最近「限定正社員」という言葉をよく聞きます。制度の中身と準備しておくべきことを教えてください。(食品製造)
現在、安倍内閣が推し進めている成長戦略(雇用分野)における規制改革のひとつに「限定正社員」(ジョブ型正社員)制度の創設があります。今しきりに話題にのぼっていますが、背景には今年改正された労働契約法による有期労働契約の新ルールがあるようです。
新ルールとは(1)有期労働契約の期間は更新を含めて最大5年まで(2)通算5年を超える有期労働契約が締結されたときから無期労働契約への転換申し込みの権利が付与されるというものです。
(2)により将来、有期労働契約を無期契約へ転換する制度を構築する必要性が生まれ、「正社員でない無期労働契約」形態として限定正社員がクローズアップされることになったわけです。限定正社員は、非正社員の有期契約が無期化した際のいわば受け皿的な労働形態といえます。
正社員と限定正社員との違いですが、通常の正社員は労働契約の期間がなく(無期)、転勤や職種変更、時間外労働があるのが前提です。これに対し労働契約の期間がなく、勤務地や職種、労働時間のいずれか(または複数)が限定されているのが限定正社員(正社員ではない無期労働契約)です。政府は2014年度をめどに法整備を目指しています。
では限定正社員制度が設けられることにより、どんな影響が考えられるでしょうか。メリットとしてまず、非正社員の雇用が安定することが挙げられます。従業員の中には雇用の安定(無期雇用)を希望しているものの、転勤や職種変更を望まない人もいるので、限定正社員として雇うことで、雇用の安定を図ることができます。
ワークライフバランスの促進や、転職市場の形成も期待できます。労働条件が限定されることで、子育てや介護といったライフサイクルに応じた勤務環境が整備されます。女性の労働参加を促し、活躍の場も広がっていくでしょう。また転職市場が形成されやすくなり、自身のキャリア形成をより意識する機会が増えるはずです。
いっぽう問題点として実際の企業現場では、就業規則や労働契約で限定正社員の位置づけを明確にせず、あいまいなまま運用されてしまうおそれがあります。勤務地限定の労働契約では、勤務先の事業所が閉鎖された場合、容易に解雇されたり、正社員から限定正社員へ格下げがおこなわれるのではといった懸念も生じるかもしれません。
雇用主として求められるのは、就業規則や労働契約でルールを明文化することです。就業規則などにおいて明確に規定することと、とくに労働条件通知書(労働契約書)に職務内容・勤務場所を記載しておくことは今後必須となるでしょう。
限定(勤務地、職務)条件が消失した際の解雇ルールを明確化することも重要です。解雇は労働契約法によって厳格なルール(解雇権濫用の法理)があります。解雇をするためには客観的な合理性や、社会的相当性が求められることを心しておかなければなりません。解雇が有効かどうかは、最終的には司法判断に委ねられます。いずれにせよ、今後の議論をしっかり注視していくべきテーマであることは確かです。