対談・講演
2018年 税理士業界の進路を語る
坂本孝司 TKC全国会会長 × 飯塚真玄 TKC名誉会長 TKC全国会最高顧問
TKC全国会坂本孝司会長が誕生して1年が経過した。2018年の年頭にあたって、株式会社TKCの最高責任者として長年指揮を執ってきた飯塚真玄名誉会長と、坂本孝司全国会会長が、中小企業金融における税理士の新しい役割を中心テーマにして、今後の税理士業界の展望について語り合った。
◎進行 会報「TKC」編集長 石岡正行
TKC会員は時代の要請の中心に間違いなく立っている
──本日は、坂本孝司TKC全国会会長とTKC飯塚真玄名誉会長に年頭対談をお願いいたしました。平成30年は不透明で世界も日本も大激動・大激変の年と予測されています。国も企業も会計事務所も、リーダーの舵取りが命運を分けると思われます。本日は、率直にお話しいただければと存じます。
早速ですが、坂本会長がTKC全国会会長に就任されて1年が経過しました。「税理士業界全体が社会から尊敬される職業になるように」を掲げられたわけですが、大変お忙しい1年だったと思います。感想をお聞かせください。
坂本 一言で申しますと、平成29年は充実したよい年であったと思っています。年頭に「TKC全国会の運動方針」を掲げ、職業会計人が勝ち残るための3条件を挙げました。一つは組織化ですね。二つ目は社会の納得、三つ目は時代対応(現代の業務への適応・新しい業務の開始)です。これらの課題を解決していこうとスタートしたわけです。
その中で、組織化については、現場をきちんと確認しようと思ってできるだけ多くの全国会委員会、そして地域会にも足を運びました。そのときに感じたのは、われわれが掲げた第2ステージの運動方針をいかに実現するかということを、皆さんが真摯に受け止めて対応されていたことです。各地域会会長も、地域に合った具体的な活動を展開されている。運動の基本を踏まえつつ、やり方を工夫しているのを拝見して、本当に強固な組織化ができつつあるなと思っています。
二つ目の社会の納得については、会計帳簿を前提とした税理士の4大業務として、「税務」「会計」「保証」「経営助言」を掲げました。すべての全国会委員会・研究会の業務は、このうちのどこかに入ると提示したところ、皆さんが、「わが委員会はこの領域にあてはまる」とそれぞれ整理してくださって、自信を持って活動を推進されているのを見て、この4大業務の深堀りもできてきたと感じています。
三つ目の現代の業務への適応に関しては二つあり、一つはテクノロジーの問題です。これについては、ご承知の通り(株)TKCが世界最先端のテクノロジーを駆使して、職業会計人を中心に据えたシステム構築を果敢にされており、時代対応としては完璧です。もう一つは、社会や法律制度の改革に対してどう対応するかということですが、これもTKC会員は、常に率先して行動していますから、いまのところ時代の要請の中心に間違いなく立っていると思います。これが昨年の率直な感想です。
TKC名誉会長
TKC全国会最高顧問 飯塚真玄
──飯塚真玄名誉会長は、昨年、TKCの経営の第一線から引かれて、お立場が変わり、大所・高所から税理士業界全体をご覧になって、どのような現状認識をお持ちですか。
飯塚 まず、過去1年を振り返りますと、坂本孝司先生を全国会第7代会長にお迎えできたことは非常に大きなことでした。すでに坂本先生は新しい挑戦の方向を示されておられ、大変ありがたく思っています。もちろん、今まで会長職をお務めの先生方、あるいは全国会をリードされている皆さんのおかげなのですけれども、ちょうど機が熟して、全国会が組織として世の中に訴えるべきものを高らかに訴えることができるポジションに来たのではないかという印象を持っています。その点で、今後の税理士業界の展開は、ずいぶん変わってくるのではないかと予感しています。
ドイツ連邦税理士会の訪問時に経営力強化支援法成立を知る
──税理士を取り巻く環境変化の特徴の一つとして、7000プロジェクトが一段落して昨年から「早期経営改善計画策定支援」制度がスタートしました。中小企業・金融機関・経営革新等支援機関の税理士による3者連携が、中小企業支援のベストプラクティスとの認識が定着した印象がありますが、いかがですか。
TKC全国会会長 坂本孝司
坂本 そう思います。早期経営改善計画策定支援は、先ほど述べた税理士の4大業務のうち、経営助言を中心にほかの三つの業務が重なり合ったところに存在する、とても大事な税理士固有の業務だと位置づけています。
思い起こせば、2011年に中小企業庁で中小企業政策審議会・企業力強化部会ができて、私はその委員に選ばれました。当時、国税庁が公表している黒字申告割合(法人税の納税義務の有無)は3割に届かず、7割以上が赤字でしたから、このような中小企業の赤字体質をなんとか改善してほしいというのが審議会の審議の目的でした。それで、中小企業の経営力をどう高めていくかという議論が始まったわけです。
ちょうどその頃、私はドイツの中小企業金融について研究を進めていました。2012年に出版した『ドイツにおける中小企業金融と税理士の役割』(中央経済社)に詳しく書いていますが、ドイツでは、中小企業を金融機関と税理士が双方で支えています。そのうち税理士は、ベシャイニグングによる決算書の作成証明業務と会計・財務管理を中心とした経営支援業務の二つの柱で支えており、これが健全な金融規律を誇るドイツの中小企業金融の全容だと分かりました。それを前提に審議会で「会計で会社を強くする」という政策を導入するとともに、税理士などの専門家を中小企業の経営支援の担い手に位置づけるべきです」と発言したのです。その趣旨が盛り込まれたものが2012年3月12日に「中間とりまとめ」として公表されました。それが賛同されたからなのかどうか分かりませんが、2012年6月21日に、中小企業経営力強化支援法が成立しました。
実はその成立した日は、飯塚名誉会長の発案で、全国会システム委員会を中心とする一行が、ベルリン市にあるドイツ連邦税理士会を訪問し、連邦税理士会による特別セミナーが行われた日でした。
飯塚 そうでしたね。
坂本 確か現地時間の早朝6時くらいだったと思いますが、国会で傍聴していた当時の全国政経研究会事務局長から「たったいま、法案が本会議を通過しました」と電子メールが入りました。それで私はセミナーの冒頭、マイクを持って「さきほど日本から連絡が入り、ドイツの税理士先生方から教わった、中小企業金融における経営助言のあり方を参考にして作った法律が、わが国で成立しました。これで税理士が、中小企業金融における経営支援の担い手になります!」と申し上げたのです。そうしたら皆さんが「おめでとう!」と拍手をしてくれました。本当に劇的な瞬間でした。
要するに、実質的な税理士の職域になっている経営革新等支援機関制度に基づく中小企業支援施策はここから始まっています。したがって、われわれの実力を国にも示せるよう、7000プロジェクト(経営改善計画策定支援事業)で頑張ってきました。早期経営改善計画策定支援も、粛々と進めていかなければなりません。
正しい決算書を作れる会計ソフトか税理士の見識で判断すべき
──昨年、飯塚名誉会長は、クラウド会計ソフト会社が一部の金融機関と連携して、企業への攻勢を強めている事態に対して「法令に準拠した正しい帳簿と決算書を作成できますか」と警鐘を鳴らされました。端的に言って、クラウド会計ソフトの問題点は何だとお考えですか。
飯塚 これは私の持論なのですが、いまやほとんどの決算書が会計ソフトを使って作られているわけですから、決算書の信頼性は、たちまち会計ソフトの信頼性の問題とイコールになります。その会計ソフトがどのように開発されてきたかについては、会計人による開発思想と、コンピュータ屋による開発思想とが食い違っている部分が相当あります。
いま流行りのクラウド会計ソフトについては、簿記的な側面では会計人の指導を受けているのかもしれませんが、信頼できる決算書をどうやって作成するのかという視点は一切ありません。便利さ、効率性だけを極限まで追求しているということです。
それに対してドイツの場合には「正規の簿記の諸原則」の考え方が会計ソフトのベースにも根付いています。この「正規の簿記の諸原則」については、ドイツの金融機関も税務当局も企業経営者も、ましてや税理士・会計士も、全員が一つの国民文化として受け入れて、その原則に沿わなければならないという不文律があるのです。ところが、そういう文化がまったくない日本では、コンピュータの便利さだけを活用して決算書が作られている。そのギャップが非常に懸念されます。
坂本 おっしゃるように、かつてドイツでは、会計ソフトの効率性を求めるコンピュータ設計家の側と、「正規の簿記の諸原則(GoB)」、つまり帳簿の証拠力を守らなければならないという会計専門家(会計人及び財務行政)の側との間で、激烈な論争がありました(坂本孝司『会計制度の解明』(中央経済社、2011年)の第8章参照)。
その論争の末、ようやくコンピュータ設計家の側も帳簿の証拠力の重要性を理解して、それがドイツのコンピュータ会計法の関係法令である、従来の「正規のコンピュータ簿記システムの諸原則(GoBS)」や、今日の「電子形態での帳簿、記録および証拠書類の正規の作成と保管ならびにデータアクセスに関する諸原則(GoBD)」にもつながっています。
ひるがえって、そういう議論がこの日本では起こらないのは非常に残念です。
飯塚 その点は、税理士の先生方が「われわれには正しい決算書を作る責務があるのだ」という自覚をお持ちになって、ぜひとも業界全体として立ち上がっていただきたいですね。税理士の先生方によるしっかりとした判断を通じて、会計ソフトが判別されるべきです。
「事業性評価」への対応はラストチャンス 税理士の道は必ず開ける
──金融庁は、「金融検査マニュアル」を廃止する方向であり、金融機関に「事業性評価」を行うよう指導しています。税理士や税理士業界にとっても、事業性評価への対応が正念場になると思われます。飯塚名誉会長は、このような金融行政の大転換をどう受け止めていますか。
飯塚 その問題は、今日一番お話ししたいこととも絡むのですが、私自身は、これからの事業性評価への対応が、税理士先生方の正念場ではなく、ラストチャンスになるだろうと思っています。
これは、おそらくこの先3年ないしは5年で決着が着くでしょう。ですから会員先生方が、坂本会長のリーダーシップのもとで、これからの税理士業界が直面する問題を、個々の事務所として捉えるのではなくて、税理士業界全体の命運を左右するその一翼をご自身が担っているのだという視点から全国会運動に参加されれば、必ず成功が導かれるというのが私の予想です。
ラストチャンスとは具体的にどういうことかと言いますと、金融庁は約20年間、いわゆる企業格付けに基づく貸し出しを、金融機関に対して指導してきました。しかし今回、それを捨て去って、企業の将来性あるいは事業の継続性に着目して、それがよければお金を貸しなさいという政策に転換しました。
それでは、金融機関は何をもって貸し出しの意思決定をするのかと考えると、結局は経営計画と決算書しかありません。期中において月次決算や四半期業績等のレポートはあるとしても、やはり一番重視されるのは中期経営計画と年度ごとの決算書であり、それを見て、当初の約束通りに経営が実行されているかどうかを確認することになると思います。
そのときに、経営計画というのはあくまでも将来の約束事ですから、ある意味あてにはなりません。しかし決算書は結果ですから、これは正確なものでないと困るわけです。その問題が出てくると、必ずや決算書が本当に正しかったのかどうかというところに次の注目が集まるはずです。
先ほどの坂本会長のお話の通り、ドイツでは、伝統的に中小企業の会計は税理士が担うものという明確な役割分担があり、基本的には税理士の関与がない決算書を金融機関は相手にしていません。逆に日本では、金融機関が顧問税理士を飛び越えて、取引先へ直接的に会計ソフトを広めているケースもあるのが現実です。
しかし、このような状態を打ち破れる可能性が、事業性評価への対応によって生まれてきたということです。なぜなら、金融庁も中小企業の伴走型支援者としての税理士の役割を認め始めているからです。特に、会員先生方が正しい決算書を作るために、遡及的な訂正加除ができないTKCシステムを使って翌月巡回監査を実施し、その上で月次決算を行って関与先を支援されているということが、いかに凄いことか、だんだん分かってくるだろうと想像しています。
これによって、会員先生方が失った会計のマーケットを奪回して、会計におけるリーダーシップを再び発揮できる時代が必ず来るということを期待しているわけです。
──正しい決算書をオープンにすることが望まれている中で、坂本会長は、中小企業金融における税理士の役割について、金融機関と取引先である中小企業との「情報の非対称性」を会計で解消することを提言されていますね。
坂本 事業性評価とは、金融機関が顧客企業の「事業内容」や「成長可能性」、「事業の持続可能性」を適切に理解し評価するものですが、これは、私たちTKC会計人が、これまでずっとやってきた、巡回監査をして関与先の経営助言を行うことと同じと言っていいと思います。ということは、事業性評価は、金融機関特有のものではなくて、金融機関・経営者・会計人の共通視点だと捉えるべきです。
TKC会計人の行動基準書において、巡回監査の意義は、「関与先を毎月及び期末決算時に巡回し、会計資料並びに会計記録の適法性、正確性及び適時性を確保するため、会計事実の真実性、実在性、完全網羅性を確かめ、かつ指導することである。巡回監査においては、経営方針の健全性の吟味に努めるものとする。」と明記されています。
この中の「経営方針の健全性の吟味」は、まさに事業性評価そのものでしょう。ですから金融庁にも金融機関にも、会計事務所は個々の経営者に寄り添って、事業性評価と同様の仕事をすでにやっているので、「もっとわれわれを活用すべきだ」という大合唱を始めたいと思っています。
証拠力と健全経営のツールである商業帳簿の意義を押さえるべき
会報「TKC」編集長 石岡正行
──坂本会長は、「中小会計要領・書面添付・自計化の3大テーマに取り組み、会計で会社を強くする税理士の使命を全うしよう」との全国会運動方針を打ち出されています。その趣旨は何でしょう。
坂本 それは基本的には、なぜ商法が商人に商業帳簿(会計帳簿と決算書)の作成義務を課しているのかという本質論に行き着きます。そこをきっちり掴まないと、場当たり的な対応になってしまいます。
その答えの一つは、商業帳簿の証拠力です。例えば、これからITやAI(人工知能)ですべての自動仕訳ができるような時代になっても、その仕訳の責任は誰にあるのかを考えたとき、50年経っても100年経ってもそれは経営者にあります。記帳は経営者の義務であると同時に、「帳簿の証拠力は商人の特権」でもあるのです。これはドイツでは常識です。そこに1本筋を通しておかないと、この業界は記帳代行型事務所で溢れかえってしまうかもしれません。
そして飯塚毅博士は、「起票代行だけは、必死になって、つまり最重点を指向して、止めてしまうべきである。万が一にも刑事事件が発生した場合に、顧問先の起票代行をやっていた事実があり、これが逋脱に連なっていたときはもう百年目である。わが国の裁判は証拠主義で行われる(刑訴317条)。筆跡鑑定の結果、職員が起票代行をやっていたときは、申し開きの余地がなくなるのである」と述べられています(『電算機利用による会計事務所の合理化』テキスト)。このスタンスはAI活用であろうと、民事事件であろうと同じです。
もう一つの答えは、商業帳簿が経営者への自己報告によって健全な経営を遂行させる機能を持っているということです。つまり、破産防止あるいは健全経営のための経営者への報告資料であり、会計で会社を強くすることに直結します。そこをより強く会計人は認識すべきですね。
このように、証拠力と健全経営の強力なツールである商業帳簿の意義をしっかり押さえておけば、われわれにとって、なぜ中小会計要領の普及が必要なのか、なぜ書面添付の推進が必要なのか、なぜ会計人主導の自計化が重要なのか、その答えはおのずと導かれると私なりに理解しています。
──その3大テーマの一つである書面添付の推進に向けて、飯塚名誉会長は、会員への株式無償譲渡を今年から5年間で行うと発表されました。
それだけ書面添付を重視されている証しだと思われますが、名誉会長から見た書面添付の重要性と意義、株式無償譲渡の趣旨について、改めてお聞かせください。
飯塚 TKCは、飯塚毅博士によって昭和41年に、会計事務所の職域防衛と運命打開を実現するために設立された会社です。TKCがTKCである以上、このミッションからは絶対に離れてはならないわけです。
私は今年4月で、TKC勤続50年になります。もはやTKCは私にとってライフワークです。会社の発展を心から願っているし、永く存続してほしいと期待しています。そこで、会社としてではなく、個人として、どうすれば先生方の事務所の発展をご支援できるのかとその条件を真剣に考えると、結局のところ書面添付しかありませんでした。
中小企業の決算書の信頼性をどう証明するのか、その1番確実な方法は、外部監査人制度をつくることでしょう。だがこれは間に合いません。2番目は、ドイツのように、決算書に対する不文律が社会にあって、「正規の簿記の諸原則」を裏切れないような文化があるということ。3番目は米国のレビュー制度、そして4番目くらいの情けない状況にいまの日本はあるわけです。しかし日本には、書面添付制度があります。間接的な手段ではありますが、書面添付は、金融機関にとって中小企業の決算書の信頼性を確認する唯一の法的根拠を持った制度であると考えられます。
とすれば、おそらく先ほど述べた事業性評価の延長線上で考えても、書面添付がついている決算書以外は金融機関から信頼されない時代が必ず来ると思います。そういう時代になると、書面添付ができない事務所はもう相手にされず、脱落するに違いありません。私は、脱落してたまるかと、そこで頑張る会員先生方を応援したいのです。そうすれば、新しい時代においても税理士は生き残れるし、会計事務所支援を基盤とするTKCの経営も安定するという論理です。これはまだ細い糸のような話ですが、間違いなく太くなると思います。
坂本 それにしても、持ち株100万株を会員に無償贈与するなんて、常識的には考えられないことです。飯塚名誉会長のその思いをしっかり受け止めて、書面添付を社会運動にする起爆剤にさせていただきます。
税理士が生き残れる最高の道は正しい会計に基づく経営助言しかない
──2018年は、全国会初代会長の飯塚毅博士が誕生した1918年(大正7年)から100年という記念すべき年でもあります。最後に、今後の税理士業界の進路・近未来のことも含めて、今年の抱負をお聞かせください。
飯塚 私がいま考えているのは、飯塚毅博士の使命感はどこからきたのかということです。それは本人の人生哲学の他に、税理士という職業を取り巻く環境の問題があったと思います。飯塚毅博士は昭和21年4月に会計事務所を開業したわけですが、日本は戦後から昭和27年まで連合国軍の占領下におかれていました。当時は、まさに苛斂誅求で過酷な税の取り立てがあったようです。いろいろ調べてみると、税金が払えなくて自殺したり、一家心中したりということもありました。そういう状況にあって飯塚毅博士は、税務当局に対して、納税者を守るんだという強烈な使命感を持って、租税法律主義だけを盾にして闘いました。これは本当に凄いことでした。
坂本 飯塚毅博士は、「税理士こそ租税正義の護持者」という表現を使われていました。
飯塚 ところがいま、税理士の皆さんがおかれている環境は、当時とは全然違います。その中で、税理士としての使命感をどう沸き立たせるのかということが問われていると思います。ではどうしたら税理士という職業が今後も発展するのかと考えたら、経営助言しかありません。AIには、創造的でコミュニケーションを要する経営助言はできませんから、そこに力を集中すべきだと思います。飯塚毅博士もご自分の経験に基づいていろいろな話をしており、それはいまの時代に合っているところ、もう合っていないところがあるわけですけれども、会計を手放していいとは絶対に言いませんでした。なぜなら職業として生き残れる最高の道はそこしかないと考えていたからです。
先ほどから何度も申し上げていますが、先生方の手からこぼれ落ちている会計の世界を、もう一度、ざっくりと手一杯拾い上げられるラストチャンスがいま来ています。このチャンスを逃すと、事業性評価はもとより、月次決算も経営計画策定支援もできません。会計を会計事務所がしっかり握れるように、業界として結束していただきたい。私も可能な限り応援いたします。
坂本 おっしゃるように、会計を軸とした税理士の役割をこれからもしっかり果たすためにも、中小会計要領・自計化・書面添付の個々の実績を爆発的に伸ばしていかなければいけません。しかし、特に書面添付は、法人の添付割合で8.8%と低迷しています。これでは社会的なインフラにはなりません。せっかく大きな権利を与えてくれているのですから、真正面から受け止めて、せめて添付割合で2割ぐらいまで持って行かなければいけません。その原動力になるような運動をしていきたいと思います。
もう一つ、正しい会計を広めるために、電子帳簿保存法の適用企業も増やす必要があります。かつて松沢智先生(第2代全国会会長)は、ご著書の『コンピュータ会計法概論』(中央経済社)の中で、「コンピュータ会計法(電子帳簿保存法)は、誠実な青色申告者に対してのみ適用されることになるものと解するべきである」と述べられています。つまり、電子帳簿保存法の適用事業者は、誠実な納税者とみなされるべきであるということです。
飯塚 税務当局や金融機関からも、電子帳簿保存法を適用していたら一目置かれるような状況を作るべきでしょうね。
坂本 そうなのです。その運動にも力を入れます。われわれ税理士の目の前には諸課題があるわけですが、そのような時代の変化を味方にして、将来を見据えてあるべき正しい方向に持って行けるように努めてまいります。
(構成/TKC出版 古市 学)
(会報『TKC』平成30年1月号より転載)