グローバル企業が挑む海外事業管理体制の堅牢化
自動車メーカー向けの樹脂精密成形品の分野でトップを走るニフコ。40カ所の海外拠点を持つグローバル企業だ。そんな同社が、より堅牢(けんろう)な海外事業管理体制の構築に向けて動き出した。同社執行役員の萬成力氏の講演を採録する。
(8月23日 ベルサール飯田橋ファースト「TKC会計セミナー」より)
財務本部副本部長兼財務・経理部長
執行役員 萬成 力氏
当社は、今年2月に創立50周年を迎えました。主に自動車メーカー向けのプラスチック精密成形品や、ダンパー、コンポネントなどを製作しているメーカーです。そのほかにも、高級ベッドで有名な「シモンズベッド」を別会社で展開しています。
売上高は2594億円(2017年3月期)で、利益率は比較的高く、とくにROE(株主資本利益率)が16.2%と、上場企業のなかでも高い方だと思います。
得意としているのが「つなぐ、束ねる、結びつける」といういわゆる「ファスニング」の分野。パネルをとりつけるリベットやパイプを固定するクランプ、ホルダー、ワイヤーを留めるクリップなど、日系自動車メーカーのすべてに当社の製品が使用されており、海外拠点は40カ所で17カ国におよんでいます。売上高の7割以上が海外、82%が自動車関連製品。現在の売上高で換算すると、日本での売り上げは約750億円、そのうちの自動車関連は82%なので約600億円。日本の自動車の年間生産台数は900万台強。そのすべてに当社の部品が使用されているので1台当たり搭載金額は6300円程度。1台当たり当社の製品は700~800点使われているので、単価は7~8円ほど。一般的にはあまり効率的なビジネスモデルではないと思います。
われわれは約3万種類の製品を毎年販売していますが、これは、お客様それぞれのニーズに沿ってひとつひとつ丁寧にカスタマイズ対応して来た結果、これ程、多品種になってしまったのだと思います。もちろん、それぞれに設計も金型も必要で、手間もコストも掛りますが、その価値をお客様にも理解して頂けていることで、結果的に高い利益率に結び付いているのではないかと思います。
「ルールと仕組み・システムで動く」会社に…
さて、既述の通りグローバルに展開している当社では、当然ながら海外子会社を数多く持っており、アジア21社、北米7社、欧州8社を数えます。
当社は、カリスマ的な創業者・小笠原敏晶が強力なリーダーシップでひっぱってきた会社です。そんな小笠原会長が昨年6月の株主総会で退任、12月に亡くなりました。ひとつの時代が終わったといえるのかもしれません。今後は、人に依るのではなく、ルールや仕組み・システムで会社を動かす基盤作りをしなければなりません。中期経営計画で打ち出している3300億の売上を支えて行けるだけも土台作り、その7割以上を担う海外事業の体制の再構築は喫緊の課題です。今後50年を持続的に成長できる体制とはどのようなものなのか。昨年8月の経営会議で、7つの項目、25のプロジェクトの推進を提案、経営会議で承認されました。
内容としては、①地域軸・機能軸への責任と権限の委譲、②海外子会社における資金、帳簿、予算のプロセスの「見える化」、③意思決定の「見える化」、④経営者の考え方の「見える化」、⑤グローバルリスクの「見える化」、などです。①では、子会社経営者の責任と権限を定義すると共に、それを支える経理責任者の責任役割の定義を行い、その誠実性・中立性を担保するために、パナソニック社の経理社員制度に習って評価・報告ラインは、従来の現地経営責任者に加えて本社CFOラインを追加した複線化に移行、今年の1月から海外子会社の経理責任者の任免権者を本社CFOとしました。同時に、経理責任者の目標設定とその進捗管理を始めました。
また、海外各社の銀行口座をリアルタイムに把握し、不正の未然防止をしたいと考えました。資金「見える化」ツールを導入した結果、今では、海外に約290口座あるうち、約280口座の毎日の入出金残高が把握できるようになりました。
海外子会社帳簿の「見える化」
資金「見える化」の次に取り組んだのが、帳簿「見える化」です。現状は、各海外子会社が本社の示した連結勘定科目ガイダンスに従って月次データを連結会計システムにインプット、それに基づいて連結決算を行っています。つまり、現地のスタッフが行っている作業が正しいと信じて連結決算を行っているわけですが、性善説だけではリスクが高いように思います。果たして、われわれが指示した勘定科目通りに正しい数字を入れてくれているのか……現地の元帳、試算表をこちらから見ることができれば、それを確認することが可能になるため、そのリスクも軽減されます。不明点があればドリルダウンして原因を探ればいい。現地に赴く前に内部監査の予備調査ができれば内部監査は効率的になりますし、現地に行かなくても内部監査ができる可能性すらあるかもしれません。これらを実現するに、各社から収集した仕訳データをサーバーに蓄積し、そこから試算表を作成して、連結システムにアップロードする仕組みが欲しい、と考えてツールを探していたところに、TKCから提案されたのがOBMでした。
実は、他社からも似たような提案を頂いていたので、比較検討を行いました。その結果は歴然でした。導入実績は圧倒的にTKCが優位だし、他社製品にはない、自動翻訳機能、残高の整合性の確認や牽制機能もついていて、さらにバージョンアップの頻度も高いし、クラウド上でどこからでも各海外子会社の財務データを確認できる。つまり、他にないソフトだったんですね。これは「海外会計データ可視化ツールのデファクトスタンダード」に成り得ると……。監査部からも「このソフトの牽制機能はいいね」とのコメントもあり、採用に踏み切りました。
ちなみに、海外の大手企業ではSAPなどのERPでグループ企業を統一しているケースが多いですが、中小規模の海外企業でグローバル展開している場合には、弊社のように子会社の会計ソフトはバラバラという状態の企業が多いと思います。M&Aによって大きくなっていく企業はとくにそうですね。OBMのようなツールは、そのような会社にとっても救世主になる可能性があると思うんです。
我々の最初のターゲットは会計ソフトに『用友』を使っている中国と『オラクル』を使っているアメリカ・メキシコの子会社でしたが、まずは最も効果のありそうな中国からスタートしました。中国は全社で用友を使用していたにもかかわらず、各社各様の勘定体系となっていましたので、各社ごとに、現地勘定科目と連結勘定科目の組換表を作成して、それをOBMに登録、開始残高を登録し、仕訳ファイルを読み込み、OBMの残高と試算表残高の一致を確認した後、連結会計システム上の残高との一致を確認したのですが、全く一致しませんでした。不一致の原因を1社ずつ調査したところ、手による勘定科目組み替えや特有の記帳法があったり、該当する勘定科目がなかったりしたことが原因であることが判明しました。6月の中国経理会議に各社経理責任者を招聘し、1社ごとに経理責任者に差異の原因を説明し、マッピングと月次組替表を使って連結会計システムの残高に合せるように依頼をしました(結果的には、7月から3社の残高が合うようになっています)。かなり時間はかかりましたが、管理会計課を中心としたプロジェクトメンバーが頑張ってくれたおかげで、なんとか形になりつつあります。
他の「見える化」プロジェクトとの相乗効果に期待
OBM導入後、ここへきて、他の「見える化」プロジェクトとの相乗効果が見えてきました。たとえば、資金「見える化」ツールで、ある月で500万元資金が減っているのを見つけたとします。それが何の支払いの結果なのか、銀行からの入出金データだけでは分かりません。銀行の入出金明細から金額と取引日を特定し、今度はOBMに入って、データ検索し仕訳までドリルダウンしていくと、それが金型を購入した際の代金だったことが分かる──といったような具合です。
ベーシックファスナー
資金の動きの中身が見えれば資金繰りに不安がなくなる。OBMを使って本部で海外子会社の仕訳を抽出し、直接法キャッシュフローを作成することができます。これを元に、将来的な各社あるいはグループのキャッシュフロー、バランスシートが想定可能になれば、予算や見込みの「見える化」ができるようになると思います。
また、海外子会社では、口座開設には稟議が必要ですが、稟議起案を忘れて口座開設されていると、帳簿残高との間に差が出て来て、本社にばれてしまうということになります。そのためには、OBMで各海外子会社の銀行別の残高を把握し、資金「見える化」ツールの残高の照合を毎月やってゆくことが必要になると思います。
これら取り組みを進展させれば、各社のビジネスの中身が見えて来ますので、最終的には、シェアードサービス(存在している複数の企業が、人事や経理や情報などといったサービスの間接部門を共有すること)の実現も俎上にのぼってくるかもしれません。各子会社がどのような仕訳をしているかを把握し、共有化し、足並みをそろえることができれば、それが可能になる。しかし、実際には、なかなか骨の折れる仕事です。まだ、残高が合わずに現地に問い合わせてあたふたしているのが現状です。今後は、もう少し多くの人員を割いて、TKCの協力を得ながらOBMのシステムとしての力を最大限に活用し、売上3000億円規模にふさわしい海外子会社の管理体制を構築していきたいと考えています。
名称 | 株式会社ニフコ |
|
---|---|---|
設立 | 1967年2月 | |
所在地 | 神奈川県横須賀市光の丘5-3 | |
売上高 | 2,594億円(2017年3月期) | |
社員数 | 1万1,017名(2017年3月末時点) | |
海外拠点 | 17カ国 40工場 | |
URL | https://www.nifco.com/ |
『戦略経営者』2017年10月号より転載
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