“再生可能エネルギー”は今後の社会のあり方を左右するポイントであると同時に、中小企業生き残りのためのキーワードでもある。大震災・原発事故の大ピンチをチャンスに変える……。そんなたくましさがいま、経営者に求められている。
東日本大震災以降、日本の、そして世界のエネルギー政策の潮流が明らかに変わりつつある。福島第1原子力発電所の事故は、われわれ日本人の「空気と水と電力は何もしなくても手に入る」との長年の“ゆるんだ”認識に喝を入れた。電力不足に伴う計画停電などの思わぬ不利益を経験し、国民とくに経営者はいま、「電力危機管理」を含めて、エネルギー管理へのビットが立った状態であることは間違いないだろう。
2020年には50兆円市場
さらに先頃、再生可能エネルギー特別措置法が国会で可決した。これによって、とりあえず“電力の独占”に風穴が空き、補助金浸けで採算度外視の自然エネルギー事業から脱皮する最低限の条件は揃った。当然のことながら中小企業にとってはチャンスである。これまで電力市場といえばまず参入は不可能だったが、再生可能(自然)エネルギーの分野ではそれが一変する。2020年に50兆円に膨らむといわれる世界市場。加えて新たな分野だけに、企業の創り出す技術革新がそのまま競争力となり得るのである。
中小企業が再生可能エネルギーを経営戦略に組み入れていくには、「ものづくり」と「利用」の両面があることを、まず抑えておきたい。前者はメーカーとしての立ち位置。ここでは、日本の中小メーカーの得意分野である高い技術力を背景に独創性を発揮できる可能性が十分にある。そして後者は利用者としての立ち位置である。再生可能エネルギーを積極活用し、企業や商品ブランド力を高める戦術も、これまで以上に当たり前になってくるだろう。それは利用者の立場で、企業が自然エネルギーを経営戦略に組み込むことにほかならない。
自然エネルギーといえば思い浮かぶのが太陽光発電、風力発電、水力発電である。もちろん、これらの分野には大手メーカーの独壇場の部分もあるが、後欄(『戦略経営者』2011年10月号特集参照)で詳述するように、周辺にはニッチで細かい、中小企業が十分に拾っていける分野が広がっている。また、「利用者」の立ち位置からいえば、工場やオフィスの発電を自然エネルギーでまかなうことで「エコカンパニー」として周囲に印象づけることも可能だし、前述したように商品ブランド構築の要素とすることもできる。そのような取り組みはすでに多くの企業で実践されており、たとえば、後欄(『戦略経営者』2011年10月号17頁参照)で紹介する100%風力発電で得られる電力(グリーン電力)で『風で織るタオル』というブランドを構築した池内タオル(愛媛・今治)などは、とくにスマートな実例だろう。
気になる「買い取り価格」
そして、さらに可能性として広がるのが、冒頭で触れた“売電事業”である。
これまで「余剰電力買い取り」の制度はあったが、今回の法案で可決されたのは「全量固定価格買い取り」。つまり、発電した全量を固定価格で電力会社に売れるようになるということだ。したがって今後はファンドの形で、売電事業に中小企業がどんどん参加する時代が訪れると予想される。実際、小水力発電では、NPO法人が中心となり、民間資本を集めて1000kwhの発電所を建設するプロジェクト「立山アルプス小水力発電事業」が進行中だ。
ただ、気になるのは「買い取り価格」である。ここが低く抑えれらると採算面から事業化が難しくなる。予想されているのは太陽光発電の場合で、1kw当たり「おそらく30円台後半になるのでは」(ソーラー・エナジー・ソリューションズ・森上寿生社長)との見方が有力。期間は15~20年。風力と水力は「15円~20円、15年~20年では」(シーベルインターナショナル・前田俊一取締役)と見られている。この範囲内におさまれば、ほぼ自然エネルギー活用の先進国・ドイツと同じレベルになる。今後期待できる技術革新を考えれば、売電事業への民間資本の参入は十分に考えられる。
もうお気づきだと思うが、重要なのはこの「民間資本の参入」である。大資本のみならず、日本の会社の99%を占める中小企業が当たり前のように再生可能エネルギー関連産業に投資するようにならなければ、市場の爆発的な成長は望めない。
エネルギー政策の大転換は、社会や経済を変えることでもある。しかも、世相がゴロリと最初のひと転がりをはじめた再生可能エネルギーへの傾斜は、もはや元には戻らない。この市場こそ、中小企業にとって唯一最大のものといっても過言ではないかもしれない。
本特集では、中小企業の視線を保ち、事例をふんだんに交えながら、各自然エネルギーごとにアプローチ法を考察してみた。参考にしていただければ幸いである。
(本誌編集室)