2026年7月号Vol.143
【特集2】オンライン申請とバックヤード連携──これまでの取り組みと今後の展望
「フロントヤード改革」先進事例 > 兵庫県神戸市
企画調整局 デジタル戦略部 課長 高木智博氏 / 係長 今井丈二氏
行政手続きのオンライン化は全国に広まる一方で、多くの自治体が〈入口はデジタル化でも、その後の処理は未だにアナログ〉という壁に直面している。神戸市は、総務省の「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」の一環として、バックヤード業務の効率化を見据えた実証に取り組んだ。これまでの取り組みと今後の展望を聞く。
- 住所
- 兵庫県神戸市中央区加納町6-5-1
- 電話
- 0570-083-330、078-333-3330(お問い合わせセンター)
- 面積
- 556.93平方キロメートル
- 人口
- 1,485,034人(2026年4月30日現在)
行政手続きのスマート化に挑む
──オンライン申請への取り組み状況を教えてください。
高木 近年のICTの急速な進展により、社会全体にデジタル化・オンライン化が広く普及し、行政サービスにも変革が期待されています。
神戸市では、2020年に『行財政改革方針2025』を策定し、将来にわたって市民サービスの維持・向上を目指す「スマート自治体」の実現を掲げました。その重点項目の一つが「行政手続きスマート化」です。ここでいう〝スマート化〟とは、各種申請・届出・報告等のオンライン申請のほか、郵送申請や申請内容の事前登録など〝オンライン上だけでは完結しない〟手続きも含めて、市民の利便性向上を図る仕組みと定義しています。
方針では、達成すべき成果として「スマート化率70%」という数値目標を掲げました。これは、主体的にスマート化できる手続きの総処理件数(約1000手続き・年間約290万件)のうち、200万件超に対応できる体制を整えるというものです。
特に影響度の大きい40手続きを選び、優先して取り組んできました。そのために、全庁へ方針を周知徹底するとともに手順書を策定し、さらには毎年度、成果の検証・見直し・改善を図りながら取り組みの実効性を高めてきました。
──その手段の一つとして、TASKクラウドスマート申請システムを採用し「e-KOBE(神戸市スマート申請システム)」を構築されました。
高木 市民・職員双方の負担軽減には、オンライン申請の利用拡大が有効であると考え、21年7月に「e-KOBE」を構築しました。現在、各種行政手続きのオンライン申請や窓口予約、オンライン決済(手数料対応)、一部の電子交付に対応しています。
登録者数は、26年4月現在で個人が約47万6000人、法人は約3万7000法人に達しました。手続き数は個人と法人向けを合わせて約800件を公開しており、子育て世代を中心に利用が定着しています。最近では〝オンライン限定〟の手続きも登場し、例えば高校生の通学定期券代の補助制度では2万件以上の申請がありました。
とはいえ、地域社会全体で見るとまだ認知度は低く、24年度に実施した市民モニター調査では認知率が45%にとどまりました。一方で「対象手続きを増やしてほしい」という意見も聞かれ、オンライン申請の利便性への期待は高いようです。
これまでの取り組みで、方針に掲げた目標は達成できましたが、今後に向けては「市民にとって分かりやすい/使いやすい仕組みか」、「機能は充足しているか」など、改めて検証・改善を図っていく考えです。
より便利なオンライン申請へ
──「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」に、神戸市の「データ連携等によるバックヤード業務効率化」が採択され、その一環として市が保有する市民データ(住所や氏名、各種資格情報など/実証実験では仮データを用意)を活用したオンライン申請の実証を行われました。これに取り組まれた背景は。
今井 24年度に、オンライン申請に伴うバックヤード業務の負担に関して庁内調査を実施しました。そこで浮上したのが、〈デジタルで申請を受け付けても、その後の処理にそのデータを活用できていない〉ことでした。中には個別に最適化を進めている部署もありましたが、紙に印刷して目視確認するなどアナログ処理が数多く残っていたのです。試算では年間約145万時間がバックヤード業務に費やされており、この削減は喫緊の課題でした。
オンライン申請の利用拡大を進めるには、汎用的なモデルをつくり、横展開することが肝要です。そこで、全庁でデータ連携等によるバックヤード業務の効率化の検討に着手しました。
実証実験では、住所や氏名、各種資格情報といったパーソナルデータをe-KOBE(神戸市スマート申請システム)へ連携し、①オンライン申請の入力時に申請者に関する情報を自動表示、②申請可否の自動チェック──を行い、不備申請の低減や市民・職員双方の負担軽減効果を検証しました。
──実証に至るまでに、取り組まれたことはありますか。
今井 もともと本改革を進めるために、先述した庁内調査を実施していました。これは大変な作業でしたね。例えば、窓口・郵送の申請件数や電子申請の件数、あるいは受け付けた申請内容の審査・入力・決裁など各工程別にかかる時間の算出──等々、正しい情報の把握が必要で、原課へのヒアリングなどを繰り返し行いました。調査への回答は時間がかかるため所管課は面倒に感じたと思いますが、この活動を通じてさまざまな課題点が整理できました。
そこで得られた課題や解決策を整理し、25年春に全庁に向けて説明会を実施。ここで協力してくれる所管課を募って、対象手続きを選定の上、具体的な検証作業に取り組みました。それぞれ課題意識を持つ職員が集まったとはいえ、やはり「自分たちの手続きの最適化」が最重要課題であるため、汎用的に使える部分だけを抽出して議論するなど、すり合わせには時間を要しました。
──今回の実証で得られた成果を教えてください。
今井 まず、複数の手続きを対象に検証したことで、導入にあたり何がハードルになるか幅広い論点整理が行えました。例えば、個人情報の取り扱いや、関連する業務システムを持つ所管課との調整といった段取りが明確になりました。また、手続きごとに自動表示や申請可否の自動チェックに必要となるデータ項目の確認・整理ができたことも有益でした。
最大の成果は、〈市民・職員双方の時間削減と負担軽減〉が見込めると分かったことです。今回は仮データを使用して職員が実証を行ったため、あくまでも参考値ですが、正確な情報をプレフィル(あらかじめ表示すること)することで、市民の申請入力にかかる時間が減り、職員の審査項目も減る、という結果となりました。
業務効率化へ、課題は山積み
──データ連携やバックヤード業務の効率化については、全国の市区町村が注目しています。推進する上での課題は何だとお考えでしょうか。
今井 第一に、手続きごとに異なる審査項目や連携仕様を整理することの難しさが挙げられます。これについては、神戸市でも引き続き、各課と検討していきます。
第二が、現時点ではデータ連携の範囲が限定的であることです。中長期的にデータ連携を考えるには、やはり標準仕様に準拠したシステムが大前提です。神戸市では標準化対応を進めながら、どのような情報を連携することで、より高い効果が得られるかについて検討していく考えです。
第三が、個人情報の取り扱いに関する整理です。同意の取得や目的外利用の整理といった点でも十分な検討が必要となるでしょう。
その他にも、データ連携にはさまざまな準備やシステム改修が必要で、保有する各種情報の利用承認や庁内調整など、乗り越えるべきハードルも少なくありません。
解決すべき課題は山積みですが、オンライン申請の利用拡大は住民・職員双方に大きなメリットがあります。そのためには申請率の向上とともに、申請データをデジタルのまま連携・活用して効果を最大化することが不可欠です。われわれとしても積極的に取り組んでいこうと考えています。
──そうした中で、オンライン申請システムに期待することは。
今井 行政手続きは、多種多様です。マイナンバー利用事務に限られない手続きも数多く、カード未保有者への対応も欠かせません。その点、オンライン申請システムには、多様な行政手続きへ柔軟に対応できる汎用性が求められます。加えて、継続的な機能拡張に加え、市民の体感としてのUI(システムの見た目や操作性)やUX(利用を通じて得られる体験や感情)の向上にも期待しています。
フロントヤード改革を進める上では、原則として〈業務はデジタル処理で自動化する〉方針で、今後はAPIの充実によるシステム連携強化にも注目しています。申請から審査までデジタルで完結するには、申請管理やデータ連携を見据えたトータル設計が必要です。また、連携可能なデータ項目の拡充やプレフィル機能の強化という点でも、オンライン申請システムには常に進化し続けてほしいですね。
やめる・へらす・かえるで職員も楽に
──今後の計画を教えてください。
今井 実証結果を踏まえ、今年度から一部手続きでプレフィル機能と申請ガイド機能の運用を開始する予定です。運用を通じて課題を抽出し、解決策の検討や改善を重ね、27年度以降の展開につなげていく計画です。
高木 少子高齢化・生産年齢人口の減少により、職員数も減り続けることは明らかです。いずれの自治体においても、〈やめる・へらす・かえる〉の視点に基づく業務改革は避けられないテーマといえるでしょう。
これまで取り組んできた行政手続きの〝スマート化〟は、市民の利便性向上を中心に申請手続きのチャネル・機会の拡大を進めてきました。今後は、業務プロセスの〝スマート化(デジタル化)〟により職員の業務の効率化・スピード化も並行して実現していくことが欠かせません。
そのためには、これまで整備してきた基盤を生かしながら、使われる仕組みへと進化させていかなければなりません。今後は、AI-OCRや申請管理システム、RPA等を組み合わせてバックヤード業務の自動化・最適化を図るほか、データに基づく業務の可視化、継続的な業務プロセスの見直し、などにより、市民・職員の双方に価値の高いDX推進を目指します。
左から、今井係長、高木課長
掲載:『新風』2026年7月号