対談・講演

三者の強みを生かした連携で、中小企業の持続的な成長を支え、有事の支援を

巻頭鼎談

藤井健志 日本政策金融公庫総裁 × 宮川 正 中小企業基盤整備機構理事長 × 坂本孝司 TKC全国会会長

世界情勢の変化、自然災害など、いま中小企業にも有事の対応が迫られている。今回、中小企業の資金調達を支援する藤井健志日本政策金融公庫総裁、企業成長と事業基盤強化を支える宮川正中小企業基盤整備機構理事長を招いて、坂本孝司TKC全国会会長との鼎談が行われた。

とき:令和8年9月3日(木) ところ:TKC東京本社

 坂本 本日は、日本政策金融公庫(日本公庫)の藤井総裁と、中小企業基盤整備機構(中小機構)の宮川理事長をお迎えしました。両組織には日頃から中小企業支援において連携いただいており、心より感謝申し上げます。

藤井健志 日本政策金融公庫総裁

藤井健志
日本政策金融公庫総裁

 藤井 こちらこそ、このような鼎談の場を設けていただき感謝申し上げます。
 私自身、国税庁在籍時に坂本会長とお会いし、当時からTKC全国会の活動や会長のお考えに強く感銘を受けました。特に、「税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)」を提唱し、税理士のあるべき姿や社会的役割を広く示されたことは、税理士業界のみならず地域経済にも大きな影響を与えたと感じています。
 また、会長のご著書『税理士の未来〈新版〉──新たなプロフェッショナルの条件』(中央経済社、2026年)を拝読しましたが、税理士法第1条について詳細に分析されておりました。私も初めて第1条を読んだ際、その職務の本質を的確に表現した条文であると感動しました。本書では現在の条文に至るまでの歴史的経緯や各文言の意義が丁寧に掘り下げられており、理解を深めることができました。またご著書には、TKC全国会を創設された飯塚毅初代会長の功績にも触れられており、改めて税理士業界に大きな影響を与えた存在であることを認識しました。
 関与先企業を日頃からサポートし、財務面を分析して効果的にアドバイスする税理士の存在は、政策金融を的確かつ迅速に実施する上で、欠かせないと考えております。

宮川 正 中小企業基盤整備機構理事長

宮川 正
中小企業基盤整備機構理事長

 宮川 私は2年前、中小機構の理事長着任直後に坂本会長とお会いする機会をいただきました。経済産業省時代からTKC全国会については存じ上げていましたが、特に印象的だったのは、会員税理士の皆様による月次巡回監査です。関与先企業を毎月訪問し、財務面を中心に継続的に支援される仕組みは、非常に大きな価値があると感じています。
 私どもは経営戦略や事業拡大、販路開拓といった非財務面の支援を中心に行っています。税理士の方々が担う財務面の支援と、私どもが担う経営面の支援。その両輪によって中小企業の存続・発展にさらに貢献していきたいと考えています。

 坂本 TKC全国会をそのように評価いただき、ありがとうございます。税理士は日本の約300万社の法人のうち、9割に関与しています。企業の成長だけでなく悩みや苦しみにも日々向き合っていますから、中小企業金融を支える日本公庫と、中小企業支援を幅広く担う中小機構のお力を借りられることは大変心強いことです。
 そして、この連携は歴史的なことと感じています。それは、形式的なものではなく、実質的な成果につながっている連携であるからです。昨年、日本公庫との新たな融資スキームとして誕生した「TKCファストリンク」が急速に普及していることは、その象徴的な事例といえます。また、中小機構には、共済事業や各地域における経営支援の窓口として、中小企業支援者をつなぐ重要な役割を担っていただいています。このように三者による実効性ある支援の仕組みが構築されていることは画期的であり、その取り組みが今後さらに発展することを期待しています。

中小企業一社一社へのトータルリスク管理支援がより求められる

坂本孝司会長

坂本孝司
TKC全国会会長

 坂本 私は会計事務所を開業して45年になりますが、中小企業経営について語られる際、いつの時代も厳しいという言葉が枕詞のように使われてきました。その意味で厳しい経営環境とは中小企業にとって“所与の条件”と捉えるべきではないかと思います。資金繰りや人手不足、販路開拓、あるいは自然災害などの問題やリスクを踏まえ、我々税理士は中小企業一社一社にトータルリスク管理の実践を促し、勝ち残りに向けて支えていくことがより求められる時代になったと考えています。

 藤井 日本公庫(国民生活事業)のお客様の多くも、経営環境の変化の影響を受けやすい小規模事業者です。取引先の倒産や廃業など予期せぬ事態によって、返済が遅延したり事業継続を断念したりするケースが残念ながら存在します。
 小規模事業者の経営環境が厳しさを増す中、昨年TKC全国会との連携により誕生したのが「TKCファストリンク」です。これは主に小規模事業者へ迅速な資金供給を行うための融資スキームで、昨年9月の創設から今年8月末までの1年間で累計1757件、融資総額135億円を超える融資を実行しました。また、お申込みから融資決定までの期間は、創業融資を含め平均で5営業日を大きく下回っています。何より迅速な資金支援を実現しながらもデフォルトはゼロ件であり、スピードと適切な融資判断の両立が図られています。
 こうした成果は、TKC会員事務所の皆様が「会計で会社を強くする」という理念のもと、「税理士の4大業務」を日々実践されている証しであり、作成される決算書や事業計画書の信頼性の高さが迅速な審査と的確な融資判断を支えています。また、創業融資にも広く活用されていることは、TKC全国会と日本公庫の連携が新たなステージに入ったことを示していると感じています。

 宮川 中小機構は、経営支援や販路開拓などソフト面の支援を中心に行っていますが、坂本会長がおっしゃるように、中小企業を取り巻くリスクは時代とともに変化しています。例えばコロナ禍以降は、デフレ下での「コスト削減型」の経営から、インフレ環境に対応した「成長型」の経営へ転換することが求められるようになりました。そのため私どもも、「守り」から「攻め」へと挑戦する成長志向の企業をどう支援するかを重要な課題として取り組んでいます。非財務面から企業価値向上を支援していますが、財務面はTKC会員の皆様が支え、必要な資金は日本公庫が提供するという三者連携によって、中小企業の「稼ぐ力」を高めていくことが重要と考えています。
 近年は、人手不足やDX対応など、中小企業の経営課題が一層複雑化しています。私どもも専門家派遣や販路開拓支援に取り組んでいますが、経営者に最も近い税理士の先生方との連携が不可欠です。TKC会員の皆様、日本公庫、中小機構がそれぞれの強みを発揮することで、中小企業の挑戦を力強く支援できると考えています。

正確な財務情報が「情報の非対称性」を解消し、迅速な融資を支える

 坂本 先ほど藤井総裁に言及いただきましたが、私は税理士の業務を、税務・会計・保証・経営助言の4大業務として整理しました。このうち保証とは、端的に申すと税理士が関与先企業の決算書や税務申告書の信頼性を担保することです。
 その観点からすると、急速に普及している「TKCファストリンク」の画期的なところは、これまで中小企業金融において最大のネックとなっていた「情報の非対称性」を解消したところにあります。TKC会員による関与先企業への月次巡回監査や「TKCモニタリング情報サービス」を通じて提供される信頼性の高い財務情報を、日本公庫が評価し、融資スキーム化してくださいました。いわば、日本の中小企業金融において範を示してくださったわけです。
 全国の地域金融機関におかれましても、ぜひこの意義へのご理解を深めていただければありがたいと思います。

 藤井 「情報の非対称性」という観点から申し上げれば、金融機関にとって重要なのは、事業者から提供された情報が正確で信頼できるものであるかどうかです。その点、TKC会員事務所の皆様が作成され、「TKCモニタリング情報サービス」を通じて提出を受ける決算書は、税務当局へ提出されるものと同一であり、融資判断を行う上で非常に信頼性の高い資料です。
 私自身、国税庁在籍時から「TKCモニタリング情報サービス」を存じ上げていましたが、“税務署へ提出したデータがそのまま金融機関にも提供される”という仕組みに大変驚いたことを覚えています。
 日本公庫では同サービスを積極的に活用し、事業者支援のスピードと質の向上に努めています。特に小規模事業者向け融資を担う国民生活事業では、114万先に及ぶ取引先の経営状況を継続的に把握するには、相当なコストがかかりますが、同サービスを利用いただくことで、最新の決算情報をタイムリーに確認することができます。その結果、資金支援や本業支援の提案を適切なタイミングで行えるほか、お客様との継続的な信頼関係の構築にもつながっています。また、事前に決算書を確認できるため、融資審査を円滑に進めることができ、事業者の資金ニーズにも迅速に対応できます。
 事業者に適切かつ迅速な支援を行うためには、正確な経営実態の把握が不可欠です。「TKCモニタリング情報サービス」を通じて、TKC会員事務所の皆様による月次巡回監査と連動した信頼性の高い財務情報を提供いただくことで、公庫の融資審査や本業支援に大きな価値をもたらしています。

平時・有事を問わない中小企業への迅速なワンストップ支援体制

 坂本 先ほど申し上げたように、今後の企業経営においてますます重要になるのがリスクマネジメントです。日本は自然豊かで素晴らしい国ですが、一方で常に災害と隣り合わせでもあります。こうしたリスクを“所与の条件”として捉え、経営していく必要があります。
 リスクマネジメントの第一歩は、リスクの発見です。我々TKC会員は関与先企業ごとにリスクを洗い出し、その把握と対策のアドバイスを行っています。その中で、中小機構の「小規模企業共済」や「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済)」は非常に有効な制度です。我々はリスクを数値で示し、必要な加入金額や期間を設計しながら活用を提案していますが、トータルリスク管理を実践する上で、日本公庫、中小機構との連携は欠かせません。

 宮川 TKC会員の皆様は、月次巡回監査を通じて経営者と日頃から緊密にコミュニケーションを取られています。経営者には従業員のような退職金制度がないため、自ら積み立てを行い将来に備える必要があります。その意味でも「小規模企業共済」について精通しておられる皆様の役割は大きいと感じています。「経営セーフティ共済」も、連鎖倒産から事業を守る制度として広く活用されています。現在、「小規模企業共済」は約172万人の方が加入されており、私どもの中核の事業となっています。とりわけTKC会員の皆様には制度の普及にご尽力いただいており、複数年にわたり委託機関の中で最多の成果を上げていただいています。
 事業承継においても経営者の最も身近な存在である税理士の役割は極めて重要です。親子間の承継や後継者不在といった課題は非常にデリケートであり、日頃から経営者に寄り添っているからこそ相談に応じることができます。私どもは全国47都道府県に「事業承継・引継ぎ支援センター」を設置し、小規模事業者の事業承継支援を行っています。TKC会員の皆様を始め税理士の方々から事業者をご紹介いただき、円滑な承継につなげていきたいと考えています。

 藤井 有事において、事業者が困難な状況に直面しても、資金繰りに窮することなく事業継続や再建に専念できる環境や支援体制の整備が重要と考えています。そこで本年3月、TKC全国会、株式会社TKC、日本公庫の三者で「危機事象発生における業務連携の覚書」を締結しました。その柱となるのが「プッシュ型の情報発信」と「災害ファストリンク」です。
 先日の令和8年熊本地震では、「災害ファストリンク」を活用した支援を行いました。被災したある運送業者は、倉庫の損壊や備品の破損によって資金繰りに支障を来しましたが、申込みから5営業日で融資を決定できました。事業者からは「被災直後の厳しい状況の中で迅速な支援を受けることができた」との声をいただいています。「TKCファストリンク」と「災害ファストリンク」を通じて、平時・有事を問わず迅速な支援を提供していきたいと考えています。

 宮川 有事への備えとして、私どもでは「事業継続力強化計画(BCP)」の認定制度を推進しています。現在の認定企業数は約10万社ですが、先の熊本地震でも、過去の災害経験を踏まえてBCPを整備していた企業から「大いに役立った」との声が寄せられています。BCPは策定して終わりではなく、経験や現場の声を取り入れながら継続的に見直していくことが重要です。また、災害時には助成金制度の活用も重要になりますが、被災直後は必要書類の準備に苦労する事業者も少なくありません。そのため私どもでは「復興支援アドバイザー」を配置し、相談対応を行っています。このアドバイザーにもTKC会員をはじめとする税理士の先生方にご協力いただくことが多くあります。助成金支援から日本公庫による資金支援まで、地域におけるワンストップの支援体制をさらに充実させていきたいと考えています。

全国ネットワークを持つ三者の強みを結集し、中小企業の役に立とう

 坂本 本日は、お二人から幾度となく税理士への期待の言葉を伺いました。私が税理士試験に合格したのは22歳の時ですが、率直に申して当時は今ほど税理士の社会的評価は高くありませんでした。それから時が経ち、国の重要な機関を率いるお二人から評価の言葉をいただけることは感慨深いものがあります。
 我々は、改めて襟を正し、中小企業一社一社に寄り添いながら、月次巡回監査、税理士の4大業務を実践していきます。日本の中小企業の発展のために、引き続き力強いご支援と連携をお願いします。

 藤井 TKC会員事務所が月次巡回監査を通じて経営助言を行い、その課題に応じて中小機構の多様な支援メニューを活用しながら日本公庫が資金面を迅速に支援する。このような各組織の強みを生かした連携体制が理想的だと考えています。事業者は経営支援から資金支援までをワンストップで受けることができ、事業承継や災害対応といった複雑な課題についても総合的かつタイムリーな支援が可能となります。
 三者はいずれも全国ネットワークを有しています。地域の実情やニーズを踏まえた連携を強化することで、地域特有の経営課題や災害リスクに対応した支援策を展開できるようになります。ワンストップかつ地域に根差した支援体制を充実させることで、多様化する中小企業の課題に的確に対応し、地域経済の活性化にも貢献できると確信しています。

 宮川 坂本会長がおっしゃるように、今から20年ほど前でしょうか、私が中小企業庁にいた頃は税理士の方々との連携という発想がなかったので、今のような実質的な連携の進展を心強く思います。日本の全法人の9割に関与する税理士の方々、とりわけ月次巡回監査を通じて企業に伴走支援されるTKC会員の皆様との連携が、中小企業の持続的な成長と発展には一層重要になってきていると感じます。このご縁をさらに深め、中小企業の役に立つ三者連携をさらに強固にしていければと思います。

(会報『TKC』令和8年11月号より転載)