申告業務の効率化に取り組む緑茶飲料市場のトップランナー
緑茶飲料市場で30年もの間、シェア1位(35%)に君臨し続けている伊藤園。創業以来成長を続け、いまや、お茶だけでない総合飲料メーカーとしての存在感も大きく、やや遅れ気味といわれていた管理業務の整備にも拍車がかかりはじめた。もちろん税務申告業務も例外ではない。財務経理部の羽鳥雅春部長、楠本亮氏にシステムコンサルタントの福澤宏哉税理士を交えて話を聞いた。
ルートセールスシステムとファブレスが2大特徴
──伊藤園さんといえば『お~いお茶』が真っ先に思い浮かびます。
羽鳥雅春部長
羽鳥 そうかもしれませんね。いまも変わらず当社の看板商品です。前身の『缶入り煎茶』を発売してから30年という節目を迎えていますが、われわれは無糖飲料を缶飲料化、そしてペットボトル化した先駆者でもあります。また、1990年代に入りペットボトルの小型化(500ミリ)も実現しました。これで人々は飲料を手軽に持ち歩けるようになり飛躍的に利便性が増しました。当社が実践した〝容器イノベーション〟といえるかもしれませんね。ただ、実は現在、当社の製品全体では緑茶などの「お茶」の割合は約半分になってきており、残りの半分は、『タリーズコーヒー』や『充実野菜』、あるいは『ビタミンフルーツ』『エビアン』など、主に自然素材を使用した清涼飲料や乳性飲料、そして炭酸、機能性飲料などが占めています。
──経営の特徴は?
羽鳥 大きく2つあります。まず「ルートセールスシステム」です。当社には営業マンが約4,000名いて、全社員(5,339名)の7割以上を占めています。彼らが毎日顧客を訪問し、フェイス・ツー・フェイスで会話をして細かな要望を吸い上げます。どんな小さな約束もおろそかにしません。そのような誠実な営業活動を繰り返しながら、顧客との信頼関係を構築していきます。要するにお客様第一主義の徹底ですね。
2つ目は、いわゆるファブレス経営です。ドリンクの生産はすべて外部委託。全国を5ブロックに分けて生産と物流を効率化しています。緑茶については、茶葉のブレンド技術、製造技術と研究開発機能は本体で持ち、全国の契約工場で製造しています。また、原料調達についても国内契約茶農家の生産性改善を助けることで、高品質な茶葉を安定的に調達。主力製品である緑茶飲料市場のシェアは現在約35%となっています。
──伝統的な飲料を扱っておられますが、会社としては新しく、仕組みも近代的ですね。
羽鳥 まだ創業50年の新参者ですが、お茶という歴史のある業界なので、社風はよくも悪くも「古式ゆかしき」といった感じでしょうか。だから、電子申告や電子納税などといったITによる効率化の発想とは縁遠かったのだと思います(笑)。
──それにしても、年商も4,000億円を突破するなど、日本を代表する急成長企業のひとつではないでしょうか。
羽鳥 当社は歴史的に、まず出店ありきで、管理が後回しになってきたきらいがあります。そのため成長の度合いに内部の管理体制が追いつけなかった。そうこうするうちに、どんどん非効率な業務が増えてきてしまいました。
ここ数年は、効率化に邁進していますが、まだまだ課題は山積みです。2010年のTKCさんの電子申告システム『ASP1000R』の導入も、そのような効率化施策の一環です。
──グループは?
羽鳥 タリーズコーヒージャパンは9年前に当社の傘下入りをしました。現在、580店舗。後述しますが、実は昨年、タリーズにも『ASP1000R』が導入され、効果を上げています。このほか、『エビアン』の輸入販売を手がける伊藤園・伊藤忠ミネラルウォーターズ、そしてヨーグルトが主力のチチヤスもグループ会社です。
膨大な手間とコストがシステム導入で最小化
──電子申告採用のきっかけは?
楠本 以前は当社の会計システムのデータをスプレッドシートに抜き出して、紙ベースで法人税・消費税の申告書をつくっていました。転記ミスを気にしながら、途中で間違えれば最初からやり直しです。確認し終わると押印、封入し、渋谷税務署に郵送。さらに、銀行に小切手を持ち込んで窓口で決済と、非常に手間がかかっていました。
それ以上に大変だったのが地方税です。当社の場合、営業拠点や専門店、研究所、工場など259の拠点が全国に散らばっており、そのすべての自治体に申告書を郵送する必要がありました。間違ったら、それこそ大変なことになります。担当者は丸2日くらいかけてこの作業に忙殺され、時には、別の部署から応援を頼むことさえありました。
──つまり、ミスのリスクと、膨大な手間とコストを何とかしたかったと。
楠本 はい。そのためにTKCシステム『ASP1000R』の導入を決断したわけです。これによって当社の税務業務の流れは完全に変わりました。まず、CSV読み込み機能による会計システムとの連携で転記ミスがなくなりました。また、作成した申告書はワンクリックで電子申告データに転換され、イータックス(国税電子申告・納税システム)に送信されますから、まったく手間いらずです。さらに地方税の場合はよりメリットが大きくて、前述の通り259団体(県47、市町村212)への申告書郵送という作業がなくなりました。ということは、切手代、印刷代、トナー、紙代などのコスト削減効果が出たということです。
──手間の削減も?
楠本 そうなんです。実は、以前に2、3度、すべての申告書に社判を押印し終わった後、内容に間違いが見つかり、すべてやり直しになったことがありました。ちなみに、以前の作業量を1人当たりに換算すると約58時間の労働量が必要でしたが、システム導入後はそれが4分の1になりました。
──導入に不安はなかったですか。
楠本 その点を払拭してくれたのが、TKCさんのコンサルティング体制です。福澤宏哉先生をはじめ、税理士法人協立会計の先生方に導入時からサポートいただいたことで、非常に安心感がありましたね。導入後も定期的にご来社いただき、あるいは、分からないことがあれば電話やメールですぐにお聞きすることもできる。税務の専門家が常に相談に乗ってくれる体制は、他社のソフトにはないと思います。
福澤宏哉税理士
福澤税理士 最初に伊藤園さんを訪問した際、スプレッドシートで別表を完璧につくられており、すごい能力だなと驚きました。それだけに別表がシステム内で自動連動する『ASP1000R』に戸惑われたかとも思いますが、みなさん能力が高いだけに慣れてしまえば簡単です。いまでは、税務申告業務から属人化を排除し、標準化を実現するなどの成果をあげておられます。また、われわれコンサルタントも、導入時だけでなく、その後の運用に関しても気軽な存在としてご活用いただけているようで、うれしい限りです。
──ほかにはどんなメリットが?
楠本 システムメンテナンスの必要がなくなりました。これも大きいですね。法改正や様式の変更への対応も、地方税の税率確認も、すべて『ASP1000R』まかせで大丈夫。当然、その分の浮いた時間を電子帳簿保存法への対応など、別の課題の解決に当てることができます。
──昨年の1月からは『e-TAX償却資産』と『e-TAX法定調書』も導入されました。
楠本 はい。既述の通り、当社の営業拠点にはさまざまな償却資産が存在し、281団体への申告が必要になります。地方税と同じく煩雑きわまりなかったのですが、『e-TAX償却資産』を導入し、当社の固定資産管理システムから直接CSVで読み込み、電子申告できる体制にしました。また、給与支払報告書も『e-TAX法定調書』の導入によって、電子申告まで一気通貫となりました。この2つが年間利用料数万円という安価で利用でき「本当にいいのかな」という印象です。
──関連会社も『ASP1000R』を使用されているとか。
楠本 タリーズコーヒージャパンに昨年4月から導入しました。同社の店舗数は580に上り、その約半数が直営です。そのため、86団体への地方税の申告が必要で、伊藤園とまったく同じ悩みを抱えていました。しかし、導入後は見違えるように効率化がはかられ、タリーズの経理担当者に聞くと、当社と同じく手間が4分の1に減ったと喜んでいます。
──いま、TKCシステムをどのように評価されていますか。
楠本 『ASP1000R』の導入により、これまで税務申告という作業にいかに手こずっていたかを実感させられました。いまでは、申告書の作成から電子申告、電子納付(伝送)に至るまで、メニュー通りに追っていけば、簡単かつ迅速に完結させられる。分からないことがあっても、税務の専門家であるコンサルタントに聞くことができるので安心です。『ASP1000R』をはじめとするTKCシステムの採用は大成功だったと思っています。
名称 | 株式会社伊藤園 | |
---|---|---|
所在地 | 東京都渋谷区本町3丁目47番10号 | |
売上高 | 4,378億円(2014年4月期) | |
社員数 | 5,339名 | |
URL | http://www.itoen.co.jp/ |
『戦略経営者』2015年6月号より転載
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