2021年10月号Vol.124
【デジタル・ガバメント ここがポイント!!】行政手続きオンライン化を実現する2つのシステム
株式会社TKC 地方公共団体事業部 システム企画本部 部長 松下邦彦
総務省が推進する自治体DX(デジタル・トランスフォーメーション)については、本年7月に推進手順書が公表されました。これは3部で構成され、その一つが『自治体の行政手続のオンライン化に係る手順書』(以下、オンライン化手順書)です。本稿では、行政手続きのオンライン化を実現するための二つのシステムを説明します。
ぴったりサービス
オンライン化手順書では、国が提供している「ぴったりサービス」を利用することが前提となっています。国は自治体がぴったりサービスを容易に導入できるよう条件を整えています。
まず、全ての地方公共団体がぴったりサービスに無料で接続可能となりました。従来もぴったりサービスそのものは無料でしたが、サービスを利用するには、民間事業者が提供するLGWAN接続サービスを別途契約する必要がありました。
次に、主要な手続きについて申請様式(入力画面)を国が準備します。『自治体DX推進計画』で〈積極的・集中的にマイナポータルを活用したオンライン化を進める〉とされた子育てや介護など手続きの標準様式が定められ、ぴったりサービスにプリセットされます。これにより、自治体が個別に申請様式を作成する必要はありません。
ぴったりサービスを含む「マイナポータル」は国民向けポータルサイトの中核に位置付けられ、UI(ユーザー・インタフェース)とUX(ユーザー・エクスペリエンス)の抜本的改善が図られます。昨年12月に公表された『デジタル・ガバメント実行計画』の別添には、UIの全面的な点検・改善、申請項目の自動入力機能の実現、マイナンバーカードによる利用者認証の追加、全ての住民向け手続きをスマートフォンから可能にすること等が記載されました。
改善事項には、業務システムとの連携処理も掲げられています。紙による事務を介在させずにフロント(申請受付)からバック(業務システム)まで一貫したデジタル処理を実現することは、自治体DXにおいて特に重要です。連携処理についてはオンライン化手順書に詳細が記載されています。
ぴったりサービスは基本的にインターネット側の機能に特化しており、自治体側の機能は申請データのダウンロードに限られていました。オンライン化手順書では、自治体側で利用する機能を備えた申請管理システムの導入を求めています。この申請管理システムには、マイナポータルからの申請データ取り込み、申請内容を審査するための内容照会および審査状況管理、基幹システムとの申請データ連携等の機能を実装するとされています。
業務システムとの連携処理を実現するには、申請管理システムを導入するほかにもネットワークの整備、連携サーバーの導入、住民記録システムの改修、業務システムの改修が必要です。なお、これらの実現経費の2分の1が国費で補助されます。
汎用的電子申請システム
オンライン化手順書では〈マイナポータルを利用することを推奨するが、それ以外の方法によるオンライン化を妨げない〉とされ、ぴったりサービス以外のオンライン申請サービスは「汎用的電子申請システム〉と定義されています。汎用的電子申請システムの中には、ぴったりサービスと申請管理システムの組み合わせにはない機能を備え、手続きをオンラインで完結させることが可能なものがあります。
そうした機能の例を挙げます。
まず、審査で申請内容に不備がある場合には差し戻しや職権訂正が必要です。差し戻しや職権訂正は申請者に通知され、差し戻しの場合は過去の申請データを修正するだけで再申請できるようにすると利用者に便利です。
料金の支払いが必要な手続きについては電子決済が必要です。決済金額が申請時に確定している手続きと、審査時に初めて確定する手続きの二つのケースがあります。また、証や受験票等を電子的に交付することも必要です。電子的な交付物は、汎用的電子申請システムで作成することもあれば、ワープロソフトや外部システムで作成することもあると想定されます。
汎用的電子申請システムと窓口システムとの連携も必要です。オンライン化できない手続きや情報弱者のために窓口の電子化が求められるのに加え、申請内容をオンラインで来庁前に入力しそれを窓口システムに連携することで、待ち時間を減らすことも可能です。
今後、ぴったりサービスにこうした機能が実装される可能性はありますが、現時点でこれらを希望する自治体は、汎用的電子申請システムを採用する傾向にあります。
求められる双方向のデータ連携
オンライン化手順書には、ぴったりサービスから業務システムへの申請データ連携は記載されていますが、反対方向の携携についての記載はありません。これは、ネットワーク三層分離原則に基づき、『地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン』で〈国が認めた特定通信に限り片方向の電子的移行のみが可能〉とされているためです。また、業務システムからオンライン申請サービスへのデータ連携についての標準が定められていません。
片方向の連携のままでは、行政手続きのDX実現には不十分です。まず、業務システムで認定や支給等の業務処理が終わったことを利用者に自動的に通知できません。さらに、本連載で繰り返しお伝えしているように、利用者の情報に基づいた手続き案内や申請様式の自動入力といったワンスオンリーが実現できません。
国が提供している「ワクチン接種記録システム」(VRS)が注目されます。VRSは、オンライン申請サービスと同様にインターネット側と自治体側の双方にまたがるシステムで、接種対象者や接種記録といった情報が自治体の業務システムと手作業で連携されています。これは本来、自動的に連携されるべきでしょう。
今年3月に閣議決定された『デジタル社会の実現に向けた重点計画』には〈「自治体の三層の対策」の抜本的見直しを含めた新たなセキュリティ対策の在り方の検討を行う〉とあります。また、今年8月に公表された『住民記録システム標準仕様書第2・0版』の改正概要には、〈データ要件・連携要件についてデジタル庁を中心に検討する〉と記載されています。手続きのオンライン化にかかる自治体DXを推進するには、オンライン申請サービスと業務システムの双方向の連携が必須であり、そのために二つの課題が解消されることを期待します。