“あっぱれEVプロジェクト”という大阪の中小企業連携が注目を浴びている。その中心を担う企業が、大阪・守口の淀川製作所だ。同社の小倉庸敬社長(53)は、積極果敢な戦略で周りの人々を活気づけ、一方で緻密な財務管理を駆使して会社としての利益を確保している。その“バランス経営”の勘所について話を聞いた。
「あっぱれEVプロジェクト」で町工場の“意地”を見せる
淀川製作所:小倉社長(中央)
――電気自動車(EV)の開発への取り組みが、大きな話題を呼んでいます。
小倉 うちのような町工場は立ち止まっていてはじり貧。なんかせなあかん…と考えていたところに、一昨年、EV開発の実績を持つ「京都EV開発」顧問の岡田実氏が講師となった勉強会で「EVはガソリン車に比べて構造がはるかに単純」という話を聞き、これやと…。
――中小部品メーカーがEV製作に挑戦するというのは凄いことです。大阪が活気づきますね。
小倉 もともと環境問題や地域活性化に関心があり、たとえば6年前には産学連携を志して経営者仲間や地元の学校の先生などと風力発電や太陽光発電の研究開発に取り組んだこともありました。そんなこんなで、EVの話を聞いた時、自分たちで何とかつくれないかという発想が生まれたわけです。
――その発想を「実現」へと導いたプロセスは…。
小倉 岡田さんに相談すると、バッテリーや電装部品などEVのいわゆる“キモ”の部分を京都EV開発が供給してくれるとのこと。あとは我々の技術で何とかなります。全体の采配、板金・組立は当社で行い、デザイン、部品製作などは仲間の企業から有志(近畿刃物工業、九創設計室)を募りました。守口・門真地域は、高い技術力を持った中小メーカーが密集してますからね。プロの技術者が知恵を出し合う“あっぱれEVプロジェクト”の誕生です。
――EVといえば大手自動車メーカーも続々市場投入しています。
小倉 大手と同じものをつくっても仕方がないので、京風の観光タクシーをコンセプトに、小型の三輪タイプで、漆塗りの朱色ボディーに和紙を貼った扇子の形のドアを取りつけました。足下は焼き竹張りです。京都の伝統技術と大阪の匠の融合ですね。名前は環境の「環」から「Meguru」としました。
――引き合いは?
小倉 問い合わせは増えています。ただ、やはりコストがネック。いま、主要部品を中国から調達することで1台100万円程度にまで下げる努力をしていますが、これが実現すれば全国の観光地や行政などへの販売も見えてくると思っています。とにかく、この商品を地域活性化のために役立てていただければ本望です。
――一方で、既存事業は堅調のようですね。
小倉 従来からの家電製品の部品製造の仕事はめっきり減りましたが、新しい分野に突破口を見いだしています。たとえば、医療機器の分野では「軟膏練り機」、それから、水産会社に販売している魚を三枚におろす「魚体解体機」、さらには太陽光温水器なども製作しています。いずれも、ニッチな分野での完成品ですが、顧客の細かい要望を吸い上げ、高い技術力で形にするのが当社の強みだと思います。また、携帯電話の部品、あるいは医療機器の部品製造を、大手電機メーカーから請け負ったりもしています。
――そんな高い技術力は家電部品製造で培われたものですか。
小倉 はい。それと当社の特徴は図面を使わずに製作しているところでしょうか。とくに、板金の技術には自信がありますから、微妙な曲面なども職人技でつくってしまう。それが逆に柔軟に顧客の要望に応えていく技術的な素地になっているのかもしれません。実はMeguruも、完成予想のイメージ図を頼りに板金加工などを繰り返し、手探りで完成させました。
久保篤彦顧問税理士 小倉社長自身、たたき上げの職人で、「勘」でつくれてしまうんですね。それと発想も豊かです。普通は「魚の三枚おろし機」なんていう発想は出てこないでしょう(笑)。そんな小倉社長の豊かな発想力と技術力、加えて、様々な交流会などに参加していく外向きの性格が駆動力となって、電気自動車の開発に結びついたのだと思います。
《変動損益計算書》で会社の“健康”を診断
――計数管理は「勘」というわけにはいきませんよね。
小倉 ところが、以前は、勘だけに頼った「どんぶり勘定」で、まったく数字がつかめまていせんでした。さすがにこれではまずいと考え、平成16年に経営者仲間に久保先生を紹介いただいたのです。
久保 実際に入ってみて、かなりひどい状態だったので驚きました。当初から『FX2』を導入し、担当者の藤田(隆志監査担当)が1ヵ月くらい通いつめて経理自体を立て直さなければなりませんでした。
小倉 久保事務所にお世話になって以降は見違えました。翌月中旬には前月のデータがきっちりと出ますからね。以前では考えられなかった(笑)。それと、20日前後には、藤田さんに月次監査に来ていただいて、実績の確認と今後の予定、状況に応じて資金繰りや借入れなどの話もします。これが非常に心強い。
藤田隆志監査担当 たとえ監査時に都合が悪くても、後日、日程を設定して必ず社長にお会いするようにしています。
――どのようなお話を?
小倉 まず、『FX2』から出力された《変動損益計算書》に基づいて、限界利益や変動費(材料・外注費)、固定費の推移について確認します。《変動損益計算書》は、会社の健康診断書みたいなものだと思っています。たとえば、限界利益はここのところの不況で以前より約1割ほどダウンしていますから、そこをカバーすべく固定費の削減について話し合ったりします。また、毎月行っている社内ミーティングの場で、藤田さんに財務状況について直接レクチャーしていただくこともある。
――経費削減の方法は?
小倉 これはもう、細かな“ムダ取り”を積み上げていくしかありません。生産現場もそうですし光熱費なども同様です。その意味では、『FX2』の“ドリルダウン”機能が役立っています。この機能を使って《変動損益計算書》の帳表画面から「仕訳データ」にまでさかのぼれば、あらゆるコスト高の原因がはっきり見えますからね。
あと、人件費は自然減の分の補充を控えています。金額的にはここが一番大きいかもしれません。
久保 それと、四半期に1度は、『継続MAS』を使った業績検討会も行っています。決算シミュレーションをしながら、グラフなど様々な経営指標を提供し、小倉社長に経営判断の材料にしてもらっています。
中期経営計画の策定で府から補助金を引き出す
――ということは、経営計画を作っておられる?
小倉 平成22年度に5ヵ年計画をつくりました。直接の目的は、EV開発事業で大阪府から補助金を受けるためでした。
――どのように?
藤田 前年実績をベースにして、小倉社長の思惑を入れ込みながら勘定科目ごとに計画数値を確定。それを『継続MAS』に入れ込んで中期経営計画書としてブラッシュアップしました。その数値を使い、昨年度、今年度と予実管理を行っています。
――グループ会社にも『FX2』が入っているとか。
小倉 各種シート溶着機(独パフ社製)の販売、メンテナンス、レンタル、買取などを行う有限会社ヨドガワコーポレーションにも、『FX2』を導入しています。
久保 要するに、企業グループで見ると、『FX2』を2社で利用することで、部門別損益管理を実践しているということになります。
――今後はいかがでしょう。
久保 財務管理面については、今後EV事業の売上が立つようになれば部門別管理を導入するべきだと思っています。それと、『継続MAS』を使った業績検討会を、社員の方々を巻き込む形で行う体制もつくりたいですね。
小倉 やはり、とりあえずは「あっぱれEVプロジェクト」を成功させ、大阪を元気にし、地方を活気づけたいというのが一番です。それが、結果として当社を活気づけることにもなると思っています。頑張りたいですね。
(本誌・高根文隆)
名称 | 株式会社淀川製作所 |
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業種 | 精密板金業 |
代表者 | 小倉庸敬 |
設立 | 1998(平成10)年9月 |
所在地 | 大阪府守口市八雲中町1-13-6 |
売上高 | 2億4000万円 |
TEL | 06-6909-1770 |
社員数 | 16名 |
URL | http://www.yodogawa-ss.com/ |
CONSULTANT´S EYE
監査担当 藤田隆志
久保総合会計事務所
大阪府大阪市城東区野江4-11-6 電話06-6930-6388
URL:http://www.kubokaikei.com/
淀川製作所さんには、2004(平成16)年から関与させていただいております。関与当初、それまでの杜撰な経理を修正するのに苦労したことを思い出します。しかし、経理担当者の方はいきなり『FX2』を導入したにもかかわらず、その操作にいち早く慣れ、小倉社長も、次第に計数管理の重要性をご認識いただけるようになりました。毎月の監査時には、必ず小倉社長とお会いし、前月実績の細かな数字の話から、借入などの資金繰り、あるいは将来的な展望などを、お話をさせていただいています。
小倉社長はバイタリティ溢れるアイデアマンです。また、外向的で、周囲と連携することがお好きです。その象徴が、淀川製作所を含む中小企業4社での「あっぱれEVプロジェクト」でしょう。大阪の町工場の底力を示そうとスタートしたこのプロジェクトでは、多くの方々を巻き込みながらリーダーシップを発揮し、ついに『Meguru』という電気自動車の開発を実現しました。平成22年度には、中期経営計画を社長と一緒に話し合いながら『継続MAS』を活用して作成し、大阪府から補助金を引き出すことにも成功しています。日本テレビの『バンキシャ』などマスコミも大々的に取り上げ、知名度も急上昇中。まだ道半ばですが、今後が大変楽しみな事業です。このような派手な動きばかりではなく、板金加工のスペシャリストとして、本業での売上・利益も着実にあげておられます。最近では、「軟膏練り機」や「魚体解体機」など、ニッチで付加価値の高い分野での特殊な機械を手がけ、従来の主力事業だった家電部品製造の激減に対応されています。
リーマンショック以来、中小製造業にとっての酷寒の状況が続いていますが、小倉社長は心折れることなく立ち向かわれています。我々は、そんな小倉社長を財務管理の側面から、力強く支援し続けたいと思っています。