寄稿

第六代TKC全国会会長に就任して

TKC会計人は「廉潔性」を堅持しよう

TKC全国会会長 粟飯原一雄

TKC全国会会長
粟飯原一雄

 この度、去る7月12日開催の第140回TKC全国会正副会長会の議により全国会会長職をお受けすることになりました。

 浅学非才にして、身の引き締まる思いですが、まずは、この度の緊急事態に際し、信頼回復のため全身全霊で取り組んで参ります。

 飯塚毅初代会長は、TKC全国会創設間もなく、TKC会員が、全国家機関及び全金融機関から、絶対の信頼と尊敬とを獲得する条件は、TKC会員の学識・品格・行動等のすべてに関係しており、何よりも「TKC会計人の行動基準書」の作成が急務であるとして総務委員会に付託され、昭和53年1月に初版が制定されました。続いて1992年米国公認会計士協会の行動基準書の大幅な刷新等を受け、平成7年2月に第2版が、更に会社法や税理士法等の改正に対応し、平成18年1月に第3版が制定されました。最新版は、「実践規定」に於いて「記帳適時性証明書」、「巡回監査支援システム」及び「中小企業の会計に関する基本要領への準拠」等の一部修正・追加を加え、ProFITに掲載されています。

 この「行動基準書」の第2章倫理規定では、会員が職業会計人としての使命を自覚し、TKC全国会の目的達成に邁進するための指針として8つの重要項目を掲げています。

 その2番目に「廉潔性」があり、次のように記されています。

「会員は、社会と企業からの信頼を維持しかつ増大するために、高い廉潔性を堅持し専門的業務を遂行しなければならない。廉潔性とは、清廉潔白・高潔なことをいう。」

 この廉潔性の保持とは、私生活での健全性はもとより、会計事務所経営に於ける健全性そして組織活動に於ける健全性が保たれていることを意味します。

 これまで残念ながら「行動基準書」に違反し、会員資格を失った方も多くおられます。この機会に、あらためて会員等しくその内容を確認し、その徹底遵守をお願いする次第です。

「指導者の心得」を胸に精進し大役を果たしたい

 さて、私は、税理士事務所開業が昭和47年11月で翌年1月にTKCに入会しました。入会と同時に飯塚毅初代会長の実地講習会(現在の全国会入会セミナー)を受講し、コンピュータ黎明期にあってこれからの会計事務所経営は如何にあるべきか、ご自身の経験をベースに宗教的・哲学的な視点から語られたその真髄を拝聴し、大きな感動を受けて以来、TKC一筋で、今年で足かけ40年になりました。

 平成3年9月に飯塚毅初代会長からTKC千葉会の会長職そして全国会副会長職の指名を受けました。就任早々に茅ヶ崎の自宅にご挨拶に伺った際、お会いするなり開口一番に言われました。

「ドイツの大哲学者ニーチェは『人間社会における偉大さとは何であるか、偉大さとは人々に方向を与えることである』と言っている」と。この指導者の心得は、その後の私自身を鍛えていく大きな指針となりました。

 TKC全国会の方向は飯塚毅初代会長が常に示されているので、それを実行する担い手になればよいのでは、という当時の私の浅はかな考えを見透かしての言葉でした。「リーダーとしての自覚がない」と鞭で背中を強く打たれたような衝撃を感じました。

 翌年には、ニューメンバーズ・サービス委員会発足と同時に委員長の指名を受け、その後も様々な役職の指名と同時に様々な課題を受け、真剣に取り組んで参りました。飯塚毅初代会長の謦咳に接したのは4年程の短い期間でしたが、様々な課題に向き合い強いプレッシャーを受けながら自分自身を鍛える絶好の機会でもありました。

「行動基準書」の第2章倫理規定には、「先験性」が明記されています。経験に先んずるとはどういうことか。自分自身を鍛える21年間でもありました。今後も、「先験的意識」の発見と培養に更に精進を重ね、全国会会長の大役を果たして参る覚悟です。

関与可能企業数半減の時代をどう生きるか

 今、日本は財政状況の悪化と共に、人類史上全く経験したことのない少子高齢化社会を迎えています。65歳以上の割合は10年後4人に1人、20年後には3人に1人となり、生産労働人口が激減します。そのことにより経済が縮小し、中小企業の数が減少し、当然、経営者の高齢化も進んでいきます。

 総務省等の統計数字で言えば、バブルの絶頂期の平成3年の中小企業数(個人事業者を含む)は、675万社。当時の会計事務所数は約24,600件でしたので、一事務所あたりの関与可能企業数は274社あったことになります。平成の世になって毎年廃業率が開業率を上回る時代が続き、20年後の平成23年には企業数は380万社(推計)、事務所数は約29,000件、一事務所の関与可能企業数はなんと131社と半減してしまいました。

 これからの10年、中小企業の経営環境は更に一段と厳しさを増してきます。我々の業界も然りです。先日、東京のある大手会計事務所の所長から、「他事務所から顧問報酬の低価額競争にあい、結果的にある企業グループが奪われてしまった」という話を聞きました。TKC全国会は、そのような価格競争に巻き込まれる世界を絶対に作ってはなりません。TKCの強みを活かし、会員事務所が生き残れる世界を創らねばなりません。

TKC全国会の10年ビジョンを描く

 更に、中小企業の海外進出は一段と進んできます。つい最近、大同生命保険が実施した「経営者一万人アンケート」によれば、既に海外に展開している企業を含め、海外展開を目指す企業が18.3%に達しているということです。このような状況を見過ごしていてよいのでしょうか。

 これからの10年というスパンを考えた時、TKC全国会として今後取り組むべき課題が山積していると言えます。「社会の期待に応えるTKC全国会」として、現在進行中の重点活動テーマ等に加え、これから何が必要なのか、何をなさねばならないのか。「木を見て森を見ず」にならないよう、多くの皆様のお知恵をお借りして、TKC全国会の10年ビジョン案を年内に纏めさせていただきたいと考えています。

 会員及びTKC役職員そして関連企業並びに提携企業・協定企業の役職員の皆様には、今後ともご指導とご支援を賜りますよう心からお願いを申し上げます。

(会報『TKC』平成24年9月号より転載)