事務所経営

関与先との対話を重ねる経営助言で地域社会に貢献

目次
和田利一会員(TKC九州会宮崎支部)

和田利一会員(TKC九州会宮崎支部)
1960年1月 宮崎県都城市(旧山田町)生まれ 税理士登録:2003年 TKC入会:2004年
趣味:ドライブ・海釣り。週末は、宮崎県内だけでなく、キャンピングカーで熊本県の海まで釣りに行くこともある。

 宮崎県都城市にある税理士法人TAPパートナーズ(TKC九州会宮崎支部)では、BASTでの同業他社比較などを参考にして関与先企業の黒字化・優良企業化への支援に注力している。「数字は会社のものである」という代表の和田利一会員にBASTを活用した経営助言のポイントを聞いた。

40代半ばで故郷へ戻りゼロからスタート継続MASを使いたくて入会

──和田先生は東京から宮崎県都城市へUターンして会計事務所を開業されたそうですね。

和田 2003年に44歳で開業するまでは、一般企業の経理課勤務を経て、東京都内の会計事務所に17年間勤務していました。私は現在の都城市山田町で3歳まで過ごし、その後は父の仕事の都合で大阪や東京に住んでいました。当初はそのまま東京で働き続けるつもりでしたが、すでに都城市へ戻って一人で農業をしていた父から「こっちに戻ってこい」と言われ、長男である私が父の面倒を見る決意をして、都城市の実家へ戻ることにしたのです。

──開業当時を振り返って、どのようなお気持ちでしたか。

和田 開業当初は、都城市関之尾町の山あいにあった実家の離れを改修した事務所で、まさにゼロからの出発でした。目の前には牛舎があり、子牛が跳ね回っているような環境の中、最初の半年間はお客さまが1件もありませんでした。
 地元とはいえ40年ぶりの帰郷で、地縁も血縁もほとんどなく、妻とも「このままお客さまが増えなければ東京に戻ろうか」と話していた矢先、知り合いの税理士の先生から最初のお客さまをご紹介いただきました。当時は時間に余裕があったため、妻と二人で丁寧に初期指導を行いました。また、私自身もシステムを使い始めたばかりだったので、SCGに相談しながらTKCの研修に積極的に参加し、先輩や同僚の会員先生から学んだ便利な機能を、そのままお客さまにお伝えして活用を勧めていました。
 その後、少しずつお客さまとのご縁が広がり、数年後には事務所を都城市街地の現在地近くへ移しました。2019年には、職員の與田智子さんが税理士登録したことを機に税理士法人を設立して、都城市都北町に支店を設けました。現在は、2拠点合わせて法人184社、個人事業主51件の計235件の関与先を支援しています。
 今では、都城市に戻って本当に良かったと思っています。料理も美味しく、人柄もよい。地理的にも都城市は宮崎県南西部の鹿児島県境に位置し、宮崎市内にも鹿児島市内にも車で約1時間の距離です。江戸時代に都城島津氏の私領だったこともあり、鹿児島県ともつながりが深く、鹿児島県内のお客さまからも仕事の依頼があります。そのため営業エリアは広く、関与先の業種も、農業・畜産業・林業といった第一次産業をはじめ、建築業、医業、介護事業、製材業、不動産賃貸業など多岐にわたります。

──TKC入会のきっかけをお聞かせください。

和田 TKCのSCGの方が何度も足を運んでくださり、ある時に継続MASによる単年度計画書の作成デモを見せてくれました。事務所勤務時代から予実管理の必要性は感じていましたが、当時勤めていた事務所は記帳代行型で他社ベンダーの利用が中心だったため、初めて継続MASを見たときは「こんなに簡単に予算の策定ができるのか」と大いに感銘しました。その場でSCGに「このシステムだけでも使わせてほしい」とお願いしたのですが、断られました(笑)。それが入会を決意するきっかけとなり、2004年9月にTKCへ入会しました。

──事務所の経営で大事にしていることや強みをお聞かせください。

和田 私が事務所経営で常に心がけているのは、「関与先さまから信頼され、感謝されること」です。毎月の巡回監査で必ず関与先を訪問し、対話を重ねることで信頼関係が生まれ、確かな絆へとつながります。私は、生成AIには決して築くことのできない「関与先との絆」を深めることを何より大切にしています。
 また、月次巡回監査を基盤に、書面添付や継続MASを活用した経営助言を実践するなど、「TKC方式」を徹底していることも当事務所の強みです。

BASTの正しい分析に不可欠な「科目配置基準」と「固変区分」の徹底

──和田先生の事務所では『TKC経営指標(BAST)』を積極的に利用されているとうかがいました。

和田 私がBASTを使い始めたのは、2004年にTKCに入会して早々のことです。地元のTKC会員有志で「都城地区中小企業経営改善支援機構」を立ち上げ、地元の金融機関から紹介を受けた事業者に対して、セカンドオピニオンとして経営改善計画の策定を支援したのが始まりでした。過去3年分の元帳を預かって、FX2にデータを入力した上で、BASTで同業の優良企業や黒字企業の数値と比較することによって、その事業者の「改善点」を見つけて、アドバイスしました。この取り組みは2年ほど行われましたが、おかげでBASTの有効性を実感でき、事務所でも引き続き積極的に活用するようになりました。

──BASTの活用にあたって特に留意されていることは何ですか。

和田 BASTで正しい分析を行うためには、TKCの勘定科目体系を崩してはいけません。そのため所内では、TKCの科目配置基準に準拠した勘定科目の設定や、毎決算のたびに行う固定費・変動費(固変区分)の見直し、従事員数の正確な入力などを徹底させています。
 正しい入力を行うと、BASTから初めて気づかされることもあります。例えば「林業」を営む関与先で、木を伐採して販売するだけだと思い、当初は「販売費・一般管理費」で会計処理していたのですが、BASTの同業他社の指標を見ると「製造原価」が出ているわけです。よく考えると、枝を切り落として一本の丸太に加工する過程は「製造」だと気づき、慌てて会計処理を変更したこともありました。BASTはこうした企業の実態を掴むための気づきを与えてくれます。

経営者の関心が強い「人件費」を中心に「賃金BAST」も活用し、黒字化を支援

──経営者へは具体的にどのようにBASTを通じて経営助言をしていますか。

和田 BASTの数値を提示する際、経営者が最も強い関心を示されるのは「人件費」の項目です。労働分配率や、従業員一人当たりの売上高・付加価値額などを示すとともに、『中小企業の賃金指標(賃金BAST)』による同業者の年齢別平均賃金を併せて提示すると、より理解が深まり、反応も一層良くなります。
 特に注力しているのは、赤字企業への支援です。同業他社の優良企業や黒字企業の数値と比較し、売上総利益率が低いのか、あるいは固定費が多いのかといった問題点を、科目別に掘り下げて明らかにします。改善すべき点を可視化して提示できるため、巡回監査において経営助言を行う職員にとっても指導がしやすくなります。こうした分析結果を四半期や半期ごとにモニタリングし、黒字化に向けた意識付けを継続的に行っています。

──関与先の反応はいかがですか。

和田 関与先の社長にBASTの数値を提示すると、非常に興味深くご覧いただけます。同業他社のデータは入手が難しいため、「印刷してほしい」「PDFで送ってほしい」といった要望をいただくことも多く、概ね好評です。
 特に人件費については、自社が同業他社と比べて高いのか低いのかを示すことで、多くの社長が安心されるとともに、強い関心を示されます。
 また、赤字で悩まれている社長の場合、「何が課題なのかが分からない」というケースも少なくありませんが、BASTの優良企業や黒字企業の数値と比較することで、改善すべきは売上総利益率なのか、固定費なのかといった点が明確になります。その結果をもとに共に改善に取り組み、黒字化を実現できたときには、大変感謝していただいています。
 一方で、黒字企業であっても、同業他社との比較には高い関心があり、全国平均などの数値を参考として提示しています。中にはそのデータを株主への業績報告に活用される社長もいらっしゃいます。
 なお、生成AIが身近になったことで、データの取り扱いには一層の注意が必要になっています。特に外部の生成AI等にデータを読み込ませることはデータの外部流出と同義であるため、職員だけでなく関与先にも、情報管理の重要性を丁寧に伝えています。

「令和8年版 TKC経営指標(BAST)」の画面

毎日の朝礼でBASTを用いた議論を重ねて、職員の経営助言力を鍛える

──所内では、BASTを経営助言に活かすためにどのような工夫をされていますか。

和田 巡回監査を担当する職員には、税務・会計の両面で高い専門性が求められます。関与先に対して質の高い経営助言を行うためには、反復的な教育が不可欠です。私は、「人間は一度聞いて全体の30%を理解する。2度目で次の30%を理解する。3度目でさらに次の30%を理解する。4度目で最後の10%を理解するものだ」と考えており、所内でもその前提で教育に取り組んでいます。
 当事務所では、毎朝40分間、朝礼を兼ねた勉強会を実施しています。テーマは毎回異なりますが、例えば実際の関与先の365日変動損益計算書の数値を画面に映し出し、BASTの数値と比較するなど、実務に即した研修を行っています。「固定費が多いのではないか」「どのように見直すべきか」といった点について、ベテラン・若手を問わず全員で議論し、情報共有しています。

──『TKC月次指標(月次BAST)』はどのように活用されていますか。

和田 月次BASTについては、現時点では私よりも職員が中心となって活用しています。話を聞くと、3カ月前までの24カ月分の売上高や限界利益などの推移を確認できるため、巡回監査の際に、より鮮度の高い指標として活用できる点が評価されています。今後は全職員がさらに有効活用できるよう、朝礼等での共有を進めていきたいと考えています。

──BASTを活用するためには、関与先での月次決算体制の構築が欠かせません。経営者への意識付けなどは、どのように取り組まれていますか。

和田 関与先には、まず当事務所の方針書をご覧いただき、自計化の重要性をお伝えしています。タイムリーな経営判断をするためには、自計化することが前提です。自社で前日までの数字が見られるわけですから、できるだけ社長ご自身で数字を掴んでいただく体制にしたいということを、方針書をもとにして丁寧にお伝えしています。
 実は、この方針書を作成したのは比較的最近のことです。TKCが開催する年度重要テーマ研修に参加した際、テキスト『TKC会計人 業務の未来設計』に「事務所方針書サンプル」が掲載されていたのを見つけたのです。そこには「黒字化のご支援をします」「自計化できるようになるまでご支援します」などの方針が明記されており、それをベースにして、当事務所の実態に合うように独自に改良して作りました。

──どのような効果がありましたか。

和田 従前は口頭で説明していたため、職員によって「どこまで言ったのか、どこまで言っていないのか」が曖昧になってしまうことがありました。しかし、方針書という形で提示することで、お客さまも「うちで起票や帳簿の整理をしないといけないのだな」との考えが定着します。また、職員の業務範囲も明確になり、例えば、「本来企業が自ら行わなければならない業務については一切行うことができません」と明記されていることによって、たとえ善意でも職員が入力のお手伝いをするようなことが無くなりました。
 このような方針書を提示するとお断りされるのではと心配しましたが、若い経営者の方はもちろん、これまで他で起票・記帳代行を会計事務所にやってもらっていたようなお客さまでも、「そういうことなら、教えてくれたら自分たちでやりますよ」と、比較的スムーズに受け入れてくださるケースがほとんどです。

代表の和田利一会員(左)と都北支店代表の與田智子会員

代表の和田利一会員(左)と都北支店代表の與田智子会員

「数字は会社のものである」との前提で社長に数字の見方を丁寧に伝える

──月次巡回監査ではどのような点に気を付けていますか。

和田 我々が巡回監査に訪問する前に、まずは社長ご自身で数字を確認していただくようお願いしています。試算表や決算書の見方については、社長と一緒に画面を見ながら、その都度丁寧に説明しています。例えば貸借対照表をお見せして、「現時点のキャッシュの状況はこのメニュー画面で確認できます」とお伝えするような形です。一度で理解することは難しくても、毎回繰り返しお見せすることによって、次第に関心を持っていただけるようになります。その上で、巡回監査では継続MASによる決算対策や翌期予算の策定、365日変動損益計算書を活用した経営助言など、次の展開につなげていくことを意識しています。
 もちろん、BASTを活用し、黒字企業の経営指標をもとに「こうした取り組みを継続すれば会社は成長していく」といった点についてもしっかりとお伝えしています。

──社長さんの数字への意識に変化はありましたか。

和田 以前は「数字は税理士に任せている」という社長も多く、金融機関から質問を受けても「税理士に聞いてほしい」といった対応が見られました。しかし、こうした指導を継続していくことで、巡回監査に伺った際に、社長の方から「前月は業績が悪かった」「今月は良かった」などと話してくださることが増えました。
 このように社長ご自身が数字を把握し、主体的に語れる状態をつくることが重要だと考えています。そのため職員には、「数字は会計事務所のものではなく、お客さま(会社)のものである」という認識を徹底し、数字の見方を丁寧に伝えるよう指導しています。

税理士法人TAPパートナーズ

JR都城駅から車で約10分の場所にある税理士法人TAPパートナーズ。2021年に新築・移転した事務所。

TKCの「宝」であるBASTは関与先から選ばれる有力な武器

──現在の事務所の課題はありますか。

和田 職員数の増加に伴い、60歳代のベテランから20歳代の若手まで幅広い構成となっています。そのため、業務の進め方にばらつきが生じないよう、業務の標準化とマニュアル化が課題です。特に新規関与先への初期指導が増加しているため、誰が担当しても3カ月以内に自計化を軌道に乗せることを目標としています。
 また、FX2クラウドや証憑保存機能を十分に活用できる体制が整えば、関与先の業務効率化に加え、職員による事前確認が容易になり、巡回監査をより効率的に進められます。現在はシステムに詳しい職員が中心となって対応しているので、各自が有するノウハウを整理し、全員が同一水準で対応できる体制の構築が必要です。そのため、書類整理の方法やシステム操作手順を体系的にまとめ、段階的に指導できる統一的なマニュアルの整備を進めていきたいと考えています。

──今後の抱負をお聞かせください。

和田 私たちにとって、中小企業の存続と成長を通じて地域社会の発展に貢献することはこの上ない喜びです。事務所名である「TAPパートナーズ」は「Tax Accounting professional Partners」を意味しており、税務と会計の専門家集団として、中小企業の経営を財務面から支えることを使命としています。今後も経営助言を主たるサービスとして提供し続けていきたいと考えています。
 そのためにも、事務所自身の持続的な成長が不可欠です。現在、私は66歳となり、後継者の育成に取り組む段階にあります。事務所内には、実務経験を積みながら税理士資格の取得を目指している職員もおり、今後はそうした人材に託していきたいと考えています。

──最後に、会員先生へBAST活用に関するメッセージをお願いします。

和田 BASTは、私が入会した当時は収録社数が約20万社でしたが、現在では26万社を超えています。同業他社の経営指標を示すデータベースとして、経営助言を行う上で欠かせない存在です。
 全国のTKC会員が積み上げてきた「宝」であるBASTのデータは他にはない大きな強みであり、特にニューメンバーズ会員にとっては、関与先から選ばれるための有力な武器となります。ぜひ積極的に活用し、経営助言の質の向上につなげていただきたいと思います。

(インタビュー・構成/TKC出版 石原 学)

事務所概要
事務所名 税理士法人TAPパートナーズ(TKC九州会宮崎支部)
所在地 宮崎県都城市都原町7404-2
開業年 2003年9月(2019年税理士法人設立)
職員数 18名(税理士1名、巡回監査担当者15名含む)
関与先数 235件(法人184件、個人51件)

(会報『TKC』令和8年7月号より転載)

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