対談・講演
日本経済の成長を支える中小企業金融の未来──金融機関と税理士の連携が地域企業を強くする
半沢淳一 全国銀行協会前会長 三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループCEO × 坂本孝司 TKC全国会会長
「中小企業の健全な育成」と「プロフェッショナル同士の連携」──。三菱UFJ銀行とTKC全国会が50年前に共有した理念は、現代において一層重要性を増している。日本経済の成長には、中小企業を支える金融機関と職業会計人の連携が欠かせないという共通認識のもと、全国銀行協会前会長であり株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ代表執行役社長兼グループCEOの半沢淳一氏と坂本孝司TKC全国会会長が、中小企業への伴走支援のあり方と中小企業金融の未来を語り合った。
進行 TKC出版社長 内薗寛仁
とき:令和8年8月26日(水) ところ:三菱UFJ銀行本店(東京丸の内)
「中小企業の健全な育成」という今なお重要性が高まる提携の原点
──本年は、三菱UFJ銀行とTKC全国会の業務提携50周年という節目の年です。また、半沢社長におかれましては、本年4月に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)のグループCEOにご就任されました。まずは抱負をお聞かせいただけますか。

半沢淳一
全国銀行協会前会長・
三菱UFJフィナンシャル・
グループ 取締役
代表執行役社長 グループCEO
半沢 ありがとうございます。就任にあたり、日本経済はデフレから脱却し、「金利ある世界」へと移行する大きな転換期にあることを実感しています。一方で、グローバルでは国家間・経済圏の分断に加え、AIの急速な進展など、私たちを取り巻く環境も大きく変化しています。私が長年、座右の銘としているのは「一念天に通ず」です。強い信念や一途な思いを持って取り組めば、困難な課題も必ず乗り越えられると信じています。
これからは、MUFGを成長志向のビジネスモデルへと一層進化させ、お客さまや社会の成長を一歩先回りして支える存在でありたい。挑戦を確かな成果へと結びつけることにこだわりながら、お客さまや社会の持続的な成長に貢献してまいります。
坂本 半沢社長、グループCEOへのご就任、心よりお祝い申し上げます。日本経済が大きな転換点を迎える中、その重責を担われることに大きな敬意を表します。業界のリーディングカンパニーであるMUFGがグローバル戦略を展開する一方で、国内中小企業の支援に力を注いでおられることは、我々税理士にとっても大変心強いことです。日本経済の持続的な成長は、地域に根差した中小企業の活力に支えられており、中小企業支援を重視されていることに大きな期待を抱いています。
──あらためて三菱UFJ銀行とTKC全国会の提携の原点にある考え方をお聞かせください。
半沢 提携の原点は、三菱グループ創設者・岩崎弥太郎のひ孫である、当時の三菱銀行の岩崎寛弥情報開発室長と、TKC全国会創設者の飯塚毅博士の出会いにあります。お二人は「中小企業の健全な育成こそが日本には必要である」「各職業人(プロフェッショナル)が相互に連携して初めて、経営に関する総合的なアドバイスが可能になる」と意気投合されたと伺っています。
この考え方は、現在でも十分通用するどころか、事業者ごとの課題解決や伴走支援が求められる今だからこそ、その意義がさらに高まっています。
また、TKC全国会が創設以来掲げてこられた「租税正義の実現」の理念のもと、正確な税務・会計を徹底してこられたことにも、金融機関として大いに信頼を寄せています。「極め」などTKC会員事務所の関与先企業さま限定の融資商品をご利用いただいていることも、相互の信頼関係の表れだと感じています。
さらに、TKC会員の皆さまには日頃からさまざまな場面で支えていただいています。例えば、弊社のお客さまの顧問税理士が突然廃業された際には、TKC会員紹介制度によって後任の税理士をご紹介いただき、お客さまが無事に期限内申告を終えることができたというケースもありました。
坂本 まさに、お二人の先達が共有された理念こそが、今日の提携関係の土台となっているのですね。
私はよく「自由主義経済社会の根幹にあるのは信用」と申し上げています。我々税理士は、日々の適時性および正確性が確保された会計帳簿の作成支援と巡回監査を通じて、企業の信頼性を高め、社会へ「無形の信用」を提供しているという強い自負を持っています。金融機関は、その信用を有形の融資という形で評価し、企業の成長を支えてくださっています。その信用と信頼の循環が、50年にわたる揺るぎない提携関係を築いてきたのだと考えています。
「日本成長戦略」に明記された「適時に、正確な会計情報」の意義と本質
──本年7月に閣議決定・公表された「日本成長戦略」には、「中小企業支援に資するよう、適時に、正確な会計情報等を企業・金融機関間で共有することを促す。」という文言が明記されました。これは坂本会長が「日本成長戦略会議」で提言された内容に基づくものですが、この点を含めた提言の趣旨についてお聞かせください。

坂本孝司TKC全国会会長
坂本 私が会議の場で最も強く申し上げたのは、日本の全法人約300万社のうち、売上高6億円以下の企業が全体の約92%を占めているという現実です。この最大のボリュームゾーンが元気にならなければ、日本経済の持続的な成長はあり得ません。
中小企業には、賃上げやDX、GX、人手不足への対応など、前向きな成長投資が求められています。しかし、現場には依然として「投資をするのが怖い」というデフレマインドが残っています。その不安を取り除き、成長投資を後押しするために提言したのが、「適時に、正確な会計情報」の重要性です。経営者と金融機関が企業の実態や将来性を正しく共有するには、信頼できる会計情報が欠かせません。ありがたいことに、この考え方は政府の「日本成長戦略」に盛り込まれました。
つまり、「適時に、正確な会計情報」が成長投資の出発点であり、中小企業金融を支える基盤なのです。
半沢 私も同じ問題意識を持っています。信頼できる会計情報があってこそ、金融機関は安心して企業の挑戦を後押しできます。デフレ期に染み付いた「投資をするのが怖い」というマインドから脱却し、日本経済が再び力強く歩み出すには、やはり成長投資の促進が必要です。
私は、日本全体が活力を取り戻すには中小企業が元気になることが大切だと考えています。中小企業の皆さまの前向きな挑戦を後押しすることが、金融機関にとって重要な役割だと思います。
全国銀行協会(全銀協)も、日頃から事業者との丁寧かつ継続的な対話を通じて経営課題を見極め、官民の様々な支援機関や専門家と連携しながら、金融・非金融両面から事業者の実情に応じた課題解決支援に力を注いでいきたいという方針を示しています。
今年3月、全銀協が事務局を務める「中長期的な金融仲介の在り方検討ワーキング・グループ」が取りまとめた報告書「我が国の産業成長を支える銀行の在り方」には、資金供給に加えて「企業との対話や経営戦略実現への伴走を通じて、競争力強化・経営の持続性の確保に資する企業の成長投資や、事業の再編・再生・承継を促進する」ことが、銀行の役割として明記されています。これからの銀行に求められるのは、単なる資金供給にとどまることなく、企業との対話と伴走を通じて、企業の自立的な成長と前向きな投資を支えていくことです。
坂本 おっしゃる通りですね。その対話と伴走を支える共通言語こそが「適時に、正確な会計情報」なのだと思います。
「情報の非対称性」の解消にMISは極めて有効なツール
──では、「適時に、正確な会計情報」は、具体的にどのような価値を持つのでしょうか。
坂本 企業の実態が正しく共有されて初めて、金融機関は適切な融資判断ができるようになります。そのため、企業と金融機関の間にある「情報の非対称性」を解消することこそが円滑な金融の出発点です。
TKC全国会では、月次巡回監査、中小会計要領の活用、書面添付制度等を通じて、会計帳簿ならびに決算書などの信頼性の確保に取り組んでいます。さらに、MIS(TKCモニタリング情報サービス)によって、金融機関へ適時に情報提供できる仕組みを実現しています。
半沢 金融機関から見ても、その点は非常に重要です。円滑な中小企業金融に資する「正しい融資審査」を行うためには、弊社に限らず正確な会計情報が不可欠です。しかし、現実には十分な情報が得られないケースも多く、「情報の非対称性」の解消は金融機関にとって永遠の課題ともいえます。そのため、MISは極めて有効なツールだと思います。
MISの「決算書等提供サービス」では、TKC会員の皆さまが確認された決算書等が、法人税の電子申告直後に電子データで共有されます。そのため、改ざんの余地がなく、私たちは企業の実態を正しく把握できます。
「月次試算表提供サービス」もありがたい取り組みです。継続的に月次試算表を提出いただける企業からは、日頃の管理体制の確かさがうかがえます。これは融資判断や継続的なモニタリングを行う上で、金融機関にとって大きな安心感につながります。
坂本 そのように評価いただけることを大変うれしく、また誇りに思います。
実際、日本政策金融公庫と連携して中小企業・小規模事業者への円滑で迅速な資金供給を支援するスキーム「TKCファストリンク」は、令和7年9月に創設後、融資金額100億円を超える実績を上げながら、令和8年6月末時点でデフォルトは1件も発生していないそうです。
これは、信頼できる会計情報が円滑な資金供給につながる好例だと思います。このように、日本全国の中小企業がより迅速・円滑に資金を調達できるスキームが、業界のリーディングカンパニーである貴行をはじめ民間の金融機関にも広まれば大変ありがたいですね。
半沢 そうしたスキームを支えているTKC全国会の取り組みは本当に素晴らしいと思います。また、「信頼できる会計情報」は中小企業にとっても欠かせないものです。特に昨今の物価上昇局面において、価格転嫁を進めるには、自社のコスト構造を正確に把握することが欠かせません。実際、詳細な原価管理を行っている企業ほど、価格転嫁に成功している傾向が見られます。原価管理の土台となるのが、日々の会計情報です。そのため、皆さまが支援されている適時性および正確性を確保した会計帳簿に基づく「管理会計」の重要性は、一層高まっていくと感じています。
坂本 まったくその通りですね。記帳代行では、昨今の物価高を乗り切るための価格設定は難しい。会社を強くする羅針盤こそが「会計」なのです。
半沢 自社の実態を正確に把握し、それを経営計画として金融機関と共有できていることは、現在導入が進められている企業価値担保権の前提にもなります。
全銀協では、企業価値担保権などの事業性融資の高度化に向けた取り組みを進めており、現場への実装に向けて、会員銀行の理解促進や事業者との対話支援を行ってきました。また、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」の改定では、平時からの中小企業者・金融機関間のコミュニケーションの重要性を示すとともに、実務上の取り扱いを明確化しています。
企業価値担保権の本質は、事業者との対話と継続的なモニタリングを通じて、企業の将来性や真の事業価値を見極めることにあります。これは「この企業を将来にわたって責任を持って支え続ける」という金融機関の意思表示であり、「情報の非対称性」を解消し、金融機関と企業との関係をより深めていくための制度だと考えています。
坂本 おっしゃる通りです。ただ、従業員10~50人規模の中小企業では、事業価値を評価する情報が十分でなく、そのまま適用するのが難しいケースもあります。そうした場合、月次巡回監査に裏打ちされた正確な会計情報と根拠ある経営計画がその信用を補完するのではないでしょうか。中小企業においては、社長の人間性や経営力そのものが最大の担保であり、それを裏付けるのが「適時に、正確な会計情報」だと考えています。
──そのような会計情報や経営計画の重要性は、中小企業に限った話ではありませんね。
坂本 企業規模を問わず、経営の見える化やガバナンスの強化は重要な課題です。TKCでは中小企業支援に加え、海外子会社の業績管理システムである海外ビジネスモニター(OBMonitor)、連結会計システム(eCA-DRIVER)、グループ通算申告システム(e-TAXグループ通算) などを通じて、大企業・中堅企業のガバナンス強化も支援しています。
貴行の「ビジクル(法人向け問題解決プラットフォーム)」を通じた連携でも実績が生まれていると伺っています。
半沢 優れたガバナンスは、もはや企業規模を問わない経営課題だと思います。TKCの強みは、優れたシステムを提供するだけでなく、TKC会員の先生方が導入から運用定着までシステムコンサルタントというかたちで伴走してくださる点にあります。こうした専門家との協働が広がっていることを、大変心強く感じます。
経営者・金融機関・税理士による「顔の見える関係」構築の重要性
──ここまで、会計情報を基にした信頼関係の重要性について伺ってきました。そうした信頼関係をベースに、これからの企業支援はどうあるべきでしょうか。
坂本 人口減少や後継者不足、人手不足など、地域企業を取り巻く課題は複雑化しています。もはや銀行だけ、税理士だけで解決できる時代ではありません。だからこそ、TKC全国会は、巡回監査を通じた経営助言に加え、経営者・金融機関・税理士の「顔の見える関係」の構築に力を注いできました。地域金融機関が地域密着の支援を担い、貴行は資金供給に加え、M&Aや海外展開、DX推進などの機能を発揮する。そこに職業会計人が加わることで、それぞれの強みを生かした伴走支援体制が実現できると思います。こうした「顔の見える関係」による連携が、中小企業の挑戦を支える大きな力になるのではないでしょうか。
半沢 そうした連携は重要だと思います。それぞれの強みを生かす役割分担が理想で、資金供給はもちろん、M&Aや海外展開支援、高度なDX推進を含めてお客さまの課題解決に取り組んでいきたいと思います。
そのためには、企業を深く理解することが欠かせません。その点、経営者に最も近い存在である職業会計人の皆さまには、「かすがい」として金融機関と企業をつなぐ役割を期待しています。月次巡回監査を通じて得られる正確な「定量情報」に加え、経営者の考えや現場の状況といった「定性情報」も共有いただければ、私たちも深い理解のもと、より良い伴走支援ができると思います。
坂本 そこが我々職業会計人の役割です。月次巡回監査は、「三現主義(現地・現物・現人)」に基づいて実施しています。毎月、企業を訪問し、事実認定を行い、経営者と直接向き合う。それによって、経営者の覚悟や企業の将来性、現場の実態といった定性情報を把握することができます。これはAIには決して代替できない役割だと思っています。
こうした情報を金融機関の皆さまと共有し、「顔の見える関係」を築くことが、企業への理解を深めることにつながっていきます。
その実践の一つが、TKC全国会が推進している「金融機関が同席する決算報告会」です。経営者と税理士のみならず金融機関も交えた三者が同席し、事業の現状や将来について話をします。ポイントは、税理士が数字を説明するのではなく、社長自ら数字を語るということです。赤字であればその理由を説明し、来期の目標を自らの言葉で宣言する。そうした場を通じて、経営者に強い当事者意識が生まれます。
また、実施先は金融機関と顧問税理士との間で十分に協議した上で選定することも重要です。そうすることによって実現可能性が高まり、成果にもつながるためです。
「金融機関が同席する決算報告会」は、経営者の覚悟を引き出し、金融機関との信頼を深める、最高の「顔の見える関係」の場だと考えています。
半沢 大変価値のある取り組みですね。経営トップ自らが会社の数字を十分に理解し、自らの言葉で説明することは、どの組織のトップにも共通する責務だと思います。私自身も投資家や社外取締役との対話の場に臨みますが、自分の頭に数字が入っていなければ、相手に伝わる説明はできません。
どれだけAIが進化しても、最終的に残るのは人の判断と対話です。経営判断をAIによる情報だけで行うことはできません。経営者が本当に求めているのは、数字だけでは見えない現場の実態や将来への示唆であり、最後は信頼できる人に相談したいと思うはずです。
経営者に寄り添い、現場を知り、職業会計人として経営者の決断を後押しできる税理士の皆さまの役割は、これからますます重要になると思います。その価値は、AI時代だからこそ一層高まっていくのではないでしょうか。
金融機関と職業会計人による業界の垣根を超えた協働を深めていこう
──最後に、お二人から全国1万2千名のTKC会員や全国の金融機関の皆さまへ、未来に向けたメッセージをお願いします。
半沢 TKC会員の皆さまは、中小企業の日常の数字を把握し、誰よりも中小企業を熟知しておられます。「税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)を完遂し、中小企業を元気にしよう!」という運動方針は、日本にとって非常に意義のある取り組みです。皆さまが日々実践されている月次巡回監査や経営助言は、経営者に気づきを与え、適切な経営判断を促す上で大きな力になっています。こうした活動が、成長投資への意欲を高め、意思決定を後押しし、日本を前向きに変えていく「成長ドライバー」になり得ると考えています。
日本は今後、さらに人口減少が進むことが予想されます。私たちは地域経済を支える中小企業への支援を着実に続けていかなければなりません。そのためには、金融機関と職業会計人が、それぞれの専門性を生かし、「業界の垣根を超えた協働」を一層深めていくことが重要です。
また、TKC全国会活動の中核である「黒字決算」と「適正申告」の支援は、金融機関にとっても極めて重要です。弊社に限らず、「黒字決算」と「適正申告」を歓迎しない金融機関はありません。日本経済の持続的な成長を支えていくためにも、これからも、職業会計人である皆さまとしっかりと手を取り合い、共に歩んでまいりたいと考えています。
坂本 半沢社長、本日は提携50周年という大きな節目に、中小企業支援の未来を考える上で、大変示唆に富むお話をいただき、誠にありがとうございました。「黒字決算」と「適正申告」を歓迎しない金融機関はない──というお言葉は、全国のTKC会員や中小企業経営者にとって大変心強いメッセージです。我々はこれからも、三現主義に基づく月次巡回監査を実践し、経営者に真摯に向き合い、「適時に、正確な会計情報」をもとに、その成長と発展に伴走してまいります。
金融機関と職業会計人が「顔の見える関係」を構築し、それぞれの強みを持ち寄り、中小企業の挑戦を支え続ける。そうした協働をさらに深めながら、日本経済の持続的な成長に向けて共に歩みを進めてまいりましょう。
(構成/TKC出版 小早川万梨絵)
半沢淳一(はんざわ・じゅんいち)氏
埼玉県立浦和高等学校、東京大学経済学部を卒業後、1988年三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。経営企画部長、取締役常務執行役員などを経て、2021年4月取締役頭取に就任。2022年および2025年、全国銀行協会会長に就任。現在、三菱UFJフィナンシャル・グループ取締役代表執行役社長兼グループCEO。








