東日本大震災が起きて2カ月あまりが経ち、「街」は復旧・復興に向けて動き出しているが、被害を受けた中小企業に対し、どんな支援策が打ち出されているのか――。税制・雇用・資金繰りについて「専門家」に解説してもらった。
東日本大震災の影響で事業活動の縮小を余儀なくされた企業が一時的に休業する際、ぜひ活用をお勧めしたいのが「雇用調整助成金」である。仕事が減った企業に雇用を維持してもらうため、国が休業手当の一部を補助する制度である。中小企業の場合なら、休業手当等の負担額の80%を助成してくれる。ただし、1人1日7505円が上限だ。
あくまで規模を縮小しながらも事業活動を行っていることが、この助成金制度を利用するうえでの前提。事業所、生産設備が損壊したため休業しているという企業については、災害時における雇用保険の特例により、実際に失業していなくても失業手当が支給されるので、そちらの制度を利用するべきだろう。
雇用調整助成金の具体的な支給要件は次の通りだ。
(1)雇用保険の適用事業主であること
(2)生産量または売上高の最近3カ月の月平均値がその直前または前年同期に比べて5%以上減少していること
災害救助法適用地域(岩手県、宮城県、福島県など9県)に所在する事業所については、最近3カ月ではなく、直近1カ月の生産量や売上高等がその直前の1カ月または前年同期比と比べて5%以上減少していれば対象になる(今年6月16日までは震災後1カ月の生産量等が減少する見込みでも対象)。また、原則的には事前に休業の計画届けを提出しなければならないが、今年6月16日までは事後の届け出でも認められる。
たとえば1日の平均賃金が1万円の従業員なら、次のような計算式により、休業1日につき約4800円の助成金が得られることになるので、参考にしていただきたい。
平均賃金:1万円
休業手当:1万円×60%=6000円(休業手当は平均賃金の6割以上)
雇用調整助成金 6000円×80%=4800円(中小企業の場合)
ただし実際の支給金額の算定にあたっては、前年度の雇用保険料の算定基礎となる賃金総額をベースに平均賃金を算定するため、実際は上記の金額とは多少異なることに注意したい。
社会保険料と労働保険料の特例
5月2日に「特別財政援助法」が公布・施行され、保険料免除の特例の措置が新たに講じられることになった。雇用調整助成金とあわせて、この制度についても注目していただきたい。簡単に言えば、被災した企業で今後も事業を継続する意向のあるところに対し、保険料の支払いを“おまけ”するものだ。
賃金を震災前にくらべほとんど支払えていない被災地の企業にとって助かるのが、社会保険料の事業主及び被保険者負担分を1年分免除するという「保険料の免除の特例」。健康保険や厚生年金などの保険料に加え、厚生年金基金の標準給与および掛金等、子ども手当(児童手当)の拠出金も免除される。(1)事業所の従業員のおおむね過半に賃金が支払われていない、(2)標準報酬月額の下限に相当する賃金しか支払われていないことが条件となる。
一方で、(1)(2)よりも高めだが震災前に比べて著しく賃金を減額して支払っている被災地の企業に対しても、「標準報酬月額の改定の特例」がある。健康保険や厚生年金保険の標準報酬月額について、賃金に著しい変動が生じた月からの改定が直ちにできることになった。標準報酬とは、社会保険料を算定するための基礎となる金額。要するに、賃金が震災前に比べて大きく減額した(2等級以上の差が生じた)従業員の社会保険料を、賃金が減額した状態にもとづいて算定し、社会保険料の支払いの軽減を迅速に変更させようという措置である。本来ならば、標準報酬月額が改定されるまでには、実際に賃金額が変動してから4カ月目に反映されるというタイムラグがある。その時間差をなくし、改定を機動的に行えるようにする措置だ。
また、労働者1人あたりの賃金額(月単位)が震災前と比較して2分の1未満になっている場合、労働保険料(労災保険料、雇用保険料)、一般拠出金も1年間免除になる措置もあるので知っておいてほしい。