果として「今月はこの商品をいくら売り上げないと黒字を確保できない」といった、利益を生むためには何をすべきか考える習慣が社員に養われてきていると感じます。予算を達成した月には、パートの方々も含めて従業員全員に“大入り袋”を配っています。

長田 以前は事務所にお越しいただいて『継続MAS』でたたき台となる計画をつくって提案していましたが、東洋器材様で原案を作成し、われわれが内容をチェックするのが当たり前になりました。

──今後はいかがでしょう。

佐藤 4月から新たに「包装・滅菌受託サービス」を開始しました。これは検査器材の包装やガンマ線滅菌を、当社がワンストップで請け負うサービスです。ガンマ線滅菌に変更するのはそれなりの費用がかかりましたが、今ではお客さまから高い評価を得て大手企業や海外から商談が持ち込まれています。今後も高品質の商品を安定供給することをモットーに、黒字経営をつづけていきたいです。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 東洋器材科学
設立 1972年12月
所在地 埼玉県蕨市南町4-7-10
TEL 048-447-3381
売上高 5億7,000万円
社員数 43名(パート含む)
URL http://www.toyo-kizai.co.jp

CONSULTANT´S EYE
綿密な計数管理でバランス経営を実践
税理士 長田正俊 長田正俊税理士事務所
東京都新宿区大久保2-7-1大久保フジビル408 TEL:03-3205-3001
http://nagata-masatoshi-zeirishi.tkcnf.com/

 当事務所と東洋器材科学様とのお付き合いは、お互い事務所を構えて間もないころからで、かれこれ40年になります。私がTKC全国会に入会した昭和49年当時、総勘定元帳はB4用紙を2枚貼り合わせたほどの大きさで、手書きで記帳するのが当たり前でした。佐藤社長は会社経営に対する意欲に満ちあふれており、いちどTKC栃木本社にご案内したことがあります。最新鋭の大型コンピューター設備を目の当たりにされ、大変安心されたそうで、飯塚毅TKC会長(当時)と面談し、感動されていた様子をいまでも覚えています。

 顧問契約を結んだ当初は、経営指標をあまり気に留められていないようでしたが、いまでは経常利益を筆頭にさまざまな数値の動きに気を配られています。経常利益の伸び、損益分岐点売上高、営業活動によるキャッシュフローといったデータです。「利益額はいくらですか、限界利益率は何%になっていますか」。巡回監査が終わると、佐藤社長からこうした質問が矢継ぎ早に飛んでくるそうです。社長ご自身は『FX2』と『継続MAS』 で売上高や利益額、限界利益率をひととおり確認していても、巡回監査担当者と認識を一致させておきたいのだろうと思います。

 毎月確認されている項目は変動損益計算書の中身にとどまらず、貸借対照表にまで及びます。「会社の業績は損益計算書だけ見るのではなく、貸借対照表もチェックしなければバランス経営はできない」とよく言われますが、佐藤社長の計数管理意識はプロの会計人であるわれわれも舌を巻くほどです。近年では決算申告後、金融機関を訪問し、申告書の内容を社長自ら説明されています。流動比率や当座比率といった、資金繰りに関する数値への配慮も十分なされていて、新たな融資の要請も多々受けています。就寝前の読書が佐藤社長の習慣だと聞いています。そんな勉強熱心な社長の参謀役として、これからも研さんを積んでいきたいと考えています。

掲載:『戦略経営者』2013年9月号