税務官公署出身会員に聞く
「税務会計顧問」として関与先満足を追求していく
税理士小久保英嗣事務所 小久保英嗣(千葉会千葉支部)
小久保英嗣会員
「税理士として経営の健全化と正しい申告のお手伝いをしたい」と、定年退官後の平成21年に開業した小久保英嗣会員。開業5年目を迎え、「信頼される税理士を目指す」と語る。
調査を通して後輩部下を成長させた
──退官前のご経歴と、印象に残っているお仕事について教えてください。
小久保 期別は普通科27期・本科19期です。普通科の東京研修所を卒業後、昭和42年の下谷を振り出しに、神田、館山、王子、葛飾、小田原、保土ヶ谷など、1都2県の各税務署と国税局に勤務しました。下谷署と神田署では、個人課税部門で、いまでいう資料情報を担当していました。法人に対する法定資料監査を行って、不動産開発業者の二重契約を見つけて不正を指摘したり、不正解明のために銀行や金融業者の反面調査を行ったりしていましたね。
その後所得税担当となり、統括官から最初に渡された5件の事案を調べたらすべて特調(特別調査)になったのは思い出深いです。当時は増差所得が300万円出れば特調になるといわれていたのですが、5件のうち一番非違の少ない事案でも800万円以上の過少申告がありました。この事案を選定した当時の上司の炯(けい)眼(がん)を尊敬するのと、自分でもいつかは身につけたいと思いました。
その後千葉県の館山署に転属。館山署にいた時の2年先輩が、渡辺重太郎先生(TKC千葉会南総支部)です。ちなみに館山時代には、お若い頃の宮﨑健一先生(TKC千葉会名誉会長)とも調査の現場で出会っていて、印象に残っていますね。
この頃から、後輩の指導・育成にも力を入れるようになりました。調査に行く際の、数字やものの見方、考え方、会話の方法等、現場での対処法を後輩に指導しました。その指導あってか、後輩たちは皆偉くなって、本省へ栄転した人もいます。本人たちの並々ならぬ努力は推して知るべしですが、仕事のやりがいや楽しさを教えられたと思います。
平成元年から統括国税調査官として葛飾、松戸、豊島、市川、銚子、船橋を回り、平成17年からは税務相談官として納税者の悩みを解決する仕事をしていました。その後平成21年3月に定年退官。同年7月、市川市で開業しました。
TKC入会で頼れる仲間ができた
──開業を決意された経緯は。
小久保 国税職員時代、いろいろな税理士を見てきました。措置法の特例を受けるために「なんとか善処して」と引き下がらない人、「貸倒金の認定はこれでいいのか」と申告直前に相談してくる人……。でも税理士がもっと早い段階で経営者の相談に乗っていれば、貸倒金の処理では、相談はもっと違う方向になるはず。税理士は、予算や利益の状態などについて経営者が正しく理解できるように指導して、経営を支えていかなくてはいけない立場のはず。報酬をもらって決算申告するだけでは、よくないと思いました。税理士として自分なりに企業経営に関与して、企業の健全化・正しい申告の手助けをしたいと思い、開業を決意しました。
──TKC全国会入会の背景は?
小久保 TKC全国会は、調査先の経営者を通じて知っていました。それに『TKC会報』を毎月読んでいて、TKC全国会が目指している税理士像と自分の理想像とが一番近いと感じていたんです。
それにTKC全国会は「血縁的集団」といわれますよね。私は税務の仕事に長年携わってきましたが、税理士としては1年生で事務所経営の経験もない。何かと相談できる人が多い方がいいだろうと思いました。「相続税のシステムはTKCがいいよ」と聞いていたし、一足先に入会していた渡辺先生と一緒に入会セミナーにも参加する中で、やっぱりTKCかなと。それで、開業直後の平成21年7月に入会しました。
──入会後の感想はいかがでしょうか。
小久保 巡回監査をベースに、税理士業務が体系的に標準化されているのはTKC以外にないと思っています。それにFX2(自計化システム)やTPS8000(相続税)、OMS(事務所管理)などのTKCシステムは素晴らしい。また事務所見学会で顧問料や相談料の相場まで教えてもらえるのはありがたいですし、なんといっても夜通し飲める仲間がいっぱいできた(笑)。
それに資産活用委員会委員になって、ハウスメーカーとの連携で地域金融機関とのつながりができたのもよかったと思います。おかげで効果的な相続税対策や条件の良い融資商品を提案できて、関与先にも喜んでもらえました。
「TKCはコストが高い」と言う人もいますが、本物を手に入れてどう使うかは自分次第。「安物買いの銭失い」になるのか、お金を払ってきちんとした品質のものを買うのか。どちらを選ぶのかという話かなと思います。
毎月の訪問を心待ちにしてくれている
──関与先さんの状況については。
小久保 去年4月、市川から現在の場所に事務所を移転しました。この時、それまでのつながりを全部リセットして、3件だけ残したんです。「FX2やe21まいスターを入れて数字に強い経営者にしていきたい」という私の提案を受け入れてくれた関与先だけにしました。特に巡回監査で、帳表の数字をひもといて業績予測や今後の改善策などの話をすると関与先はすごく喜ぶんですよね。はじめは「毎月来なくていいよ」と言っていた社長が、いまは「先生、来月はいつがいいですか」と何よりも優先して私と会う日程を決めてくれるようになりました。
──事務所の理想像を教えてください。
小久保 「税理士は関与先に信用されてナンボ」と思っているので、私のことを信頼してくれる関与先を少しずつ増やしていきたいなと考えています。いまは税務だけでなく「税務会計顧問」が求められている時代だと思うので、巡回監査をベースにTKCのシステムをフル活用して、関与先の満足を追求していきます。
(TKC出版 篠原いづみ)
(会報『TKC』平成26年5月号より転載)