デフレ不況のなかにあって、売り上げを着実に伸ばしているのがプライム・パックだ。理由は、段ボール製品の加工に特化して“技”を磨き続けていることと、TKCの『継続MAS』と『FX2』を使ってPDCAサイクルを構築し収益力を高めていることにある。そこで同社の事業・財務戦略を北島照秋社長(64)と北島千代子課長、顧問税理士の品田秀行氏、監査担当の上原寿一氏に聞いた。

スピード対応をウリに得意先を増やす

プライム・パック:北島社長(右)

プライム・パック:北島社長(右)

――段ボール製品の加工を主力事業にされているそうですね。

北島照秋社長 はい。主に自動車の修理用部品向けの段ボール箱を製造販売しています。とくに当社が得意にしているのは小さい箱(縦110×横約120×高さ90ミリ)ですが、種類的には100点ほど生産しています。取引先は約100社で、そのなかで1番の得意先は新和産業さんです。かれこれ30年近く取引させていただいています。毎日十数件のオーダーが取引先から入り、その受注票にしたがって段ボール箱を製造し、中2日で納品します。1回当たりの受注量は品目によって異なりますが、1~100個が多く、1日の生産量は4500平方メートル(1メートル四方の段ボールシートで4500枚)くらいです。

北島千代子業務課長 1984(昭和59)年の設立以来、この道一筋でやってきていますから、毎日注文が入る段ボール箱はどの品目で、どれくらいかはだいたいわかっており、そのなかには予め在庫生産して対応しているものもあります。

――御社のセールスポイントは何ですか。

北島社長 第1は“スピード対応”です。例えば、新規のお客様が「今日(4月26日)当社に注文を出せば2日後の28日には納品する」という受注体制を取っている点です。もう一つは単に箱だけでなく、それに付随して発生する、折り曲げ加工や緩衝材の製造なども一括して請け負うことができる点です。
 段ボール箱の形状はいくつかありますが、最もポピュラーなのが「プリンタースロッター」で製造されるミカン箱タイプです。段ボールシートメーカーから材料を仕入れると、それをプリンタースロッターにかけ、印刷(エンドユーザーの商品名等)・裁断・罫線・溝切り加工などを行ってミカン箱にします。第2のタイプは「オートスリッター」という機械で製造される板段ボール(パット)です。パットは、段ボール箱の底に敷く中敷きやセパレート、緩衝材として使われます。3番目は「オートン(打抜機)」を使って作られる段ボール箱です。木型をオートンにセットして抜き加工して製品に仕上げます。一般的に中小下請け業者の場合、抜き加工だけとかプリンタースロッターだけというところが多いのですが、当社ではこの3つの機械を導入して、お客様の多種多様なニーズに迅速に対応できるようにしている点が大きな特徴です。

――最近の業況は……。

北島社長 全体的にはリーマン・ショック以降、需要は落ち込んでいますが、当社の業績は堅調に推移しています。2011年3月期の売り上げは約2億3500万円で、前期に比べ約500万円の増収となり、ここ数年黒字決算を続けています。

予算は“必要利益”を起点に組み立てる

――10年前にTKCの『戦略財務情報システム(FX2)』を導入されたと聞いています。

北島社長 はい。顧問税理士の品田秀行先生から「自分の会社の数字は自分でリアルタイムにつかめるようにしたほうがよい。そのためのツールとして最適なのが『FX2』」と助言され、導入しました。

品田秀行税理士 そもそもは塩見徳次税理士(故人)事務所の職員と奥さん(北島課長)が知り合いで関与したのが始まりです。その塩見事務所と私の事務所が1997(平成9)年に合併して、そのまま顧問を引き継ぎました。要は、私が事業承継で塩見先生の関与先を引き継いだということです。

北島課長 売り上げに関しては《売掛金集計帳》、仕入れに関しては《買掛金支払管理帳》に取引が発生するたびに記入し、その金額を月末に一括して『FX2』に入力するという流れで行っています。また、請求書や領収書に関しては監査担当の上原寿一さんの助言・指導で、それぞれファイルに綴って管理しています。

――巡回監査が行われるのは毎月いつ頃ですか。

上原寿一監査担当 20日前後です。『FX2』に入力された数字と、その取引のもととなった証憑書類(請求書・領収書など)を突き合わせてチェックしたうえで、月次決算データを確定させています。

北島社長 日常のオペレーティングに関しては「私が現場、課長が経理」と役割を決めています。毎日現場に入っていますから、忙しいか暇かは肌感覚でわかりますが、それを具体的な「数字」で上原さんが巡回監査のときに説明してくれるわけです。

――最近では『継続MAS』を使って予算を作成しているそうですね。

品田 毎年決算が終わった頃、『継続MAS』で次期の予算を作成し、そのデータを『FX2』に落とし込んで予実管理します。つまりPDCAサイクルを回す仕組みづくりを、当事務所がサポートしているわけですが、それはプライム・パックさんだけでなく、当事務所のすべての関与先企業に提案し導入してもらっていることです。

北島課長 次期の予算を作成するにあたっては、まず「減価償却費+税引き前利益=必要利益」を算出し、その金額で借入金の返済を賄うことができるかどうかを見ます。

北島社長 そのためには、売り上げはいくらくらい上げなければならないかを考え、得意先ごとにそれをブレークダウンしていきます。前期の実績を参考にしながら、例えば新和産業さんでこれくらい、B取引先でこれくらいという形で得意先ごとに売上目標を設定します。そして、それが実際にどうだったのかを毎月『FX2』でチェックするわけです。

上原 北島社長には『FX2』の画面を見ながら、今月の経営状況を詳しく説明します。具体的には《変動損益計算書》を使って、売り上げは当初予算や前年同月に比べてどうだったのか、変動費や限界利益については何か従来と変わった点はなかったかなどを話します。

現場作業の効率化で粗利益率を高める

――目標売上高を必達するためのポイントは何ですか。

北島社長 1つは大口の取引先で取りこぼしがないようにすること、2つ目は取引先のなかでなくなるところも出てくるので、常にそれをカバーするために新規客を開拓することです。例えば、昨年はマスクを扱う会社から初めてオーダーをもらいました。新型インフルエンザが世間の関心事になったことで、マスクの需要が高まり、それを収納するための箱(段ボール)が急きょ必要になったからです。

北島課長 現在の取引先は約100社ですが、そのほとんどは口コミで開拓したものです。どのお客様の仕事も丁寧かつ迅速に行えば、評判は広まっていきます。

――限界利益率はどんな方法で高めているのですか。

北島社長 前期(10年3月期)の限界利益率は当初予算に比べて数ポイントよかったのですが、理由は段ボールシートの平均仕入単価(1平方メートル)が下がったからです。仕入先は数社ありますが、現下のデフレ不況を反映して、おしなべて単価を引き下げてくれたんですね。単価が1円2円下がっただけでも、月に数十万円の限界利益が違ってきます。
 第2は現場作業の効率化によってです。例えば、プリンタースロッターに段ボールシートをかけるにあたっては、予め印版などをセットしなければならないのですが、それを短時間(5分間)でできるように工夫しています。こうすれば1日当たりの生産量を増やすことができるし、余計な残業を行わなくてすみますからね。

北島課長 実は11年前に今のところに工場移転してきたのですが、その際に設備資金として約1億5000万円を借り入れました。その返済に四苦八苦していたところを、品田先生に助けてもらいました。

品田 1億円を超える借入金なのに比較的短期間で返済しようとしていたところに問題がありました。そこで、私の知っている金融機関(A銀行)に全額肩代わりしてもらい、新たに長期で返済する方法に切り替えました。つまり年間の借入返済額をプライム・パックさんの体力(必要利益)に見合う形に改めたということです。そのために『継続MAS』と『FX2』を使って、PDCAサイクルを回す仕組みを作ったわけです。こうすればプライム・パックさんは資金繰り問題から解放される一方、A銀行も新規貸出先を獲得でき、お互いにいいわけです。

北島課長 返済方法を変えただけで、こんなに資金繰りが楽になるとは思ってもみませんでした。

――最後に今後の抱負・課題をお聞かせください。

北島社長 私も64歳になり、当社の将来を考えたとき、やはり課題の一つはいかにして事業承継を行うかです。が、幸運なことに娘婿(現在は他社に勤務)が「継ぎたい」と言ってくれているので、彼を一人前の経営者に育て上げるのが私の、創業者としての最後の仕事と考えています。2代目を中心にみんなで力を合わせて「段ボールの製品加工ならプライム・パック」といわれるような会社へと、さらに成長・発展することを望んでいます。

(本誌・岩崎敏夫)

会社概要
名称 株式会社プライム・パック
業種 段ボール製品の加工業
代表者 北島照秋
所在地 神奈川県相模原市緑区小屋1790‐7
TEL 042-780-6303
売上高 2億3500万円
社員数 20名(パート含む)
顧問税理士 品田秀行
品田ファイナンシャル
神奈川県横浜市中区扇町3‐8‐6
045‐662‐6793
HP:http://www.tkcnf.com/shinada/pc/

掲載:『戦略経営者』2011年6月号