最近、海外で商談をする機会が増えているのですが、仕事中に事故にあった場合、労災保険は適用されるのでしょうか。(食品加工業)

 労災保険は、本来は国内の事業場で働く労働者を対象としています。ただし「海外出張」の場合には、労災保険が適用になる場合があります。海外出張者とは、国内の事業場に所属し、国内の使用者からの指揮命令に従って勤務する者です。

 海外出張の例は、(1)商談、(2)技術・仕様等の打ち合わせ、(3)市場調査・会議・視察・見学、(4)アフターサービス、(5)現地での突発的なトラブル対処、(6)技術習得等のため海外に赴く場合などです。海外出張者については、特別な手続きは何ら必要なく、所属事業場の労災保険により給付を受けることができます。

 一方、転勤等により海外の事業場で就労する「海外派遣」の場合は、原則対象となりません。通常は現地の災害補償制度が適用となります。ただし、国によっては補償が十分でない場合もあることから、「海外派遣者の特別加入制度」が労災保険にあります。

 海外派遣者が特別加入できるのは、(1)開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する者、(2)日本国内で行われる事業(有期事業を除く)から派遣されて海外支店、工場、現場、現地法人、海外の提携先企業等海外で行われる事業に従事する労働者です。また、海外事業場の代表者として派遣される場合は、派遣先の事業規模(労働者数)が中小事業の要件に該当すれば特別加入が可能です。

 海外派遣の例は、(a)海外関連会社(現地法人、合弁会社、提携先企業等)へ出向する場合、(b)海外支店・営業所等へ転勤する場合、(c)海外で行う据付工事・建設工事(有期事業)に統括責任者・工事監督者・一般従業員等として派遣される場合などがあります。なお海外の大学等への留学を目的とした派遣や、現地採用者は特別加入制度の対象となりません。

 海外派遣者の特別加入の申し込みは、労働基準監督署または労働局へ特別加入申請書を提出し、承認を受ける必要があります。

 海外での怪我等は、国内の場合とほぼ同様に、業務災害と通勤災害について、労災保険から給付され、療養、休業、障害、遺族、葬祭、介護などの給付を受けることができます。業務災害として給付を受けるには、ケガの場合、事業主の支配・管理下で業務に従事していることが要件です。私的行為、故意、個人的うらみによる暴行などは業務災害と認められません。なお、海外派遣で、戦争等の巻き添え災害または伝染病や風土病による災害は特に業務内容と関連が深いと認められるものを除き、一般的に業務災害と認められません。

海外で診察を受けた場合

 海外の医療機関で診療を受けた場合は、「療養の費用請求書」と領収書、診療明細、日本語翻訳文等を労働基準監督署に提出し、治療代相当の支給を受けることができます。

 また、療養のため働くことができず会社を休んだ場合は要件を満たすと、休業4日目から「休業(補償)給付」と「休業特別支給金」が支給されます。休業(補償)給付の額は原則、休業1日につき災害発生の直前3ヵ月の平均賃金日額(海外派遣は給付基礎日額)の6割です。さらに労働福祉事業として給付基礎日額の2割の休業特別支給金が支給され、合計で1日につき8割の給付となります。

掲載:『戦略経営者』2011年5月号