「食の安心・安全」への関心がかつてない高まりをみせているなか、鮮度とおいしさにこだわった学校給食向けの水産加工品を主力に手がけているのが丸幸水産だ。陣頭指揮をとる小堺潔(67)社長と、提案型営業で取引先を開拓している小堺洋市氏に財務マネジメントのポイントなどを聞いた。

現地現物で食材を厳選し新鮮なまま学校に提供

丸幸水産:小堺社長(右)

丸幸水産:小堺社長(右)

――魚介類の加工販売を手がけられているとお聞きしています。

小堺潔社長 当社は給食向け水産物の切り身加工販売からスタートし、近年は煉り製品、乾物、調味料まで幅広く取り扱っています。品目はおおよそ1000種類です。

――給食とは学校給食のことですか。

小堺社長 学校給食と一般企業の社員食堂向け食材です。以前は企業や病院などへ販売する産業給食の比率が高かったのですが、現在は東京23区のうち7区の小中学校向けの給食が販売の8割を占めており、業績は順調に推移しています。背景には6年前に食育基本法が制定され、小中学生にもっと魚を食べさせたいという国の方針があります。子供のころの食習慣は非常に大切で、海に近い土地で育った人は普段からおいしい魚を食べているので、魚嫌いになる人はあまりいないというのが私の実感です。ですからできる限り新鮮な魚を小中学生に提供したいと考えています。魚好きの子供を一人でも多く増やすという使命感を持って事業に取り組んでいます。

――御社のセールスポイントである鮮度の高い魚はどこから仕入れているのでしょうか。

小堺洋市営業担当 海産品の約6割は、ここからほど近い築地魚市場から仕入れています。仕入れたらすぐに7名の切り身担当社員が加工を施し、翌日には学校に届けるようにしています。同じ給食メニューであっても、低学年と高学年では具材の大きさが変わるのです。また全国各地の産地からも直接仕入れています。

小堺社長 仕入元がある産地には社員を訪問させるようにしています。お互い意思疎通を円滑に図るためです。産地の方々のお話をよく聞くことで、相手の業務内容の理解も深まり、社員にとって勉強の機会にもなります。ただ仕入れて終わりという一時的な関係ではなく、相互が利益を出していけるような共存共栄の関係を築くことを目指しています。

小堺洋市氏 産地を訪問することによって交流を深められるだけでなく、産地や食材の特徴など様々な情報を仕入れることができるので、取引先様に新しいメニューを提案する際の営業トークのネタにもなるのです。

――なるほど。食材を使った具体的なメニューの提案もセットでされているのですね。

小堺洋市氏 ええ。当社で独自に作成した「レシピリーフレット」を使って提案しています。学校給食には季節ごとの行事に応じた「行事食」というものがあります。そこで例えばひなまつりにはちらしずしを、節分の日には恵方巻をメニューに加える提案を行いました。日ごろ学校の栄養士さんと話をする機会が多いのですが、なかには献立のメニューに頭を悩ませているかたもおり、リーフレットの内容を参考にしていただいていますね。

小堺社長 そのほか東京都が定めている衛生管理資格の認証を受けていることも、対外的なアピール材料になっていると感じますね。安心かつ安全な食材を提供するうえでなにより大事なことは、徹底した衛生管理です。切り身加工を担当する社員をはじめとして各自の衛生管理を入念に行っているほか、「子供たちの健康を願って私たちはより一層の衛生管理を目指します」という当社のモットーを毎日の朝礼で唱和をしています。また生徒さんが給食を食べて、魚の骨などをのどにつまらせてはいけないので、提案しているメニューの試食会も社内で頻繁に行っています。

決算報告検討会で次期経営計画に魂を込める

――『FX2』を導入されたいきさつを教えてください。

小堺社長 長年、日々の取引を手書きで3枚伝票につけていたのですが、パソコンによる自計化は時代の流れということで平田(清隆顧問税理士)先生から『FX2』をご紹介いただいたのがきっかけです。

平田税理士 平成12年でしたね。経理業務を担当されている社長の奥様(丸幸水産専務)の経理能力が非常に高かったので、システム化を提案したのです。毎月数百件にのぼる取引をミスなく起票することは大変だっただろうと思います。現在も奥様が経理業務を一手に担い、『FX2』にすべての取引を入力していただいています。

――『FX2』を使われてみて効果のほどはいかがでしょうか。

小堺社長 毎月、監査担当の近藤和彦さんに来ていただき、ひと通り数字のチェックが終わったあと、会議室でわれわれ経営陣に対し、計画に対する進捗状況や決算期末時点の予測を説明してもらっています。自社の現状をタイムリーに把握でき、今後の計画に生かすことができるようになった点が大きいですね。

――毎月の巡回監査が業績検討会を兼ねているということですね。

平田税理士 そういうことです。

小堺社長 問題点が見つかったとき、対応は早いに越したことはありません。そのためにも月に2回、営業担当社員を集めて営業会議を実施し、戦略を練っていますが、他にも営業結果の報告の場を毎日設け、知恵を絞り問題点の早期解決を図っています。毎日が営業会議という意識を持って取り組んでいるのです。平田会計さんの監査によって業務面だけでなく、財務面でも早期に対策を施せるようになりました。

――普段、『FX2』のどの帳表を活用されていますか。

小堺社長 《変動損益計算書》ですね。現状と予算、前年実績との対比をひとめでチェックできます。売上高から変動費、限界利益、固定費を引き、経常利益を導くという《変動損益計算書》の仕組みで財務データをチェックすることが習慣化しています。勘定科目で気になるのは、売上高と限界利益ですね。加工業務、卸売業務それぞれで目標とする粗利を確保できているかを確認し、前年同期の数字と見比べて大きな変動があるときは、ドリルダウンをして原因を探っています。

――経営計画はどのように立てられているのでしょうか。

小堺社長 決算月である7月末時点の数字が確定する9月中旬に、毎年平田会計さんを訪問し、3時間ほどの決算報告会を開いています。内容ははじめの1時間が過去10期分の売上高を中心とした推移や財務状況の説明をうける、いわば当期までを振り返る時間です。そして次の2時間で経営計画を立てます。設備投資や借入金返済、従業員の採用などあらゆる角度から事業計画について侃々諤々の議論を交わして仕上げています。

平田税理士 当事務所では経営計画の作成支援に力を入れており、決算データを確定でき次第、事務所に経営幹部の方を招いて決算報告検討会を開催しています。プロジェクターで財務データを映し、貸借対照表、キャッシュフロー計算書まで中身の濃い計画を立てるのです。社長、奥様、洋市さんが中心となって議論しつつ綿密な計画に落とし込む作業を進め、完成した経営計画書はその場で印刷し、会社に持ち帰っていただいています。

『楽一TKCモデル』で事務作業の合理化を実現

――日常業務において、請求書発行システム『楽一TKCモデル』を使われているとお聞きしています。

小堺洋市氏 4年前から乾物、調味料など、水産物以外の商材の取り扱いも始めたため、品目数が大幅に増え、販売管理システムの見直しを検討したのがきっかけでした。『楽一TKCモデル』を導入してからは入力したデータを宛名シールに加工できたり、加工指示、出荷指示書を手書きで作成する負担が軽減され、大変助かっています。

近藤和彦監査担当 『楽一TKCモデル』に入力をしていただいた売上、仕入データを『FX2』に仕訳連動できる点も評価していただいています。

――今後の事業展開はいかがでしょうか。

小堺社長 地道な営業活動の甲斐あって、昨年は30校ほどの小中学校と新たに取引をさせていただくことになり、取引先はトータルで約180校になりました。中期的には国産品を中心とした水産物をメーンとして扱い、すでにお付き合いをさせていただいている学校への新たな給食メニューの提案による販売品目の拡大と、取引先の新規開拓にいっそう取り組みたいと考えています。将来的には水産物以外の柱となる商材も作っていきたいですね。

(本誌・小林淳一)

会社概要
名称 有限会社丸幸水産
業種 生鮮魚介等卸販売
代表者 小堺潔
設立 1963(昭和38)年10月
所在地 東京都江東区塩浜2-11-28
TEL 03-5857-5655
売上高 約3億円(今期見込み)
社員数 15名(パート、アルバイト含む)

CONSULTANT´S EYE
モニタリングを通してPDCAサイクルを強化
監査担当 近藤和彦
平田会計事務所
東京都江東区富岡1-4-11 電話03-3630-9080
URL:http://www.hirata-kaikei.com/

 丸幸水産様とは昭和62年から当事務所とお付き合いをさせていただいています。小堺社長がその年のお正月に、事務所の最寄りにある深川不動尊に初もうでに行かれたところ、たまたま事務所の前を通りがかり看板が目にとまったそうです。看板には「計画なくして利益なし」「戦略会計」といった標語を掲げていました。飛び込みで事務所を訪問され、その場で顧問契約を結んでいただきました。

 昭和22年創業と歴史のある丸幸水産様ですが、創業の地である中央区佃島から現在の場所に移転をされた平成14年が事業のターニングポイントでした。ほぼ同じ時期に大口の取引先であった一般企業が事業所を移転したため、販売戦略の練り直しを行い、学校給食に集中する戦略を立てられたのです。それが功を奏し、販売先に占める学校給食のシェアは移転前の16%から80%にいまや急拡大し、主要取引先になりました。苦境を打開されたのは社長の優れた先見性と決断力のたまものだと感じています。

 『FX2』は経理を担当されている奥様のパソコンだけでなく、洋市さんのパソコンにもインストールしてあり、『社長メニュー』から最新の業績を把握していただいています。決算報告検討会で策定した経営計画を予算化して『FX2』に登録しており、巡回監査では目標数値をベースとした現状のモニタリングを実施しています。また『楽一』との仕訳連動機能が追加されたのを機に、『FX2』を最新の.NET版に移行させていただきました。

 今後の課題としては、現状では売り上げをはじめとする勘定科目に枝番を設け内訳を管理していますが、より詳細な財務分析を行っていただくために部門別管理機能を追加することを検討しています。今後も経営計画策定、財務面のサポートに力を注ぎ、丸幸水産様のさらなる事業発展に貢献できればと考えています。

掲載:『戦略経営者』2011年6月号