“会計の見える化”武器にアジア進出に挑む
小澤一哲社長
国内拠点でワイヤーハーネス(電気配線)を生産し大手自動車部品会社に納入する、いわゆる「協力会社」として存在してきたピー・エム・オー。平成13年、ちょうど30歳の時に社長に就任した小澤一哲氏(43)はこう話す。
「売り上げのほぼ100%を占める大手の取引先とは密接な関係にあるので、仕事自体は安定しています。しかし、少子化や若者の車離れなど、国内市場にはあまり期待できませんし、リーマンショックのような不況がいつ襲ってくるかもわからない。つまり、じっとしていたら縮小均衡がせいぜい。そこで、まずは海外に活路を見いだそうとしたのです」
とはいえ、どうやって海外に進出したら良いのかがわからない。現地法人の作り方を、当時の顧問税理士に聞いてもさっぱり。そこで小澤社長は、メーンバンクの浜松信用金庫の紹介で、海外に強い税理士法人坂本&パートナーを紹介してもらう。
当初は、取引会社に打診・許可を得た上で、海外生産した製品を逆輸入して、これまで通りのスタイルで納入する計画だった。ところが、ある事情から、それがかなわなくなり、同社としては結果的にはしごを外された格好になってしまう。2011年の大震災からまだ間もない時期だった。
「でも、乗りかかった船です。いまさら引けない。当社の技術を生かして、何とか海外から突破口を開こうと考えました」
中国・蘇州の現地工場
事業計画をつくり、メーンバンクに融資を受け、数千万円かけて中国の蘇州に自社工場を整えた。機械を日本から運び入れ、あるいは現地で調達し、従業員を教育した。さらに、これまでと決定的に違うのは、営業して仕事を自ら作り出さなければならないということ。小澤社長はまさに後ろの橋を切り落とす思いで、この事業に打ち込んだ。ただ、同社が他の中小メーカーと違ったのは人材の豊富さだった。
外部から優秀な人材を確保
「リーマンショックの後、優秀な技術者が一流といわれる企業から次々にリストラされていきました。当社も苦しかったのですが、私は絶好のチャンスだと思い、彼らを4名雇い入れたのです」
中小企業の最大の弱点は人材面。それを十分に理解していた小澤社長は、あらかじめ手を打った。だからこそ、雇用したうちの2名を中国事業の経営に振り向けることができたのである。
税理士法人坂本&パートナーの大鷹紀信執行役員はこういう。
「小澤社長は、とにかく先が見通せる経営者であり、計数管理の能力も高い。だからこそ、苦しいなかでも人材面での弱点克服に動いた。普通の中小企業の社長ではできません」
もともとが世界に冠たる日本の自動車に採用されている品質の高いワイヤーハーネスである。本格的に営業活動をはじめると、思わぬニッチ市場からの引き合いが続出した。たとえばタイの自動車市場の約15%を占める天然ガス車メーカーからの受注は大きかった。あるいはフォークリフトや大手家電メーカーの湯沸かし器に使用するワイヤーハーネスの商談にもつながる。
「当社の現地法人はまだ設立して2年ですが、業績は右肩上がりです。波はありますが、年商で2~3億円くらいは稼げるようになっています。大手の扱わないニッチな分野で質の良いワイヤーハーネスのニーズは確実にある。それらを掘り起こしていきたいですね」
現地の業績を詳細に把握
そんな海外事業を軌道に乗せるためにピー・エム・オーが、坂本&パートナーを経由して導入したのが、TKCの『海外ビジネスモニター(OBM)』である。
OBMとは、海外子会社の仕訳データをTKCインターネット・サービスセンター(TISC)にアップロードし、日本の親会社と海外子会社の社長が適時・正確なデータを閲覧するためのクラウドサービスだ。海外の会計システムと連携し、親会社の科目体系に変換して現地の会計データを確認できるのが特長である。
OBM導入の動機を小澤社長はこう話す。
「やはり海外なので、現地の日系のコンサルタント会社に財務を任せており、毎月の実績といえば月末残高のエクセルシートが送られてくるだけ。私は仕訳レベルにまでさかのぼることができる『FX2』(TKC財務戦略情報システム)の普段から見慣れている『変動損益計算書』で自社の実績を見たかったのです」
『FX2』は、「365日変動損益計算書」をベースに、多彩な時系列比較や生産性分析、決算の先行き管理などが可能。また、「ドリルダウン機能」によって画面上の操作だけで仕訳データへとさかのぼり、原因究明ができる。しかし、海外の会計システムにこのレベルの機能を期待するのは難しく、そこが小澤社長の悩みの種だったのだが、それを一気に解決したのがOBMというわけである。今回の利用形態は「(TKC)会員利用型」と呼ばれるもので、仕組みはこうだ。
ピー・エム・オーの海外子会社から送付された仕訳データを、前出の「TISC」にアップロード。初期の導入過程で坂本&パートナーによる科目設計を行い、『FX2』などのTKCシステムと同様「365日変動損益計算書」で業績の確認ができるシステムが提供され、また、そこからドリルダウンして「親会社科目内訳」「会社別科目内訳」「科目推移グラフ」そして「元帳」や「会計伝票」まで確認できるようになる。
「これで、表面だけでなく、現地法人の中身をリアルタイムかつ詳細に確認することができるようになりました。そうすることで、現地法人の側にも“見られている”という緊張感を持たせることができます。モニタリングはもちろん、現地の経営陣とのテレビ会議も最新情報をもとにできるので、とても重宝しています」
そもそもOBMの製品思想は大きく2つあり、1つは「海外法人の業績の適時・正確な把握」、さらに2つめは「内部牽制を効かせる」ことにある。文字通りこの2つを実現したことにより、小澤社長にとっての懸念材料が一気に解決された。
「実は、月に1回程度、蘇州に行って責任者とも会っていたのですが、もう一つ突っこんだ話ができなかった。理由は、業績の詳細が分かっていなかったからです。今後は、現地を訪れなくても、テレビ会議で情報共有しながら一緒になって取り組んでいけます」
もちろん小澤社長が、将来目指しているのは海外事業のさらなる伸展である。中国だけでなく、タイ、ベトナムなどASEAN諸国もターゲットにし、ワイヤーハーネスのニッチ市場を深掘りするもくろみだ。その際の有力ツールとして、あるいは先行インフラとして、小澤社長がOBMにかける期待は大きい。
名称 | 株式会社ピー・エム・オー | |
---|---|---|
創業 | 1996年8月 | |
所在地 | 静岡県浜松市浜北区豊保245 | |
売上高 | 約10億円 | |
社員数 | 約150名 | |
URL | http://www.pmo-group.co.jp/ |
『戦略経営者』2015年1月号より転載
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