10年ほど前、天然だしの老舗・うね乃は、需要の減退と価格競争に埋没しかけていた。しかし、4代目の釆野元英社長(45)は、経営資源を「だし」に集中し、卸売りから末端ユーザーに販売するスタイルに大胆に転換、息を吹き返す。革新を可能にした釆野社長の戦略と、それを支える計数管理について話を聞いた。

生産者と直接つながり納得の行く製品づくりに邁進

うね乃:釆野社長(中央)

うね乃:釆野社長(中央)

――4代目に当たる社長が、業態を大きく転換されたのだとか。

釆野 当社は、先代の時代には業務用天然だしを中心に各種乾物など総合食品卸売業者として営業してきましたが、天然だし需要の減退と景気の低迷で立ち行かなくなったんです。とにかく価格競争が厳しく体力勝負の世界となってきて、そうなると、手作りにこだわり、量産が苦手な当社は太刀打ちできません。そこで、品ぞろえをもっとも得意な「だし」に絞った上で、末端ユーザーに直接販売するモデルを模索せざるを得なくなった。要は背に腹は代えられなかったわけですが、「お客さまの顔の見える商売」がやりたかったというのも確かです。もちろん、化学調味料に押され気味の天然だしをなんとか復権したいという意思もありました。先代や古参の社員たちからは強く反対されましたが結局は私が押し切りました。

――それにしてもビジネスモデルを変えるのはいろんな意味で大変だったのでは?

釆野 まず、個人向けは手間とコストがかかる。卸売り時代にはキログラム単位で袋詰めにして販売すればよかったものを、小分けにしてパッケージングまでしなければなりません。また、消費者に買ってもらうにはブランディングが必要です。そのため、10年くらい前から全国の物産展に積極的に出店(現在は年間30カ所)し、対面販売しながらお客さまのご意見を聞いていきました。いままでは、業務店相手の商売だったので、末端ユーザーの声は当社には届きませんでしたからこの経験は新鮮でしたね。なかには「おいしくない」というご意見もあり、なぜおいしくないのかを掘り下げるうちに各地それぞれの味覚の違いに気づき、そこに留意した商品開発を行うようにもなりました。そのように、多くのご意見を順次商品に反映することで、クチコミで徐々に評価が上がっていったのです。たとえば、業界に先駆けて発売したティーバッグ方式の天然だし『じん』も、お客さまの声を取り入れつつ完成させたもので、いまでは当社の定番商品となっています。結果として個人向けと卸売りの比率が逆転し、現在では、卸売りは全体の3割で、7割が個人ユーザー向け商品となっています。

――味にもこだわっておられるようですね。

釆野 かつおぶしは、鹿児島・指宿の2次加工業者など現地生産者のところに何度も足を運び、生産地と直接つながりを持ちつつ納得のいくA級品だけを仕入れるような体制をつくりました。また、当社の工場は完全オートメーションではなく、職人が1本ずつ正目に沿って削っているので、濃厚な味が出やすいかつおぶしになり、それが当社の製品の大きな特徴です。さらに、昆布に関しても、10年ほど前に北海道の産地をくまなく見て回り、最終的には利尻産のものにほれ込んで採用を決定しました。以来、かつおぶしと同様に漁師さんとのダイレクトな取引をさせていただいています。というわけで、当社の製品原料は100%国産。これもご支持いただけている要因のひとつです。

――主な販売ルートは?

釆野 直営店や物産展でファンをつくりクチコミを発生させ、百貨店やオイシックス、らでぃっしゅぼーやといった「こだわり系ネットスーパー」で販売するというスタイルです。地元の近畿圏はもちろんですが、意外に首都圏での人気が高いようです。京風のこだわり食品アイテムとして、ご認識いただけるようになってきたのだと思います。

日次・月次実績を公開し社員のモチベーションを上げる

――『FX2』と『PX2』(戦略給与情報システム)を同時導入されたのが5年前とのことですが……。

釆野 京都合同会計さんとのお付き合いは先代の時代からで、いろんな意味でお世話になってきましたが、『FX2』『PX2』は7年前に私が社長に就任してまもなく、玉山(秀文担当税理士)先生と金子(健太郎監査担当)さんにすすめられて導入しました。

玉山税理士 それまではTKCの3枚伝票を使って、手作業で経理を行われていましたから、やはり前月実績の集計は遅れがちでした。いまでは、翌月の半ばくらいには前月実績が確定できるようになり、釆野社長のスピーディーな経営判断にお役に立てていると思います。

釆野 私が社長を引き継いだ時には、財務体質がかなりぜい弱な状況でした。そのため『FX2』を導入し、京都合同会計さんの指導のもと管理体制を整えながら、ひとつずつ修正していったわけです。

――売り上げと仕入れを細かく分けて管理されているとか。

釆野 「個人向け(店舗・ネット)」「卸売り」「一般料理店」「催事(物産展等)」の4種類の売上高をそれぞれコード付けして管理しています。最近はネットでの販売が急速に伸びているので「個人向け」の売上高推移グラフを見るのは楽しいですね。それから、仕入れ(変動費)に関しては、「材料」と「包材」に分けています。というのも、個人向けに力を入れはじめてからは、パッケージにかかるコストが増加し、これをコントロールしつつ利益を出していく必要が出てきたからです。ちなみに当社では、パッケージデザインなども妻が中心となって社内で行っています。

玉山 釆野社長は、毎日、従業員を集めて「終礼」を行われているのですが、そこで日次、月次の実績が公表されるなど、透明性の高い経営を実践されています。

釆野 社員に数字を理解してもらい、モチベーションを上げるためです。たとえば、工場で働く職人たちは、自分たちの頑張りがどれくらい売り上げにつながっているかが分からないわけです。これだとモチベーションを保ちにくいですよね。生の数字を公表し、従業員に意識してもらうことで、会社としての一体感が高まると考えています。

――数字への意識アップが、売上高の季節変動の解消にもつながったのだとか。

釆野 そうなんです。「だし」の需要期は寒い時期に偏っていて、夏は空白の時期になります。これは、たとえば『FX2』から出力された売上変動グラフを見れば一目瞭然なんですね。この時期に向けてそばつゆやそうめんつゆ、あるいは「たまごかけご飯のたれ」や豆腐たれなどを投入し、売り上げの平準化をはかることができました。

玉山 物産展などの催事も売上・利益高の偏りをつくる要因になります。釆野社長は、これらを常に把握し、全体のバランスを考えながら経営を実践されているという印象です。また、毎期増収となるような予算をつくられ、それを確実にクリアすることで、ここ5年ほどは右肩上がりの成長を続けておられます。数字に強い経営者だと思いますね。

――今後の方向性は?

釆野 日本の食文化としての「天然だし」を守り育てていくという視点を持ち続けていきたいですね。そのためには10年後を見据える粘り強い活動が必要になってくると思っています。たとえばいま、取引先の百貨店の呼びかけで「食育」をテーマに、小学校に出向いて子供たちへの啓蒙活動を行っています。いまの子供たちは化学調味料に慣れてしまっているので、そこに訴えかける、つまり「10年後のお客さま」に向けてのアプローチを行っているわけです。
 それと、販売面ではネットでの売り上げをもっと増やしながら、近い将来には海外市場への展開も考えたいですね。ヨーロッパの一流シェフたちに「うまみ」という言葉が認められるなど、日本のだし文化はとてもリスペクトされているだけに、可能性は大きいと思います。

(本誌・高根文隆)

会社概要
名称 うね乃株式会社
設立 1967年2月
所在地 京都府京都市南区唐橋門脇町4
TEL 075-671-2121
社員数 10名
URL http://www.odashi.com/

CONSULTANT´S EYE
「未来のうね乃」実現へ全力でサポート
特定社会保険労務士 金子健太郎 税理士法人京都合同会計
京都府京都市下京区中堂寺南町105 TEL:075-311-8207
http://www.kja.jp/

 明治36年の創業のうね乃株式会社様と私ども、税理士法人京都合同会計とのお付き合いの始まりは、3代目・釆野弘和現会長が法人成りを決断された、昭和42年にまでさかのぼります。

 以来、4代目になります釆野元英現社長まで長年にわたり、事業承継、経営革新などを共に考え、悩み、刺激を与え合うような関係で今日にまで至っております。

 私が担当させていただいたのは、7年前の元英社長就任以降となります。元英社長は、かたくなに本物の材料・伝統の製法にこだわりながらも、一方で、インターネットショッピング・スマートフォン対応などホームページの機能充実や、フェイスブックを活用しての宣伝・販促活動など、今の時代をとらえたブランディング・マーケティング戦略を積極的に採用され、飛躍的に業績を改善させてこられました。

 財務・業績管理面におきましては『FX2』、人事・労務管理面では『PX2』の導入とTKCのシステムを積極的にご採用いただき、最新業績の把握などにご活用いただいております。

 毎月の巡回監査時には、毎期着実に増収となるよう予算を立てていることから、特に、前年同月比の売上高がどういった感じで推移しているか、また、利益率はどうなっているかをグラフで確認しながら、異常値があればその原因や解決策について話し合います。また、労務面では、給与体系や就業規則の見直し、助成金の申請のお手伝いもさせてもらっております。

 また、全国の百貨店での催事など出張の多い社長でもありますので、どこにいても業績が簡単に確認できる『FX2社長メニュー(ASP版)』の活用も提案させて頂いております。

 今後も、社長の考える「未来のうね乃」を実現できるよう全力でサポートしていきたいと思っております。

掲載:『戦略経営者』2013年1月号