事務所経営

「役立ちの会計」で期待を超えるサービスを提供したい

目次
小宮山武志会員(TKC関東信越会新潟支部)

2代目所長で現会長の小宮山佳秀会員(左)と現所長の小宮山武志会員

来年創立80年を迎える新潟県小千谷市の税理士法人小宮山会計事務所(TKC関東信越会新潟支部)では、『TKC経営指標(BAST)』や独自の「決算レポート」を活用し、企業の黒字化・優良企業化支援に注力している。「期待を超えるサービスを提供したい」と語る3代目所長の小宮山武志会員に、BASTを活用した経営助言で大事にしている点や職員育成の取り組みなどを聞いた。

机とそろばん一つから始まった歩みが地域460社を支える事務所に発展

──地域の特性を教えてください。

小宮山 新潟県中越地方にある小千谷は「米どころ」の印象を持たれがちですが、実際には鉄工や電子部品などの製造業が多い「ものづくりの町」です。一方、湯沢には有名なスキー場がいくつもあり、観光業・宿泊業が主要産業となっています。また、錦鯉発祥の地として養鯉業も盛んです。建設業も地域経済を支えており、冬場の除雪・排雪業務が収入を下支えしている点も雪国ならではの特色です。

──小宮山会計事務所は来年創立80年を迎えるそうですね。事務所の概要をお聞かせください。

小宮山 当事務所は1947年、祖父の小宮山鉄三郎が開業しました。祖父は当初、長岡市で開業を考えていたようですが、市内は1945年8月の長岡空襲の爪痕がまだ残っていたので、小千谷市の商店の2階の一間をお借りして、机とそろばん一つから事務所を始めました。
 その後、申告納税制度の導入などを背景に税務需要が高まる中、職員を増やしながら事務所を拡大しました。しかし、小千谷税務署管内は広大で豪雪地帯も抱えるため、冬場の移動に大きな制約があったので、1952年に旧石打村(現南魚沼市)に増設事務所(現在の湯沢事務所)の設置を申請し、認められました。
 初代は「誠意一貫・努力一貫」の姿勢を大切にし、一代で2拠点合わせて職員50名超の事務所を築きました。TKC全国会入会は1974年です。
 その後、1996年に父の小宮山佳秀が事務所を承継しました。父は1983年に副所長として小千谷へ戻りましたが、それまでは、東京で公認会計士として勤めていました。所長就任後は、従来の記帳代行型から、巡回監査・経営助言型の事務所へと大きく方向転換しました。

──小宮山先生ご自身のご経歴をお聞かせください。

小宮山 私は高校生のときに「家業を継ぐ」ことへの反発心もあったのか、単に数学が好きだったのか忘れましたが、理系クラスに進みました。しかし、大学で就職活動の際に将来を考える中、昔から数字に向き合うことや人と話すことが好きだったので、父と同じ公認会計士を志すことにしました。スタートは遅かったもののなんとか、2008年に試験に合格し、東京の監査法人へ入りました。父からは何度か「そろそろ戻ってこないか」と声をかけられていましたが、私の中には「監査法人でまだやり残したことがある」という気持ちでした。そして2018年、自分の中にあった目標を達成し、仕事に一区切りがついたタイミングで約20年ぶりに地元へ戻りました。
 入所後は約4年間、副所長として巡回監査の実務や業務効率化に取り組みました。やがて父から「所長を譲ろうと思う」と打診されました。私の想定よりも早い承継ではありましたが、そこで「嫌だ」とは言えません。むしろ、その言葉を受け止める覚悟が問われているのだと感じました。そのような経緯で2022年に事務所を承継しました。いざ「副」が取れると、覚悟はしていたものの、プレッシャーも代表としての重みも全く違うものだと実感しました。

──トップとしての重みを実感する中で、3代目としてのご自身のあり方をどのように見出されましたか。

小宮山 父は強い信念で事務所を牽引してきましたが、私一人で全関与先を見ることは到底できません。私一人で支えるのではなく、職員一人ひとりの力を引き出し、組織力で関与先を支えること。それが、3代目としての私の使命だと考えています。
 現在は、祖父の代に築かれた2拠点体制を受け継ぎながら、私と会長、湯沢事務所の高橋英明所長の3名と約40名の職員で法人・個人合わせて460社の関与先を支援しています。事務所の礎を築いた祖父と、巡回監査と経営助言への方向性を定めた父の存在は、今も私の大きな支えです。

小宮山武志会員(TKC関東信越会新潟支部)

小宮山武志会員(TKC関東信越会新潟支部)
◎1981年11月生まれ◎TKC入会:2018年◎趣味:ドライブ・ゴルフ。
新潟の自然豊かな風景の中を運転することや、最近再開したゴルフが仕事のよい気分転換になっているという。

「役立ちの会計」を実践するためにTKCシステム一本化へと舵を切る

──小宮山会計事務所では、積極的に『TKC経営指標(BAST)』を活用されていると伺いました。

小宮山 BAST活用の大きな契機は、先代所長時代の2006年の方針転換にありました。それまで当事務所では、他社システムとTKCシステムを併用していましたが、この年、TKCシステムへの一本化と、記帳代行型から自計化への転換を打ち出しました。
 当時、お客さまへ配布した説明資料には「法的信頼性の確保及び会社経営により活かせる的確な業績把握が望まれております」と記されています。先代が掲げた「役立ちの会計」の理念のもと、会計データを税務と経営の両面に活かすという方針が、BAST活用の出発点です。
 1996年の所長交代時にも、職員から「仕事が無くなってしまう」との声もあったそうです。しかしすぐに、「仕事が充実しています」との言葉が聞かれるようになりました。記帳作業にとどまらず、数字をもとに経営者と向き合う仕事へと、職員の意識も少しずつ変わっていったのでしょう。

──先代所長が決断された背景には、どのような思いがあったと思われますか。

小宮山 父は公認会計士として監査法人で上場企業への監査や助言に携わった経験から、地域の中小企業に対しても、記帳代行にとどまらない支援が必要だと考えていたと思います。「会計事務所は経営者のビジネスパートナーとして経営助言を担うべきであり、そのためには月次巡回監査が不可欠である」という信念が、方針転換の原動力になったと受け止めています。

──小宮山先生も監査法人を経て事務所へ入られましたが、TKC全国会が推進する月次巡回監査や経営助言などにどのような印象を持たれましたか。

小宮山 事務所に入った際、父からは「法人税は分かるだろうから所得税を覚えて、あとは普通に巡回監査をして自分なりに経営助言をやりなさい」と声をかけられました。父自身も監査法人の出身なので、私の気持ちを理解し、あらかじめ経営助言に取り組みやすい事務所の土台を整えてくれていたのだと思います。おかげで、本当にスムーズに税理士業務に入ることができました。
 私自身も監査法人での経験から、未来会計を基礎に経営を支援する視点を持っていたため、TKC全国会の月次巡回監査の徹底や自計化、経営助言という考え方には自然に共感できました。BASTに関しても、すでに職員が日常業務で使いこなしていたので、中小企業支援に有効なツールとして違和感なく受け入れることができました。

売上・利益だけでは見えない課題をBASTの指標で浮かび上がらせる

──初めてBASTをご覧になった時、「どのように活用できる」と思われましたか。

小宮山 最も魅力を感じたのは、同業他社の情報を一覧で把握できる点です。自社が業界内でどの位置にあるのかを十分に把握していない経営者は少なくありません。例えば、卸売業のように利益率が低い傾向にある業種でも、その水準が適正なのかを判断するには同業他社のデータが欠かせません。BASTは中小企業の実態に合ったデータが整っており、経営助言に非常に有効だと感じています。

──BASTの数値を、経営者へ伝える際に意識していることは何ですか。

小宮山 近年はクラウド会計の普及により、経営者ご自身が売上や利益をリアルタイムで把握しています。そのため、私たちが売上や利益の数字をお伝えするだけでは十分な価値を提供できません。
 だからこそBASTでは、売上や利益に加え、資本回転率、1人当たり売上高、労働分配率、預金対借入金比率といった指標に着目しています。大切なのは、数字そのものではなく、そこから見える経営課題を経営者と共有することです。例えば、経営者が借入依存度の高さに気付き、設備投資計画の見直しにつながった例などもありました。

──専門的な指標を、経営者に分かりやすく伝えるための工夫はありますか。

小宮山 私はよく健康診断に例えます。医師が検査結果の意味や改善策を伝えるように、経営指標も数値を示すだけでは不十分です。労働分配率の上昇一つをとっても、先行投資か季節要因かを見極める必要があります。数字の背景を読み取り、経営者に伝わる言葉で説明することを大切にしています。この「かかりつけ医のように寄り添う」姿勢は、会長とも共有している当事務所の基本姿勢です。

「令和8年版 TKC経営指標(BAST)」の画面

「この水準でよいのか」との不安をBASTで解消し、改善の議論へ

──同業他社との比較は、経営者にどのような気付きをもたらしますか。

小宮山 経営者はそれぞれの経営哲学を大切にしながらも、同業他社の状況には強い関心をお持ちです。先日も3月決算のお客さまから「同業って今どうなのか」と尋ねられるなど、関心の高さを実感しています。
 例えば、ある卸売業のお客さまでは、自社の利益率が低いことは認識されていたものの、「他社と比べても本当にこの水準でよいのか」という不安をお持ちでした。そこでBASTの同業他社データを示し、自社の立ち位置を確認したところ、「よそはこうなんだ」と受け止められ、粗利益率や経費構造、取引条件の見直しなどの具体的な議論につながりました。また、社会福祉法人には「TKC社会福祉法人経営指標(S‐BAST)」を活用しており、「このようなデータはとても助かります」との声もいただきます。
 一方で、養鯉業のように同業種データが少ない業種では、単純な比較が難しい面もあります。業種が同じでも固定費の構造や収益性は異なるため、数値は会社の実態に即して慎重に読み解く必要があります。その上で、経営者に比較データ(指標)を「一つの目標」として示し、予算計画や黒字化に向けた行動につなげることを重視しています。

──BASTは、すべての関与先で活用されているのでしょうか。

小宮山 基本的には活用しています。ただし、規模の小さい企業では「3期比較表」を中心に説明することもあります。大切なのは、企業の実態に応じて数字を活用することです。

税理士法人小宮山会計事務所のBAST活用のポイント

「複眼」の支援体制が職員の経営助言力を育てる

──同業他社の比較データ(指標)があることは、職員が経営助言を行う上でどのような支えとなっていますか。

小宮山 職員にとって経営者へ説明する際の大きな支えになっています。自社の数値だけでは判断しにくい場合でも、黒字企業や優良企業の数値と比較し、業界内での位置付けを示すことで、納得感のある助言につなげやすくなります。

──職員の経営助言力を高めるための教育体制を教えてください。

小宮山 当事務所では、お客さまを「担当者」と「担当上席」の二人体制で支援しています。先代の時代から大切にしてきたのは、複数の視点で状況を把握する「複眼」の考え方です。この体制のもと、職員は日々の業務を通じて、自ら考え、判断し、行動する力を養っています。
 新人教育は所内のプロジェクトチームを中心に、幹部や先輩職員が「新人を1~2年で担当が持てるようにするにはどうすべきか」を自ら考え、伴走しながら実践的に育成しています。あわせて、巡回監査士補の取得を4年以内の目標としています。5~6年目の若手職員には、将来、担当上席として関与先を支援することも見据え、利益率や回転期間の変動など、着目すべき指標とその意味を経営者に分かりやすく伝える大切さを日頃から伝えています。

──日々の実務やコミュニケーションの中で、職員の経営助言力を実践的に鍛えるための取り組みはありますか。

小宮山 毎月1日の事務所例会の他、以前は毎日、全体朝礼を行っていましたが、定型的な業務連絡の場ではなく、実務に即したやり取りを重ねた方がよいと考え、コロナ禍を機に見直しました。現在はチーム内で情報交換を行っています。
 実践的な教育の場となっているのが、決算報告会に向けて作成する独自の「決算レポート」です。職員も所見作成を分担し、数字の背景を読み解いて自分の言葉で伝える経験を重ねています。
 実は以前、私が所見の表現を少し甘めに書いたところ、お客さまの監査役から「先生、もっと辛口で書いてください」と笑い交じりに指摘されたこともありました(笑)。しかし、単に数値を提示するだけでなく、私たちなりの見解や言葉を添えることが、間違いなく付加価値につながっていると感じます。私が同席できない場合でも、このレポートがあれば職員は事務所としての見解を踏まえて自信を持って経営者に説明できますし、数字を読み解き、経営者に伝える力を養う実践的なトレーニングにもなっています。

数字を埋めるだけの計画ではなく、経営者の理念に寄り添う黒字化支援

──黒字化・優良企業化支援で最も重視されていることは何ですか。

小宮山 最も大切なのは予算計画を立てることです。ただ数字を埋めるのではなく、経営者のビジョンや理念、たとえ明確なビジョンが言葉になっていない場合でも、会社の実情や経営者の思いをくみ取り、寄り添う計画を作ることが重要です。小規模な会社でも、背景を踏まえた計画を持つことで経営者の意識は大きく変わります。実際に、当事務所でも、継続MASで予算計画を作成している会社は、作成していない会社に比べて黒字化につながりやすい傾向があります。
 決算の数字が出てから動き出すようでは後手になり、いわば「羅針盤なき航海」になってしまいます。継続MASで計画を立て、月次巡回監査で振り返り、改善に向けたPDCAサイクルを回していくことが、私たちの目指す支援の基本です。その徹底により、「税理士事務所はここまではやってくれないだろう」という経営者の認識が、「ここまでやってくれるんだ」という「期待を超えるサービス」への評価に変わり、経営計画の策定支援など従来は依頼しにくいと思われていた分野でも、「小宮山会計事務所なら相談できる」と新たなご相談をいただく良い循環が生まれています。新しい支援には時間もかかりますが、経験を蓄積し、職員とともに前向きに取り組んでいます。

税理士法人小宮山会計事務所

JR小千谷駅から車で約10分の場所にある税理士法人小宮山会計事務所。2020年に新築・移転した。

創立100年に向けて、「この事務所でよかった」と思われる存在へ

──事務所の課題と思われることは何でしょうか。

小宮山 一番の課題は、地域の過疎化や少子高齢化が急速に進む中で、人材確保と業務効率化をいかに両立させるかです。今後はFXクラウドシリーズの活用をさらに広げ、事前確認やペーパーレス化を進めることで、巡回監査の準備や情報共有をより円滑にしていきたいと考えています。そこで生まれた時間を、経営者との対話や継続MASによる未来会計の支援に充て、支援品質の向上につなげていきたいです。

──最後に、今後の抱負をお聞かせください。

小宮山 祖父が築いた基盤と、父の掲げた「役立ちの会計」を受け継ぎ、3代目としてさらに一歩踏み込んだ支援に挑戦したいと考えています。今後は、これまで培ってきた経営助言に加え、公認会計士としての経験を活かし、業務フローやチェック体制の見直しなど、内部統制の観点からも中小企業を支援していきたいです。
 会計事務所の仕事は、経営者と膝を突き合わせて対話する「泥臭い仕事」の積み重ねです。これまで受け継いできた地域の信頼と組織力を次世代へつなぎ、お客さまにも職員にも「小宮山会計事務所でよかった」と思っていただける事務所を目指します。創立100年に向けて、中小企業の活性化を通じ、地域の活性化にも貢献してまいります。

(インタビュー・構成/TKC出版 石原 学)

事務所概要
事務所名 税理士法人小宮山会計事務所(TKC関東信越会新潟支部)
所在地 新潟県小千谷市栄町4番8号
開業年 1947年(税理士法人2007年設立)
職員数 40名(巡回監査担当者32名)
関与先数 460件(法人380件、個人80件)

(会報『TKC』令和8年8月号より転載)

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