円高の進行で経営環境は厳しいですが、今年も夏季賞与を支給したいと考えています。中小企業の相場はどれくらいになりそうか教えてください。(機械部品メーカー)

 わが国では従業員の賞与・一時金は基本的に企業業績に従って支払われます。そこでマクロ的な業績動向を、財務省が四半期ごとに公表している「法人企業統計調査」によってみてみましょう。それによれば、全産業ベースの経常利益は、2012年4~6月期以降前年割れとなっており、昨年10~12月期には前年同期比10.3%のマイナスです。業種別には製造業が同21.5%減とマイナス幅が大きく、電気機械、情報通信機械など、エレクトロニクス産業の減益が目立っています。

 こうした背景としては、円高の進行や海外景気の減速を指摘できます。昨年夏以降、ギリシャの国家債務問題を契機に欧州経済が調整局面入りし、中国経済も沿海部を中心に減速傾向にあります。さらに円高が進み、輸出産業にとっては大きな痛手となりました。とくにエレクトロニクス産業では、韓国企業などの躍進により国際競争力が相対的に低下しており、テレビ事業などで大幅な赤字を計上しました。

 過去のボーナスの伸び率と企業業績の関係をみると、経常利益伸び率がおおむね半年程度のラグを伴ってボーナスに影響しています。従って、今夏のボーナスは、昨年10~12月期ごろの企業業績の影響を強く受けることになります。すでにみたように、製造業を中心に経常利益は前年割れであり、ボーナスについても前年比マイナスになるものとみられます。

 ちなみに経団連が今年5月末時点で集計した大手企業の2012年夏季賞与・一時金妥結額(第1回集計)は、前年比▲3.54%となっています。業種別には、製造業が▲4.10%、非製造業が▲2.03%です。

 では、中小企業の相場についてはどうなるでしょうか。前出の財務省「法人企業統計調査」で、企業規模別の利益動向をみると、上場企業が多い資本金10億円の大企業の経常利益率が昨年10~12月期に前年同期比16.9%減となっているのに対し、資本金1000万円から1億円の中小企業は6.2%減とマイナス幅が小さくなっています。これは、中小企業は業種でみて非製造業のウエートが高いためです。昨年後半は、輸出環境が厳しく製造業の業績が大きく悪化しました。一方、復興需要や個人消費の持ち直しで内需は意外に底堅く、非製造業の業績は比較的堅調に推移しました。

 以上を念頭に、昨年夏の賞与の実績を厚生労働省「毎月勤労統計」ベースでみると、従業員30~99人企業の伸び率が0.0%であったのに対し、500人以上企業は+1.8%と、中小が大手を下回っていました。これは当時の業績の違いによるものであり、今年については中小企業の方が業績は底堅いことを踏まえれば、中小企業の夏季賞与の相場は前年割れとなることが予想されるにしても、マイナス幅は大手よりも小さいものにとどまると見込まれます。

 もっとも、これはあくまで「平均値」に過ぎません。近年、企業間の業績格差は拡大傾向にあり、個人による支給額の格差も大きくなっています。ちなみに総務省「家計調査」によれば、年収上位20%の世帯の平均賞与と下位20%の世帯の倍率をみると、拡大傾向にあります。90年代前半には5~6倍であったものが、最近は8倍程度になっています。そうした意味では、各企業は、世間相場は世間相場として参考にしつつ、ボーナスの持つメッセージ性を考慮して、最終的な個々人の支給額を決めていくことが重要といえるでしょう。

掲載:『戦略経営者』2012年7月号