昨年、シーズンのさなかに元サッカー日本代表・松田直樹選手の急逝という不幸に見舞われながら、念願のJリーグ2部(J2)昇格を果たした松本山雅。Jリーグのチームを次々と撃破した、サッカー天皇杯での活躍ぶりもまだ記憶に新しい。監督、GMとして率いた加藤善之氏(47)は財務面でも卓越した手腕を発揮している。
熱いサポーターの声援が“J”の一員に押し上げる
松本山雅:加藤氏(右)
――加藤さんはシーズン途中の6月から監督を務められたわけですが、昨シーズンの戦いを振り返られていかがでしたか。
加藤 開幕当初は成績が振るわずファンの皆さんにはご心配をおかけしました。昇格を果たすことができたのは、チームを支えていただいている地域のさまざまな方々のおかげだと思っています。私自身は、2009年から松本山雅のGMとしてJリーグ入りを目指す組織づくりに携わってきました。プロスポーツは試合に勝つことが目的ですので、GMと監督、立場は変わってもあまり違和感はありませんでしたね。「Jリーグ入りを果たす」という目標に向かって、選手たちも一丸となってよく戦ってくれました。
飯塚肇顧問税理士 加藤さんは急きょ監督に就任され、シーズン中にはご存知のとおり8月2日に松田直樹選手が亡くなるという悲しい出来事もあり、本当に大変だったろうと思います。
――長野県で初めてJリーグのチームが誕生し、相当盛り上がったのでは?
加藤 12月に開催された最終節のホームゲームには、1万2000人の観客が集まりました。そして正式にJリーグ昇格の承認を受けた日の夜には、松本城公園で選手とスタッフによる報告会を開き、サポーターの皆さんと喜びを分かち合いました。
――ホームゲームでの平均来場者数はJ2の平均数を上回っていたそうですね。
加藤 ええ。昨年は7460人でJFLのクラブとしては群を抜く動員数でした。Jリーグのクラブのほとんどは大企業の実業団を母体とするクラブですが、松本山雅の発祥は有志の人たちが1965年に立ち上げた市民クラブです。山雅というチーム名は当時、長野県選抜のサッカー選手たちが集まっていた喫茶店の名前に由来していて、お店のオーナーが熱心に応援してくれていたそうです。
その後2004年にJリーグ入りを目標にNPO法人「アルウィンスポーツプロジェクト」を立ち上げ、今までクラブOBやサポーターの皆さま、ボランティアスタッフのメンバーなど、大勢の人たちからのご支援をいただいています。関わり方はそれぞれ違っても全員が仲間です。「自分たちが支えるクラブをJリーグに送り出したい」という純粋な思いがひとつになり、このような地域全体を挙げた大きな盛り上がりにつながったのではないでしょうか。
――現在のスポンサーの社数は?
加藤 200社ほどです。長野県は北信、中信、南信の3つのエリアに分けられ、やはり地元松本市が属する中信地区の企業さまが多いですね。北信地域である長野市にもJFLに所属するサッカーチーム(AC長野パルセイロ)があって地域間の歴史的な因縁から対抗意識も強く、対戦するときはお互いがヒートアップします。“信州ダービー”と呼ばれていて、前回の試合では1万人を超える観衆が集まりました。
そんな経緯もあって、北信地区の会社のスポンサーはまだ1社もありません。来シーズンからはJリーグという新たなステージで戦うので地域を問わず、より多くの皆さんからのご支援をお願いしたいと考えています。来期のパートナースポンサーの金額、区分などの詳細は、松本山雅のホームページ内でお知らせする予定ですので、ご覧いただけると幸いです。
期首の予算計画が経営のカギを握る
――おととしから『FX2』を利用されているとお聞きしています。
加藤 クラブの事務所を構え、株式会社化したときに飯塚先生から利用をすすめられました。
飯塚 実は私自身、NPO法人発足時から松本山雅の一員として、クラブの経理や総務の仕事に携わってきました。去年本格的な事務所を開設する前は、私の事務所の2階が実質的な事務局だったのです。経理も他の方にお任せすることになったため、より不正が起こりにくい会計システムとして『FX2』の利用をおすすめしました。現在は一顧問税理士として、引き続き経営全般をサポートさせていただいています。
加藤 ちなみに松本山雅には4歳から18歳までの人たちを対象にしたユースアカデミーもあり、そちらはTKCの『NPO法人会計データベース』を利用しています。
――クラブ設立以来、一貫して黒字経営だそうですね。
加藤 株式会社化するまで7年間ほどNPO法人として運営してきたわけですが、NPO法人は元手の資本金があって始めるわけではないため、赤字イコール即資金ショートになります。したがって黒字経営は当たり前のことだと思っています。ただサッカーに限らずどんなスポーツでも、度を超えた選手補強をして資金ショートに陥ることがよくあります。
実際、Jリーグ40チームのうち16チームは債務超過といわれています。その中で黒字経営を続けてこられたのも、取締役会をコンスタントに開いてきたからかも知れません。取締役会では、当期予算に対する執行率を飯塚先生から報告していただき、タイムリーにクラブの財務状況を把握しています。
――取締役会の開催頻度は?
飯塚 毎月です。月初に監査のためおうかがいして前月までの実績データを確定させ、20日前後に取締役会を開催しています。
加藤 クラブ運営で財務面において重要なことは、正確な予算の策定と期中における進捗管理です。今期の収入は約3億6千万円を見込んでおり、そのおおまかな内訳は、スポンサー収入が半分、入場料収入が2割、グッズ販売が2割、その他が1割といった感じです。支出面では一般管理費はできるだけ抑えて、その分をチーム強化やチーム運営費の方に回せるよう心がけています。役員間の約束事として、当期の収入の範囲内でクラブ経営を行うこと、資本金については大きな設備投資のみに使用することがあります。同族会社のように社長が連帯保証して金融機関から借り入れるという発想自体がありません。堅実な経営を続けていれば、いざ大きな設備投資(専用練習場とクラブハウスの建設)をするとき、地域の企業やサポーターの方々が新たな増資に応じてくれるのではないかと思っています。
――『FX2』では主にどの帳表を活用されていますか。
加藤 《勘定科目残高一覧表》です。勘定科目ごとに補助コードを数多く設定しているので、補助コードごとの金額の動きを細かくチェックしています。例えば選手の人件費には基本給や出場給、勝利給、昇格給などさまざまな区分を設けています。
スポンサー料の回収もれ防止に『SX2』を活用
――『SX2(戦略販売・購買情報システム)』も使われているそうですが、グッズ商品の販売管理のためですか。
加藤 もちろんその用途もありますが、メーンはスポンサー様に請求書を発行するためです。なかには資金繰りの問題からか、会費の支払いが滞ってしまいがちなスポンサーもあり、お願いをしてスポンサーになっていただいている手前、つい回収がおろそかになってしまいます。そこで『SX2』から出力できる《売掛金回収管理表》をフル活用しています。ちょうど先ほどまで開催していた取締役会でも「2カ月・3カ月以上滞納リスト」として出席者に提示し、早めに回収するよう担当者に促していました。
以前はわざわざ1件ずつ手計算して、滞納リストをスプレッドシートで作成していたので、手間がはぶけ非常に助かっています。また、ピア・ツー・ピア機能を使って、各営業担当者のパソコンから伝票を分散入力できるのもいいですね。
――おふた方から今後に向けて抱負をお願いします。
加藤 来季は監督を離れ、GMとしてチームを支えていきます。チーム専用の練習グラウンドの確保やクラブハウスの取得、ユースチームの強化など、やるべきことはたくさんあります。J1のクラブの事業規模は平均25億円前後ときいています。次なる目標であるJ1入りを果たすためにも数年のうちに、まずは事業収入で10億円を目指したいですね。
飯塚 加藤さんは計数意識が非常に高く、財務面においても立派な経営をされています。10年、20年後には日本に冠たるサッカークラブとなる資質が松本山雅にはあるので、大いに期待しています。
※情報は取材した2011年12月22日時点のものです。
(本誌・小林淳一)
名称 | 株式会社松本山雅 |
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業種 | サッカークラブ運営 |
代表者 | 大月弘士 |
設立 | 2010(平成22)年7月 |
所在地 | 長野県松本市芳野11-14 |
TEL | 0263-88-5490 |
売上高 | 3億6000万円 |
社員数 | 10名 |
URL | http://www.yamaga-fc.com/ |
CONSULTANT´S EYE
税理士 飯塚肇
信州税理士法人
長野県松本市島内3688-11 電話0263-48-0167
URL:http://shinshu-tax.or.jp/
サッカークラブとして松本市で長年活動していた山雅クラブは、2004(平成16)年にNPO法人化し、Jリーグ入りを目指すべく活動を始めました。私は発起人の一人として、主に経理や総務業務を担当し、クラブの活動をサポートしてきました。以来順調に成長を重ね、昨年にトップチームの運営は、新たに設立された株式会社に移行されることとなり、現金などの管理業務は私の手を離れることになったため、『FX2』のご利用をおすすめしました。
私自身もそうでしたが、日々孤独に多額の現金の管理をしていると、良からぬことが頭をよぎることがあります。中小企業は内部管理体制が必ずしもしっかりしていない場合が多いので、毎月の月次巡回監査とその際の現金などの実査は必須だと考えています。また遡及訂正ができないシステムも不正防止に大きく役立ちます。『FX2』をご提案した理由はまさにその点にありました。
毎月中旬に行われる株式会社松本山雅の取締役会には私も必ず参加し、前月までの予算執行割合や決算予測などについて報告をしています。さらに『SX2』で管理している、スポンサー料(売掛金)の入金が遅れている企業を一覧出力し、対応を協議します。
残念ながら経営計画を策定する『継続MASシステム』を利用しての予算管理とはまだなっていませんが、計数管理の重要性は役員の皆さんも十分に認識されています。このようなクラブ(会社)の姿勢が堅実経営につながり、それがJリーグからの評価にもつながっていると思います。
ただ使用されている勘定科目には独特なものもあり、『FX2』導入のさいの設定作業に若干苦慮しました。『FX2』の上位システムである『FX4』は自由に科目設定ができ、複数のJリーグのクラブがすでに利用をしていると聞いています。今後は『FX4』の導入を積極的に検討し、TKCシステムをよりいっそう活用していきたいと考えています。