ユーザー事例

楽天株式会社 様

大手IT企業が手がけた税務実務のイノベーション

楽天株式会社

国内最大級のインターネット・ショッピングモールから、金融業、デジタルコンテンツなど幅広く事業を展開する楽天では、その急成長に追いつくべく、税務実務に一気にイノベーションを起こすプロジェクトがスタートしていた。

川島 当社は2017年で創業20周年を迎えます。経理部では、会社の急速な成長に伴い、既存業務を見直し、IFRSの適用、会計システムの変更、新しいビジネスモデルに見合った会計処理の検討などに取り組んできました。目まぐるしく変化する環境の中で経理・税務業務を遂行していくためには、複数の対応事項の優先順位を見極め、総合的なバランスを取ることが重要です。特に組織体制やオペレーションを変更するタイミングには非常に神経を使っています。

 楽天グループの特徴は1億以上の会員に70以上のサービスを提供している独特のビジネスモデル「楽天経済圏」です。その規模はサービス数の増加に伴い、年々拡大しています。楽天グループは一致団結の意識が強く、グループ内の複数の法人が連携するプロジェクトが多いため、法人単位で計算を行う税務にとっては、論点も増え、大変悩ましいところです。

事前準備の徹底で問題点を洗い出す

集合写真

楽天経理部 左から、飯塚晃央氏、谷淳一 税務課課長、岩田香子氏、
和木美香氏、川島宏司 経理部部長、赤池恵理子氏

岩田 特に組織再編時は大変です。吸収合併や事業譲渡なども頻繁にあるので、処理が複雑化します。楽天は今や大企業と見なされていますが、まだまだ成長中なのです。こうなると税務は単なるルーチンではなくなります。引かれたレールの上を走るのではなく、自らレールを引く知識と行動力が必要です。それが顕在化したのが2年前、従来のやり方で決算税務を回すのはもはや限界だと分かりました。

和木 何があったのですか。

岩田 決算短信には間に合ったものの、決算税務が予定期間内に終わらなかったのです。税務と言っても、納税が目的の申告と、開示が目的の決算税務は異なります。申告は顧問税理士に委託でき、2、3カ月かけられますが、決算税務は税金計算に加え、税効果会計やIFRS注記を、企業が主体となり8営業日程で作成します。異なる戦略が必要なのです。

和木 私は税務業務が初めてだったので、決算と申告で税金計算は2回する、税理士さんの法的業務範囲に税効果がない、など知らないことばかりでした。

岩田 私も監査法人出身ですが、実務は初めてでした。それまでの楽天の決算税務は、顧問税理士が創業時からの申告ソフトで税金計算はしてくれるものの、税効果は対応外だったので、渡された申告書ドラフトPDFからエクセルに手入力して税効果計算やIFRS注記を非常に短期間で作成するやり方でした。

和木 そこに、よくメスを入れようと思いましたね!

岩田 まず、担当者がバラバラで全体が統括されておらず無駄もあったので、税金計算、税効果計算、IFRS注記作成そして監査人や各部署との交渉も、全てを一度は集約して最適化することにしました。しかし、さすがに私達2人だけで実務を短期間でこなすのには無理がありますから、私はTKCのシステム『eTaxEffect』を部長に提案しました。

和木 初めてなのに、なぜTKCのシステムを知っていたのですか。

岩田 前職の監査法人で多くの企業を監査した経験から、決算税務は『eTaxEffect』と思っていました。税効果をシステムで計算してくれますし。顧問税理士も、決算税務のコンサルが可能なTKC会員の法人にお願いすることにしました。

和木 導入プロセスは長かったですよね。

岩田 現状分析と計画に5割のエネルギーを使いましたね。その後、期中データでのトライアルなど事前準備を行い、本番を実施。申告もTKCの『ASP1000R』を活用しました。

和木 本番はあっという間で、自分の予定を終えたら、いつの間にか全体も終わっていて驚きました。

岩田 私は税務とは料理番組のようなものだと思っていて、火をつけた後に次は何をやろうか考えてはもう遅い。とにかく事前準備可能なことを洗い出して用意しておき、本番は短時間で全品を同時完成させる。つまり逆算による仕込みが全てです。税前利益の確定から税金計算およびIFRS税効果パッケージ報告までの工程を1時間に収めたことは、こうした導入プロセスによる成果だと胸を張って言えます。

MR設計ツールの活用で飛躍的効率化を実現

和木 どうやって1時間で完了させたのか、具体的にお話ししないと。

岩田 マネージメントレポート(MR)設計ツールが大活躍しました。この機能は、自由に設計したエクセル帳表に『eTaxEffect』の計算結果が自動的に流れるというものです。『eTaxEffect』の数字を変えても更新ボタンで連動して帳表の数字も変わります。従来は、税前利益など変更があったら作り直しでしたが、今はボタン一つでOK。しかも、前年と今年の比較等が自由にできます。この帳表はほぼそのまま上長への説明資料にもなります。

和木 スケジュールは?

岩田 まず、一日かけて仮TB(残高試算表)の数値を『eTaxEffect』に入力します。そして次の日に確定した一次TBを基に変化した部分を更新入力し、MR設計ツールを用いた全ての成果物を完成させます。そして最終の二次TBが固まると、一次との差だけを更新します。そうすると、全ての帳表が連動更新され、結果として1時間で完了というわけです。『eTaxEffect』は顧問税理士と同時操作が可能な事も早さの秘訣でした。

和木 この改善案は社内でも評価され、社内表彰制度の「楽天賞プロジェクト最優秀賞」を頂きましたね。

岩田 社内での認知度が上がり、他部署から協力を得やすくなるという相乗効果もありました。この受賞には思いがあって、私達中心メンバーだけでなく、他部署の担当者も含めた14名のチームによる成果としました。「皆でチーム」と思っているのを伝えたかった。一方的に資料依頼され督促されるのでは、積極的に取り組めないと思います。頂いた資料から計算される税額をお知らせすると、より納得してもらえます。効率化には自動化やスキルだけではなく、他部署との連携が非常に重要です。

更なる税務に強い組織を目指して

 次の目標は人材育成ですかね。

岩田 自分ができることを他の人でも可能にすることが組織での役割だと思うので、今年からが本番だと思います。
 従来は、支払経費や決算経理、税務相談などの担当部署にばらつきがあり人材を育てることができませんでした。新しい一つの「Taxチーム」と称して、各課からのローテーションにより、上流から最終工程まで対応できる人材育成を何よりも優先して始めなければ、根本的な解決にはなりません。個人の力ではなく、組織力で解決できる体制にする必要があります。

和木 今回のプロジェクトを踏まえて、私の中で税務のイメージが変わりました。一つずつ紐解いてもらえば経理の一部として取り組めます。システムや顧問税理士さんに頼れますし、誰でも税務に関われると思います。

 和木さんが言うと説得力がありますね。2人は税務を始めたばかりですが、どうですか?

飯塚 子会社出向で、総合的な経理財務業務の把握が非常に大事だと痛感し、特に税務は要になると感じています。知識を使って実際の会社運営に生かせる人材を育てて会社組織を強くしていくのであれば、社内での知識共有やOJTこそ必要ですから、これから面白くなりますね。

赤池 いきなり1人で税務担当にはなれませんが、今までの担当業務の延長にある税務から、ナレッジの蓄積・共有に参加できる所が画期的です。実際は兼務で時間確保が大変ですが、普段の業務でも色々気付くことは増えています。

岩田 私達はビジネスの現場における税務のプロを目指し、日々の業務を行っています。税金計算・申告の面では、TKCと顧問税理士の方々の力をお借りして最新の情報・手法を取り入れ、業務の効率化、迅速化、正確性の向上に取り組んでいきます。

川島 税務は会社の重要な業務の一つです。現場における税務のプロの育成は急務です。経理部の全員が税務実務を理解できるよう、ローテーションを行っていきたいと思っています。強い組織作りへの挑戦はこれからも続きます。

会社概要
名称 楽天株式会社
設立 1997年2月7日
URL http://corp.rakuten.co.jp/about/overview.html

『戦略経営者』2017年1月号より転載

掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、2017年1月現在のものです。
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