対談・講演

「決算報告会」を通じて金融機関と税理士の連携強化を

鼎談「顔の見える関係」企画

加藤貞則 中国銀行頭取 × 坂本孝司 TKC全国会会長 × 安部知格 TKC中国会会長

岡山県岡山市に本店を構える中国銀行は、今年3月にTKC会員関与先限定の提携融資商品を大幅にリニューアルし、中小企業の成長・発展に向けてTKC中国会との連携強化を進めている。中国銀行の加藤貞則頭取を坂本孝司TKC全国会会長が安部知格TKC中国会会長とともに訪ね、中小企業の金融円滑化に向けた取り組みを語り合った。鼎談には、中国銀行の山縣正和取締役常務執行役員、地元岡山県支部幹部会員も同席した。

進行 TKC出版社長 内薗寛仁
とき:令和7年5月9日(金) ところ:中国銀行本店

左から、安部知格 TKC中国会会長、坂本孝司 TKC全国会会長、加藤貞則 中国銀行頭取

決算書に求めるのは経営者の「誠実さ」

 ──本日は、中国銀行の加藤貞則頭取をお訪ねして、坂本孝司TKC全国会会長、安部知格TKC中国会会長とともに、中小企業の金融円滑化に向けた取り組みを中心に語り合っていただきます。

 坂本 地域会会長を交えての金融機関トップとの鼎談企画の第一弾として、加藤頭取にご登場いただけることになり、とても光栄です。

 安部 このような機会は貴重なものですから、地元中国会岡山県支部の幹部会員も同席させていただきます。

 加藤 こちらこそ、よろしくお願いします。

 ──まず始めに、加藤頭取が中国銀行に入行されてからのご経歴について伺えますか。

 加藤 20代の頃は、主に営業店で働いていましたが、30歳前にロンドンへ行きました。当時、ロンドンにはかつての日本興業銀行の現地法人があり、そこでユーロ債の発行市場を半年間研究するよう任命されました。

 坂本 その現地法人は、いわゆる「シティ(金融街)」の中にあったのですか。

 加藤 そうです。ただ、ロンドンに着いてから1週間後にブラックマンデー(1987年発生の世界的株価大暴落)が起こりました。発行市場は完全に冷え込みましたが、一方で国際金融ならびに社会全般について、大変貴重な経験をさせていただきました。その後、国際部東京分室で国際金融業務に3年ほど従事した後にMBA(経営学修士)を取得するために2年間、アメリカのシカゴ大学経営大学院へ留学しました。

 坂本 シカゴ大学といえば金融論の分野で非常に強い影響力を持っています。私からすると、その当時に上層部の期待を背負って海外留学されるとは羨ましい限りです。

 加藤 2000年代に入ってからは、営業企画部門の次長、および鴨方支店・岡南支店2か店で支店長を務め、システム部長や取締役人事部長などを経て今日に至っています。
 これまでのバンカーとしての仕事を振り返ってみると、現場と本部に約半分ずついたことになります。

 坂本 最初は現場を経験されたということですが、入行は何年のことですか。

 加藤 昭和56年(1981年)です。

 坂本 私が25歳のときに浜松で会計事務所を開業したのが昭和54年でしたから、ちょうど同じ頃ですね。当時、関与先経営者の一部には、「金融機関の支店長さんから決算書を確認したいと頼まれたので見せてもよいか」と聞くと、「融資を断られるからいやだ」という反応がかえってきて、情報公開の重要性を説得してから提出するということもありました。しかし、それから40年以上経って、経営者の意識も相当高まってきました。業績に関係なく金融機関に対して情報公開すべきであるし、そのほうが気持ち的にも楽だというケースがごく普通になってきています。

 加藤 お客様との距離が縮まって、裏表がなくなってきたということですね。銀行としても、たとえ業績が悪くても隠し立てせずにありのままの姿を見せてほしいです。そうした経営者の「誠実さ」が何よりも大切なことだと思います。

 安部 坂本会長がいつも言われているように、関与先(融資先)企業と金融機関、そして会計事務所がトライアングルで「顔の見える関係」を構築することがますます重要になってきます。それを基盤として、地域経済に貢献をしていきたいと考えています。

 加藤 同感です。

TKC会員関与先限定の融資商品をリニューアル

中国銀行

中国銀行の概要
本店所在地:岡山市北区丸の内1丁目15番20号
資本金  :151億円
創立   :1930年(昭和5年)12月21日
従業員数 :2,665名(出向者を除く)
店舗数  :国内136か店(本店、国内支店126など)
主要勘定 :(2025年3月31日現在)
 預金残高   8兆2,822億円
 貸出金残高  6兆6,019億円
 有価証券残高 2兆7,749億円

 ──これまでの中国銀行とTKC中国会との連携の歴史について教えていただけますか。

 加藤 私の若い頃、融資判断においては、財務情報・経営者・工場などの現場状況・業界動向等が重要と教育されていました。しかし、お客様の中には、財務情報が極めて簡単なものや粉飾事例もあったように思います。特に現場から離れた融資部が決裁する上では、決算書などの財務情報の信頼性や正確性が高まることは重要です。融資先の件数が増えるほど、そうした信頼性などが一層望まれるようになりました。
 そのような状況の中で、2013年にTKCの岡山県支部会員関与先限定の融資制度として「ちゅうぎんビジネスローン(TKC口)」を提供することになりました。翌年の2014年には、相互連携の強化と関与先企業と地域の発展に貢献することを目的として、TKC中国会と中国銀行で包括協定書を締結しました。それ以降、実務者協議会や金融交流会を繰り返し開催し、2024年の秋の協議会では、TKC会員の皆さんが注力している取り組み(継続MASを活用した予算登録や「TKCモニタリング情報サービス」の利用など)を活かした連携について提案があり、「ちゅうぎんビジネスローン(TKC口)」の大幅なリニューアルをいたしました。

 安部 TKC中国会との連携強化に踏み切ってくださり、あらためて感謝いたします。現在、TKC全国会には127の支部があるのですが、その中で岡山県支部の結束力は群を抜いています。実際に、支部活性化のバロメーターの一つである所属会員による支部例会参加率において、会員数100人以上の大規模支部にもかかわらず全国1位の成果を挙げ続けており、とてもパワフルな地域です。私の所属は広島支部なのですが、昔から岡山県支部に追いつけ追い越せということを合言葉として、さまざまな施策に力を注いできました。したがって、この度の提携融資商品の大幅なリニューアルは、岡山県支部のみならず中国会全体を活気づけることに大いに役立っております。

米国では一流会計事務所のサインに権威と信用力がある

ちゅうぎんビジネスローン(TKCロ)


(クリックで拡大します)

 ──お話を伺って、これまで長年の交流を経て御行が岡山県支部のTKC会員に対し、高い信用力を評価されていることが良く分かりました。その具体策の一つとして「ちゅうぎんビジネスローン(TKC口)」のリニューアルがあると思いますが、その狙いなどをいま一度教えていただけますか。

 加藤 ご融資の金額を3,000万円以内から5,000万円以内へ増額し、金利優遇条件もそれまで0.3%だったものを最大0.7%へ引き上げました。さらに、資金繰りの支援につながる当座貸越も追加しました。ただし、ご利用には、「TKCモニタリング情報サービスを利用して月次試算表を半期サイクルで提出」「継続MASシステムで作成した経営計画の提出が可能」「『記帳適時性証明書』の◎項目が直近の決算期に6個以上」などの条件を満たす必要があります。
 この条件をすべて満たすこと自体が、お客様の財務情報の信用性を高めることにつながります。その信用性に基づき、より有利な金利でお客様の業務を金融面で支えることができるので、まさしく理想的な取り組みといえます。

 山縣 いま、金融業界は金利競争に陥りがちで、融資商品で他の銀行と差別化するというのはなかなか難しい状況です。しかし、岡山県支部のTKC会員の関与先企業であれば、決算書の信用性や信頼性、正確性が高く、月次試算表も迅速に提出いただける利点があります。
 さらに、皆さんは黒字化支援など経営者に寄り添いながらさまざまな助言もしていると聞いています。規模の大小を問わず、通常の企業より信用力が高いと考えているので、当行にとっても有益な取り組みだと捉えています。

 坂本 融資金額の多寡も金利優遇の条件も、結局のところ目に見えない信用力を考慮してくださっている結果です。その分TKC会員は関与先企業に対して襟を正して厳しい態度で接しなければなりません。お二人のお話を伺って、アメリカでの経験を思い出しました。
 いまから三十年以上前、TKC全国会初代会長の飯塚毅博士によるニューヨーク大学での講演を聴講しに行ったときのことです。当日、講演会場に向かうために宿泊先からチャーターされたバスに乗り込み、日本人相手のガイド会社を経営しているという添乗員さんに「観光案内は結構ですから、アメリカの会計事務所の話を聞かせてほしい」とお願いしました。すると添乗員さんは「勉強熱心ですね」と言いつつ、次のように話し始めました。
「私の会社は従業員5名程の規模ですが、最近、会計事務所を変えました。それまでプライスウォーターハウスに頼んでいましたが、顧問料は高いし、指導は厳しいし、融通は利かないし…。それで個人経営の小さな会計事務所に変えたら、顧問料は安いし、ある程度の誤魔化しは見逃してくれる…。何より融通が利くのが良い」と。これを聞いて内心腹を立てていましたが、彼はこう続けたのです。「でも最近、プライスウォーターハウスを断ったことを反省しています。ウチのような小さな会社でも、銀行からローンを借りなければならないことがあります。その際、以前なら会計士のサインが入った税務申告書を銀行に持っていけば、すぐに審査が通りました。ところがいまは、やれこの会計士は誰なのかとか難癖をつけられ、挙げ句の果てに窓口で追い返される始末です。審査にすら進めない。つくづくプライスウォーターハウスに見てもらっていた頃のほうがよかったなと悔やんでいるのです」
 これを聞いて私は、「やはり一流の会計事務所のサインには権威と信用力があるのだ。アメリカのように日本もいずれ、これに近い状況になるに違いない。帰国したら将来に備えて所内体制を再構築しよう」と心に決めたのでした。こうした状況はいまや日本でも起き始めています。会計事務所に対して、関与先企業の決算書や税務申告書の信頼性を保証する役割がより強く求められる時代に変わってきました。

 安部 現在、TKC全国会では全国各地で地元金融機関と協議会や交流会を活発に開催しています。TKC会員事務所の理念や業務品質を全国の金融機関にご理解いただくことによって、アメリカと同様、各金融機関との間に強固な信頼関係を構築することを目指しています。その好例として、今回の中国銀行と私どもTKC中国会の連携の取り組みを全国に広げていきたいと思います。

「決算報告会」を通じて取引先と関係強化

 ──TKC会員事務所では、中小企業の実態に即して、経営者が活用しようと思える、理解しやすく、自社の経営状況の把握に役立ちかつ金融機関など利害関係者への情報提供に資する会計である「中小会計要領(2012年2月公表)」を活用して、信頼性の高い決算書を作成することに日々努めています。具体的には、『中小会計要領に関するチェックリスト』などを決算書に付けて金融機関に提出しています。ただ、残念ながら、未だ金融機関による中小会計要領への理解が浸透しているとは言えない状況です。極端な事例ですが、資産の時価評価が行われていない決算書に対し、「これは粉飾では?」といった見解を示す金融機関があることも事実です。そうした誤解や誤りをなくしていきながら、さらに今後、企業を支える金融機関と税理士との連携をより深めていくために、関与先企業の年度決算期終了後にそれらの決算書などをもとに開催している「決算報告会」に、対象先を選定の上、金融機関の皆様にも参加していただきたいと考えています。

 安部 中小企業とそのステークホルダーである地域金融機関との信頼関係を「中小会計要領」による決算書等を通じて強固にし、中小企業を取り巻く関係者間の「顔の見える関係」構築に貢献したいとの思いがあります。そのためにも、ぜひ中国銀行の皆様とも実施できればありがたいと考えています。

 加藤 それは素晴らしいことだと思います。当行を通じてTKCモニタリング情報サービスを利用されているのは、現在、3,100件を超えています(地方銀行・第二地方銀行全国第6位)。「ちゅうぎんビジネスローン(TKC口)」を実行した後の期中管理としては、融資実行時に定めた周期で試算表を同サービスによって自動受領することと、毎年3者(融資先・TKC会員税理士・営業店)で決算期末から原則4か月以内に「業況報告会」を開催することをお願いしています。この「業況報告会」では、次年度の継続MASで策定した経営計画を提出いただいて、決算概要と来期の見通しを銀行へ報告することとしており、そこでは税務や会計の専門家の視点も加えて対話ができるので、我々が参加するのは非常に有益ではないかと思います。この「業況報告会」は、いまお話があった「決算報告会」と同じ内容と思われます。

 坂本 ありがとうございます。加藤頭取による「業況報告会(決算報告会)」のお話を伺い、まさにわが意を得た思いです。ここで重要なのは、金融機関の皆様も人手不足という喫緊の課題を抱えている中で、金融機関との「決算報告会」の対象は、全ての関与先(融資先)企業ではないという点です。例えば、融資先で特に気になる企業や、融資取引はないものの、より関係を強化したい優良企業等に絞って、顧問税理士と一緒に参加いただくことを想定しています。そこでは腹を割った対話をして、定量要因も定性要因も一挙に情報共有してしまえば、効率よく伸びる会社をより伸ばしていける支援が一緒にできる気がしています。

 山縣 先ほどお話があった時価評価についてですが、確かに内部評価基準に基づき決算書を見直すことはあります。ただし、それは業績不振で先行き不透明な企業など限定された融資先についてなので、「中小会計要領」に基づく信頼性の高い決算書を提出いただけるのは当行にとっても大変ありがたいことです。また、ご提案のあった対象を選定した上での「決算報告会」への参画については、当行にとって非常に有意義な機会となります。
 また、TKC会員税理士の側から一方的に紹介いただくだけではなく、現地の支店や本部を通じて、当行からも「この関与先企業の決算報告会に参加させてほしい」というような申し出に対応いただければ、想像以上に活性化した取り組みになると考えます。

 安部 一挙に進めていきたいですね。

 山縣 ぜひとも前向きに取り組みましょう。

「豊かな未来を共創する」ためTKC会員の力を借りたい

鼎談を終えて、加藤頭取と坂本会長を囲んで

出席者(敬称略)
◎中国銀行
加藤貞則 取締役頭取
山縣正和 取締役常務執行役員
岡﨑真宏 コンサルティング営業部部長
鵜川裕司 コンサルティング営業部次長
◎TKC全国会
坂本孝司 会長
◎TKC中国会
安部知格 会長
宇野元浩 副会長
江見匡史 岡山県支部長
井原祥雅 中小企業支援委員長
◎TKC
福井貴英 中四国統括センター長
松本祥彦 TKC全国会事務局課長

 ──中国銀行は、2030年に創立100周年を迎えると伺っています。これからの地域金融機関が果たすべき役割を含めて、加藤頭取の抱負をお聞かせください。

 加藤 中国銀行を始めとする、ちゅうぎんフィナンシャルグループでは、経営理念として「地域・お客さま・従業員と分かち合える豊かな未来を共創する」を掲げています。これが社会で果たすべき使命であり、存在意義でもあります。これからもこの理念に沿って、地域社会、お客様、従業員とともに成長・発展していきたいと考えています。
 他方、昨今の地域社会を取り巻く環境・社会課題は急速な変化を遂げています。労働人口減少に伴う事業の後継者や労働者の不足、デジタル化の急速な進展、地球環境問題に対する世界的な取り組みへの対応など、地域社会やお客様が抱える課題は複雑化・多様化しており、今後もこの傾向が強まり続けるでしょう。放置すれば状況が悪化しますので、こうした課題には正面から向き合って解決する姿勢が求められます。そのためには、お客様との「情報の非対称性」を極力少なくすることが最も重要です。
 これからも「豊かな未来を共創する」ための取り組みを加速させてまいりますので、TKC会員の皆様にもお力添えをお願いします。

 安部 今日お伺いした、地域金融機関と税理士が連携したより具体的な取り組みを通じた「顔の見える関係」構築の重要性を中国会はもとより全国へ波及させてまいります。

 加藤 そのためにも我々銀行も税理士の皆様もなすべきことがたくさんありそうですね。

 坂本 おっしゃる通り、なすべきことは限りなくあります。だからこそ、地域金融機関と税理士がお互いの力を出し合える部分をしっかり見極めて、共通の願いである中小企業の成長・発展に向けて、全力を尽くしていきたいと思います。

(構成/TKC出版 古市 学)

加藤貞則(かとう・さだのり)氏

1957年岡山県倉敷市生まれ。1981年早稲田大学政治経済学部卒業、中国銀行入行。1993年米・シカゴ大学経営大学院修了、鴨方支店長、岡南支店長、システム部長など。取締役人事部長、常務取締役、代表取締役専務を経て2019年頭取、2022年ちゅうぎんフィナンシャルグループ取締役社長に就任。

(会報『TKC』令和7年6月号より転載)