OBM導入事例
海外子会社の経営状況を“見える化”し、内部監査にも活用
グループ連結決算に向けて
海外子会社の会計を日本語で管理
異動早々に与えられた課題はグループ連結決算体制の構築…。国内11社、海外12社の子会社を抱える日通商事。海外は会計ソフトもバラバラで、経理スタッフが定着しない子会社もあり、日本基準での財務報告資料作成に不安が残る。偶然に出会ったツールを頼りに、戸惑いつつも手探り状態で進めた子会社財務“見える化”の取り組みとは。
「藁(わら)にもすがる思い」で頼ったソリューション
「いったいどこから手をつければいいのやら…」
日本通運の子会社で物流を核とした複合商社、日通商事の経理部次長、日髙務氏が戸惑ったのも無理はない。2017年に現在の部署に異動してすぐに直面した課題が、日通商事グループとしての連結決算体制の構築だったからだ。一緒に取り組む係長の土谷武弘氏も同時に異動してきただけに、まったくの手探り状態だった。
日通商事は、2010年代から積極的に海外展開を進め、現在、国内11社、海外12社の子会社を抱える。設立年数の浅い海外子会社が多く、経理担当者も現地採用スタッフが中心。「日本基準で財務報告資料を作成してもらうには、一抹の不安を抱えていた」と日髙氏。
また、海外子会社ごとに会計ソフトが異なり、各社の事業内容も多岐にわたっていたので、継続的に本社と海外子会社の双方の経理体制を強化していく必要もあった。
そんな折、経理担当役員から「使えるものはどんどん使うように」とアドバイスされた。そこで「藁(わら)にもすがる思い」(日髙氏)で試してみたのが、同役員がセミナーで見てきたという「海外ビジネスモニター」(略称OBM)というソリューションだった。海外子会社がどのような会計ソフトを使っていても、仕訳データさえ取り込めば日本語の勘定科目で管理できることをうたっていた。
「まさか、どの会計ソフトにも対応可能で、日本の勘定科目で読め、しかも国内の会計ソフトにも対応できるとは。それに、想定していた予算と比較して、リーズナブルな価格設定も魅力的でしたね」と日髙氏。
土谷氏も「統一勘定科目への読み替えに対応していて、連結決算に使える」と感じたという。
海外だけでなく国内子会社まで一元管理
現地語の用語もすべて日本語に変換。
いわば海外子会社の会計情報の“通訳”のような存在だ。
導入を決めてから稼働までは平均3カ月ほど。準備作業の大部分は、各子会社の勘定科目と日本の勘定科目のマッピング作業だ。土谷氏が振り返る。「各国で会計基準も取引慣習も税務ルールも違うため、まずは各国の経理処理を理解し、仕訳ベースでの取引内容の把握に努めました。統一勘定科目へのマッピングは海外子会社や現地監査人ともやり取りしながら進めました」。
マッピング作業が完了すれば、海外子会社の会計ソフトから仕訳データを送ってもらうだけだ。現地の勘定科目は自動的に日本の勘定科目に置き換えられる。OBM導入に伴い、海外子会社への負担が増すこともなかった。「そこが非常に優れているところで、仕訳データ、試算表、勘定科目リストだけ送ってくれと伝えるだけですから」と日髙氏。
日通商事では、OBMを国内子会社にも活用している。海外、国内の子会社の財務データをOBMで取りまとめ、海外子会社については、本社にて日本基準の財務報告資料作成ツールとして活用している。これによりグループ連結決算に向けて大きく前進した。
本社から見られているのだという意識づけにも有効
土谷氏によれば、「以前は子会社からエクセルで作成した業績報告と決算書のみが送られてきたため、仕訳の内容が把握できませんでした。詳細を確認したくても現地スタッフとのコミュニケーションに手間取ったのですが、これが解消されて時間とストレスの削減につながっています」。
日髙氏も導入効果に手応えを感じている。
「現地に問い合わせるにしても言葉の壁もあるし、そもそも現地スタッフがこちらの会計上の質問意図を理解できるかどうかの問題もありました。OBMなら日本語で読めて、仕訳レベルまでドリルダウンできます」
日通商事では、内部監査業務にもOBMを活用している。
「監査部が往査前の準備にOBMを活用しています。従来なら、紙かエクセルの現地語の資料しかなく、事前チェックには限界があり、現地での往査時に不明な取引を発見するといった具合でした。今は、いつでも直近の財務数値を確認できますし、内部監査支援機能を有しているのでミスや不正の継続的チェックも可能です」(日髙氏)
土谷氏によれば、「OBM用に海外子会社から仕訳データを送ってもらう作業を通して、本社から見られているという意識を現地子会社に持たせることで、不正に対する牽制効果がある」という。
また、同社では経理部、監査部以外にも国際管理部やLPガス部など6部門がOBMを利用して子会社の管理に役立てている。この理由について日髙氏は「それぞれの部門で管理している子会社があるので、財務面でも責任を持ってもらおうという意図がある」と説明する。
子会社の財務データが“見える化”されたことで、グループ連結決算体制の構築に道筋をつけた日通商事。将来的には、本社だけでなく海外子会社からも財務状況をモニタリングしてもらうことに加え、内部監査支援機能による現地ガバナンスの強化にも乗り出す考えだ。
名称 | NX商事株式会社 (旧:日通商事株式会社) |
---|---|
設立 | 1964年 |
所在地 | 東京都 |
従業員数 | 2,724名 |
URL | https://www.nittsushoji.co.jp/ |
『日経ビジネス』2020年9月21日号より転載
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