海外初進出のベトナム工場をシステムで緻密に管理
自動車やオートバイなどのゴム製部品製造を手がけるマルタカゴム工業。静岡・磐田に根を張り、技術を研鑽(けんさん)しつつ、近隣の大手メーカーに部品を供給してきた。そんな同社が、数年前、ベトナムに製造拠点を設立。初めての海外現地法人の業績管理に挑んでいる。髙瀨智幸社長と、サポートする江川博敏顧問税理士、仲山龍彦監査担当に話を聞いた。
──創業の経緯を教えてください。
髙瀨智幸社長
髙瀨 先代がもともと同業他社に勤務していて、個人として独立したという形です。自宅が農業をやっていて土地だけはあったので、そこに掘っ立て小屋のような仮設工場を立ててのスタートでした。
──昭和61年にこの場所に?
髙瀨 周囲に住宅が増え始め、ちょうどその頃ここ(磐田さぎさか工業団地)が入居を募集していて当社が手を挙げたわけです。設備投資を行い、本格的に事業を拡大しようという先代の決意表明でした。当初は大手自動車メーカーの一次下請け業者からの仕事が主で、車の内燃機関に付属するエアクリーナーのマウント部分などを手がけていました。
──仕事は順調に?
髙瀨 時代が良かったんですね。近隣にはホンダやスズキ、ヤマハ、河合楽器製作所などもあり、ゴム製部品の需要は旺盛でしたから。次第に取引先が広がっていきました。ただ、最近は、メーカーの海外生産が進んだこともあって、だいぶ淘汰(とうた)されてきています。われわれの同業者は、中堅どころでは浜松・磐田地区で4社くらいに絞られてきました。
──とはいえ、ここ数年、業績は伸びていますね。
髙瀨 撤退されているところの受注を引き継いでいる部分もあるのではないでしょうか。当社は顧客と長くお付き合いをさせていただいているので、ある程度の業界でのポジションと信用を勝ち得ていると自負しています。
──その「信用」のもととは?
髙瀨 最新のCAD・CAMを使用した金型を駆使し、品質はもちろん、顧客の要望へのレスポンスをよくすることを心がけています。かゆいところに手が届く営業スタイルですね。「当社を便利に使ってください」といった感じでしょうか。これは先代からの特色のひとつです。さらに、顧客から渡される設計図通りにつくるのではなく、「つくりやすさの提案」もさせていただいています。当社からよりよい形状の提案を行い、コストや品質の折り合いをつけていくわけです。われわれはゴム加工のスペシャリストですから、顧客も信頼して耳を傾けてくれます。ゴム部品を自社生産しているメーカーはまずないですからね。そんなところも当社の強みといえるでしょう。
江川博敏顧問税理士
江川(顧問税理士) それと、先代は、設備投資を積極的に行われました。それがいま、生きてきているように思えます。浜松・磐田地区は、自動車、オートバイ、楽器など大手がひしめいていて競争が激しいですからね。そのため、品質への要望やコストダウン圧力もすごい。身を削る部分と、それを補う技術の確立が必要です。そこを非常に緻密に考え抜かれた上で、設備投資をされ、技術を研鑽し続けたことが、マルタカゴム工業さんの現在の成功を引き寄せたのだと思いますよ。
──具体的にどのような部品をつくられているのでしょう。
髙瀨 主に自動車、オートバイ、トラックなどの各種ゴム部品です。前述したエアクリーナーのマウント部分だとか、あるいは、パッキンやホース、ブッシュ(衝撃緩和材)など、また、楽器ではサックスのマウスピースや電子楽器の部品などもつくっています。
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──2013年にベトナムへ生産拠点をつくられました。理由は?
髙瀨 リーマンショックの際に、国内大手メーカーの生産拠点の海外移転に拍車がかかり、受注が大幅に減ってしまいました。そんな窮状を打開するには、海外に出てコストをおさえながら製品を供給できる力をつけるしかありませんでした。
──なぜベトナムを?
髙瀨 タイや中国も考えましたがコストが高いし競合も多い。ベトナムは、共産圏というリスクはありますが対日感情は悪くはない。労働コストもタイやインドネシアに比べると3分の1程度だし、有力顧客の海外工場にも供給できるロケーションでした。さらに、比較的参入しやすいオートバイ市場が活況で、ゴム製造を手がけるライバルも少ない。自動車メーカーの集中しているタイなどにはライバルも多いですからね。
仲山龍彦監査担当
仲山(江川税理士事務所監査担当) 感心するのは技術実習生たちを日本に呼んで、彼らを幹部候補生として教育した上で現地法人のコアスタッフとして配置するなど人材的に周到な準備をされていたことです。当事務所もタイで16年の活動実績がありますから、いろいろと相談に乗らせていただきました。結果、当初はわずかな現地スタッフでスタートされたにもかかわらず、いまでは92名の従業員を抱えるほど業容を拡大されています。
──とはいえ、財務管理には苦労されたようですね。
髙瀨 はい。ベトナムは税務当局から会計ソフトが決められていて、そのひとつを使用していたのですが、なにしろ日本の会計基準や試算表の形態とあまりに違うわけです。英語とベトナム語が混在しているし、勘定科目なども独特で、製造原価の内訳さえ分からない。そのようななか、「(現地法人の財務諸表を)何とか日本風にできないか」と仲山さんに相談すると、『海外ビジネスモニター』(OBM)というTKCのソフトがあるよと……。
仲山 とはいえ当時、OBMはベトナムのソフト(会計)との連携実績がなかったんですね。そこで、当事務所がTKCにベトナムへの対応をお願いしたのです。
──どうでした?
仲山 現地ソフトから切り出したデータを取り寄せ、TKC担当者の方に即座に分析いただき、対応可能と分かりました。
──ほかにも現地法人を管理するソフトの選択肢はあったのでは?
髙瀨 OBMのようなお手軽で廉価なものはほかにありませんでした。あるベンダーのプレゼンを受けましたが1千万円近いイニシャルコストに加えてかなりの年間使用料もかかる。それに比べて、OBMは安いし、導入も簡単です。
──どのような流れで、OBMを活用されているのでしょうか。
仲山 まず、ベトナム現地法人から翌月中旬には財務データを当事務所に送ってもらい、それをOBMに流し込むと勘定科目が日本風に整えられて仕訳・翻訳(日本語・英語)され、通常のTKCの自計化ソフト『FX2』とほぼ同じインターフェースで業績を見ることができるように設計しました。データをいただいた1時間後には、ベトナム工場の前月の最新経営データを見ることが可能です。
髙瀨 仲山さんにはOBM稼働後に見えてきた問題点(勘定科目の細分化の依頼等)解消のため、現地に同行してもらうなど、とても細やかな対応をしていただいています。とにかく、いまではOBMは欠かせない経営ツールです。たとえば、1円は約200ドン(ベトナムの通貨)に当たるのですが、これが当初は慣れなかった。しかし、いまはOBMが自動で日本円に変換してくれます。また、売り上げや原価、利益など経営データを時系列で比較検討したりと、通常の試算表と同じ感覚で検証できます。もちろん日本語です。懸案だった原価の内訳も分かるようになりました。これまでとは安心感が違います。
──安心感とは?
髙瀨 以前は現地法人の状況はおおまかにしか分からなかったものが、OBM導入後は、詳細なデータによって実態をつかめるようになり、自信を持って手を打つことができます。もうひとつは、メーンバンクなど金融機関に説明する材料として非常に役立っています。
──というのは?
髙瀨 これまでは、口頭で業績を説明するだけだったので、本当に儲(もう)かっているのかどうか、金融機関も疑心暗鬼だったと思います。それが、いまでは、きちんとしたデータで示すことができる。
仲山 それと、クラウドなので、どこからでも見ることができるのも大きいと思います。日本でも、ベトナムでも。
髙瀨 現地の日本人駐在員やコアスタッフと話すときは、最新のデータを見ながら話し合うことができます。売り上げはこうなっているだとか、給料はこうだよねとか……。現在は、月に1回以上は私が現地を訪れているのですが、将来的には駐在員もOBMの数字を自由に見て、経営判断ができるようになればいいですね。
──将来的な見通しは?
髙瀨 ベトナム工場はいまレンタルですが、成形機2台からスタートし、3年間で8台、従業員は90名を超え、手狭になってきています。レンタルであるがゆえに、やりたいレイアウトや改造がままならない。近い将来、別の場所へ移転・拡大して、生産能力を上げていきたいと考えています。
90名以上のスタッフを抱え、活況のベトナム工場
名称 | マルタカゴム工業株式会社 |
複雑な形状のゴム製部品を手がける
|
---|---|---|
創業 | 1979年8月 | |
所在地 | 静岡県磐田市匂坂中1600-26 | |
売上高 | 6億2,000万円 | |
社員数 | 24名 | |
URL | http://www.mr-japan.com/ |
『戦略経営者』2017年8月号より転載
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