消費税の「95%ルール」が見直されたと聞きましたが、対応の仕方を具体的に教えて下さい。(物品販売業)
消費税は税の転嫁が予定されている法律であり、事業者の消費税納付額は課税売上高に係る消費税額から仕入税額控除額を差し引いて計算します。この仕入税額控除の対象とするものは課税売り上げに対応する課税仕入れに限定されますが、事業者の事務負担に配慮する観点から、現行では「95%ルール」によって課税売上割合(図A『戦略経営者』2012年2月号30頁参照)が95%以上の場合に限り、課税仕入れ等の税額について全額控除が認められています。
平成23年の税制改正によってこの「95%ルール」が見直され、改正後は課税期間の課税売上高が5億円超である事業者は、課税売上割合が95%以上であっても仕入税額控除全額を控除することができなくなります。これに該当する事業者は課税売上割合が95%以下の事業者と同じように個別対応方式、一括比例配分方式のいずれかを選択して仕入税額控除額を算出して適用することになります。(図B『戦略経営者』2012年2月号30頁参照)
1.課税売り上げ5億円超になるかどうかの予測
平成24年4月1日以後に開始する課税期間の課税売上高が5億円超のすべての事業者は仕入税額控除を個別対応方式、一括比例配分方式のいずれかを選択することになります。一般的にほとんどの場合で納付税額の計算上、個別対応方式が有利になると思われますが、後の説明のように経理処理が複雑になってしまいます。
課税売上高5億円超の判定は年換算で行い、事業年度ではなく課税期間であるため、課税期間の短縮の届け出を出している事業者や事業年度が1年に満たない事業者は注意が必要です。また、課税売り上げ5億円を超えた事業年度から適用されるので、期末になって慌てないためにも現在、課税売上高が5億円に届いていない事業者であっても「95%ルール」を視野に入れた対応が望まれます。
2.2つの課税仕入控除の算定方法
a 個別対応方式
個別対応方式の場合には課税仕入高について(1)課税売上高のみ対応する課税仕入れ(2)課税売上高・非課税売上高に共通して対応する課税仕入高(3)非課税売上高のみに対応する課税仕入高に区分して経理し、仕入税額控除の対象は「(1)+(2)×課税売上割合」の金額となります。(図C『戦略経営者』2012年2月号31頁参照)
個別対応方式を採用する場合には届け出書を提出する必要はなく、継続適用することも要件ではありませんが、消費税確定申告書に個別対応方式による計算の旨を付記する必要があります。
b 一括比例配分方式
一括比例配分方式の場合には、個別対応方式のような区分経理は必要なく課税仕入高全体に対して課税売上割合を掛けて仕入税額控除額の金額を計算します。(図D『戦略経営者』2012年2月号31頁参照)
一括比例配分方式を採用する場合も届け出書を提出する必要はありませんが、一度この方式を選択した場合には2年間は継続適用しなければなりません。消費税確定申告書に一括比例配分方式による計算の旨を付記する必要があります。
3.実務上の対応
日常の経理処理について個別対応方式を選択できる態勢にしておけば、最終的な税額計算時に個別対応方式、一括比例配分方式のいずれにも対応できるので、個別対応方式による経理処理を行うことを薦めます。
個別対応方式では必ず「課税売り上げに要するもの」「非課税売り上げに要するもの」「課税・非課税売り上げに共通して要するもの」のいずれかの用途に区分して経理処理をしなければなりません。
一般的な事業者は非課税売上高といっても預金の受取利息や社宅の受取賃貸料などに限定されたものが多く、社宅に関する支出額だけ非課税売上に対応する課税仕入れとして、それ以外はすべて課税売上高のみに対応する課税仕入れとして処理しがちです。しかし、たとえ少額の受取利息や社宅賃貸収入であっても、これらの収入に携わる経理部門や総務部門の光熱費や事務費などの一般管理費は「課税・非課税売り上げに共通するもの」に区分して経理処理をする必要があります。
また、消費税においては総額主義で計算することになっています。簡便的に受取社宅賃貸料を支払賃借料の相殺仕訳を行って純額で計上をしていたり、受取利息から控除された源泉所得税の仕訳処理を省略している場合などでは課税売上割合が正確に計算できなくなるため、総額主義による経理方法に変更しなければなりません。
4.具体的な経理処理の流れ
課税仕入れの用途区分は、それぞれの事業者の業種や収入項目などを基準にして決められることになり、単純に勘定科目ごとによって区分されるものではありません。
まず、個々の事業の支出項目ごとに課税仕入れ、非課税仕入れ、税外取引に分け、さらに課税仕入れに分類したものから用途別に(1)「課税売り上げのみ対応するもの」(3)「非課税売り上げに対応するもの」を拾い出し、残ったものが(2)「共通して対応するもの」として区分することになります。一つの支出項目でもその内容によって区分が異なるケースが出てくることから、今まで以上に支出内容の点検が必要になります。
例えば、国内物品販売業の宣伝広告費について、製品そのものの販売促進の目的で支出したものは(1)の用途になり、単に企業名の宣伝目的で支出したものは(2)の用途に区分されることになります。また電話代で電話番号が営業部門と経理部門で別になっている場合には、営業部門分は(1)、経理部門分は(2)の用途区分として仕訳を細分化すれば、納付する消費税額の計算上、有利になります。
交際費や会議費に関してもその支出が課税売り上げに対応する支出であることが稟議書や支払承認書で明確にされていれば(1)の用途区分に該当することになります。
さらに収益項目によっても、例えば保養施設などを借り上げ、従業員の福利厚生に利用している場合の借り上げ料について、従業員から使用料を徴収しているケースでは収受する使用料が課税売り上げになることから借り上げ料は(1)に区分され、無料で従業員に利用させているケースでは(2)に区分されることになり、状況により用途区分が異なる場合も出てきます。
今回の「95%ルール」改正で該当する事業者の納付消費税は確実に増加することになります。個別対応方式を採用し、きめ細かな経理処理を行うことにより増加分を減少させることが可能になります。消費税率の引き上げが実施されれば影響はさらに大きくなります。わが社は非課税売上割合がごくわずかだからとか、事務処理が煩雑になるから、などの理由で対応が遅れる事のないようにしていただきたいものです。