対談・講演
月次巡回監査の実施関与先増加に全力を尽くそう!
飯塚真規 TKC代表取締役社長 × 坂本孝司 TKC全国会会長
2026年、税理士業界はデジタル化や人材不足への対応など大きな転換点を迎えている。坂本孝司TKC全国会会長と飯塚真規TKC社長が、月次巡回監査を中心とする「会計事務所の経営革新」の意義と展望を語り合った。
進行 本誌編集長 加藤恵一郞
とき:令和7年11月13日(木) ところ:横浜ベイホテル東急
急速なデジタル化で進展する会計事務所の「二極化」
──本日は、坂本孝司TKC全国会会長と飯塚真規TKC社長に新春対談をお願いしました。まず、お二方にとって2025年はどのような年でしたか。
坂本孝司TKC全国会会長
坂本 TKC全国会では昨年の1月、向こう6年間の骨太の運動方針を発表しました。その柱は「月次巡回監査の徹底」、言い換えれば、関与先企業の「月次決算体制の構築」です。これは時代に即した方針であり、初年度は概ね順調に滑り出したと考えていますが、まだ実態が十分に追いついていないのが現状です。
振り返れば、TKC全国会が1971年に発足してから55年、月次巡回監査の徹底は基本中の基本として受け継がれてきました。しかし、その間には幾つかの転換点がありました。
第1は、全国会発足当初から初代会長の飯塚毅博士が「巡回監査を絶対に行うべし」と提唱して、TKCの三枚複写伝票や会計日記帳などを活用して関与先企業側での仕訳を進めたこと(起票代行業務からの脱却)。第2は、昭和63年に、飯塚真玄TKC社長(現名誉会長)のもとで「戦略財務会計システムFX1」(当時)が完成し、関与先企業の自計化を強力に推進したこと。これが自計化の大きなイノベーションとなって、今日まで続いています。そして第3は、急速なデジタル化の流れの中で、月次巡回監査への対応を含めて会計事務所の「二極化」が進んでいるということです。
──「二極化」について、詳しく伺えますか。
坂本 一方は、会計事務所内だけのDX化に主眼を置き、記帳代行や起票代行をデジタル化して大量の顧客を獲得しようとするグループ。もう一方は、関与先企業に対してもDXを推進して、シームレスで一気通貫のクラウドシステムにより事務所内の生産性向上と同時に高付加価値サービスを提供しようとするグループです。
前者は、目先のニーズに応えるため顧客側が受け入れやすく、若い世代の税理士も飛びつきやすい。しかし、経営者に対し会計リテラシーの向上など啓蒙を行わず、領収書や通帳を預かって入力代行するのが中心なので、常に税理士法違反(真正の事実への準拠義務・相当注意義務違反)による懲戒処分に怯えながら業務を行い、経営助言も形だけにならざるを得ない。後者は、「会計で会社を強くする」ことを経営者に対してしっかりと理解を図ることで、記帳(入力)は関与先企業で行ってもらい、月次の巡回監査を徹底して実施し、その上で税理士の4大業務(税務・会計・保証・経営助言)を実施するという取り組みです。つまり不死身の事務所経営です。こうした「二極化」の戦いがすでに始まっているのです。
飯塚 おっしゃる通り、コロナ禍終盤に電帳法が改正され、電子取引やスキャナ保存が可能になりました。また、AI‐OCR等の急速な進化もあいまって、「情報化社会に対応し、国税の納税義務の適正な履行を確保しつつ納税者等の国税関係帳簿書類の保存に係る負担を軽減する」という電帳法の目的を曲解され、起票代行を効率化しようという動きが加速してしまいました。確かにこの動きは会計事務所内の負担軽減にはなるかもしれませんが、「関与先企業から評価されるのか?」と考えると、そうはならないだろうと思います。
一方、自計化を進めることで、関与先企業が業績管理を行えるようになり、月次決算体制の構築など付加価値が生まれます。業績が「見える化」して、それにより金融機関との連携も強化されるなど、会員先生方が関与先企業から感謝されることになるわけですから、ITをどう使うかはまさに「諸刃の剣」と言えます。
先ほどの坂本会長のお話を伺っていて、「もし、平成元年にFX2がなかったら」と想像すると「ぞっ」としました。当時から会計事務所主導による自計化推進の運動があったからこそ、税理士業界の今のポジションがあるのではないでしょうか。TKCとしては、法律の改正やITの急速な進化に対応しながら、関与先企業の経理事務の効率化を図ると同時に、会員先生方が経営助言業務に時間を投入できるようなシステムを開発・提供していきます。2026年はまさにその転換期であり、今後はTKC全国会の運動方針と一層歩調を合わせていきたいと思っています。
世代交代が進む中でモデル事務所のノウハウを共有できる流れをつくる
──現在、推進しているTKC全国会の運動方針は「会計事務所の経営革新税理士の4大業務を完遂し、中小企業を元気にしよう!」と掲げられています。改めてその狙いについて教えてください。
坂本 この方針は、決して目新しいことを打ち出しているわけではありません。要するに、税務・会計・保証・経営助言という税理士の4大業務を巡回監査の徹底によって実現することであり、その基盤にはTKCシステムの活用があるということです。この仕組みをモデルとして、全国の会員事務所に浸透させることが運動の狙いです。
ここでカギとなるのは、やはり月次巡回監査の徹底です。従来はその「率」を目標にしていましたが、私は以前から「率の運動は効果的とは言えない」と申し上げてきました。本質は「どれだけ実施しているか」というその結果により「社会の納得」を得ることにあるはずです。そこで、目標を「率」から「件数」に変更しました。しかし、現状では件数が足りていません。とはいえ、ここで諦めるわけにはいきません。今は各事務所が方針を理解し、体質を変えていく段階です。TKC全国会とTKCの力をより結集し、力強くその支援をしていくことが重要です。そうすれば、月次巡回監査の実施関与先の件数は確実に増えていくと信じています。
──飯塚社長は、クラウドを活用した会計事務所と関与先企業の生産性向上に貢献し、この全国会運動方針の実現を目指す会員先生方を全力で支援しますと述べられています。手応えはいかがですか。
飯塚真規TKC社長
飯塚 質問に回答する前に、世代的な変化について、一点触れておきたいと思います。それは、TKC全国会による「成功の鍵(KFS)作戦21」の開始から25年が経過し、その間に会員事務所の約半分が入れ替わっているということです。10年前までは年間約180事務所、それ以降は年間約350事務所が新規入会しています。
このように世代交代が進む中で、入会25年未満の会員先生方に対して、改めて税理士法第45条が要請する巡回監査の必要性と月次決算による黒字化支援に関する啓蒙を強化する必要があると考えています。モデルとなる事務所のノウハウを『TKC会報』や、オンデマンド研修で広く共有して、他の事務所の参考になるような流れをつくっていければ、必ず成果は現れるのではないでしょうか。
また、クラウド化の進展については、すでに望ましい変化が現れています。クラウド化すると、「365日変動損益計算書」や「得意先順位月報」などを使って、自社の業績を確認する社長が増えていきます。これは、「自社の業績をいつでも確認して経営に活かせる」環境が整ってきたからです。こうした変化をさらに後押しするため、FXクラウドシリーズの利用率を自計化システム全体の5割から6割、さらに8割へと拡大していかなければなりません。「会計事務所の指導のおかげで自社の業績がすぐに確認できる」という評価が定着し、結果として会員事務所に対する関与先の社長さんからの評価が高まっていくと良いですね。
──それにしても25年で会員事務所が半分入れ替わっているという状況は驚きです。
坂本 そうですね。TKC全国会の運動方針に沿った会計事務所経営を、入会したばかりの若い会員先生方が最初から本格的に取り組むのはハードルが高い場合もあります。ですから、これまで以上に手厚いフォローをしていかなければなりません。
「巡回監査」は相当注意義務履行の証左税理士の4大業務完遂の基盤にもなる
──坂本会長は本誌2025年11月号の巻頭言「月次巡回監査と全部監査──『全部監査の効率的実施体制構築』の本質」で、なぜ月次巡回監査が必要なのかを明らかにし、その実施関与先を増やす意義を詳しく論じられています。ポイントを教えてください。
坂本 TKCに入会すると「巡回監査が義務になる」と誤解される方がいるようです。しかし、『TKC会計人の行動基準書』を含めてどこにも「義務」とは示されていません。
月次巡回監査には、「税務当局による行政処分への備え」と「関与先企業からの損害賠償請求への備え」という二つの側面があります。つまり、税理士に求められる相当注意義務を履行し、事実関係究明義務を果たすためには、たとえ税理士法に明文規定がなくても、全部監査(精密監査)を行うべきである、ということです。さらに、月次巡回監査の履行は、税理士法上の相当注意義務履行の証左となるだけでなく、税理士の4大業務の基盤にもなります。まず、このことをしっかり理解していただきたいのです。
一方で、働き方改革やDXの進展により、人間関係が急速に希薄になっています。例えば、地域金融の現場では、金融機関担当者が融資先経営者と直接会う機会が激減し、フェイス・トゥ・フェイスの関係(顔の見える関係)が失われつつあります。金融庁もこの状況を危惧していますが、われわれの業界も似たような状況に陥っているのではないでしょうか。
しかし、物事には「振り子」のような揺り戻しがあるものです。必ずまた、人と人との「顔の見える関係」構築が強く求められる時が来ます。今は逆風ですが、そこを信じて取り組むしかありません。そのためにも、相当注意義務違反に問われる案件が増えていることや、税理士の4大業務を実施するには月次巡回監査を通じて数字を的確に把握できる経営者を増やしていかなければならないことを、言い続けていきたいと思っています。
──その部分を強調しないと、月次巡回監査の実施関与先増加にはつながりませんね。飯塚社長は昨年10月の全国会理事会で、「月次巡回監査と一気通貫は会員事務所の生産性を向上させる」として、決算開始から法人税計算までの日数差や残業時間削減効果、翌月巡回監査率が高い事務所へのヒアリング結果などを報告されました。ポイントを教えてください。
飯塚 会計事務所に限らず、労働人口が減少する中で人材確保は極めて困難になってきています。したがって、一人当たりの生産性を上げなければ、事業の継続も新規顧客の受け入れもできません。生産性向上が喫緊の課題となる中で、「スキャナ保存をして記帳代行を簡略化する」という発想を持つ会計事務所がありますが、TKCのアプローチは「固定費をどこまでデジタル化で削減できるか」という考え方に立っています。
事務所内で一定の業務時間を占めるのは決算・申告作業です。そこで、TKCシステムの利用実績を分析したところ、決算処理のスピードにおいて、翌月巡回監査率と一気通貫割合の高い事務所とそうでない事務所で5営業日以上の差があることがわかりました。2カ月間のうちの5営業日ですから全体の8分の1にも相当します。このように生産性の差は極めて大きく、事務所が「二極化」していることが明らかです。
生産性を高めなければ、新しい取り組みも始められません。自動仕訳を導入しようとしても、職員さんからすれば「手いっぱいでその余裕がない」となってしまいます。一方、一気通貫を実現している事務所は、すでに高い生産性を達成しています。そこで、巡回監査や決算監査の具体的なプロセスを先行している会員先生方へのヒアリングで明らかにして、それを分かりやすくお伝えすることで、他の事務所による同様の取り組みに役立てていただきたいと考えています。
「高付加価値経営」をキーワードに理念で結束するTKC会員事務所へ
司会:本誌編集長
加藤恵一郎
──2026年は、中小企業を支える税理士にとって、未来を切り拓いて飛躍するための基礎固めの年になると思われます。この重要な局面で、TKC会員には何が最も必要でしょうか。
坂本 FXクラウドによる自計化は順調に進展し、インフラは着実に整いつつあります。しかし、月次巡回監査の実施関与先が増えていないことは、大きな課題です。
TKC全国会運動方針の第1フェーズ最終年である今年は、クラウド化と巡回監査をセットで力強く推進し、基礎を固めることが重要です。これが実現すれば、TKC会員のトップランナーが実践している「税理士の4大業務」を基とした「高付加価値経営」が必ず実現できるようになります。
さらに、社会全体でも税理士によるクラウド化やDX推進への理解が進み、法制度も整備されています(税理士法第2条の3)。追い風が吹いている今こそ、迷わず取り組んでいかなければなりません。
──第1フェーズを終え、次なる第2フェーズを実りある運動にするためにも、「高付加価値経営」がキーワードになりそうですね。
坂本 その通りです。TKC全国会では今年、「『高付加価値経営』検討プロジェクト」(仮称)が始動します。これは、単に利益を追求するのではなく、専門家としての責任を果たし、法的防衛を図りながら、税理士の4大業務を完遂し、「高付加価値経営」を実現することを目的としています。
イメージとしては、関与先企業1,000件の大規模な記帳代行型事務所(低顧問料・低賃金)ではなく、月次巡回監査を100件~150件実施する標準的なTKC会員事務所にまず焦点を当てるということです。関与先企業100件の事務所が10拠点あれば1,000件、20拠点なら2,000件の規模になります。TKC全国会は強固な組織体であるわけですから、会員同士が同じ理念で結束すれば、全国ではもちろんのこと、地域でもブランド力を存分に発揮できます。
──今のお話を受けて、AIの活用を含めて飯塚社長の考えをお聞かせくださいますか。
飯塚 まず、付加価値とは何かを明確にする必要があります。財務的には、売上から外部購入原価を差し引いたものが付加価値。つまり、限界利益に近い概念とされています。そのため、事務所経営に置き換えれば、限界利益率をどこまで高めるかという議論になります。付加価値を増やすには、売上を上げるか変動費を減らすしかありません。また、生産性は「付加価値÷労働量」で表されますので、付加価値を増やすか労働量を減らすか、あるいは規模を拡大しながら固定費を分散して生産性を高めるか、というアプローチになります。この整理ができれば、システム活用の方向性も明確になります。そうすれば、「この指標に合致する事務所はこういう取り組みをしている」「こうすれば生産性が上がる」という具体的な提案も可能となります。
そしてAIの活用については、会員事務所と関与先企業双方の生産性を高めるためのツールと位置付けて、昨年末にパイロット版の提供を開始しました。
──最後に、お二方から会員へのメッセージをお願いします。
飯塚 TKC全国会の運動方針を踏まえ、会員事務所が競争優位なポジションを確立できるよう支援します。具体的には、次世代の継続MASの充実などにより業績を「見える化」することで、会員事務所が関与先企業から評価され、信頼される仕組みを強化していきます。
また、FXシリーズとOMSをクラウドで連携させ、会員事務所と関与先企業の業務を一体化することで、生産性をさらに高めます。加えて、こうした取り組みを多くの経営者に届け、会員事務所が選ばれるマーケティングを展開します。税理士業界全体にもPRし、記帳代行型事務所との差別化を図る取り組みを進めていきますので、ぜひご期待ください。
坂本 TKCシステムは、「高付加価値経営」を実現するために大きな力を発揮します。しかし、これまでわれわれの運動が内部に偏り、「社会の納得」を得る努力が足りなかったことは反省点です。組織は放っておくと内向きになりがちで、外部の変化に対する感受性が低下し、内部の論理が優先される傾向があると言われます。今後は、政界・官界・学界・経済界(とりわけ金融機関)などへの認知をさらに広げ、TKCとTKC全国会のブランド価値を高めることに全力を注ぎます。
TKC会員の皆様による日々の努力は決して無駄にはしません。税理士の未来のために、「会計事務所の経営革新」に一層チャレンジしていきましょう!
(構成/TKC会報編集室 古市 学)
(会報『TKC』令和8年1月号より転載)








