就職前の学生が企業で研修を積む、インターンシップ(就労体験)。この制度を導入する中小企業がいま、増加しつつあるという。自分の可能性を試したい若者と、優秀な人材の採用に結びつけたい、あるいはインターン生の力を借りて新たな挑戦に乗り出したい経営者──。両者のマッチングが結果を残した成功事例を取材した。

 G─netは昨年10月、岐阜県内約100人の若者へのインタビューを通じ就職活動についての実態調査をまとめた「岐阜『中小企業と若者』就職白書」を発行した。その調査ではなんと、約9割の学生が中小企業への就職を「視野に入れている」「視野に多少入れている」ことが分かった(『戦略経営者』2013年2月号9頁図1参照)。また就職先を決めるときに重視するポイントとして「仕事の内容」や「やりがい」「会社の雰囲気」という回答が上位を占めたが、これは同時に尋ねた「中小企業に対するイメージ」で得られたプラスの回答とほぼ重なる。

 これに対し企業側の情報発信は極めて少ない。大手求人サイトを調べたところ岐阜県内の企業掲載率は1%、地元の岐阜大学に届く求人情報でさえ地域の中小企業掲載率が9%にとどまっているのである。若者は中小企業に対して前向きな印象を持ち、就職先としても検討している。しかし圧倒的に接点が足りない。その接点をつくるのに最適なのが、インターンシップだ。

 実はこのインターンシップ、単位取得が認められている大学も多く、すでに制度化されている。2週間程度の短期間での会社見学型が全体の9割を占めるとはいえ、学生にとっては貴重な社会体験になり、参加希望者は年々増えているという。一方、受け入れ企業は増えていないのが現実である。

 企業側の協力がなければいくら制度が整備されているからといって就業体験はできない。制度の普及にもかかわらず、インターンシップを経験した学生の割合はまだ低いのが実態だろう。形式だけの短期インターンシップは、手間や費用ばかりかかり、とくに中小企業にとっては何のメリットもないからである。

「長期実践型」のススメ

 そこで私が中小企業に推奨したいのが、経営者と学生が一つの目標に向かい本気で取り組む、半年間ほどの長期実践型のインターンシップだ。これはもともと、学生と企業をつないでインターンシップをコーディネートする事業を行っていたNPO法人ETIC.(東京都)の活動を参考にしたもので、この取り組みを評価した政府が2004年から「チャレンジコミュニティ創成プロジェクト」として全国展開を試みたことをきっかけにG─netでも取り組み始めた。

 同プロジェクトの第1期は北海道、山形、岐阜、京都、大阪の5地区がモデル地域に選定され各地域で長期実践型インターンシップの取り組みが行われ、われわれG─netはその岐阜地区の事業主体として、岐阜・名古屋など東海エリアの企業を対象にしている。今では全国約30地域で、地域密着の実践型インターンシップの取り組みが活発になっている。

 具体的な事例をいくつかご紹介しよう。まずは大垣市にある料亭「助六」。ここには中京大学の男子学生が、地元の米を使った米粉麺の営業を担当した。現在、料亭の帰りにお土産として持ち帰れる商品として人気を集めている。

 岐阜市のしょうゆ会社、山川醸造では数年前からインターン生が新たな販路開拓で活躍し続けている。酒造メーカーなどで一般的になった蔵開放による直売会を実施、今では1回で100万円を売り上げる定番イベントとして定着したという。

 愛知県高浜市で物流コンサルティング業を営む愛知運送では2012年、「デキる女になりたい」と修行のつもりでインターンに来た名古屋大学の女子学生が、そのまま同社に就職を決めた。魅力的な経営者と日々過ごすなかで、「中小企業ってかっこいい」「卒業後もここで働きたい」と思うようになったという。彼女は非常に優秀で普通に就職活動していたら大手企業でも欲しがるような人材。実践型インターンシップは、そういった優秀な人材が中小企業を選択してくれる可能性を広げるのである。

企業の「育成する力」が伸びる

 G─netでは現在40社ほどの中小企業と契約しているが、「3~4代目が社長に就任して新しいことをしたいと思っているが、その新規事業を共に推進してくれる人材がいない」というケースで導入する企業が多い。プログラムが用意されている大企業のインターンシップとは異なり、「現代版・社長に弟子入りプログラム」として、企業の経営革新の真っただ中で即戦力として学生が業務に取り組むのだ。

 「インターン生など役に立つのか」と懐疑的に見られる経営者の方も多いに違いない。そうした場合、私は次のように説明している。

 「知識もノウハウもないことは事実です。ただ一つ、やる気があるということだけは約束します」

 デートやアルバイトよりも、「社長への弟子入り」を自ら希望している学生だから当然といえば当然である。ケース4の大橋量器(『戦略経営者』2013年2月号16頁参照)では最初から学生に全国営業を任せ、成果につながった。その後も新規事業を次々と軌道に乗せており、毎年インターンシップを生かして売上高を伸ばし続けている。

 インターンシップによる売上高アップなどの成果は約束できるものではないが、社長自身の学習と成長にはとても役に立つといえるだろう。中小企業は「家業」から「企業」へどう変わるかというのが共通の経営課題。インターンシップはそのために必要不可欠な「人材育成」について真剣に考えるきっかけになるからである。

 実際、制度導入後に企業内で何が変化したかについてのアンケート結果によると、「売り上げ貢献」や「顧客拡大に貢献」といった事業成果についての項目での評価は2割程度に過ぎず、「業務プロセスの改善」や「評価の改善・変化」など組織変化について高く評価する声が多く寄せられた(『戦略経営者』2013年2月号10頁表1参照)。インターン生はお金のために来ているわけではないので、何よりも自分が行った作業に対する評価を求めてくる。学生のやる気をどう成果につなげるかが大切になってくるので、経営者は仕事の教え方を真剣に考え、そしていかに公正に評価するか心を配らなければならない。

 若者を採用したこともなければ生かしたこともない会社は初めからはうまくいかないだろう。しかし2回目、3回目と数を重ねるうちに、最初は半年かかった仕事が2人目は3カ月でできるようになった、3人目は1カ月半でできるようになった、というふうに人を育成する力が徐々に企業に備わってくる。このほか新規事業の検証や広報プロモーション、社内の活性化など生かし方はさまざまである(『戦略経営者』2013年2月号10頁表2参照)。

 しかしすべての中小企業がインターンシップを活用できるわけではない。これまでの経験によると、導入に失敗する3つのタイプがある。1つは企業が行政などとの付き合いで受け入れるケース。これは経営者自身がインターン生に関与しない場合が多く、学生のやる気が失われてしまう。

 2つ目は経営者に仮説がないケース。「若い子の斬新な発想とアイデアで新商品を開発したい」という漠然とした気持ちで相談に来る社長も多いが、勤務経験のない学生に最初からそれを期待するのは難しい。専門家である経営者自身が具体的な仮説を持ち、それをインターンによって検証するという心構えでなければ成果にはつながらない。インターンのために仕事をつくるのではなく、本当に社長がやりたいことを学生が実行できるように分かりやすく伝える、という工夫が欠かせないのである。

 そして3つ目は専門知識や技術を扱うBtoBビジネスにはあまり向かないということ。職種でいえば営業、調査、販促マーケティングなど、専門知識よりは努力が報われる業務が向いているといえるだろう。

専門機関との連携を

 私たちはインターンシップ事業を進めるにあたり、企業側から半年間で45万円の会費をいただいている。また学生については受け入れ企業が活動支援金として月額5万円前後を支給している。夏休みなど長期休暇の場合はフルタイムで出社してもらうので、学生はこの間まったくアルバイトができなくなってしまう可能性があるからだ。研修に対して会社が奨学金を支給するという考え方である。

 インターンシップをめぐりもっとも議論されるのが、「労働なのか研修なのか」という点。労働に対する対価という意味での賃金は支払われないため、仕組みそのものを悪用すればただの搾取労働にもなりかねない。インターンという言葉が一人歩きをしてしまい、単なる派遣労働をインターンと呼んでいる会社もある。

 当法人の場合、企業側、当法人、学生の3者間でそれぞれ弁護士のリーガルチェックを経た契約書面を取り交わすことにしており、「労働ではなく研修が目的である」ということを相互に確認し、法的に問題のない形で進めている。インターンシップについては法的に未整備な部分も多く、できれば信頼のおけるコーディネート団体の協力を得たうえで実施することをお勧めする。前述の「チャレンジ・コミュニティ・プロジェクト」のウェブサイトには全国のコーディネート団体の一覧(http://www.challenge-community.jp/producer.html)が掲載されているので、参考にするとよいだろう。

(インタビュー・構成/本誌・植松啓介)

掲載:『戦略経営者』2013年2月号