うなぎの産地として名高い静岡県。沼津魚市場の場外という抜群の立地に本社を構える京丸うなぎ。独自製法や徹底した品質管理に裏打ちされた製品力を武器に、養殖から加工品製造、飲食店経営まで川上から川下まで一貫して手がける。塚本和弘社長(47)は“うなぎの総合企業”を掲げ、数々の新機軸で業界に新風を吹きこんでいる。
毎年新たな打ち手を施し成長路線を築く
京丸うなぎ:塚本社長(左)
――うなぎの養殖業からスタートされたそうですね。
塚本 先代社長である父が昭和36年に焼津市で養鰻業を創業したのがはじまりです。当社の養鰻池がある吉田町は元々うなぎの養殖が盛んな地域で、当時は400カ所ほど養殖場がありました。養殖用のエサとして生餌とよばれる生の魚を使っていたのですが、配合飼料に変わったころ病気がまん延して、廃業する同業者が相次ぎました。そんななかでこのまま産地にとどまり、養殖だけを行っていても成長の余地がないと考え、消費地の問屋になることを目指して心機一転、ここ沼津市に移ってきました。このエリアは観光地である伊豆半島にも近く、東京まで新幹線で約1時間というアクセスの良さもあり、広い商圏を持っているのがメリットです。以来、養鰻に加えて白焼き、かば焼き、真空パック商品等の製造・加工卸、直営店の出店など徐々に事業を広げてきました。
――事業が拡大したきっかけは?
塚本 「朝焼きうなぎ」の販売をはじめたことが大きかったですね。移転した当初は、近くの魚市場の一角で、鮮魚店や旅館などに納める問屋を相手に細々と商品を販売していました。その後市場に出入りをする業者が減っていくにつれて売り上げが伸び悩んできたため、スーパー向けの商材を作ろうと考えたのがきっかけです。早朝3時から焼いているうなぎを冷凍保管せず、チルド配送による販売をはじめました。鮮度を保つために朝焼きうなぎ専用の保冷容器も開発し「冷凍したうなぎとは一味違う」とお客様からご好評をいただいています。
この朝焼きうなぎで静岡県から経営革新の承認を受け、補助金を活用することができました。うなぎを焼く機械、製法にも工夫を施し、手焼きのうなぎと変わらない味わいを生んでいます。独自製法として三国特許(日本、中国、台湾)を7年前に申請し、7月にようやく日本政府から承認がおり、晴れて3カ国から認定を受けることができました。
――同業他社との差別化を図れそうですね。
塚本 ええ。うなぎの製造、販売に関連する市場の規模は800億円といわれていて、生産量は毎年ほぼ横ばいのなか、いかにシェアを拡大するかが重要だと考えています。うなぎは焼いて食べる食材のため、衛生管理に力を入れている会社はそれほど多くないのが現状です。お客様により安全なうなぎをお届けするためにも、当社では品質、製造工程管理を徹底させ、万一事故が起こった際でも検証可能な仕組みであるHACCP(ハセップ)を導入しています。自社工場は静岡県が実施している地域HACCPの認証を受けました。また養殖しているうなぎはCERTトレースバック(生産履歴)認定を受けており、取引業者から高い評価をいただいています。
――新たな取引先はどのように開拓されていますか。
塚本 実は当社には1人も営業マンがおりません。一応、営業部長がおりますが、とくに外回りの営業活動をやっているわけではなく、当社の商品を扱いたいという方々が紹介などを通して当社にお越しになることが多いのです。商談の際はひと通り事業内容を説明し、最新の設備を備える製造工場内を見学していただいており、ほぼ新規取引に結びついています。
――「京丸うなぎ」がブランドになっているのかもしれません……。
塚本 業界内では知れ渡りつつあると感じています。当社では「毎年必ずひとつ新しいことを行う」ことをモットーに掲げており、今年はモンドセレクション受賞に挑戦し、生産履歴認定と独自製法が高く評価され、金賞を獲得することができました。いまは次に取り組む計画を練っているところですが、真空パック商品のラインアップを充実させることを検討しています。通常、店頭に並ぶトレーパックに入っているうなぎは賞味期限が短く、売れないと廃棄ロスになってしまうため、うなぎの価格が高くなるとスーパーはあまり販売してくれなくなります。真空パック商品であれば1カ月間ぐらい日持ちしますし、実際3月の震災以降、スーパーからの注文が非常に増えています。
木村治司顧問税理士 塚本社長は大変なアイデアマンで、常に新しいことを企画し、さまざまなことに挑戦されていることが業績が伸びている大きな要因だと感じています。
計画の進捗確認に社長ファイルを活用
――業績管理に戦略財務情報システム(『FX3』)を活用されているそうですね。
塚本 一昨年に直営のうなぎ専門飲食店をオープンし、工場、養鰻、飲食の3部門体制となったのを機に、長年利用していた『FX2』から切り替えました。飲食店ではぎりぎりの価格設定でお客様にうなぎ料理を提供しているため、よりシビアに業績を把握したいと考えたのです。『FX3』では営業所システムを活用して部門単位の入力を担当者が行い、部門別に最新の業績がわかる体制をつくりました。
木村税理士 特定の部門だけ利益が出て、他の部門の成績が落ち込むことがないよう、詳細なデータによる業績管理を社長は希望されていましたので、『FX3』への移行をおすすめしました。工場部門、養鰻部門それぞれに社内と社外双方の販売ルートがあり、データを分けて日々細かく伝票入力を行っていただいています。
――着目している勘定科目や帳表は?
塚本 水道光熱費と金額の大きい保管料に着目しており、管理可能な固定費をいかに削減できるかがポイントだと考えています。当社は夏場が書き入れどきで、年間売上高の半分もしくはそれ以上を占めるほどです。秋以降はコツコツとうなぎをさばいて加工し、春先まで在庫をストックしておき、販売がピークを迎える5月から7月に備えます。世間ではうなぎは年間商材になったといわれていますが、まだわれわれは季節労働者ともいえます。
また月間販売量の約5倍にあたる在庫を常時保管しているため、在庫数量に間違いがないか金融機関から質問を受けることがあります。当社を担当している金融機関の社員とは毎週のように話をしているので、在庫量がかさんでしまう事情を理解してもらえるのですが、本部からはやはり数字で見られてしまいます。そのため冷蔵庫の在庫証明やシステムからリアルタイムで出力できる《貸借対照表》や《資金繰り予定表》、《銀行別借入残高一覧》などを印刷して状況を説明しています。うそいつわりのない、客観的なデータを提示できるのはTKCシステムならではだと思います。将来的に販売管理システムとのデータ連動ができれば、入力作業が効率化でき、データをいっそう活用できると考えています。
木村税理士 『FX3』の営業所システムに切り替えてから貸借対照表科目の部門別管理ができるようになったことも評価をいただいています。
――ふだんの巡回監査時はどのようなお話をされていますか。
塚本 入力したデータの監査を木村会計の鷲津(範彦・監査担当)さんに行っていただいたあと、木村先生と業績の推移や今後の見通しについて話をしています。『FX3』の全社業績問合せメニューを開いて売上高や経常利益額をチェックし、「社長ファイル」の業績確認シートに書き写し、前年比で極端に変動のある科目は仕訳データにまでさかのぼって原因を調べます。システムの画面上での確認と社長ファイルへの転記作業を通して、頭の中にある数字と実際のデータが一致しているか、すりあわせを行っているわけです。
――社長ファイルに他にとじている資料はありますか。
塚本 先ほどお話しした業績確認シートに加えて当社の経営理念や経営方針のほか、『継続MAS』システムで策定をした中期経営計画書をとじています。今期からは部門長が中心となり、工場、飲食、養鰻それぞれの部門で部門別の事業計画を立ててもらいました。
型破りな価格で新鮮なうなぎ料理を提供
――直営飲食店「うなぎ処京丸」の評判はいかがでしょう?
塚本 リーズナブルな価格で、ご家族そろってゆっくり美味しいうなぎを味わえるお店づくりをコンセプトに置いています。うなぎ料理というと高級品のイメージがあり、ご家族で食べる機会は少ないと思います。スーパーと飲食店で販売している商品で極端に価格差があるのは、うなぎとお寿司ぐらいではないでしょうか。より多くの人たちに当社のおいしいうなぎを食べていただきたいと思い、うな重、うな丼をはじめとするランチメニューを平日限定で1000円で販売しています。工場に隣接しているので売り切れの心配もありません。さらに直営店にはアンテナショップ的な意味合いもあります。昨年からインターネット通販での商品販売を始めたのですが、店構えがあるだけで「あのお店の……」というイメージを植え付けることができ、相乗効果を生んでいます。
――今後の抱負をお聞かせください。
塚本 会社の省エネルギー化にいっそう力を入れていきたいと考えており、5月に直営店に太陽光パネルを設置しました。現在、供給率は20%ほどですが、将来的に工場にも導入することを検討しています。今後も黒字経営を目指し、人がやっていないことを手がけていきたいですね。
(本誌・小林淳一)
名称 | 京丸うなぎ株式会社 |
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業種 | うなぎ加工、販売業 |
代表者 | 塚本和弘 |
所在地 | 静岡県沼津市春日町31 |
TEL | 055-963-9384 |
売上高 | 約20億円 |
社員数 | 36名 |
顧問税理士 | 木村治司 木村治司税理士事務所 静岡県沼津市大岡1977-23 055-923-2533 URL:http://www.tkcnf.com/kimura-ao/ |