当社は韓国とEU(欧州連合)に機械部品を輸出していますが、今年7月に両者間のFTA(自由貿易協定)が発効すると聞いています。事業への影響が心配です。(機械部品製造業)
昨年10月、韓国とEUはFTAを締結しました。同協定は今後、批准手続きなどを経て、今年7月に発効する予定です。
韓国とEUはFTA発効後、5年以内に農水産品を含め98.7%(金額ベース)の品目で関税を撤廃します。また、自動車の安全・環境基準の統一、電子機器や医薬品の試験・認証手続き簡略化など非関税障壁を除去、さらにサービス分野の自由化など締結内容は広範なものとなっています。
欧州委員会によれば、FTA締結で免除される税額は年間でEU側が16億ユーロ(19億ドル)、韓国側が11億ユーロ(13億ドル)とされ、非関税障壁の除去とも相まって両者間の市場アクセスは格段に改善すると思われます。韓国の政府系シンクタンクである対外経済政策研究院は、FTA発効後15年間で韓国のEU向け輸出が製造業製品を中心に年平均25億ドル、EUからの輸入が機械類や農産品などを中心に22億ドル増加すると予測しています。
このように、今回のFTAは韓国、EU双方に恩恵をもたらしますが、一方で韓国企業と競合する日本企業には打撃となる可能性があります。韓国とEUのFTA発効により、韓国のEU向け家電製品などは関税が直ちに撤廃、自動車も5年後にはゼロになるからです。
EUでは現在、WTOの情報技術協定に基づきコンピュータ、半導体の関税は撤廃されましたが、家電製品には依然、関税が課せられています。薄型テレビには14%の関税がかかり、エアコン(1.9~2.5%)、冷蔵庫(2.2~2.7%)などにも関税が残存します。また、自動車(完成車)には10%の関税がかかります。
こうした関税が上乗せされる日本製品はFTA発効後、韓国製品に比べ、価格競争上不利な状況となるでしょう。日本貿易振興機構では、FTA発効後、日本からEUへの輸出が年間で7.7億ドル減少するとの試算を発表しています。また、韓国市場に、EUから関税のかからない電気製品や機械などが入ってくるため、日本から韓国への輸出が減少すると見られます。
こうした状況を受けて、日本政府は今年春にもEUと経済連携協定の交渉を開始したい意向ですが、EU側が日本製自動車の流入などへの警戒感から慎重姿勢にあり、本格的な交渉開始には時間がかかるとみられます。日本企業は、当面、韓国企業との対抗上、EU域内への生産シフトやコストダウンによる対応を強いられることになりそうです。
韓国は03年から世界各国・地域とのFTA構築を模索、それを着実に進展させてきました。チリ、ASEAN(東南アジア諸国連合)、インドなどとのFTAが既に発効しているほか、批准が待たれるEUや米国とのFTAまで含めると、FTA締結国への輸出(09年)が全体の35%を上回ります。これに対し、日本のそれは18%にとどまります。日本は韓国と比べると、FTA戦略で出遅れ感が否めません。
韓国は日本と同様、FTA推進に当たり農業分野の開放という課題を抱えています。これに対し、韓国政府は農家の所得補償などに10年間で総額119兆ウォン(900億ドル)などを投入しています。関税で農産物市場を保護するのではなく、財政で農家を守り、育てる政策を導入しています。日本の輸出企業がグローバル市場で競争上、不利な状況に置かれ続けないためにも、FTA推進に向けた本格的な取り組みが期待されるところです。