店舗や商業施設への集客手法として注目を集めている、O2O(オー・ツー・オー)。大企業だけでなく、中小企業の一部でもビジネスに取り入れる動きがすでに始まっている。有効なツールや留意点を紹介する。

 O2Oという言葉の意味をまず教えてください。

 O2Oは「オンライン・ツー・オフライン」を略した言葉で、オンラインとはインターネットを指し、オフラインとは現実社会を意味します。つまりインターネットを駆使して消費者を店舗へ呼びこみ、商品の購入やサービスの利用を促進する活動のことです(『戦略経営者』2013年6月号23頁・図表1)。

 なぜ最近、O2Oが注目を集めているのでしょうか。

 話題になりはじめたのは、おととしごろからです。スマートフォン(スマホ)の急速な普及と、交流サイトであるソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の利用者拡大が大きな背景として挙げられます。スマホを用いて時間や場所を問わずインターネットを利用し、店舗や商品の情報をリアルタイムで入手している人びとが年々増えてきています。

 O2Oを活用している企業の一例を挙げていただけますか。

 代表的な企業としてコンビニのローソンがあります。フェイスブックで「からあげクン」の半額券を30万枚配布したところ、わずか17時間で終了し話題となりました。ローソンではフェイスブックのほかツイッター、LINE(ライン※)など、実に20種類以上のSNSを活用し集客や販促に役立てています。消費者は配信されたクーポンをスマホで受けとり、店頭端末「Loppi」でQRコードを読みこむなどして実際のクーポン券を入手できる仕組みになっています。O2Oへの取り組みは大企業を中心にこれからさらに本格化していきます。

※LINE…無料で通話やメールができるコミュニケーションアプリ。豊富な種類のスタンプや顔文字を使い、やりとりできる。

 企業がO2Oを利用するとどんなメリットがありますか。

 テレビCMや折り込みチラシといった従来のマス広告にくらべ、費用を抑えられるのがひとつ。なおかつ消費者が店頭に持参したクーポンの種別から、実施したキャンペーンごとの「効果測定」ができる点が大きいですね。SNSなどを使ってチラシを見ない人たちに情報を届け、客層や商圏の拡大につなげることが期待できます。

 中小企業が活用するのに適したツールはありますか。

 昨年12月にサービスが開始された「LINE@」(ラインアット)は飲食店、美容院、宿泊施設など業態をこえて広がってきています。月額5,250円で企業の公式アカウントを取得でき、何度でもメッセージを配信できます。従来のLINEで公式アカウントを設けると、初期費用を含めて月額350万円かかるので、非常に割安な価格設定といえます。「ヤフーロコプレイス」や「グーグルプレイス」といった店舗情報サービスも利用を検討する価値はあると思います。地図上にお店の情報を掲載できるので、都市部だけでなく郊外のロードサイドにある店舗にも適しているといえるでしょう。

 LINE@を活用している中小企業の事例を教えてください。

 たとえば全国のご当地うどんを食べられる京都祇園にある「うどんミュージアム」では週に1回、クーポンなどを配信し人気をよんでいます。ランチタイム前の11時ごろに配信することが多いようです。お店の存在がひろく認知されたことにより宴会の予約も倍増しました。来店客層も広がり、20代、30代の女性客が増えたといいます。
 また東京都内でピザ店を展開する「ナポリス」は、LINE@をいちはやく導入した企業として知られています。雪が降った日に300人に「雪の日限定クーポン」を配信したところ、大雪にもかかわらず、30人もの人たちが来店したそうです。そのほかLINE@の抽選機能を用い当選者に無料券を発行したり、友だち限定メニューを案内したりとフル活用しています。

 LINE@ならではの特長と注意点は?

 配信したメッセージの開封率が非常に高いところが最大の特長です。電子メールでセールの情報などを送っても未開封のまま放置されたり、開くまでタイムラグがあったりするものですが、LINE@の場合アプリを起動しなくても、画面上に通知が即座に表示されます。もっとも、メッセージを配信できる相手はお店を「友だち」として登録しているユーザーにかぎられます。不特定多数に一方的に送ることはできないので、まずは友だちとして登録してもらう必要があるわけです。目に留まりやすい半面、配信回数があまりに多いと、うっとうしいと感じられてしまうおそれがあるので注意が必要です。頻繁に特売を行うスーパーのような業種は別として、基本的に回数を絞って配信したほうがよいでしょう。

 中小企業経営者はO2Oにいかに取り組むべきでしょうか。

 日ごろ中小企業経営者と話していると、ITやインターネットに抵抗感をもっている方は少なからずいます。O2Oというと小難しいITの専門用語に聞こえてしまうかもしれませんが、集客や顧客満足度向上をはかる有力な手法としてとらえていただきたいですね。経営者自身がスマホやSNSを使ってみると、消費者がいかにして情報を入手しているか時代の変化に気付くはずです。社内にITやマーケティング担当者がいない場合、若手社員をO2Oの担当者に抜擢するのもひとつの手ではないでしょうか。友人とLINEで会話をしたり、就職活動でフェイスブックを活用してきたデジタルネーティブ世代だからです。

 今後O2Oは広がっていくでしょうか。

 スマホやSNSの利用者はますます拡大していくため、リアルとネット世界の融合が加速し、O2Oが普及していくとみて間違いありません。国内のO2Oの市場規模は2011年度は約24兆円でしたが、17年度には約50兆円に達するという試算もあります(『戦略経営者』2013年6月号23頁・図表2)。消費者の膨大な購買情報が蓄積されて、より精度の高い販促活動に活用されていくものと期待されています。「いつでもどこでも」情報を入手できる状況が進化し「いまだけ、ここだけ、あなた(あなたの友だち)だけ」にぴったり合った情報がとどく世の中に変わっていくことでしょう。

プロフィール
まつうら・ゆみこ ITアナリスト。大学卒業後、ITエンジニアとして半導体ウエハー検査装置やインフラ制御系システムの開発に携わる。「ITからリアル世界への翻訳者」として、テクニカルな話題をわかりやすく解説することをモットーに活動中。著書に「O2O 新・消費革命 ネットで客を店舗へ引きつける」(東洋経済新報社)がある。

(インタビュー・構成/本誌・小林淳一)

掲載:『戦略経営者』2013年6月号