事務所経営

書面添付を最終成果物と位置付け、お客さまに安心していただける事務所を目指す

目次
今良暢会員(左)と今孝彰会員

代表の今良暢会員(左)と今孝彰会員

青森市の今・兼平税理士法人 今会計(TKC東北会青森県支部)は、2度の事務所承継を契機にTKCシステムへの一本化を進め、現在は、書面添付を最終成果物と位置付け、TKCシステムをフル活用している。開業以来「人の役に立ち、喜んでもらいたい」との思いを大切にしてきた代表社員の今良暢会員と、次世代を担う今孝彰会員に、事務所経営の歩みとシステム活用の実践を聞いた。

「人の役に立ちたい」との原点からTKCシステム活用の歩みへ

──今良暢先生、開業までの経緯をお聞かせください。

今良暢 私は高校3年生の頃から「サラリーマンにはならず、自分で何か商売(自由業)をしたい」と考えていました。大学に進学したのですが、税理士を目指したのは「人の役に立ちたい。みんなに喜んでもらいたい」との思いからです。独学で税理士試験に合格した後、2年間の会計事務所勤務を経て、1985年12月に開業し、すぐにTKC全国会へ入会しました。入会の動機は、担当SCGから何度か話を伺う中で、「租税正義の実現」というTKC全国会の理念に共鳴したからです。
 開業当初のことで思い出すのは、関与先がまだ1件しかなかったにもかかわらず、金融機関から資金を借り入れ、TKC全国会の入会金と富士通のV80というパソコンの購入費用に充てたことです。当初は資金や関与先拡大の面で不安を抱えながらも、その後はTKCシステムを中心に、一部は他社システムで記帳代行をしながら、事務所を経営してきました。

──転機はありましたか。

今良暢 1999年と2011年の2度の事務所承継です。最初の承継は、近隣の会計事務所の所長がお亡くなりになり、所属する税理士会支部を通じて依頼されたものです。2度目の承継は、税理士会支部の例会で、以前から知り合いだった税理士から、病気療養を理由に直接依頼されました。特に、最初に承継した事務所は、職員が30名いる大規模な事務所だったため、とても大変でした。まだ40歳代でしたので、体力で乗り越えられた面もあったと思います。
 この承継を機に、TKCシステムへの一本化を行いました。承継した事務所はいずれも他社システムを利用していました。同じ会計システムであっても、概念や用語は大きく異なります。職員が一気に増えたこともあり、意思疎通が難しくなったため、TKCシステムへ全面移行しました。職員は大変だったと思いますが、現在、業務効率化が進んでいるのも、この時の決断があったからだと思います。
 もう一つ、2度の承継を通じて分かったことがあります。それは、「会計事務所が突然なくなると、お客さまがとても不安になる」ということです。私は60歳を超えた頃から、事務所体制を盤石にし、お客さまに安心していただきたいとの思いを強くしていました。そこで、2016年に兼平義弘会員と税理士法人を設立しました。兼平先生とは年齢が一つ違いで、いろいろと話す中で、事業承継について同じ思いを持っていることが分かり、一緒にやっていくことになりました。
 現在、今・兼平税理士法人には、私と兼平先生の2名の代表社員に加え、社員税理士として、今孝彰会員、兼平先生のご家族である兼平浩美会員、元職員で令和5年12月に開業した浪岡事務所所長の金澤大樹会員と所属税理士の雪田廣志会員の6名の税理士がいます。

──今孝彰先生が青森に戻られたのはいつですか。

今孝彰 私が入所したのは2018年です。もともと私は、「青森を出て親とは違う仕事をしよう」と考え、東京の大学に進学しました。ところが、将来の仕事を模索する中で、数字を扱うことや文献を調べて考えることが好きなことから、税理士という職業に興味を持ちました。父に相談したところ、「今の時代なら公認会計士だ」と勧められたのが、資格取得を目指したきっかけです。2013年に公認会計士試験に合格し、東京の監査法人で大企業の会計監査や税務業務に携わってきました。その後、自身のキャリアを見つめ直す中で、父からの働きかけもあり、故郷へ戻ることを決意し、事務所へ入所して税理士登録しました。

──事務所経営で大事にされていることを教えてください。

今良暢 「租税正義の実現(申告是認率99・99%の達成)」と「人の役に立ち、喜んでもらいたい」という思いを一番に考えています。開業当時は、「とにかく税金を安くするのが税理士の仕事」と考える経営者が多く、理想と現実のギャップに戸惑いながら、「それは違うだろう」と、インターネットのない時代にさまざまな書籍から根拠条文を探して提示する姿勢を貫こうとしていました。

今孝彰 私は「情報の信頼性」を非常に重視しています。法令遵守を大前提として、信頼できる情報をお客さまに提供することに取り組んでいます。具体的には、「会計事務所の最終成果物は書面添付である」ことを強く意識しています。事務所内外に対しても、「書面添付を推進する事務所」であることを打ち出しています。

登録番号と記載要件をシステムで確認 インボイス制度対応の不安を解消

──決算申告業務についてお聞きします。3月末決算法人の処理を終えられた直後(取材日6月9日)ですが、本年のインボイス制度対応はいかがでしたか。

今孝彰 当事務所では、消費税の課税事業者は、月次巡回監査の実施とFXクラウドシリーズの導入を基本方針としているため、大きな混乱はありませんでした。
 私が考えるインボイス制度対応における心配事は、お客さまが作成した仕訳の「適格請求書発行事業者の登録番号(以下、登録番号)が本当に存在するのか」と、「インボイスが本当にあるのか(適格請求書〈インボイス〉の記載要件を満たしているか)」の2点でした。
 FXクラウドシリーズであれば、登録番号を取引先マスターに登録することにより、登録番号の有無や仕訳入力時の課税区分の誤りがチェックされます。また、インボイスの記載要件については、証憑保存機能を利用することで、仕訳と証憑が紐づけられているため、入力内容を簡単に確認できます。
 当事務所は、インボイス制度対応のタイミングで一気にクラウド化へと舵を切りました。関与先のデータがクラウド上で事務所と共有されているため、いつでも事務所から取引先マスターへの登録状況や仕訳の入力状況等を確認できます。これにより、月次巡回監査のチェック時間は短縮され、手戻りも少なくなりました。この毎月の積み重ねが、決算申告業務が円滑に進む一因だと考えています。

──決算申告処理では期中に登録番号が取消し・失効しているケースがあり、そのチェックが大変だという声をお聞きしています。

今孝彰 その点では、TPS1000(法人決算申告システム)の「事業者登録番号の有効性チェック」が本当に助かっています。適正申告を行う上では重要なチェック機能です。当事務所ではFXクラウドシリーズとTPS1000を徹底活用し、税務と会計を一気通貫で処理することによって、インボイス制度対応については心配がありません。

今 孝彰会員

今 孝彰会員

証憑保存機能を切り口にFXクラウドシリーズの導入を推進

──決算申告業務が円滑に進んだとのことですが、決算申告業務は1社あたりどのくらいの時間がかかりましたか。

今孝彰 会社の規模によって差はありますが、月次巡回監査が滞りなく実施され、証憑と仕訳の確認が期中から進んでいるお客さまであれば、早ければ4~5時間で完了します。

今良暢 年一回関与のお客さまのことを想像すると、請求書や領収書などの資料を回収した後に処理を開始しますので、1~2週間はかかるのではないでしょうか。また、月次巡回監査を行っていないため、処理を進めるうちに、入力されている情報が本当に正しいのかが分からなくなり、心配になってきます(笑)。やはりFXクラウドシリーズを導入し、月次巡回監査をしっかりと行うことが重要だと思います。

──決算申告業務を円滑に進める上で意識されていることや、具体的に行っていることがあれば教えてください。

今孝彰 法令を遵守した上で、なるべくシステムで自動化を図り、手作業を減らすことを意識しています。
 FXクラウドシリーズでは、取引先別管理と口座別管理を可能な限り活用して、残高集計に時間がかかっていた勘定科目内訳明細書を効率的に作成しています。関与先による仕訳計上については、銀行信販データ受信機能や、証憑保存機能の「スマホで経費」を利用することによって、手入力が減って負担が大幅に軽減されるとともに、入力ミスも減り、データの正確性がより高まりました。
 もともと当事務所ではFXクラウドシリーズ導入を積極的に推進していたのですが、「スマホで経費」が提供されたことにより、この機能による業務効率化とデータの正確性を切り口に勧められるようになりました。初期設定は、お客さまが「あとは2回タップするだけ」という状態まで整えておき、お客さまがすぐに証憑をスキャンして利用できるよう、しっかりとサポートしています。
 インボイス制度対応に限りませんが、システムをいかに構築するかが事務所経営において重要なポイントだと思います。そのため、とにかくTKCシステムを徹底活用しています。

今良暢 まずは税務システムと会計システムを一気通貫で徹底利用することです。そして、TKCシステム全般に言えることですが、関与先ごとにやり方を変えるのではなく、TKCシステムのルールに沿ってきっちりと入力することを入会当初から意識しています。
 例えば、FXクラウドシリーズの仕訳の入力画面では、項目を省略せずに漏れなく入力するよう指導します。これにより、仕入税額控除のための帳簿の記載要件を満たしますので、月次巡回監査でチェックする負担が大幅に減り、決算書や申告書の品質を維持できます。

今 良暢会員

今 良暢会員

アラートを読み飛ばさず、確認を徹底する所内体制へ

──2026年4月に、FXクラウドシリーズとTPS1000の連携機能が強化され、TPS1000から直接FX2クラウド等の仕訳や仕訳に添付された証憑を確認できるようになりました。利用された感想をお聞かせください。

今孝彰 とても使いやすいです。TPS1000からFXクラウドシリーズの画面を開くことができるため、私にとっては何より、書面添付が格段に作成しやすくなりました。

──OMSドライブへの申告書等の自動保存機能や決算報告書綴り作成機能はいかがでしょうか。

今孝彰 今回のレベルアップをきっかけにOMSドライブを導入しました。こちらもとても便利ですね。職員によって申告書類の綴り方が異なるという課題がありましたが、決算報告書綴り作成機能により、負担軽減につながっています。「いつかTKCシステムで解決できるようになるだろう」と期待していた機能なので、同じ悩みをお持ちの会員事務所にもぜひ利用をおすすめします。

──TPS1000を徹底活用するにあたって留意すべき点はありますか。

今良暢 TPS1000の入力を進めると、確認メッセージ(アラート)が表示されることがあります。これはとても重要です。
 実際に、システムの計算結果が想定と異なっていた場合に、職員に確認するとアラートを読み飛ばしていたことが原因だったことがよくあります。そこで、若手・ベテランを問わず、アラートを読み飛ばさないよう繰り返し指導しています。
 かつて他社システムを利用していたからこそ分かることですが、初めて決算書、申告書を作成する職員にとって、TPS1000はとても分かりやすいシステムだと思います。TPS1000の業務プロセスに沿って入力を進めると、計算結果が別表間で自動転記・集計され、正しい決算書と申告書の作成につながります。そして、何よりも毎年の税法改正にも完全準拠しているので、アラートに気を付けてTPS1000を利用していれば、所長として安心です。

──事務所内の業務管理についてですが、OMSクラウド(税理士事務所オフィス・マネジメント・システム)の利用状況も教えてください。

今孝彰 DRS(業務日報作成システム)やSPS(スケジューラ)などをフル活用しています。最近は、WSC(ワークストリームクラウド)もしっかり活用しています。従前は紙で行っていた支払証明書の発行や有給休暇の届出、旅費の精算、残業の許可申請などの申請業務をWSCでデジタル化しました。また、承認業務はどこでもできるので、私は自宅で夜間に行っていることが多いです。なお、税務届出書の承認についてもWSCで行っています。6月には、e‐DMS(税務届出書類等作成支援システム)の提出書類の承認もWSCで行えるようになったので、より便利になりそうです。

書面添付を見据えた記録が巡回監査報告書の充実につながる

──事務所の業務品質向上への取り組みについて、冒頭でお話のあった書面添付への取り組みや効果をお話しいただけますか。

今孝彰 当事務所では、より品質の高い決算書と申告書を提供できるように、「最終成果物は書面添付である」との考えのもと、書面添付を積極的に推進しています。
 職員には事務所方針として「私たちは書面添付を実践し、保証業務に取り組みます」と宣言し、意識付けしています。すると、事務所全員の法令遵守への意識が高まり、お客さまへ説明できるようになります。
 例えば、なぜ「TKCシステムは遡及訂正できないのか」という話も、「信頼性の高い決算書の作成に必要なこと(保証業務)です」と説明すると、腹落ちしていただきやすくなります。

今良暢 職員が提出する巡回監査報告書の記載内容が細かくなり、充実してきました。毎月の巡回監査で確認したことや気が付いたことをしっかりと記録に残しておくことによって、書面添付に記載できるためだと思います。

今孝彰 最近、税務署から意見聴取がありました。私は、何を聞かれても答えられるよう、FXクラウドシリーズのデータと証憑、OMSドライブに保存しているお客さまの資料を見られる状態にしているので、意見聴取は大部分何事もなく終わりました。
 また、書面添付を実践するために、TKCシステムを徹底活用することを前提に、「監査の頻度」を補完する資料として記帳適時性証明書を電子申告時に添付しています。

決算申告業務の生産性向上のポイント

租税正義の理念を忘れずに、信頼される事務所であり続けたい

──AI(生成AI・AIエージェント)の活用について、今後、事務所で考えていることを教えてください。

今孝彰 税理士業務を行う上では信頼性と安全性が最重要だと考えています。そのため、AIを組織として事務所全員で利用するには、管理面でとても不安があります。事務所として実際の業務にどのように取り入れていこうかと模索していたところ、TKCのAIエージェント(FXエージェント・OMSエージェント)の提供が発表されました。TKCシステムの中でAIエージェントを利用できるのであれば、信頼性と安全性の面でも安心感があります。今後は、FXクラウドシリーズ未導入のお客さまにも切り替えを進め、TKCのAIエージェントを活用できる体制を整えていきたいと考えています。

──最後に、今後目指されていることがありましたら、ぜひ教えてください。

今孝彰 私は、会計事務所が決算書と申告書の作成だけを行っていると、AIに置き換えられてしまうのではないかという強い危機感を持っています。そのような中で、会計事務所が地域のお客さまに選ばれ続けるためには、保証業務と経営助言業務の価値を高めていくことが重要だと考えています。
 特に保証業務では、最終成果物の話につながりますが、信頼できる情報を安全な形で提供することが欠かせません。そのためにも、AIを活用して業務を効率化し、その先に保証業務や経営助言業務の価値を高めていくことが、これからの会計事務所にとって重要になるのではないかと考えています。TKC全国会の運動方針に沿って、TKCシステムを徹底活用し、地域のお客さまに選ばれ続ける会計事務所を目指します。

今良暢 開業以来、「人の役に立ち、喜んでもらいたい」との思いを大切にしてきました。2度の事務所承継を通じて、会計事務所の継続がお客さまの安心につながることも実感しました。これからも、租税正義の実現という原点を忘れず、次世代を担う若い人たちの力と新しい技術を生かしながら、地域のお客さまに「この事務所なら安心だ」と思っていただける事務所であり続けたいと思います。

今・兼平税理士法人 今会計

2008年、JR新青森駅から車で約5分の新興住宅地に新築移転した今・兼平税理士法人 今会計。
今孝彰会員は、この場所から徒歩数分の地で生まれ育ったという。

(インタビュー・構成/SCG営業本部 勝田浩幸)

事務所概要
事務所名 今・兼平税理士法人 今会計(TKC東北会青森県支部)
所在地 青森県青森市三好1丁目5番地17
開業年 1985年(昭和60年)
職員数 13名(巡回監査担当者10名)
関与先数 109件(法人93件、個人16件)

(会報『TKC』令和8年8月号より転載)

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