東日本大震災が起きて2カ月あまりが経ち、「街」は復旧・復興に向けて動き出しているが、被害を受けた中小企業に対し、どんな支援策が打ち出されているのか――。税制・雇用・資金繰りについて「専門家」に解説してもらった。

Q1 今年4月27日に東日本大震災で被災した住民や企業を支援する税制改正法が成立しましたが、そのポイントを教えてください。

 今回の「震災支援税制」のポイントは3つあります。1つは個人や法人が義援金を拠出した場合の税務、2つ目は取引先(被災)に支援金・物資等を提供した場合の税務、3つ目は被災企業の損失税務です。

 まず、義援金を拠出した場合、次の「機関」へ寄付したものであれば確実に税の特例を受けることができます。(1)国または地方公共団体に直接寄付した義援金(2)日本赤十字社の「東日本大震災義援金」口座に直接寄付したもの(3)中央共同募金会の「各県の被災者の生活再建のための義援金」「地震災害におけるボランティア、NPO活動支援のための義援金」(4)その他一定のものです。例えば、(2)の場合なら郵便局に専用振替用紙があり、それで振り込んだときの半券が証拠となり、“寄付金控除”を受けることができるわけです。

 その際の所得税控除には、2種類あります(『戦略経営者』2011年6月号25頁・図表1参照)。一つは所得金額から寄付金(足切り金額2000円)を控除してそれに税率をかける場合と、もう一つは「税額控除制度」です。

 例えば所得金額が2000万円、社会保険料控除などの所得控除が200万円の場合、課税所得は1800万円(2000万円-200万円)となりますが、被災者に寄付をしなければ所得税は約440万円となります。これに対し、仮に200万2000円を義援金として寄付した場合、200万円(200万2000円-2000円)が所得控除となるので、課税所得は1600万円(1800万円-200万円)となり、これに税率をかけると所得税は約374万円となります。要するに寄付した金額の33%、66万円(440万円-374万円)が控除されるということです。

 もう一つの税額控除制度というのは、今回初めて導入されたものですが、その対象は「認定NPO法人と共同募金連合会が被災者の救援活動のために募集する寄付金」に限られます。これは、先ほどのケースで説明すれば寄付金200万円×40%=80万円を、所得税額440万円から控除できるというものです。

 このように所得税控除には2種類あるわけですが、どちらを選択しても、それがそのまま自動的に「ふるさと納税」に関わります。ふるさと納税とは、住民税から直接寄付金を控除するというものです(寄付金の足切り金額5000円)。例えば個人住民税の課税所得が1800万円の場合、「個人住民税所得割」は180万円となります《1800万円×税率10%(都道府県税+市町村民税)》。この180万円から直接寄付金を引いてくれるわけですが、仮に200万円を寄付した場合なら、通常の寄付金控除額が19万9500円、ふるさと納税が18万1000円となり、合計38万500円が住民税から控除されます。

 一方、「法人」が(1)国または地方公共団体(2)日本赤十字社(3)中央共同募金会(4)その他一定のものに義援金を拠出した場合は、その全額を損金算入することができます。

取引先に支援金や物資を提供した場合の税務

Q2 2つ目のポイントである「取引先(被災)に支援金や物資等を提供した場合」の税務について説明してください。

 この場合の税務は大別して5つあります(『戦略経営者』2011年6月号26頁・図表2参照)。第1は、自分の会社が所属する「同業者団体」を通じて、今回の大震災で被害を受けた取引先に災害見舞金を支給した場合です。簡単にいえば「□□団体」などが一定のルールに基づき、「(構成員である)あなたの会社はいくら」という形で寄付金を集めていて、それに応じた場合、それを当該事業年度の損金に算入できるということです。

 第2は、同業者団体を通じてではなく、直接自社が取引先に災害見舞金を支給した場合も損金算入することができます。通常、取引先などに支援金・寄付金を提供すれば交際費扱いとなり、税務上は課税対象となります。しかし、今回のように被害を受けた取引先に一刻も早く事業を再開してもらうために、支給した災害見舞金については、交際費に当たらず、損金に落としてよいとしているわけです。

 第3は、例えば被害を受けた取引先A社に、B社が2000万円の売掛金残高があったとすると、それをB社が免除しても損金算入できることです。今回の大震災で会社の建物や商品が流されてしまい、商売をしたくてもできないところは多いと思います。そこで、そうした企業への売掛金や貸付金等の債権を免除した場合、通常なら免除による損失は交際費か寄付金扱いで課税対象となりますが、それを損金に落としてよいとしているわけです。これは被災企業にとって、ある意味義援金以上に即効性の高い支援策かもしれません。

 第4は、被害を受けた取引先に復旧支援を目的に低利または無利息で融資を行った場合、税務上寄付金に当たらないようにしていることです。

 第5は、被災者を救援するために自社製品を提供した場合、それに要する費用は寄付金・交際費ではなく、広告宣伝費に準ずるものとしたことです。要は自分のところの、例えばミネラルウオーターや紙おむつなどを被災者に送った場合、これも支援物資に当たり、それに要する費用は税金がかからないようにしていることです。

震災による損失を2年前に遡って還付

Q3 被災企業の損失税務について詳しく説明してください。

 一つは、被災企業が自社の従業員等に災害見舞金を支給した場合の税務に関してです。

 例えば本社が東京、工場と営業所が被災地域にある場合、被災地域で働く従業員の親族が亡くなったり、家が壊れたりすれば会社として災害見舞金を出すことがあります。それは福利厚生費扱いでいいのですが、ただし「基準」がなければなりません。その基準に則って災害見舞金を支給すれば、損金算入できるということです。それは自社の従業員だけでなく、専属の下請け企業の従業員のために出した災害見舞金でもかまいません。

 ではそうした基準がない場合はどうなるのか。今回の大震災をきっかけに、新たに「被災を受けた従業員で家を失った場合はいくら」といった形の“災害見舞金支給基準”を作って対応すればOKとなります。

 一方、被災企業そのものに対しては「震災損失の繰り戻し還付」が最大のポイントだと思います。一般的に3月期決算の場合、5月には税務申告を行わなければなりませんが(これについてはすでに申告期限延長の手当てがされている)、被災企業は大幅な赤字に陥っているとみられます。そこで、その赤字部分を、前期・前々期に納めた税金で補填できるようにしたのがこの「繰り戻し還付」です。これは、例えば今3月期の決算で3000万円の欠損金を出し、うち2500万円が震災によるもので、前期に1500万円、前々期に1000万円の法人税を納めていたとすれば、その2年分の税金(1500万円+1000万円=2500万円)を返還してもらえるというものです(『戦略経営者』2011年6月号26頁・図表3参照)。

 震災損失をどう算出するかは、例えば工場が倒壊した場合であれば、その帳簿価格を損失額とみなすものと考えられます。また、損失のなかには、当該企業が自ら現状回復(がれきを片付けたり、土壌整備を行った場合など)のために使った費用も含まれます。それを「災害損失特別勘定」として計上すれば、繰り戻し還付の対象になります。

 その対象期間は、(1)大震災が起こった2011年3月11日~2012年3月10日までの間に終了する事業年度、(2)2011年3月11日~9月10日までの間に中間期間が終了する場合、仮決算による中間申告を行うことができます。

 もう一つのポイントは、被災代替資産等の特別償却制度です。被災資産とは建物、機械装置、船舶、車両などのことで、例えば津波に流されたクルマの代替品を購入した場合、特別償却が適用されるわけです。中小企業(被災)であれば、2014年3月11日以前に建物・構築物を取得した場合の特別償却率は18%、機械装置・船舶・航空機・車両の場合のそれは36%となっています。


Q4 被災した「個人」の損失税務について教えてください。

 ポイントはいくつかありますが、その一つは今回の大震災で住宅や家財が倒壊して損失を被った場合、その損失を「雑損控除」として処理できることです。これは2010年分(1~12月)の所得から適用されますが、すでに申告をしている人は更正の請求を行い、申告をしていない人は還付申告を行えば、損失額を控除できます。1年で控除しきれない場合は、最長5年間にわたり繰り越すことが可能です。

 また、住宅ローン減税について、倒壊や津波で住めなくなった住宅も、減税対象期間が残っていれば引き続き適用されます。

 いずれにしろ、今回の大震災に対する税制の特例は、阪神・淡路大震災のとき以上に充実したものになっているとみられます。

(インタビュー・構成/本誌・岩崎敏夫)

掲載:『戦略経営者』2011年6月号