内部統制と税務を強化する「地域のホームドクター」
かつて東海道の宿場町として栄えた伊豆半島の中核都市・静岡県三島市に本拠を置く三島信用金庫。徹底した地域密着戦略を貫き、高い自己資本比率を誇る優良信金は、自らの決算申告業務にどう向き合っているのか。経営企画部の菊池雅司課長、大川利之主任調査役に話を聞いた。
草の根活動を拡大し中小企業と地域を全力支援
──昨年(平成24年度)スタートの中期経営計画では「変化にチャレンジ」を謳っておられます。
菊池 ご承知の通り、中小企業をめぐる環境は、国の施策を含めて激変しています。われわれ地域金融機関には、そのような激しい動きに的確に対応する課題解決型営業力が今まさに求められているのだと思います。中小企業金融円滑化法終了を見すえた企業再生や経営改善、あるいは地域再生といった「待ったなしの課題」にすみやかに対応できるよう、できる限りの施策を実施していくつもりです。
──たとえば?
菊池 経営改善計画書の作成、モニタリングの実施といったような企業再生への直接的な支援はもちろんですが、並行して、地域密着の草の根活動もより広げていきたいと考えています。
当庫は従来から「地域のホームドクター」を標榜しており、地域を巻き込み、お客さまと一体となったコンサルティング機能を看板に業務を行ってきました。たとえば、ビジネスマッチングの商談会や展示会を頻繁に行ったり、若手経営者を組織してセミナーや勉強会を実施したり、あるいは『夢企業大賞』という地域社会に貢献するビジネスプランを表彰するイベントを毎年開催したりといった草の根的な活動ですね。これらを引き続き拡大・推進していりくつもです。
商談会については25年度以降、さらに拡大していく予定になっており、地域の特産物を生産者の方々が全国にアピールしていくお手伝いをしていきます。また、夢企業大賞などイベントの拠点となっている『サポートセンター夢』では、法改正の説明会、海外進出セミナー、無料年金相談会、住宅ローン相談会などを適時に開催しており、地域に密着した情報発信基地になっていますので、ここも最大限生かした戦略を展開していきたいですね。
それから地域との連携強化という意味では、昨年、熱海市、伊豆市および三島市とパートナーシップ協定、また、静岡大学とも「産学連携に関する業務協力協定」を結びました。
──社内体制や職場づくりの面はいかがですか。
菊池 平成22年にポジティブアクションプロジェクトチームを設置し、女性の活躍できる育成、職場づくりに取り組んでいます。成果としては同年10月に女性支店長が初めて誕生して以来、現在では支店長2名のほか、女性の管理・監督職は53名に上っています。
それから顧客満足度向上のために店舗のバリアフリー化や窓口対応の迅速化を推進、加えて、IT活用による業務の効率化にも取り組んでいます。たとえば、顧客対話型窓口用端末「タッチ伝票」をある大手企業と共同開発して業界で初めて導入しましたが、この端末を使うことでATMでは対応できない税公金の収納や10万円超の現金振り込み手続きの際にも伝票記入の必要がなくなります。現在は大型店舗中心ですが、利用状況をみながら将来的にはできるだけ多くの店舗に設置したいと考えています。
このほかにも、為替集中システムや統合データベースの構築など、ITを活用しながらなるべく集中・集約化して効率を良くする取り組みを続けています。ちなみに、TKCさんの『ASP1000R』の導入もその一環ですね。
税の専門家のサポートがスムーズな運用を担保
──2008年に、その『ASP1000R』を導入されたわけですが、理由は?
菊池 国税当局から電子申告の実施を要請されたこともひとつですが、最大の理由は、J-SOX法の施行で内部統制の確立が求められるようになり、なかでも財務諸表の正確性、信頼性の確保が課題として浮上してきたことです。それまでのような属人的でクローズドな作業のやり方ではいろいろな意味で危ういと……そんな問題意識のなかで、当庫の従業員教育をお願いするなど以前から取引のあったひばり税理士法人さんから『ASP1000R』を紹介いただいたという経緯です。
──採用の決め手は?
菊池 とにかく使い勝手が良かったということです。税の専門家(TKC全国会)の助言のもとで開発されたソフトという安心感もありました。税務申告というのは意外とマニュアル的なものがないんですが、『ASP1000R』では、やるべき作業がメニュー化され、上から順番に片付けていけば電子申告までたどりつけるので物理的にも精神的にも非常に楽になりました。
また、システムのなかにログの収集機能があるので「いつ」「誰が」「どのメニューで」「何をしたか」が一目瞭然に検索できますし、「申告検討表」についても打ち出した人の名前が表記されるようになっていて、これらも内部統制の意味でとても重要な機能だと感じました。
さらに、別表間の自動連動機能、あるいは入力時や計算時に税法上の誤りをチェックする「税法エキスパートチェック機能」も非常に便利だと思います。この「税法エキスパートチェック機能」は実務上の二重入力による転記ミスや照合作業の手間を排除するための機能ですが、当庫ではディスクロージャーの際の正確性についての信憑書類としての役割も果たしてくれています。
──『ASP1000R』が「クラウド型」だったことも採用における重要な要素だったとか。
菊池 その通りです。サーバーを購入しなくていいのでコストが少なくて済むし、データ保存に気を使う必要がない。もちろんセキュリティーの面でも安心です。また、担当する大川と2人で打ち込めるので、プロセスの共有化、オープン化が進みます。TKCさんはシステムのクラウド化にいち早く取り組んでおられましたからね。それも採用を後押しする要因でした。
──ところで、立ち上げはスムーズにいきましたか。
菊池 ひばり税理士法人さんの的確なサポートもあって、特段の苦労もなく立ち上げることができました。それと、税理士先生がシステムコンサルタントとしてついていてくれて、何でも相談できることがとても心強いですね。
真覚良信・ひばり税理士法人監査部課長 私も立ち上げ時に何度か足を運びましたが、菊池さんも大川さんも優秀で、申告書作成に関してはベテランですから、あとはそれをTKCのシステムにどう落とし込むかというテクニカルな部分だけでした。その意味では楽をさせていただいたと思っています(笑)。
入力から電子申告まで一気通貫が可能に
──導入されてみての感想はいかがでしょうか。
大川 私がもっとも便利さを実感しているのは、従来は作成した申告書をイータックス(国税電子申告納税システム)に打ち直していたものが、ワンクリックでそのままイータックスあるいはエルタックス(地方税ポータルシステム)に自動的に流れるようになったことです。それから、年2回の決算時に、ひばり税理士法人さんから真覚さんをはじめコンサルタントの方が来庫され、法改正やシステム面でのタイムリーな情報をもらえるのもありがたいですね。とても勉強になるし、参考にさせてもらっています。
それから、なんといっても全地方公共団体の最新税率マスターが搭載されているのが便利ですね。当庫では52の支店が8市8町に散らばっていますが、従来はこの16市町での税率と均等割額をいちいち確認しメンテナンスする作業を行っていました。これがなくなっただけでもかなりの業務効率アップになったと思っています。
──今後はいかがでしょう。
菊池 『ASP1000R』によってコストと工数が大幅に減り、同時に内部統制の質も格段に高まりました。ITの力はすごいなあと実感しているところです。そもそもIT化による業務効率向上は中期計画の柱でもあります。今度とも、ひばり税理士法人さん、TKCさんと協力しながら、会計や納税分野でのクオリティーアップを追求していきます。
名称 | 三島信用金庫 |
---|---|
設立 | 1911年1月 |
所在地 | 静岡県三島市芝本町12番3号 |
TEL | 055-973-5555 |
預金残高 | 7,803億円 |
貸出残高 | 4,053億円(2012年3月末) |
従業員数 | 823名 |
URL | http://www.mishima-shinkin.co.jp/ |
『戦略経営者』2013年4月号より転載
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