連結税務の標準化に取り組む版画マーケットの先駆者
絵画といえば「原画」を思い浮かべる向きも多いだろうが、比較的求めやすい「版画」を商材にして日本でのアートの普及に貢献してきたアールビバン。版画マーケットのパイオニアともいえる同社の経営姿勢と連結税務への取り組みについて、樋口弘司・管理部長兼経営企画室長と市村義忠・管理部経理グループマネージャー、久徳徹税理士などに聞いた。
アートへの潜在ニーズを一気に開花させる
──1984年創業以来、「版画」という新市場を開拓されてこられました。
樋口 従来の絵画市場は原画が中心でした。しかし、やはり名のある作家の原画は高価ですし、一般の方はなかなか手を出しにくいのが実情です。しかし、オリジナル版画であれば、希少性や作品としての価値は担保しつつ、多くの人々にとって手が届く価格で提供できます。当社の版画ビジネスは、アートへの日本人の潜在的ニーズを一気に開花させる革新的なものだったと自負しています。当初はピカソ、シャガール、ミロ、ビュッフェ、オギス、ブラジリエ、カシニョール、ヒロ・ヤマガタなどのリトグラフが人気を集めました。その後は、物故作家だけでなく、「多くの人々に『絵のある生活』の豊かさを提供する」という企業理念に基づき、現存する国内外の作家の版画を積極的に扱うようになっています。
──ビジネスの流れを教えて下さい。
樋口 作家の発掘・育成からプロデュース、作品の開発、契約、仕入れ、額装、お客さまへの販売、納品、アフターサービスと、すべての流れを管理・運営する業界唯一の一貫システムを構築しています。販売形態は全国各地のホテルやイベントホールなどでの会場催事販売と、大型小売りチェーン店などとの提携催事販売が主力で、商品の販売価格はおおむね15万円から100万円(平成25年3月期実績)くらいです。
──どんなアーティストの作品を販売されていますか。
樋口 欧米、中国、日本などの現代・新進アーティストの版画(スタンダードアート)あるいはイラストレーターの版画(イラスト系アート)を主要商品にしています。代表的なアーティストはクリスチャン・ラッセン、天野喜孝、デビッド・ウィラードソン、てぃんくる、カントク、Tonyなどで、最近では「ディズニー」をモチーフとした作品の販売を強化しています。
──商品的な特徴は?
樋口 当社では、アーティストや作品の質はもちろんですが、作品の総摺刷枚数を価値の重要な要素と考えています。というのも、通常、業界の慣行として同一の原画に基づく版画の総摺刷枚数は、作品に付与されたエディションナンバー(作品番号)とは一致していません。アラビア数字、ローマ数字などの一連番号に分けて分母を小区分したり、作者用に一定枚数を摺刷する場合などがあるためです。したがって、エディションナンバーだけではその作品の希少性(世の中に存在する数)は分からないということになります。そこで当社では、総摺刷枚数を可能な限り把握し、「プライスカード」に表示するようにしています。
──今後の課題は。
樋口 当社グループは今年度(第30期)を「アールビバン第2章」と捉え、人事制度の再構築、チャレンジする風土の醸成を行うとともに、アート関連事業とシナジーを生む新たな収益基盤の創造にチャレンジしていきます。たとえば、ディズニー作品専門店「マジカルアートギャラリー」の営業活動や大型ディズニー催事の定期開催による新規顧客の開拓を目指します。また、イラスト系アート部門では、今年4月に3店舗目のグッズ専門店を栃木・宇都宮に出店し、イラスト系アートグッズの拡充と取り扱いアーティストのブランド化につとめていきます。
1カ月かけていた申告作業が1週間と劇的に短縮
──グループの概要について教えてください。
市村 連結子会社はダブルラック(割賦販売斡旋事業)、タラサ志摩スパアンドリゾート(リゾートホテル運営)、カルナフィットネスアンドスパ(フィットネスクラブ運営)の3社になります。
──連結納税制度を導入されたのはいつですか。
市村 平成16年3月期からです。当時、子会社は順調に利益を出していましたが本体がやや苦しい状況でした。そのため、グループ会社の所得を通算できる連結納税による節税効果は大きいと考えたわけです。
──計算はシステムで対応されたのでしょうか。
市村 いいえ。一部スプレッドシートを使いながらですが、基本的には9年間、「手書き」で計算をしていました。当社の場合、子会社の経理もほぼわれわれが管理しているので、なんとかこなせてきたわけですが、神経を使う煩雑な作業でした。6月に株主総会が終わり、一応社員みんながほっとするのですが、私の方はといえば、連結納税にとりかからなければならない7月が憂鬱で仕方なかったですね(笑)。
──そんななかで、昨年度の申告からTKCの連結納税システム『eConsoliTax』を導入されたわけですが、理由は。
市村 連結納税導入時から、別表も様式がどんどん変わっていき、修正が入ると、手書きなので検証に大変な時間がかかってしまっていました。国税局からの指摘で誤りが分かるような状況も頻繁に起こっていたし、最近では復興税制によって別表がまた増えたりもしています。これはなんとかしないとと……。
久徳徹税理士 市村マネージャーは上場企業での経験も豊富な大変優秀な経理のスペシャリストなので、いままで通り手書きでも十分に対応できたと思います。でも、会社の永続性、ノウハウの属人化解消という課題に対応したいという責任感から、パッケージソフトの導入に取り組まれたのでしょう。
市村 それはありますね。私もあと数年で定年なので、次にバトンタッチするためにもパッケージソフトを入れて標準化する必要があると考えました。そのために髙橋(貴光さん)が入社してきたわけですから。
髙橋 私は今年1月に経理の経験を買われて入社しましたが、連結納税は始めてでした。それだけに、このタイミングでのシステム導入はありがたかったですね。
──TKCを選択された理由は?
市村 他の2社からも見積もりはとったのですが、TKCさんはシェア70%ですから当初から最有力候補でした。やはり、職業会計人の現場の経験をベースにつくられているソフトなので、われわれ経理にたずさわる者としてしっくりくるし安心感がありました。
──システム導入はスムーズにいきましたか。
市村 3月に商談をスタートし、4月から導入準備と、日程的にはタイトでしたが、久徳事務所の岡田(淳税理士)さんと新谷(和宏税理士)さん、矢吹(俊一)さんの3人の専門家に密着したコンサルティングをいただき、大変助かりました。この濃密なコンサルティング体制もTKCシステムの優位性の一つだと思います。
岡田税理士 4月に担当者を集めた操作研修を2度行い、その後の指導なども含めて実質2カ月で23年度のデータ復元と24年度の入力と、2年分を処理していただきました。時間との戦いでしたが、市村さんはじめ、みなさん意欲的に取り組まれ、導入も思いのほかスムーズでした。
新谷税理士 みなさんとても前向きに取り組んでいただけたという印象でした。たとえば、操作の説明をさせていただくと、市村さんからすぐに「できました」と返ってくる。そのサイクルが非常に速く、われわれもやりやすかったし、結果的に精度の高い申告になったと思います。
──申告作業のスピードは上がりましたか。
市村 昨年までは1カ月近くかかっていたものが、実質1週間で申告までもって行くことができました。以前は、申告書をまとめ、提出するだけで精力を使い果たしていたのですが、今年はチェックする余裕ができ、その分、作業のクオリティーがかなり上がったと思います。『eConsoliTax』の税法に基づいた「エキスパートチェック機能」のおかげで単純ミスはなくなりましたし、今年度は税効果会計システム『eTaxEffect』も導入する予定なので、税効果計算と税額計算がますます一元化、効率化されます。来年の7月が憂鬱どころか楽しみになってきました(笑)。
名称 | アールビバン株式会社 |
---|---|
創業 | 1984年11月 |
所在地 | 東京都品川区東品川4-13-14 |
TEL | 03-5783-7171 |
売上高 | 53億3,000万円(2013年3月期連結) |
社員数 | 168名 |
URL | http://www.artvivant.net |
『戦略経営者』2013年11月号より転載
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