システム移行
自計化で社長との心理的距離が縮まり幅広い経営相談に応じられるように
【他社システムからの移行・電帳法推進編】
和田税務会計事務所 和田利一会員(TKC九州会)
和田利一会員
宮崎県都城市に事務所を構え、「自計化推進後は経営改善支援や書面添付、電子帳簿保存法(電帳法)対応にも力を入れることができるようになり、さらに職員の残業時間も減った」と語る和田利一会員。事務所サービスの幅を広げ労働生産性アップにも資する自計化を推進するときの話法や初期指導のポイント等を聞いた。
「社長の意思決定に役立ちたい」とTKC方式の自計化への移行を決意
──開業までの経緯と、事務所の概要を教えていただけますか。
和田 大学卒業後は東京の会計事務所に勤めていましたが、父が高齢ということもあり平成15年に地元(宮崎県都城市)に戻ってきまして、実家の空き家を借りて開業することになりました。両親や親族に税理士業を営んでいた人はいませんので、開業当初は関与先が1件もありませんでした。完全にゼロからの開業です。
平成18年に現在の場所(都城市都原町)に事務所を移転し、現在は税理士が私1名、監査担当者11名、総務担当者1名の13名です。関与先は151件で、農業や建築・建設関係のお客さまが多いです。実は宮崎県は、食料自給率(生産額ベース)では日本一の農業県なんですよね。また都城市は肉牛や豚、鶏などの生産地ですので、農業の中でも畜産関係のお客さまが多くいらっしゃいます。
──事務所経営で大事にされていることは何ですか。
経営理念
- 経営をサポートすることによりお客様から信頼され感謝されること。
お客様の経営を財務面からサポートできる体制を事務内で構築しお客様から感謝されることを心掛けています - お客様・事務所職員の生活水準を向上させること。
お客様の会社と当事務所が共に成長・発展してゆき、その結果従業員がより豊かな暮らしができるようになればこれに勝る喜びはありません。実現させましょう - 事業の存続と成長、発展を実現し地域社会に貢献すること。
中小企業を守り、地域社会に活力を取り戻し、元気になっていただくことが地域経済の発展につながってゆきます。地域社会に貢献できる事務所を目指します
和田 経営理念(右)にも掲げていることですが、①お客さまに信頼され感謝されること②お客さま・職員の生活水準の向上③お客さまの成長・発展を実現して地域社会に貢献すること──の三つを大事にしています。先日新たに採用した職員に志望理由を聞いたら、「経営理念に共感しました」と言ってくれましたので、この三つを大事にすることは方向性として間違っていないかなと思っています。
──和田先生は他社システムからTKCシステムへ移行されていますが、移行のきっかけは何だったのでしょうか。
和田 何より「記帳代行屋」になりたくなかったというのが大きいですね。
実は開業翌年の平成16年にTKCに入会したのですが、事業主1人の個人事業者や、経理担当者がいなくて自計化できない会社、あるいはご高齢でパソコン操作が苦手といったお客さまに対しては、やむなく他社会計ソフトで記帳代行を受けていた時期もあったんです。
でも、そうしたお客さまは大抵資料提供が遅く、数カ月~半年分まとめて渡されることもしょっちゅう。苦労して作成した試算表をお客さまのところに持って行っても、結局数カ月前のデータなので社長さんからは「いつの話?」と言われる……。それに申告時に納税額をお伝えすると「こんなに税金払えんわ。なんとかして」と言われることもあり、「これじゃただの『記帳代行屋』。自分の仕事がお客さまのためになっていない」という虚無感が大きくなってきて、「何が何でもTKCシステムで自計化して、社長の意思決定に役立つデータを提供したい」という気持ちに変わっていったんです。
それと、記帳代行を受けて税務だけTPSシリーズを使っていると、何より決算・申告作業が大変なんですね。貸借対照表や損益計算書、試算表を見ながら1件ずつ打ち込まないといけないですし、事業概況書や勘定科目内訳明細書もゼロから作らなくてはいけません。それに打ち直しをしていますから結構間違いもあります。私がチェックして一つひとつ付箋を貼って職員に戻して修正してもらうのですが、すごく時間がかかるわけです。
こうした決算作業の煩雑さもあって、「やっぱり会計から税務まで一気通貫でないといけないな」と痛感。これもシステム移行を決意した理由の一つですね。
──システム移行を決意された時、職員さんからはどんな反応がありましたか。
和田 記帳代行に慣れている職員はとまどいがあったようですが、毎日の朝礼で職員に自計化の必要性を伝え、納得してもらいました。やっぱり職員も社長さんのお役に立つ仕事をしたいですし、決算作業に苦労していましたからね。若い職員が多いこともあり、割とすんなり「自計化していこう!」という方向性を事務所全体で共有できたと思います。
「仕訳辞書」と「初期指導」を強調して簡単に自計化できることをアピール
──お客さまにはどのような話法で自計化を提案されたのですか。
JR日豊本線都城駅から車で15分ほどの場所に位置する和田税務会計事務所。「平成18年の移転後、2回建て増ししている。元は中央の梁までだった」(和田会員)そう。
和田 記帳代行をしている会社はどうしても対策が後手後手になってしまい、効果的な決算対策もご提案できません。そこで、決算直前もしくは直後のタイミングで、「自計化してリアルタイムの数字を見て、事前に対策を打てるようにしませんか」とアプローチしていきました。
ポイントは、できるだけ簡単な方法をお伝えすること。苦手意識を持たないように、デモ画面をお見せしながら仕訳辞書を説明し、「日付と金額だけでこんなに簡単に登録できるんです。現金出納帳を書くより断然楽になりますよ」とお伝えします。また、「最初は月に2~3回お邪魔して軌道に乗るまで入力指導させていただきます」と、事務所がサポートする姿勢をお伝えするのも大事です。仕訳辞書と初期指導を強調すれば、大抵前向きなお返事をいただけました。
現在は、新規のお客さまには原則として自計化をお勧めしています。中堅企業など親会社の意向でどうしてもTKCシステムに移行できないお客さまも一部ありますが、それ以外はほぼ自計化していただいていますね。
──新規のお客さまに自計化をお勧めする時、効果的な切り口はありますか。
和田 建設業のお客さまであれば「請け負った仕事ごとに損益が管理できるDAIC2というシステムがありますよ」とお伝えしたり、最近は農業・畜産関係のお客さまにはFX農業会計をお勧めしたりと、それぞれの業種に応じたシステムをご提案するようにしています。
それからBASTも効果的ですね。社長さんは、同じ業界の中での自社のポジションをすごく気にしているもの。BASTをお見せしながら「全国平均と比べると、御社は人件費がちょっと多いようですね」なんてお伝えすると、必ず「このデータすごいね。何?」と興味を示してくれます。そこですかさず、「自計化すればこのデータがリアルタイムで、しかもいつでも見られます。客観的なデータを基に御社の特徴や強みを探ってみませんか」とアピールするんです。
普段、BASTは巡回監査での経営助言にも活用していますが、営業ツールとしてもすごく役立つ。TKC会員事務所の大きな強みの一つだと感じます。
事務所と社長との心理的距離が近くなり平均報酬額も約6割アップした
──初期指導はどのように?
和田 最初に行うのは仕訳辞書の登録です。お客さまの中には簿記の知識が乏しい方もいらっしゃいますので、期首から2~3カ月分の伝票を預かって事務所で仕訳辞書を登録し、「これをクリックすれば登録できますよ」と指導しています。また銀行信販データ受信機能の活用もお勧めして、簿記の知識がない方でも簡単に、ミスなく入力できる環境を整えています。取引の8~9割は毎月ほぼ同じ仕訳ですので、ほぼルーティンで入力できるようになりますから。
最初の数カ月間は月に2~3回担当者が訪問して入力をサポートしますが、仕訳辞書のおかげで、それほど時間がかからずとも巡回監査体制に乗せられます。
──お客さまの反応はいかがですか。
和田 経理担当者の方からは「本当に簡単に入力できるんだね」という評価をいただいていますね。また、記帳代行だと年に2~3回くらいしかお客さまとお話しする機会が持てませんが、自計化していれば巡回監査で毎月お会いできますから、経理担当者の方はもちろん、社長さんとも密に接することができます。
職員には、「社長さんをつかまえて話さないとダメだよ」といつも言っているんです。「会計事務所が何をしているか分からない」と社長さんに思われたら、すぐ顧問契約を解除されてしまいますから。
そこで巡回監査では、社長さんに対する経営助言の時間の確保を重視しています。巡回監査が終わったら社長さんをお呼びして、FXの「取引先別推移」や「最新業績の問合せ」画面を一緒に見るよう職員に徹底させています。最低限、売上高・変動費・限界利益・固定費・経常利益は毎月見てもらい、前月や前年同月と変動の大きいところがあれば、「この数字の違いはどうしてですか?」と聞いてその理由を考えてもらっています。FXシリーズは変動損益計算書からドリルダウンして仕訳まで見られるので、社長さんが要因を突き止めやすい設計になっているのは非常にありがたいですね。
予実対比や財務分析、企業防衛など経営に関する相談はもちろん、身内の話を含めた幅広いお話ができるようになったおかげで、事務所と社長さんとの心理的な距離が近くなったと思います。
──自計化と巡回監査で、より充実した経営助言ができるようになったと。
和田 はい。そのおかげか、以前は商工会や金融機関からの紹介が多かったのですが、ここ最近はお客さまからのご紹介が増えています。「ちょっと料金高いけど、よくしてもらっているよ」と言っていただいているようで、「うちも見てもらおうか」という話になりやすいようです。記帳代行をしていた頃と比べて平均報酬額も上がりました。6割ほどアップしていると思います。ありがたいですね。
──「巡回監査で社長さんと何を話せばいいか分からない」という職員さんの声も聞くのですが……。
和田 確かに、税制改正などがあれば職員も話しやすいと思いますが、時にはネタに困るときもありますよね(笑)。
だからうちの事務所では、毎朝、30分かけて勉強会を兼ねた朝礼をしています。お客さま向けの月刊誌であり、事務所広報誌の役割もある『事務所通信』『経営者の四季』を皆で読み合わせたり、税制改正があればそのポイントを確認したりして巡回監査でお伝えできそうなトピックを準備しています。それと月曜日は3分間スピーチを行っていまして、問題点や成功事例を含めて、いろいろな情報を事務所全体で共有できるようにしています。
自計化定着後は金融機関との連携も進み経営改善支援事業を40件実践
──自計化後、金融機関との関係に変化はありましたか。
他社システム移行・自計化推進のポイント
- 「仕訳辞書」「初期指導」で簡単に自計化できることを強調する。
- 関与先の業種に応じたシステム提案や「BAST」を切り口にする。
- 巡回監査での「社長への経営助言」の時間確保を重視する。
和田 金融機関から「試算表が欲しい」と言われたときにTKCモニタリング情報サービスですぐ送れますので、「やっぱりTKCですね」と言われます。「直近の資料で融資判断につなげられる」「毎月部門別の資料も出してもらって助かります」という評価をいただいています。
巡回監査ができるようになってからは、四半期業績検討会を必ず開催するようにしています。そして、四半期業績検討会には、できるだけ金融機関の担当者の方にも来ていただくようにしているんです。毎回来ていただくこともあれば結果報告だけするときもありますが、年1回の決算報告だけでなく、できるだけ接点を増やしたいと思っているからです。
特に、業績が悪化して債務超過に陥ってしまったお客さまは早めの手当てが必要ですから、7000プロジェクト(405事業)のスキームを積極的に使い、経営改善計画を作って金融機関の協力を得て、元金返済をストップしてもらいます。業績検討会でこれまでの経過がよく分かっていますから金融機関の皆さんも協力的ですし、その後のモニタリング会議・バンクミーティングもスムーズに進みますね。
これまで早期経営改善計画策定支援(プレ405)とあわせて40件実践しました。職員には手当てを支給していますが、最近、着る服も違ってきました。私より良いスーツを着てるんじゃないかと思うくらいです(笑)。
職員の残業時間を減らす「働き方改革」と書面添付実践件数アップを同時に実現
──そのほか、自計化によって感じる変化がありましたら教えてください。
和田 職員の残業時間が減りました。繁忙期でも、19時半までには皆帰ります。記帳代行時と比べると、職員1人あたりの1日の残業時間は平均2時間くらい減っていると思います。自計化して月次決算を12回行っていますから本決算での修正項目がかなり減り、決算作業にかかる時間が少なくなったからでしょう。
時間が有効に使えるようになったので、書面添付にも力を入れられるようになりました。平成30年は74件実践できましたが、今後は巡回監査支援システムを活用して、もっと効率的に添付書面を作成できるようになりたいと思っています。
──働き方改革にも通じますね。
和田 はい。これからはできるだけ職員の残業を減らしてあげたいし、有給休暇もきちんと取得してもらわないといけない。旧態依然とした残業が当たり前の事務所経営では、良い人材を確保できないことにもつながるので、できるだけ職員の労働環境を整えてあげることはすごく重要なことだと思いますね。
必要書類作成のための専担者を置き「電帳法」対応を事務所全体で推進
──電子帳簿保存法(電帳法)への対応も積極的に実践されているそうですね。
和田 お客さまから、「仕訳帳とか総勘定元帳をどうにかできないか。かさばって仕方ない」というお声を以前からいただいていたんですよ。でも青色申告の要件として法定保存期間がありますから、申し訳ないと思いながらも保管をお願いしていたんです。
でも結局、普段お客さまは総勘定元帳なんて見ないんですよね。財務三表も郵送していたのですが、巡回監査であらかた説明しているので、封を開けないまま社長の机の上に置いてあるケースも多い。それなら紙でご提供している意味がないなと思って、電帳法対応を進めていこうと。職員も、財務三表を製本したり郵送したりする手間がなくなりますから、喜んで一致団結して一昨年から推進しています。
ただ電子帳簿保存を申請する際は、基本的に期首月の3カ月前までに届出をしないといけませんし、提出する資料も結構多いんです。パソコンやプリンタを変えるときも再度申請が必要なので、うちは書類作成者を1人決め、その職員が必要書類をすべて作成するようにしています。関与先名やパソコンの仕様等を変えるだけですぐ契約書・申請書が準備でき、お客さまへの提案後いち早く動けますから。
1年分の総勘定元帳と仕訳帳が保管できる「電子帳簿 TKC CD-Book」。
保管場所の省スペース化が可能に!
──9月30日から、JIIMA(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会)の「電子帳簿ソフト法的要件認証制度」に認証された会計システムを利用していれば手続きが簡素化されます。TKCのFXシリーズは、いち早く認証を受けました。
和田 それはありがたいです。手続きは結構大変だったので、助かりますね。
──「電帳法の承認を受けると税務調査の手法が変わる」との声も聞きますが。
和田 実は先日、電帳法の承認を受けているお客さまに税務調査があり、「通常の税務調査より細かく聞かれるのかな」と身構えていたんですが、そんなことはありませんでした。調査官の方は事前に何を確認すべきか絞っていて、必要な資料だけを印刷してお渡ししてチェックするという形で、非常にスムーズに調査が終わりましたね。
お客さまからは別途CD-Bookの料金だけ頂いていますが、「場所をとらなくていいね」と高評価をいただいています。今後、自計化先は全件で電帳法を申請していきたいと考えています。
職員が資格を取りパートナー制を敷いて法人化・支店展開するのが夢
──改めて、自計化推進のメリットをどのように感じていらっしゃいますか。
和田 TKCシステムの機能を使いこなして事務作業を効率化していき、生産性を高めていく──。そのことが巡回監査や決算作業の効率化にもつながっていきます。自計化することで関与先にシステムサポート料の負担が生じますが、入力作業の効率化によって労働生産性がアップすればサポート料以上のコスト削減につながることを関与先さんに強調するといいのではないでしょうか。
所長もしくはリーダーとなる職員さんが自計化の方向性を示して、全職員に浸透させて取り組んでいけば必ず件数は増えていくのではないかと思います。
また、これからは会計事務所も事務作業の時間短縮、巡回監査・決算作業の時間短縮を行って労働生産性を高めていく必要があると思っています。カード決済、電子マネーなどのキャッシュレス化が進むと、フィンテック等を活用したデータ取り込み・連携などは避けて通れません。経理処理の効率化・電子化は必須の時代がすぐそこまで来ています。
自計化でお客さまの労働生産性を高め、また我々にしかできない経営助言に力を入れることによって会計事務所の付加価値を高めていきたいと思っています。
──今後の夢を教えてください。
和田 ゆくゆくはパートナー制を敷いて法人化し、支店展開するのが夢ですね。いま税理士資格を持っている職員が1人いますが、税理士の「卵」の科目合格者も3~4人います。ぜひとも5科目受かって税理士登録してもらい、皆でパートナーとしてこの宮崎を元気にしていきたい。これが私の夢であり、目標ですね。
和田税務会計事務所
(インタビュアー/TKC営業本部 木多英幸 構成/TKC出版 篠原いづみ)
(会報『TKC』令和元年7月号より転載)