寄稿
「巡回監査士」に期待する
職員は利己心の道具に非ず
TKC全国会会長
粟飯原一雄
会計事務所経営において、職員を錬成し、その戦力化を図ることが、今日ますます重要な課題となっています。『激流に遡る』(飯塚毅著作集Ⅱ・TKC出版)で飯塚毅初代会長は、職員教育の本質について次のように言及されています。
「職員の錬成は、当然に、所長先生からの、ある種の要求の提示とその反応の過程としても眺められるわけです。
所長先生の要求の提示が、所長先生の内心の打算、利己心からの要求という性格をもっていますと、錬成は職員には逆作用として働き、所長先生に対する情緒の安定性破壊をもたらしますので、注意を要します。職員の錬成は、徹底して、職員本人の正しい成長を祈る立場で貫かれる必要があります。職員は所長の利己心の道具ではないからです。」
所長の利己心からではなく、職員本人の正しい成長を心から祈り、錬成に努めることが事務所そのものの基盤確立に結びつきます。職員教育の巧拙で事務所の運命が決まってしまうと言っても過言ではありません。
TKC会員は等しく職員の教育に最大の精力をそそぎ、計画的な育成を図り、関与先企業のみならず国税当局や金融機関など外部機関からも信頼され、尊重される人材としていかなければなりません。
しかし昨年度(平成26年1月~12月)のTKC職員研修(初級・中級・巡回監査士養成講座)の参加状況をみると、参加事務所は約1000事務所、参加者数は約1700名(試験受験者の合計は約2200事務所、約6000名)という状況です。
この数字をみても職員の錬成に成功している会員事務所は非常に少ないように思えます。
「巡回監査士」は権威ある登録資格
『TKC会計人の行動基準書』(第4版)の総論「巡回監査と書面添付制度1-4-1」では次のように規定しています。
「TKC全国会は、税理士業務に併せて会計業務を実施する会員の遵守すべき規範として『巡回監査』と名づける業務の実践基準を制定する。この基準は、税理士法上の相当注意義務を履行した証左として、さらに関与先の会計帳簿の証拠力を担保するため、会員が必ず実施しなければならない業務手続を骨子とする。」
巡回監査はまさに職業会計人として必要不可欠な業務手続であるといえます。
そこで重要になるのが「巡回監査士」の養成です。すでにご案内のように、TKC全国会では平成24年4月から「上級職員実務研修」の名称を「巡回監査士養成講座」に変更し、その試験合格者で一定基準を満たす方々を「巡回監査士」に認定する資格制度を創設しました。
その名称の示すとおり、「巡回監査士」は巡回監査を適正に実行する力を有していることを内外に示す資格です。
「巡回監査士」はコンサルタント系の民間資格認定団体として日本で最も権威のある公益社団法人全日本能率連盟の登録資格であり、経営士等と同じように「名刺や経歴書」に書くことのできる資格です。
今年から「巡回監査士補」(中級試験合格者)を創設
平成27年4月末現在、約1700名の方々が「巡回監査士」として全国で活躍されています。TKC全国会は、「巡回監査士」を2021年までに2万人(1事務所2人平均)にするとの目標を掲げています。
「巡回監査士」を大幅に増やしていくための施策として、本年度から「巡回監査士補」資格を新設しました。この資格は、従来の中級職員実務試験合格者にあたるものです。TKC職員研修受講後の試験で「巡回監査士補」を取得して、次のステップで「巡回監査士」を目指す流れとしました。この機会に事務所の体質改善の一環として、1名でも多くの「巡回監査士」を育成し、職員の戦力アップを図っていただきたいと思います。
「巡回監査士」を育成し、職員の戦力化を図ろう
「巡回監査士」の資格取得のメリットとしては、職員のモチベーションの向上や、所長に準ずる優秀なスタッフとして関与先経営者に信頼感・安心感を与えるなどの効果があります。「巡回監査士」を取得した方々に対しては、次の研修企画によってさらなるスキルアップを図っていただきます。
- 「巡回監査士」向けの継続研修(2年間・36時間)の中に、本年度から新たに「巡回監査士プレミアムセミナー」(2日間コース)を加え、各地域会研修所の主催で開催いたします。昨年度、一部の地域会で先行して実施した経験を踏まえて、今年から全地域会で実施します。2日間のコースで習得すべき専門分野等を集中的に学習し、モチベーションの向上とスキルアップを図る研修となっています。
- システム専任講師など研修講師を担当する機会を提供します。
- 「巡回監査士」に設けている「TKC・中央大学クレセント・アカデミー」「TKC・関西学院大学新月プログラム」受講の優先枠を今後も継続していきます。
TKC全国会は中小企業の存続と発展を支援するため、平成27年1月からの2年間を「事務所の体質改善の取り組みを本格化」する年と位置づけ、会員事務所の高付加価値経営を目指していきます。その実効性をあげるための「会計指導力」や「事務所総合力」を高める戦力となるのが「巡回監査士」であり、日常業務における活躍が期待されています。
「巡回監査士」活躍の舞台は整っています。多くの職員に本年度の職員研修の受講機会を与え、事務所全体で資格取得にチャレンジしていただくことを期待しています。
(会報『TKC』平成27年5月号より転載)