“より速く”“より質の高い”申告書の作成めざす
信金業界初のシンクタンクを設立し、地域密着型金融を情報面でも強化する遠州信用金庫。導入2年目を迎えた法人電子申告システム『ASP1000R』の効果と今後の税務業務の取り組みについて、同金庫の初村良明理事と稲垣昌弘副調査役に聞いた。
渉外係400名の営業網使い情報収集・調査活動を展開
――遠州信用金庫さんは昨年7月、信用金庫としては全国初のシンクタンク「静岡県西部地域しんきん経済研究所」を浜松信用金庫さんと共同で設立しました。
初村 ええ。取引先に地域の経済情報を提供するなど、地域密着型金融を情報面でも強化しようということで設立したわけですが、お陰さまで認知度も徐々にあがってきています。具体的には、四半期ごとの景気動向調査や地場産業の動向を分析したレポートを発行し、また企業や地域のニーズにあわせたセミナーなども開催しています。これまでのところ、お客さまの反応は上々ですね。
――静岡県西部地域に限定して調査活動を行っているわけですね?
初村 そうです。例えば日銀静岡支店が四半期ごとに発表している「静岡県の企業短期経済観測調査結果」(短観)は静岡県全域を対象にしていますが、私どもはあくまで浜松市を中心とする県西部地域の景気動向調査を行い、その結果を景況レポートとして発表しているわけですね。
静岡は東西に長い県で、産業も西部、中部、東部の各地域でずいぶん異なります。したがってこの地域に限定した経済動向の調査・分析は欠かせません。そこで浜松信用金庫さんと私どもの渉外係約400名の営業網を活用して情報収集や調査活動を展開し、それを分析して再度取引先にフィードバックしているわけですね。
――なるほど。ところで遠州信用金庫さんは『ASP1000R』を導入されて2年目になります。今回の税務申告書の作成はいかがでしたか。
稲垣 お陰さまで、昨年に比べるとずいぶん慣れましたね。『ASP1000R』は別表形式の画面ではなく、ワーキングシート(専用入力画面)に入力する方式です。その分、必要最小限のデータの入力で申告書が作成できるわけですが、去年は初めてということもあり従来馴染んできた別表のイメージが払拭できず入力にとまどう場面がありました。が、今回はそんなこともなくスムーズに作業が進みました。
――電子申告についてはどうですか。
稲垣 去年はシステムコンサルタントの税理士さんにずいぶんお世話になりました。ところが今回は特に教えてもらう必要もなかったし、自分のメモだけですんなりいけましたね。2年目の今回あらためて感じたのは、電子申告はとにかく簡単で楽だということです。申告書さえ完成させてしまえばボタンひとつで飛んでいくわけですからね(笑)。
――電子申告を行う中小企業がいよいよ増えていますが、金融機関が企業から電子申告データを提供してもらい融資審査に活用する動きも広がっているようですね。
初村 融資を受けたい企業が金融機関のホームページを通じて国税庁のデータベースにアクセスし、自社が提出済みの電子申告データを金融機関に転送する仕組みですね。
融資の可否を判断するために、金融機関は現状では企業の税務申告書のコピーを提出してもらい、それをコンピュータに再度入力し直すことによって財務データを分析していますが、電子データであればその処理業務を効率化できるし、審査期間が大幅に短縮できます。しかも国税庁に保存されているデータなので改竄の恐れもありません。大手銀行の一部はすでに採用しているようですが、当金庫でも将来的には採用を検討する予定でいます。
内部統制で機能する“見える化”の業務プロセス
――稲垣さんが税務の担当者として日頃直面している課題にはどんなことがありますか。
稲垣 いろいろありますが、やはり一番大きいのは決算資料が出てから短期間でより質の高い申告書を作成しなければならないことですね。そのストレスたるやかなりなものです。
――『ASP1000R』の導入でストレスの幾分かは解消できましたか?
稲垣 ええ。精神的にかなり楽になりました。先ほども申し上げたように、このシステム自体が必要最小限のデータ入力で申告書を作成できるようになっていますからね。別表間の複雑な転記が完全自動化されているので、単純な転記ミスも防止できます。しかも「税法エキスパートチェック」という機能が、入力する数値や情報に不備があるとアラームで知らせてくれる。以前は転記ミスや計算ミスを心配しましたが、今はそんな不安もなくなりました。
地方税にしても、法人税の申告データから自動転記されるので、ほとんど入力する必要がありません。これはほんとうに助かります。
――J-SOX法の施行で、今後はタック・スコンプライアンスが重視されていくだろうといわれています。
初村 ええ。その意味、当金庫としても税務申告業務の体制を見直していく必要があると認識しています。この業務には相応の専門性が求められるので、どうしても特定の担当者に依存する嫌いがあります。しかしそれでは内部統制上、健全とはいえません。ブラックボックスをなくすには業務を標準化し、一連の業務プロセスにそって誰もが対応できるようにすることが不可欠です。
稲垣 その点『ASP1000R』は、基本情報の入力から電子申告にいたる業務プロセスが“見える化”されているので初心者にも理解させることができます。しかも一度経験すれば誰でも使いこなせますからね。
初村 それと実は昨年から私どもは全部門の業務プロセスを文書化するなどして、内部統制強化のための取り組みを開始しました。当然、税務申告業務においてもコンプライアンス遵守のためのチェックを絶えず行っていますが、そこで機能しているのが、先ほどの基本情報の入力から電子申告にいたる一連の見える化された業務プロセスであるわけです。それを考えると私どもにとって『ASP1000R』の導入は非常にタイミングがよかったと思います。
名称 | 遠州信用金庫 |
---|---|
業種 | 金融業 |
創業 | 1950(昭和25)年3月 |
本店 | 静岡県浜松市中沢町81-18 |
預金 | 3393億7500万円 |
貸出金 | 2052億5100万円 |
社員数 | 393名 |
URL | http://www.shinkin.co.jp/enshin |
『戦略経営者』2008年9月号より転載
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