対談・講演

「中小会計要領」制定までの変遷と今後の展望

坂本孝司 TKC全国会会長 × 三井秀範 東京大学法学部 大学院特任教授

中小企業の経営力や資金調達力の強化に不可欠な「中小会計要領」。元金融庁企画市場局長(旧検査局長)を務めた三井秀範氏(東京大学法学部・大学院法学政治学研究科特任教授、弁護士)と坂本孝司会長との対談では、2002年3月に「中小企業の会計に関する研究会」が発足し、2012年2月に中小会計要領が制定されるまでの変遷、その間の日本企業へのIFRS導入検討の経緯などについて語り合われた。

司会 TKC会報副編集長 内薗寛仁
とき:令和2年9月7日(月) ところ:TKC東京本社

巻頭対談

学生時代、大蔵省(現財務省)時代に財務会計論を学び、税を研究テーマに留学

 ──三井様には金融庁で検査局長をお務めの2016年10月にTKC全国会理事会でご講演いただき、また翌2017年に『TKC会報』4月号にご寄稿いただきました。早速ですが、大学卒業後に大蔵省(現財務省)に入省されたきっかけやこれまでのご経歴についてお話しいただけますか。

三井秀範氏

東京大学法学部 大学院特任教授
三井秀範氏

 三井 昔は今と違って就職活動はのんびりしていました。8月中旬頃から官庁訪問を始めた記憶があります。大蔵省は最初に訪問しましたが、ある先輩の「いろんな役所を見たほうがいい」というアドバイスもあり、その後も通産省や自治省など八つか九つくらいの役所を訪問しました。
 2、3週間くらいかけて一通り官庁訪問をし終え、2度目に大蔵省への訪問を行うと、「今まで何してたんだ」「随分のんびりしたやつだな」などと言われましたが(笑)。昭和50年代の石油ショックの後で経済の成長が相当鈍化しているなか、大蔵省の先輩方が、日本の国がこれから発展して輝きを取り戻すためにはどうすべきかという大きな議論をしているのを聞いて、やりがいのあるチャレンジングな職場だと感じました。その後もいろんな方とお会いし面談しているうちに、「大蔵省で働いてみるか」と声をかけてもらったのです。採用されるはずがないと思っていたので意外でした。そこから大蔵省、金融庁で36年余働きました。
 振り返ると学生時代、どういう人生を歩むかについていろいろ考えました。自分は派手なことが似合うほど華はなく、どちらかというと地味に我慢強く努力するタイプだと思っていたので、それが活かせる仕事として、身近に関係者がいた法曹や、パブリックな仕事として役所、あるいは政策金融機関、シンクタンクなどを考えていました。
 大蔵省入省後の3年目に大阪で国税調査官をやらせてもらいましたが、その前に税務大学校で法人税法と簿記と会計をたたき込まれてから行きました。
 実はTKCさんのことは以前からよく知っていました。課長補佐時代に主税局で5年勤務しましたが、その時、ベテランの方から「TKCは栃木県計算センターのことだよ。知らないの?」と言われたことがあります(笑)。
 意外に思われるかもしれませんがそういった経緯から税制や税務会計には馴染みがあるのです。スタンフォード大学へ留学した際も、研究テーマは金融ではなく税。受けた授業はTaxationやInter-national Taxation等。論文のテーマもE-Commerce Taxationでした。

 坂本 三井さんはIFRS導入の急先鋒で、国際金融畑というイメージが強かったので意外でした。

 三井 私はもともとドメスティックなんです(笑)。坂本会長とは、IFRSの日本企業への導入を検討する際、まさにIFRS時価会計などの議論がされていた頃に初めてお会いしているのでそういう印象があるかもしれません。ただ、私は大学時代に財務会計論を勉強して、司法試験の教養選択科目は財務会計論を選択して受験したほどです。

 坂本 それは珍しい。

 三井 財務会計論は故染谷恭次郎先生(早稲田大学名誉教授)の書籍で勉強しました。若い頃に伝統的な財務会計論を学び、私にとって会計といえば染谷財務会計論で、当時の司法試験も伝統的な財務会計論が主流でした。国税の研修も染谷先生の教科書を使った財務会計論や簿記の授業でした。

 坂本 染谷先生はかつてTKC全国会の最高顧問をされていました。

 三井 そうですか。ご縁があるのですね。大学では商法学者の故竹内昭夫先生(東京大学名誉教授)にも学び、その後、先生には証券取引審議会の場で再会しました。

 坂本 そういう意味では、日頃私どもが接している税務会計と金融商品取引法とは実は近い関係にあるといえますね。

 三井 ある意味では税務会計など、古典的な財務会計論を学んでいるほうが、実は資本市場の会計もとっつきやすいのではないかと思っているほどです。

IFRS導入の是非とは別にプラクティカル(現実的)に対応を

 ──いま少しお話に出ましたが、三井様と坂本会長との出会いは、2010年8月に公表された「非上場会社の会計基準に関する懇談会」(企業会計基準委員会等の民間団体が設置)の報告書と、同年9月に公表された「中小企業の会計に関する研究会」(中小企業庁が設置)の中間報告書において、中小企業の実態に即した新たな中小企業の会計処理のあり方を示すものを取りまとめるべき等の方向性が示された頃とうかがっています。
 三井様は当時、金融庁総務企画局(現企画市場局)企業開示課長として日本企業へのIFRS導入を牽引しながら、中小企業向け会計の制定(2012年2月1日「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」の策定について~「中小企業の会計に関する検討会報告書(中間報告)」を総務企画局企業開示課が公表)~)に深い理解を示していただきました。

 三井 懐かしい話ですね。

TKC全国会会長 坂本孝司

TKC全国会会長 坂本孝司

 坂本 当時、三井さんは金融庁を代表してIFRSをどう受け入れるべきかといった議論の真っ只中にいらっしゃいました。今思い返すとその頃の胸中はどのようなものだったのでしょう。

 三井 私が企業開示課長になったのは2007年、金融商品取引法が施行された頃です。その頃はIFRSが欧州連合で確立し、世界に広がっていました。当時米国はブッシュ政権でSEC(証券取引委員会)はIFRSに対して今よりも好意的で、むしろ取り入れていこうという姿勢でした。
 米国や欧州連合で上場している国際的な日本の大企業をはじめとする経団連加盟企業や大企業、そしてグローバル企業を相手にする仕事をされている公認会計士の方々のいずれもIFRSを導入しなければ日本はまずいことになるという強い意識を持っていたというのが当時の雰囲気でした。
 私が企業開示課長に就任してあいさつ回りをしているときに、当時IASB議長だったトィーディー氏から日本のASBJ西川委員長に対してお手紙が届きました。その要旨は日本基準とIFRSとをタイムフレームを定めてコンバージェンスすることについて合意しようというものでした。日本の会計制度、特に上場企業の会計制度を巡る関係者の方との議論がかなり激しく行われました。
 そうしたなか、まず私自身がしっかりとIFRSを勉強しなければいけないと思ったのですが、IFRSをテーマにした本はたくさんあったものの、その多くがIFRS導入国の数を掲げてIFRSを導入しないと日本はガラパゴスになるという推進派の論調と、その反対に、IFRSの哲学や一部分を例示してとんでもない会計基準だから導入してはいけないという反対派の論調のものが多く、残念ながらIFRSそのものを全体及び各論にわたり、広く、かつ、深く解説した本には、なかなか巡り合えませんでした。結局、海外から原書を手に入れて読んだところで、これまで日本語で紹介されているIFRSとかなり印象が異なることに自分でも驚きました。米国のロースクールで法律の分厚い専門書を読んだときのような、会計処理ごとにその背景や根拠等が一つひとつしっかり解説されていて、なるほど、と思うことが多々ありました。例えば収益認識や費用計上は日本基準と大して変わらないか、むしろ詳細であることが分かりました。一方で、のれんの扱いやリサイクリングの否定のように、如何にもこれは異論が多そうだと思うところもありました。つまり、IFRSの全てが悪いわけでも、また全てが良いわけでもないことが分かったのです。
 次第にIFRSを巡る議論が激しくなり、上場企業、特に海外進出している企業を中心に、IFRSを導入すべきとの見解がとりわけ強くなってきました。こうした動きの中で、仮にIFRSを使う場合の制度整備、運用について作成者側や投資家側、また評価するアナリストなどの方々も満足する会計基準になるのかどうかをプラクティカル(現実的)に考えるというのが最初の半年から1年ぐらいの取り組みだったと思います。
 また、IFRSはプリンシプルベースで書かれているのですが、プリンシプルベースのIFRSを実際にどう適用するかという問題があります。ロンドンやニューヨークにある、監査法人のグローバルネットワークの本部の中に、IFRSを使った監査の手法を実際にマニュアル化して全世界の拠点でそれを教育している機関があり、その機関がIFRSの実際の解釈・適用に大きな発言力を持っていると聞いたことから、その方々とも議論を開始しました。
 このように、個人的には、IFRSにも日本基準にも、一長一短があるといった認識で、終始プラクティカルな対応に努めていました。

企業の属性の諸条件が満たされれば会計処理の方法は一つではない

 坂本 国際資本市場から資金を調達する企業はIFRSを積極的に取り入れるべきと考えられたのは当然だと思います。一方で、それが中小企業にも影響が及ぶことに私自身非常に危機感を抱いていました。IFRSを導入する企業としない企業のすみ分けは、最初からある程度イメージされていたのですか。

 三井 頭の体操として、いろんな可能性を考えていました。欧州連合では連結はIFRSで、単体はその国の会計基準で、という連結・単体の分離が行われていました。他方、日本では税務会計と企業会計が密接な関係にありましたので果たしてどうすべきかなど。
 確か染谷先生がおっしゃっていた記憶があるのですが、個々の会計処理は一つしかないというわけではなく、継続性やいろいろな条件が満たされれば実は選択肢はいくつかあるのだと。

 坂本 言われる通りですね。

 三井 企業の実態に応じて最も適切に財務状況を表す会計処理方法を選ぶのが本来の理想であると教わった記憶があります。したがって継続的に使えばそれぞれの選択はできる。ただ会社の業容ががらりと変わったときには選択し直さなくてはならないかもしれない。その考え方がもしかすると一つの解決の手がかりになるかもしれないと考えました。
 IFRSの中の一つひとつの会計処理を見てみるとその多くは日本の会計基準とオーバーラップしています。明らかに違うのは、包括利益の概念、リサイクリングを行わないこと、のれんの扱いなどです。
 荒っぽい言い方をすれば、会計基準は会社の経営・財務の実態を一番的確に反映して表現できるものであることがその本質であり、日本基準かIFRSかの二択ではない。また、ある時点での選択が未来永劫に続くスタティックなものとして考えるのではなく、経済や企業が変容しつつあるという現実を踏まえ、むしろ時間軸で考える、すなわち、ダイナミックアプローチをとることが適切なのではないか。
 特に国際的な関わりを持つ上場企業であれば、経営管理・事業管理の上からも、投資家の目線からも、IFRSかそれに近い処理をしたほうがプラスでしょう。そういったケースでは簿価主義にこだわると企業や投資家の利益を害することになりかねません。
 他方で、いわゆる家族で経営しているような零細個人事業者が時価会計と言われても、対応できないし、適切な時価をあてはめることが困難な場合が多いと思われます。それを無理に時価でやろうとすると、かえって適正な会計処理にならず、実態に合わないということにも成り得る。中小零細企業はIFRSを適用できるポジションにある企業ではない。IFRSの適用にあたってはそうした実態を踏まえる必要もある。難しい問題でしたがきっとどこかに解はあるはずだと信じて取り組んでいました。

 坂本 今だから聞くことができる大変興味深く、また合点がいくお話です。

巻頭対談

「場の条件」を踏まえて過去の知恵を未来へ活かすべき

 坂本 それにしてもIFRSを巡っては日本では当時、学界も財界も賛成派と反対派とで真っ二つに分かれていました。さきほども言いましたが、三井さんは全面推進派だと思っていました。

 三井 私自身はまったくそうではなく、この問題にどうプラクティカルに対応するかのみ考えていました。ただ、双方から批判があったことも事実です(笑)。私としては双方の考えにきちんと共感しているのですが、どちらかに完全に肩入れはすることをしなかったのが中途半端なポジショニングに映ったのでしょうね。

 坂本 相談できる相手もいなかったはずですから、つらいお立場でしたね。

 三井 ただ、会計学者でなくても会計を勉強した人は、中小企業と大企業で適用される会計基準が異なる、すなわち、公正妥当な会計基準が二つも三つもあるのは変だと言う人は少なくないと思います。

 坂本 中小企業の研究会でも、ものさしは一つ(いわゆるシングルスタンダード論)を唱える学者先生が少なからずいました。
 しかし、中小企業に税法で認められてない評価損などを強制させ、決算書は赤字でも法人税は払う必要があると言っても経営者はなかなか理解できません。それを説明するのは非常に難しかったのですが、日本で最も権威のある日本会計研究学会の会長や、TKC全国会第3代会長を務められた故武田隆二博士が「場の条件(場の特定、参加者の条件、役割期待)」をもってそれを見事に説明されたのです。
 会社法でいう「一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行」と、金融商品取引法でいう「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」では、若干表現が異なります。要するに法律ではその若干の違いを認めているわけで、一部の会計学者だけがものさしは一つと言っている。武田博士はそれを「場の条件」で使い分けすることを説明されたのです。われわれはそれを理論的バックボーンにしながら各方面に提言してきましたが、理解いただくのになかなか苦労しました。

 三井 おっしゃるように、会計基準は何種類もあってもよいのかという議論がありました。けれども、そもそも日本はすでに米国基準を国内の企業に認めています。それをも否定し一本しかないという議論であるなら分かりますが。米国基準と日本基準というかなり相互に異なる基準をすでに認めていたなかで「場の条件」とは的を射たご指摘だったと思います。

 坂本 あの場に金融庁を代表して三井さんが来てくださったことから、中小企業のための、税務と親和性の高い会計基準に基づいた会計が必要だという雰囲気に変わっていきました。
 そうした議論のすえに、日本の企業の9割を占める中小企業にとってすでに実務に定着し、中小企業経営者が自ら経営に活かすことができる中小会計要領が誕生し、その結果、日本が世界に誇るべき「確定決算主義」も堅持されました。
 話は変わりますが、当時、米国が会計基準で世界を引っ張っていたのに、2000年あたりからEU、IFRSに取って代わられていった経緯を教えてください。

 三井 当時、実際にSECのチーフアカウンタントに会いに米国に行きました。それまでもコンタクトを定期的にとっている関係でした。
 SECのチーフアカウンタントなどは非常にプライドが高くて一切妥協しない方たちで、以前は会計処理について極めて厳格でしたが、私が企業開示課長の2年目ぐらいのとき、「米国は国際的な基準としてはIFRSを採用することに決めた。米国基準は米国のローカル基準であり、米国以外の意見は反映しない。米国に上場する日本企業はIFRSを使えるのだからIFRSを使ってはどうか」と私に言いました。
 このように、SECが、米国基準策定プロセスにおいて、米国以外の企業の意見を聞かないということに方針転換したなか、日本の意見を反映させるべき相手は米国基準ではなく、IFRSではないかと思うようになりました。
 一方でIFRS財団は、以前と比べて日本の言うことを聞こうと、歩み寄ってくるようになりました。その背後には会計基準を巡って米国と欧州連合との間の駆け引きがあったように思われます。

 坂本 そういう背景があったのですね。

令和2事務年度金融行政方針に「税理士との連携」が入ったことの意義

 ──コロナ禍における中小企業金融政策をどのようにご覧になっていますか。

 三井 先を見通しにくいなかで、中小企業金融は公的金融も含めて非常に一生懸命やっておられると思います。しばらくコロナと共に何とか経済も回していかなくてはなりませんが、そのなかで人の気持ちや企業、社会のありかたも変わっていく可能性があります。今のような緊急融資を続けていくこととともに、社会が動きだしたときに企業がうまく変われるようにどう金融していくかが大きな論点になってくるような気がしています。
 なぜそう思うかというと、現役時代に、金融庁の役職に併せて、内閣府の企業再生支援機構担当次長と、地域経済活性化支援担当室長という仕事を併任してやっていまして。企業再生支援機構はJALを再生しましたが、本業は地域の中小企業などを集合的に再生する仕事などをしておりました。鬼怒川温泉街の再生では栃木県の全面的なバックアップのもと、鬼怒川の旅館街を全体として再生させた事例などが有名です。個々の企業の再生や変容とともに、そういう面的な再生・活性化支援がコロナ禍の途中あるいは後で重要になってくるのではないかと感じています。

 坂本 一部でそれが間違いなく必要となってきますね。民間の力だけでは限界があります。
 TKC全国会が今、注力してるのは、日本の法人の9割に関与している税理士が地域金融機関ともっと実質的に連携して、中小企業の経営革新や経営改善を全力で支援していこうという運動です。各地域の金融機関の頭取や理事長と各地域会長の面談などはこれまでも継続して取り組んできました。
 そのようななか、今年8月末に金融庁から公表された「令和2事務年度 金融行政方針」の中に、地域金融機関と税理士等が連携して経営改善を積極的に取り組むべきとの文言が盛り込まれました。我々のそうした運動が実を結び、金融庁までもが力強くお支えしてくれることをありがたく感じます。認定支援機関としてさらに全力を尽くしていこうと決意しています。
 ただ実際のところ一部の金融機関とは連携しつつあるものの、いまだに同床異夢な金融機関があるのも事実です。今回の金融行政方針で示されたように、地域金融機関と地元の税理士が手を携えて、一つひとつの中小企業を個別具体的にご支援する時期に来ていると思います。ウィズコロナの局面においてはなおさらです。

 ──金融行政において「税理士」が登場したのは、平成15年の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」以来のことです。

 坂本 その意味で今回金融庁が金融行政方針に「税理士との連携」と記載いただいたのは画期的なことといえます。

 三井 TKC会員の皆さんをはじめとする税理士の方々の中小企業支援への取り組みをよく承知している私からすると、まったく違和感がありません。

■金融庁「令和2事務年度 金融行政方針」(令和2年8月)より抜粋

1.コロナと戦い、コロナ後の新しい社会を築く
【コロナと戦い、経済の力強い回復を支える】

(2)経営改善・事業再生支援等
 コロナ禍の状況等も見極めながら、資金繰り支援から、資本性資金等も活用した事業者の経営改善・事業再生支援等に軸足を移し、コロナ後の新たな日常を踏まえた経済の力強い回復と生産性の更なる向上に取り組むことが必要だ。
 金融機関において、コロナ禍を踏まえた経営のあり方について、事業再構築・再生等を含めて、どのような選択肢が最適か、事業者としっかりと対話を行い、それに基づき、REVIC等によるファンドや資本性ローン等も活用しつつ、実効的な支援策を講じていくよう、特別ヒアリング等を通じ、対応状況を確認していく。
 また、地域の関係者(金融機関、支援協議会、保証協会、税理士等)が連携して円滑に事業者支援を進めていくよう、地域の支援態勢の実効性を確保していく。そのため、財務局・金融庁において、各地域の実情に合わせて、関係機関への声がけ・支援等を行う。さらに、こうした支援の環境整備・側面支援として、融資手続きの電子化促進のほか、金融機関の現場職員の間で、地域・組織を超えて事業者支援のノウハウを共有する等の取組みを支援していく。

中小企業経営者の人生設計全般に寄り添い良き助言者となってほしい

 坂本 三井さんはもともと大学も法学部出身で、学生時代それから司法試験でも財務会計を学ばれ、大蔵官僚を務めて、留学されたときには税法で研究論文を出された。また国際金融と中小企業金融双方に精通されているなど、まさに私たち税理士の業界を幅広く全てカバーされている貴重なお方です。

 三井 過分のお言葉で恐縮です。偶然ですけどそういう人生になっています。これもご縁ですね。

 坂本 TKC全国会では税理士あるいは税理士業務に関して「社会の納得」を得ることを掲げて運動しています。ここでいう社会とは政界、官界、学界、財界ですが、税理士業界のことをよく理解されている三井さんが今年4月から日本の最高学府である東京大学で教鞭を執られているのは非常に誇らしく、ありがたく思います。

 ──最後にTKC会員事務所への期待、メッセージを一言お願いいたします。

 三井 中小企業にとっては、最も身近な相談相手が税理士さんだと思います。金融機関は融資元というかお金を借りているいわば交渉相手。金融機関に言いにくいことも税理士さんには相談することも多いでしょう。
 ウィズコロナ時代、社会や企業が激変するなかで、金融機関からお金を借りる時、資産運用、相続の場面など、いわば人生設計全般において中小企業経営者に寄り添い、良き助言者になっていただければと思います。

(構成/TKC出版 内薗寛仁・清水公一朗)

三井秀範(みつい・ひでのり)氏

愛知県出身。1983年東京大学法学部卒業、大蔵省(現財務省)入省、2000年スタンフォード大学ロースクール等へ留学。2001年から金融庁にて参事官(監督局担当、信用・官房担当)、兼務で内閣府企業再生支援機構担当室次長、総務企画局総括審議官、2015年7月検査局長、企画市場局長等を歴任。2019年7月金融庁を退官。2020年3月から弁護士(森・濱田松本法律事務所)、同年4月から東京大学法学部・大学院法学政治学研究科特任教授。

(会報『TKC』令和2年10月号より転載)