事務所経営

継続MASを事務所の標準業務へ!決め手は「進捗チェック」と「人事評価制度」

目次
多々良信彦会員

多々良信彦会員

継続MASを「社長とのコミュニケーションツール」と位置づけてその「標準業務化」に取り組み、7割を超える関与先の黒字決算を実現しているあおい税理士法人。代表パートナーである多々良信彦会員に標準業務化の仕組み作りのポイントとその効果を、また職員の袋井藍氏には現場での活用法などをうかがった

■とき:令和8年6月10日(水)

──はじめに、継続MASの活用に取り組まれたきっかけからお話しいただけますか。

多々良 私の事務所は、もともと他社システムを併用して使っていた時期がありました。しかし、それではどうしても過去の数字を集計して決算を組み、申告書を作るところでサービスが終わってしまい、そこから先の未来に向けた付加価値の高いサービスを提供できないというもどかしさがありました。
 そうした中で、TKCシステム、特に継続MASならそのサービスが提供できると気づいたのです。また、事務所の規模が拡大し、お客様が増えてくるに従って私自身がすべてのお客様に直接サービスを提供することができなくなりました。職員に、社長としっかりコミュニケーションを取って、満足していただけるような高付加価値なサービスを身につけてもらいたいと考えたとき、そのツールが継続MASでした。
 経験の浅い職員にとって、企業のトップである社長と直接経営の話をするのは高いハードルです。その壁を乗り越えさせてくれるのも継続MASと考えていました。私たちの事務所では、継続MASを「社長とのコミュニケーションツール」という位置づけで活用しています。

──標準業務化に向けて、まず取り組まれたことは何ですか。

多々良 年初と半年が経過したタイミングの年2回、全職員に向けて事務所の方針を発表しています。方針における根幹は、一貫して「高付加価値事務所を作っていく」ということです。継続MASのフル活用もそこに位置づけました。
 私たちが提供すべき付加価値の中心にあるのは、関与先企業の存続と発展にほかなりません。そのためには黒字化が必要不可欠になります。そして黒字化には、社長自身に自社の数字をしっかり読めるようになっていただくことが大切です。そのために継続MASを、決算前の着地予想、経営計画の策定、定期的な業績検討会、決算報告会、中期経営計画の策定──、これらすべてのフェーズでフル活用することを重視しています。

「進捗チェック」と「人事評価」を仕組み化し、事務所全体で推進

──標準業務として事務所に定着させることができた決め手は何でしょうか。

多々良 所内で「継続MASを使おう」と号令をかけただけでは定着しません。たとえ進んだとしても一時的な取り組みに終わってしまうものです。
 定着させるために工夫した点は大きく二つです。一つは「実施したかを確認する、進捗チェックの仕組み」で、もう一つは「人事評価制度(賃金への反映)」です。日々の業務に「チェック体制」を組み込み、かつ、頑張った人が報われる「人事評価」として機能させました。

──具体的に教えていただけますか。

多々良 一つ目の「進捗チェック」については、すでに定着している単年度の経営計画策定や決算前の着地予測、業績検討会等は、毎月その月に実施すべき対象関与先を一覧化し、毎週月曜日に進捗を確認しています。「本来の予定日に終わっているか。終わっていなければいつ行うか」を週次で必ずチェックする体制です。また現在、標準業務化に向けて取り組んでいる中期経営計画に関してはTKCの「ワークストリームクラウド(WSC)」等を活用して職員に実施の都度報告をあげてもらっています。このように、進捗状況を「見える化」しています。
 もう一つの「人事評価制度(賃金への反映)」については、取り組みの定着度合いに応じて、インセンティブを設けています。中期経営計画については、職員にWSCに実施報告と計画書をアップしてもらい、私が作成された計画書や「社長の反応、コメント」等を確認して支給するという流れです。一方で、単年度の経営計画策定などすでに定着している業務を実施しなかった場合には、支給の対象外としています。
 さらに、企業防衛制度の推進とも連動させています。保険指導は関与先の完全防衛・永続的発展を支援する重要な経営助言業務の一つであるためインセンティブを設けていますが、巡回監査を実施し、継続MASによる予算登録を行なっていることなどを前提としています。
 このように特定の職員に任せるのではなく、「仕組み」として全職員が推進する体制を構築し、人事評価に連動させることで標準業務化に取り組んでいます。

職員同士のロールプレイングを毎月実施して「操作への不安」を取り除く

──全職員が継続MASを使いこなせるようになるために工夫された取り組みを教えてください。

多々良 毎月必ず職員同士で継続MASを使ったロールプレイング(ロープレ)を実施しています。職員にとって継続MASを提供する際の最大の不安要素は「システムの操作に対する不安」だと感じていました。社長へのヒアリング自体は、社長が関心のある売上高や限界利益率といった数字を聞くため、それほど難しくはありません。一方で、社長の目の前で、社長のコメントに沿ったシミュレーションをスムーズに展開できるかという不安があるものです。それを払拭しさえすれば実践は進むと考えていました。
 そのために、毎月ロープレを行ないシステムに触る機会を増やしています。職員同士でアドバイスし合い、ノウハウを共有する場として継続していますが、このロープレには私や幹部職員はあえて入っていません。職員同士の横のつながりを大切にしてもらい、お互いに気兼ねなく質問し合える環境としています。非常に和気藹々とやっていますね(笑)。
 事務所では、継続MASの活用は最初から「高いレベル」を要求していません。「まずはとにかく継続MASの画面を開いて、社長と将来について話す機会を作る。コミュニケーションの頻度を上げる」ことを最優先にしています。

袋井 藍氏

袋井 藍氏

社長が継続MASの画面を見て「前のめり」になる瞬間が嬉しい

──ここからは、入所されて3年目の袋井さんにお話をうかがいます。業務で継続MASを活用されて、どのように感じていますか。

袋井 私は前職が異なる分野でしたので当初は専門知識もほとんどなく、お客様の役に立てるのか不安でした。実際に最初の頃は、月次巡回監査でお伺いしても過去の数字を確認するだけで終わってしまい、社長との会話がなかなか広がらないことが一番の壁でした。
 その壁を乗り越えさせてくれたのが継続MASです。私のスキル不足もあるのですが、月次の数字を報告している時には普通にご覧になっているだけだった社長が、継続MASを起動して画面をお見せした瞬間、「前のめり」になって身を乗り出されるのです。将来や今後の経営に興味のない社長はいませんから、コミュニケーションが自然と取れるようになりました。また、継続MASを使って一度じっくりお話をする機会ができると信頼をいただくことができ、その後の月次巡回監査でもその関係が維持できます。
 その意味で代表が申したとおり、事務所内で月に1回、職歴の浅いメンバーで行うロープレは非常に勉強になっており、とても恵まれた環境だと感じています。操作の反復ができたからこそ、臆することなく現場で使えるようになったからです。また昨年、TKCの「会計事務所の高付加価値経営実践講座2025」を受講して、社長との会話のテンプレートを再確認できたことも、自信を持って業務を行える支えとなりました。

──継続MASに取り組もうとする全国の職員の皆さんへメッセージをお願いできますか。

袋井 ベテランの先輩方は、もしかしたら継続MASがなくても、これまでの豊富な経験や知識で社長と経営の話ができるかもしれません。でも継続MASは、私のように経験が浅い人間にこそ、ものすごく効果があると思います。ですからもし、継続MASを活用していない方がいらっしゃったら、「お客様のために使ってみたいです!」と、所長先生や先輩方にお伝えしてみてはいかがでしょうか。
 何より、社長から「ありがとう」「助かったよ」などと感謝していただけるのは本当に嬉しく、励みになります。経営計画や業績予測といった業務を継続MASで行うからこそ、深く感謝していただけるのだと感じています。私自身、もともと人から感謝される仕事をしたくてこの業界に入ったので、真剣に関心を持って話を聞いてもらえることが一番のモチベーションになっています。

静岡県焼津市に事務所を構えるあおい税理士法人

静岡県焼津市に事務所を構えるあおい税理士法人

AI時代だからこそ「社長の隣」を死守する

──多々良先生、継続MASを標準業務化したことで、事務所経営にはどのような変化がありましたか。

多々良 私は、会計事務所の経営において「標準化された高付加価値サービスを持つこと」が重要だと考えています。サービスが標準化されていないと、事務所の「料金表(報酬規定)」が機能しないからです。
 担当者によって業務を実施したりしなかったりするようでは適正価格を決められませんし、お客様に「当事務所ではこのサービスを標準的に提供します。だからこの料金体系です」と明確に提示できません。関与先の黒字化に貢献できる付加価値の高い業務を標準化することは、適正な対価を生み出すための基盤です。

──関与先の黒字決算割合が7割を超えているとうかがいました。

多々良 黒字決算割合が向上するにつれて、報酬も明らかに上昇しました。継続MASの活用が事務所全体で進み、数字をもとにした社長とのコミュニケーションを深めることで、お客様が私たちが提供する付加価値を認めてくださり、顧問料の値上げに快く応じていただきました。職員も、「自分の業務がお客様の役に立っている」と実感でき、さらに自信を持って取り組むようになっています。
 経営助言が可能なのは、月次巡回監査を徹底し、月次決算による信頼できる数字をベースにしているからです。毎月社長とお会いしていなければ事務所への評価も潜在的な不満なども感じ取れません。ですから必要なときにだけTKCの標準業務やシステムを「つまみ食い」するのではなく、月次巡回監査をベースに標準化されたサービスを提供し、その価値に見合った対価をいただくことが健全な事務所経営のあり方と考えています。

──最後に、今後の事務所の方向性についてお聞かせください。

多々良 結論としては、AIやデジタル技術が進展する中、「毎月確実に社長と会って直接話をして、社長の隣にいる存在であり続けること」に尽きると考えています。そのために有効なのが、社長との対話の最良のコミュニケーションツールである継続MASを活用し、毎月数字を見ながら語り合っていくことです。今後も、「税理士の4大業務」を関与先企業に同時提供する体制をさらに強固にするとともに、中期経営計画の作成までを標準業務としてしっかり根付かせながら、社長の隣で一緒に経営の課題に向き合っていきたいと思います。

継続MAS標準業務化のポイント

(聞き手/TKC全国会事務局 松本祥彦 構成/TKC出版 清水公一朗)

事務所概要
事務所名 あおい税理士法人
所在地 静岡県焼津市東小川7-9-1
開業年 平成5年2月(平成16年10月法人化、平成25年6月承継)
職員数 18名(社員税理士3名、職員15名)
会長 大橋金行会員
代表パートナー 森 祐輔会員
多々良信彦会員
山梨英亮会員
関与先数 170件(法人158・個人12)

(会報『TKC』令和8年8月号より転載)

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