ユーザー事例

株式会社菊池製作所 様

震災乗り越え上場を果たした試作・金型の総合メーカー

福島第1原発事故によってはからずも有名になってしまった福島県飯舘村に主力工場を持つ菊池製作所。突如やってきた苦境のなか、全社一丸となって業務を継続し、株式上場まで果たした姿は周囲の感動を呼んだ。そんな同社を支えた経営的強みとは何なのか。トップの菊池功社長をはじめ経理部の岸田俊邦部長、内田光課長、宮西桂一さん、そして顧問の小塚埜武壽公認会計士・税理士を交えて話を聞いた。

一括一貫体制の構築で「代替の効かない」存在に

菊池製作所

――主力である福島工場(飯舘村)が先の大震災で被災したにもかかわらず、昨年10月、悲願の上場を果たされました。

菊池 ご承知の通り、日本のものづくりの現場は、極めて厳しい状況です。加えて、大地震と原発事故による放射能ですから、それこそ二重苦三重苦の状態といえます。ここを切り抜けられたのは、ひとえに約300名の現場の社員が「自分たちで職場を守った」ということ。行政と連携して情報を吸い上げながら冷静に判断し、行動した結果でしょう。私の力ではありません。

――健康被害対策は徹底されたようですね。

菊池 これは工場を継続させる絶対条件でした。健康被害が出てしまったら意味がありませんからね。まず、建屋全体を高圧水で洗い流し、自主的にエアシャワーを設けて入室時に少しでも放射線が低減できるようにしました。さらに、アスファルトや周囲の土は、剥がして張り直しました。結果として、いまでは敷地内の放射線量は除染前の3割以下になっています。

――放射能を理由にしたキャンセルは1件もなかったとか。

菊池 当社はエレクトロニクス製品など大手メーカーの試作を手がけていますが、“代替が効かない”会社であることがプラスに働いたのだと思います。なぜかというと、設計から試作、場合によっては量産にいたるまで「一括一貫体制」で請け負うことができるからです。デジタルカメラにしても携帯電話にしても、使用する部品の約8割は当社で製造することができる。だからトータルに任せてもらえるし、それだけの設備投資もしてきました。こんな会社は日本にはないし、世界でもおそらくないでしょう。

――まさにオンリーワンですね。なぜこのようなビジネスモデルを?

菊池 われわれの試作・金型業界は、通常単一技術、つまり得意分野を磨いて勝負します。その方が商売としては堅い。でも、それだと面白味がないんですね。自分のつくった部品がどこにどう生かされるのか分かった方が絶対におもしろいし、その方が仕事にやりがいや誇りを持てるようになります。だから、せめてある程度のユニットくらいまではトータルにつくって納めたいという気持ちを創業当初から持っていて、それを当社のスタイルにしてきたのです。

――機械の「稼働率」に対する考え方も独特ですね。

菊池 稼働率100%をあえて避け、60~70%に抑えています。ぎりぎりで操業してしまうと、急な仕事に対応できなくなる。当社の最大の売りは「小ロット短納期」なので、売り上げばかりを追いかけて機械を全部稼働させてしまうわけにはいきません。どんな緊急な注文にも柔軟に応えることが出来る余裕が必要なのです。

――それでいて、実質無借金、赤字を出したことがないのはすごい。

菊池 難しく考えてはだめだと思います。経営は引き算。入金から出金を引いたものが利益です。この単純な事実をしっかりと頭に入れておけば、そうそう会社が傾くことはない。

小塚公認会計士・税理士 結局、菊池社長の経営は徹底した「逆張り」なんです。海外工場は2つにとどめ、故郷の福島に主力工場を残したこと。あるいは「一括一貫体制」という考え方もそうです。他人のやらないことをあえてやり、ことごとく成功させてきた。それが、この会社の強さなんだと思います。

菊池 今秋から、原発により近く、一時は全村避難地域だった川内村の新工場が稼働しました。震災以前からの村長さんとの約束を全うしたのです。これも外から見れば、十分に非常識な施策かもしれません(笑)。

属人化しがちな会計知識の「見える化」に成功

――TKC連結会計システム『eCA-DRIVER』を長らくご利用いただいているとか。

岸田部長 平成16年に上場を目指すことを会社として決意し、そのためのインフラとして17年に導入したと聞いてます。当時の担当者は定年などですべて退職してしまったのですが、『eCA-DRIVER』のおかげでこれまで何の不自由もなく連結会計をこなせています。

小塚 要は、使い勝手が良かったのです。属人的になりがちな会計ノウハウを、『eCA-DRIVER』によって「見える化」「引き継ぎ化」できたということですね。

――具体的には?

宮西(実務担当) やるべき作業がメニュー化されているし、また、各項目ごとにチェック機能もついているので、私のように連結決算の知識があまりない人間でも無理なく引き継げたのだと思います。

内田課長 宮西は、昨年の3月に前任者を引き継いで、4月にいきなり本決算をまかされたにもかかわらず万事スムーズで、大きなトラブルはありませんでした。とくにマニュアルも必要ありません。『eCA-DRIVER』の画面自体がすでにマニュアルになっているからです。

――連結決算のプロセスを教えてください。

宮西 子会社である香港と韓国の現地法人から財務諸表データをスプレッドシートで送付してもらい、換算レートを打ち込みながら『eCA-DRIVER』に取り込みます。そして、必要に応じて補正仕訳を入れ、債権債務・内部取引の照合など修正仕訳を行えば、あとは開始仕訳から精算表まで『eCA-DRIVER』が自動的にやってくれます。

――プロセスのなかで、苦労する点はありますか。

岸田 システム的にはとくにありません。が、海外現地法人はIFRSに準拠していることもあり、会計処理の仕方が異なります。この部分の調整が難しいといえば難しいところですが、いまのところ現地の会計士とメールでやりとりをしながらその都度解決しています。

――2年前にはクライアントサーバ型からASP型に切り替えられました。狙いは?

内田 自社サーバーを管理する必要がないし、データセキュリティーの面からも安心です。将来的には、現地子会社が直接『eCA-DRIVER』に打ち込めるような仕組み作りも可能だと聞いています。それができれば便利になるでしょうね。

――四半期・本決算だけでなく月次決算においても『eCA-DRIVER』を使われているとか。

岸田 月次決算も四半期決算とほぼ同じプロセスを踏むので、やった方がいいだろうと……。違うのは棚卸しの部分だけですからね。毎月の役員会にも月次の連結財務諸表のサマリーを提出するようにしています。当社は、半年先の受注残高はまずないというほど多品種短納期のビジネスを行っているので、常に経営データをアップデートして状況を監視しておかないと危ない。その意味でも、『eCA-DRIVER』による月次データは経営に役立っているといえます。

内田 それと、毎月『eCA-DRIVER』を使っていると、早く操作に慣れてくるし、当然、開示決算の際にもスムーズに作業が行えるようになります。四半期決算だけの利用だと、忘れたころにまた最初から始める感じになるので、練達が遅くなってしまうのではないでしょうか。

――今後の方向性は。

菊池 われわれは受注型企業として成長してきましたが、これからは、自社開発製品を世に問うていきたいと思っています。実は当社では約20年も前から、産学官連携などで製品開発に取り組んできており、いまようやくものになりつつある。たとえば、ハイテク機器や環境機器への組み入れが期待される極小のポンプやセンサーといったマイクロデバイス。あるいは、複雑な3次元加工ができるパイプ加工機なども実用化が近く、これなどは、介護・医療用ロボットへの応用が可能です。
 いずれにせよ、われわれは今後、みなさんが思う以上に画期的な変化を遂げるつもりです。期待していてください。

会社概要
名称 株式会社菊池製作所
創業 1970年4月
所在地 東京都八王子市美山町2161-21
売上高 63億円(連結)
社員数 458名(連結)
URL http://www.kikuchiseisakusho.co.jp/

『戦略経営者』2012年12月号より転載

掲載の内容、および当社製品の機能、サービス内容などは、2012年12月現在のものです。
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