プロミュージシャンも愛用するハイエンドなエレキギター製作で定評のあるフリーダムカスタムギターリサーチ。「100年生き続けるギター」づくりを目指す深野真社長(48)は、社員のモチベーション向上を狙った独自の人事労務体制を敷いている。TKCの『PX2』活用法とあわせて聞いた。

「100年保証」が付いたこだわりのギター作り

フリーダムカスタムギターリサーチ:深野社長(前列左)

フリーダムカスタムギターリサーチ:深野社長(前列左)

――エレキギターの製造・販売をされているとお聞きしました。

深野 ハイエンドなエレキギターやエレキベースを都内にある自社工場で製造し、有名楽器店を中心に卸しています。また、個人客に対して直販することもしています。

――御社の製品の特徴をあげるとしたら……。

深野 「音」「機能」「見た目」の3要素を重要視しながら、少数精鋭の小規模生産で丁寧に作っているところです。市場での価格帯は30万~60万円ほど。ギター初心者が1本目とか2本目で手に取る楽器ではなく、3本目とか4本目で買われる感じの位置づけですね。

――ギター作りの工程を簡単に教えてもらえませんか。

深野 木材仕入れ→シーズニング(乾燥)→木工加工→塗装→研磨→組み込み→全体調整→出荷という流れで行われます。
 製品の耐久性を強めるという点では、最初の3工程を特に意識しており、質のよい木材を仕入れて、それを最低半年以上、倉庫に保管してゆっくりと東京の環境(気候)に慣らしてから使用します。木材は「生き物」なのでこうした配慮が必要なんです。常時約600枚の木材をストックしています。

――製品には「100年保証」を付けているそうですね。

深野 ええ。100年もつ楽器を必ず作ろうというこだわりと、それに対して責任を取ろうという意思の現れとして100年保証を付けています。エレキギターの歴史は1940年代から始まったので「100年生き続けたエレキギター」というものを誰も見たことはありませんし、それを作るのは夢のような話かもしれません。ですが、製品づくりにおいて一切の妥協を排し、納得いくものを作っていくことで夢は現実になると考えています。

――いまの事業をはじめた経緯をお聞かせください。

深野 30年前より、他社でエレキギターの製作や修理をするようになったのがこの業界に足を踏み入れたきっかけです。そして1998年に独立。前の会社ではやりたくてもやれなかったギター作りをしたいという思いから、自分の会社を立ち上げて独立しました。

――現在の経営環境はいかがでしょうか。

深野 これだけ国内の景気が悪化しているので厳しいことは厳しいのですが、考え方によっては逆にわれわれにとってチャンスの時なのかもしれません。というのは、節約ムードの高まりのなか極力無駄遣いは避けようと、購入する商品を“吟味”する傾向が強まっているからです。つまり「本質を求める」「セレクティブになる」といった動きが消費者のなかに生まれていて、「あ、やっぱりこのお金を払うなら、ここのギターはアリだな」と感じてもらえる当社の製品がより注目される可能性があるんです。

――そうした点を踏まえての経営戦略は?

深野 まずは国内販売の充実を図ることが一つ。3月に新作のベースを、6月に新作のギターをリリースする予定で、その新作発表説明会に得意先のバイヤーさんを招いて開催するなど、新しい試みを仕掛けていくつもりです。
 あとは、5年先、10年先を見据えて海外市場に目を向けることも必要だと思っています。今年1月にNAMMショーという、アメリカで行われる世界最大級の楽器見本市に出展したのはそのための布石でもあります。海外のハイエンドユーザーに対する販売の足がかりを作りたいという目的に加え、世界的な不景気ゆえの出展者数の減少で注目を集めやすいといった点も今回参加に踏み切った理由としてあります。これは予想外の効果だったのですが、日本の業界誌が取材にきてくれたりしたことから国内市場に対してのよい宣伝にもなりました。今後も、最低でもあと2回は出展するつもりでいます。

「賞与原資」の金額を従業員に毎月報告

――現在の社員数と、それぞれの社員の仕事内容について教えてもらえませんか。

深野 社員数は現在14名。その内訳は、製造部門5名、修理部門4名、営業部門3名、営業兼事務担当が2名です。

――各社員の給与計算には『PX2』を活用されているそうですが、導入の経緯とその活用法をお聞かせください。

深野 顧問をお願いしている大久保会計の大久保俊治税理士から提案を受けて、今から10年以上前に、TKCの財務会計システムである『FX2』と、販売管理システムの『SX2』といっしょに導入しました。『PX2』については、タイムカードをもとに各社員の勤怠データを入力し、それをベースに毎月の給与額を計算するプロセスにおいて活用しています。

――社員のみなさんの賃金額はどのように決めていますか。

深野 中小企業向けに考案された「ブレスト賃金制度」を大久保会計の提案で採用しており、そのやり方をもとにしながら社員一人ひとりの賃金額を決めています。
 ブレスト賃金制度とは要するに「職務給」型の賃金体系をつくるためのもので、仕事の価値をいくつかの段階(グレード)に分け、それぞれの社員が遂行している仕事の種類や価値に応じて、毎月の給与額が決められていきます。また賞与に関しては、会社全体の業績とともに、個人目標の達成度合いなどを評価しながら支給額を決めます。

――『PX2』には給与計算機能のほか、労働分配率の3年間の推移を示した資料等が見られる「戦略情報確認機能」があります。「賃金の配分」(労働分配率)が適正かどうかのチェックは定期的になされていますか?

深野 労働分配率は毎年確認しています。単年度の経営計画を策定する際に、1年間の“想定分配率”を確定。その数字と限界利益(予測・実績)とを照らし合わせながら、その期の人件費総額の仮説を立てて、そこから毎月の給与額を差し引いていった残りを賞与原資とみなします。この計算を毎月行い、「いまの時点でこのくらいの利益が出ているから賞与原資はこの金額」と社員に報告します。

――具体的にどんなかたちで報告しているのでしょうか。

深野 毎月、大久保会計で作ってもらった「経営実績報告書」を配布して全社員に伝えています。簡単に言うと月次の決算資料のようなもので、前月の売上高や利益率のほか、社長の役員報酬の数字なども記されています。また、最後のページには今年の労働分配率の数字を明記するとともに、賞与原資が一目でわかるようにしています。要は、「ガラス張り」経営を実践するためのツールとして使っているわけです。

タイムリーな業績管理が会社を「健康体」に保つ

――「一人当たり人件費が高く」「労働分配率が低い」のが理想の経営だと言われていますが、そこにもっていくための工夫は何かありますか。

深野 やはり社員一人ひとりのモチベーションをどう高めていくかが重要となります。仕事の結果が直接給与に結びつく配分ルールの「ブレスト賃金制度」を採用し、賞与原資の金額を毎月報告しているのは、そうした意図からです。

――そのためにも、黒字経営を続けていくことが求められます。

深野 『FX2』を活用して業績管理を徹底している理由はまさにそこにあり、とにかく会社を「健康体」に保つように努力しています。健康の源は数字の管理といえ、そのためには必要な会計資料をほしいときにすぐ見られる状態でなければならない。「風邪をひきそうだな」と気付いたときに、すぐにチェックができなければ意味がないのです。タイムリーに業績を確認できる『FX2』は、その点において大事なツールとなっています。

――『FX2』で部門別管理はされていますか。

深野 ええ、部門別管理を通じて、各部門ごとの売上高や限界利益率をつかめるようにしています。そこから得られた数字をもとにして経営実績報告書が作られます。

――今後の抱負について一言お願いします。

深野 この先数年間で、より黒字体質にしていくことが目標ですね。そのうえでアジア、北米、EUなど海外での販売を進めていければと思っています。

(本誌・吉田茂司)

会社概要
名称 有限会社フリーダムカスタムギターリサーチ
業種 エレキギター製造・販売
代表者 深野 真
所在地 東京都荒川区町屋1-10-9
TEL 03-5855-6277
売上高 1億3000万円
社員数 14名
URL http://www.freedomcgr.com/

CONSULTANT´S EYE
労務戦略の土台となる「ブレスト賃金制度」
監査担当者 鴫村武志
大久保会計事務所
東京都荒川区町屋8-8-7 電話03-3892-4426
URL:http://www.oksupport21.com/

 フリーダムさんの監査担当になったのは今年1月と、深野社長と顔見知りになってからまだ日が浅いのですが、資金面や社内の雰囲気から「いい会社だな」という印象を持っています。いまの厳しい経営環境のなかでも、深野社長を中心に全社一丸となって頑張っていることが伝わってきます。

 前任者から聞いた話によると、TKCシステムの導入は2000年ごろ。深野社長が目指す「ガラス張り」の経営を具現化するうえで、3つのTKCシステム(『FX2』『PX2』『SX2』)をうまく活用されてきたそうです。

 フリーダムさんの人事労務戦略は、大久保会計事務所が提案した「ブレスト賃金制度」が土台となっています。ブレスト賃金制度は中小企業の実態を踏まえて考案されたもので、限られた人件費枠のなか、頑張った人には大きく報い、そうでない人にはそれなりの対応をするメリハリのついた賃金制度と言い表せます。深野社長は、年間の予定(経営計画)を作る段階で目標粗利のうち何パーセントを賃金にするかを最初に決め、毎月の給与額、つまり毎月固定の人件費を引いた残りを賞与としてみんなに分配するようにされています。それが社員のモチベーションを高めるうえで大きな効果を発揮しています。

 一方で深野社長は、財務戦略においては「PDCAサイクル」を回す社内体制を構築して、単年度あるいは中長期計画をもとに『FX2』できめ細かい予実管理を行っています。『FX2』は過去にさかのぼってデータを改ざんできないという特長がありますが、「いざとなればごまかしができるシステムではないので変な甘えが生まれない分、逆に自分自身が高められた」と深野社長は話していました。そんな深野社長を、監査担当者としての実力をいま以上に高めながら、この先しっかりと支援していきたいと思っています。

掲載:『戦略経営者』2012年4月号