事務所経営

巡回監査をベースに税理士業務を徹底し地域社会へ貢献する

燕三条税理士法人燕事務所
真島一誠会員(関東信越会新潟支部)/椛澤綾子会員
真島一誠会員

真島一誠会員

翌月巡回監査率100%を維持し続け、TKCシステムの徹底活用とKFSの一体推進を重視し、関与先へのきめ細かなサービス提供を心掛けているという真島一誠会員。職員時代から40年以上「TKC一筋」という真島会員に、自計化推進やペーパーレス化に向けた取り組みなどをはじめ、「巡回監査+TKCシステム」を軸にした事務所経営の手法をお聞きした。

40年以上にわたりTKC一筋 職員と関与先の安心のため法人を設立

 ──燕三条税理士法人は、新潟でも歴史ある事務所の一つとうかがっています。

 真島 法人の代表である坂上富男先生が税理士登録し、事務所を新潟県三条市に開設したのが昭和32年。その後しばらくして、増設事務所としてこの燕事務所が設けられました。坂上先生のTKC入会は昭和45年9月のことで、全国で278番目の入会だったそうです。TKC会員事務所としてもかなり歴史ある事務所だと思っています。

 ──真島先生の入所はいつ頃でしたか。

 真島 昭和45年3月のことです。洋服屋さんになりたくて、商業高校卒業後に1年だけ東京の羅紗問屋で勤めていたのですが、長男なので地元に戻ることになりました。父親の縁でこの燕事務所に入ってもう40年以上になります。入所半年後の頃に坂上先生がTKCに入会されたので、3枚複写伝票の時代からずっとTKC一筋です。

 ──税理士への道は順調でしたか。

 真島 5勝15敗(笑)。そんなに長く頑張る人はあんまりいないと思いますが、税理士事務所の職員でつくる勉強会のメンバーでお互いに励まし合いながら頑張りました。その後無事に合格できて、平成7年に税理士登録。登録後、TKCに入会して東間清吾先生から言われた「ダボハゼでいいんだわ」という言葉が胸に残っています。TKCシステムでも会務でも、何でもまずは積極的に食いついてやってみなさい、やってみれば分かる。たとえ失敗したとしても、やらなければ失敗もできないんだ──。こういう積極的な姿勢が大事なんだと教わりました。
 その後、燕事務所をまとめていた先輩が定年退職されたので、平成16年3月から事務所を任されるようになりました。

 ──平成20年6月に税理士法人を設立されていますね。

 真島 職員時代に、職員仲間の会があって、時々事務所の名前が変わる人がいたわけです。税理士は一身専属ですから、「うちの事務所も万一の時にはどうなるんだろう」と不安を感じていました。でも、職員の私が不安に思うくらいだから関与先はなおさら不安なはずなんですね。
 それでセンター長に相談したら、「良い方がいますよ」と椛澤(がわさわ)さんを紹介してもらいました。椛澤さんの入所を機に法人化して本当によかったと思います。

 椛澤 私は以前、他社システム利用で、関与先の証憑書類を全部預かってくる事務所で勤務していました。当時は7~8種類の会計ソフトを使っていて、遡及訂正もしょっちゅう。決算間近に宅急便で届く資料にはたいてい不備があるので電話で問い合わせるのですが、「1年も前のことは思い出せない」「資料は残ってない」と言われる。時間も労力もかかるので、「このやり方どうなのかな」と。

 ──TKCとの出会いは?

 椛澤 TKCの電子申告セミナーに参加したり、知り合いの会員事務所に見学に行かせてもらったりしていたんです。OMSを見せてもらった時はもう別の世界のお話みたいで、「TKCってすごいな」と思いました。それでその場で、「TKCの事務所で働いてみたい」とセンター長に話をしたんです。そうしたらとんとん拍子にお話が進んでいきました。

 真島 税理士法人にする前から2事務所体制だったので実質的に何か変わったわけではないのですが、万が一私に何かあっても椛澤さんがいるから事務所は継続できる。職員も関与先も、ものすごく安心してくれていると思います。関与には至りませんでしたが、「税理士法人にお願いしたいんだ」というご相談もありました。事務所経営の安定性を重視している経営者は多いのかもしれません。

燕三条税理士法人燕事務所

閑静な住宅街にある燕事務所。
周辺には金物製造の製作所も多数存在する。

監査日を分散させ月次関与に統一 繁忙期でも巡回監査率は100%!

 ──燕事務所のKFS実践状況等について、現在の状況を教えてください。

 真島 関与先件数は220件で、ほぼすべてが月次関与です。翌月巡回監査率は100%、継続MAS導入件数は165件、FXシリーズは191件、書面添付は217件。「中小会計要領」は平成25年1月から一斉に適用を開始して、適用企業は現在149社あります。おかげさまで、中小企業庁から出されている『中小会計要領に取り組む事例65選』で、関与先が紹介されました。

 ──いずれも高い数字ですが、重視されているのはどんな点でしょうか。

経営理念

 真島 TKCの先進事務所を参考にしながら、基本的に全部推進。「すべて標準業務として例外を作らない」ことを方針にしています。中でも、重視しているのはやっぱり巡回監査。すべての業務の大前提になるわけですからね。
 平成16年に先輩から事務所を引き継いだ時、「巡回監査率100%」を目標に決めました。そのために、まずは「事務所の都合でできなかった」ということをなくそうと思い、翌月末に集中していた巡回監査の日程を分散させました。
 それから年一関与や「2カ月に1回でいい」という関与先に対して、事務所の方針を理解していただくために膝詰めでお話ししました。たいていは月次関与に切り替わりましたが、どうしても理解いただけない場合は商工会議所に紹介するなどして、円満に解消していきましたね。そもそも私たちTKC会員事務所の関与先に月次関与ができない企業があること自体が問題だと思うので、もううちに依頼するべき経営ではないということです。
 最近も「中小会計要領」の適用を嫌がった関与先が他の事務所に移っていきましたが、その事務所でも同じことをたぶん言われると思う。そこで社長が気付いてくれればいいなと割り切っています。

 ──関与先数にこだわってはいないと。

 真島 はい。事務所からあまり遠いところはお断りしていますしね。結果的に30分以内で行けるところが中心。近い方が関与先に何かあった時にすぐ駆けつけられますから。いまの時代、リモートディスプレイやメールもあるので情報は簡単に共有できますが、やっぱり直接お会いしないと分からないことはたくさんある。訪問するというのは大事なことだと思います。
 おかげで現在はほとんど月次関与になりましたから、特殊業務がないんです。だから繁忙期の2月でも100%巡回監査ができる。関与先にも1月中に資料を用意していただいて、原則2月末までで確定申告を終わらせる体制ができています。1月16日から2月末までは18時半までの残業を認めていますが、それ以外の時期に残業は一切なく、定時の17時で皆帰宅します。特に冬は暖房費がもったいないから、早く帰れと(笑)。
 2月末までとしているのは、1月に届く源泉徴収票をなくしてしまう関与先がいて、そのたびに社会保険事務所に取りに行ってもらっていたのですね。だからお互いに利口になったというか(笑)。そのほうが双方にとって幸せですよね。

「立ち上げ専任者」が全関与先を支援 100社達成を餃子100個でお祝い

 ──KFSの推進はどのように取り組んできましたか。

 真島 継続MASと書面添付は事務所側で「やろう!」と決めたらできることだけれども、FX2は難しかったですね。相手のあることだから。
 でも、税務調査で「真島さん、あんたも忙しいとは思うけど、もうちっと丁寧な字で書いてくれんか」と言われたんですよ。確かに自分でも読めない(笑)。もう手書きの時代じゃないと気付かせてもらって、自計化推進を決意。第1次KFS作戦もあって、事務所全体で自計化推進への意識が高まりました。この時は職員の小林くんが頑張ってくれました。

 小林 事務所内では平成5年頃から自計化推進の話は出ていたのですが、本格的に推進するようになったのは平成11年頃からだったと思います。この時、どうしたら推進できるかを皆で考えて「レンタル料+顧問報酬」をセットで考える弾力的な金額の運用に変えました。
 それから、当時は「PX2を自計化推進の起爆剤に」というTKCの支援策もあったので、関与先のニーズを第一に考えて、給与計算や販売管理といった側面からシステムを提案し、企業に合わせてシステムの組み合わせや料金を柔軟に提示。この方法で、自計化率が徐々に上がっていきました。
 もう一つの工夫は、立ち上げ支援担当者を巡回監査担当者と別にしたことです。巡回監査担当者はOAコンサルタント研修を受講しているのですが、FX2推進にあたっては燕事務所と三条事務所、全関与先の立ち上げ支援と初期指導を私が専任で担当しました。おかげで、ある一定のレベルで立ち上げができるようになって、関与先と密なコミュニケーションをとれるようになったのは大きかったと思います。当時SCGサービスセンターが職員の情報共有のための会を立ち上げてくれて、提案時の話法やデモの仕方など、他事務所の推進ノウハウを勉強させてもらったことも推進に大きく役立ちましたね。

 真島 あるおばあちゃんは、伝票を何枚も書いて腱鞘炎だったそうです。それが、「自計化したら腱鞘炎が治った」と喜んでもらえたね。「うちは伝票やめたで。お前さんとこは?」なんて関与先同士の話で推進が進んだ部分もあります。
 ただ、2事務所で50件を超えた平成13年頃から推進件数が伸び悩んだんですね。ある時、中野亘先生(現TKC関東信越会総務委員長)と一緒に先進事務所の小湊昭事務所に見学に行ったら、TKCから贈られる「FX2 100社達成記念」の盾が飾ってあった。二人して目を丸くして、「100社、一緒に頑張ろう!」と奮起しました。そして2事務所でどちらが早く100社を達成するか対抗戦をすることになったんです。事務所でも「100社達成したら、餃子を100個食べよう!」という企画にして盛り上がりました。定期的な所内研修をセンターと一緒に開催して皆で推進する体制ができて弾みがつき、平成17年に100社を達成。皆で餃子を食べてお祝いしました。
 ちなみに中野先生との対抗戦はうちが勝ちました。ここは大事なところね(笑)。

巡回監査が終わると全員が集合して営業会議が始まる

 ──関与先さんはどのような業種が多いのでしょうか。

 真島 燕市は金属洋食器から始まったものづくりの地域なので、関与先も製造業に関連する企業が多いですね。その周辺の卸売業や金属金型メーカー、最近はサービス業が少しずつ増えています。

 ──直前期の関与先さんの黒字割合はどのくらいですか。

 真島 63%ですが、関与先のことを考えるとまだまだだと思っています。さすがにリーマン・ショック後は55%くらいまで下がりましたが、こういう大きな外部環境の変化を除けば、黒字割合の変動はあまりないですね。これは月次でお伺いしている良さだと思います。

 椛澤 つくづく毎月の巡回監査って大事なんだと感じます。ある製造業の関与先は、設立当初は社長一人で始めて役員報酬もとれないくらいだったのですが、いまでは黒字に転換し、売上が前年の倍、従業員も5人に増えています。
 この会社では、私の巡回監査が終わると従業員皆に号令をかけて、全員で私の話を聞いてくれるんですね。そして、「どうしたらもっと利益率が上がるのか」という営業会議がその場で始まるんです。前月の業績が黒字だと、営業会議兼祝勝会みたいになって、とても楽しんで経営をされている。今年のお正月には、社長が「5年後をめどにジャスダックに上場したい」という大きな夢を語ってくれました。社長自身も以前と比べて明らかに変わったと思います。

失敗しても「明るく起き上がる」 「老・壮・青」皆で助け合う事務所

 ──職員さんの年齢層の幅が広いと感じました。

 真島 よく「『老・壮・青』がそろっている」なんて言われます(笑)。私も含めて長く働く人が多いですね。
 法人化に伴い、退職金を一度皆に支払いました。そして以後の退職金は中小企業退職金共済に加入して、一層の充実を図ることに。定年制も廃止しましたが、70歳前後で自主的に退職していく人が多いですね。欠員が出てから順次補充しているので、定期採用は基本的にはありません。それでも結果的に年齢バランスの良い事務所になっていると思います。

 ──採用時の基準はありますか。

 真島 特にないんです(笑)。優秀な人を採用するのも大事ですが、事務所に入ってから皆となじんで同じ方向に進んでくれればいい。募集は受験校でかけていますが、会計事務所経験の有無は問わないですね。いまは新卒で入った人の方が多いけど、他事務所で勤務していた人もいるし、厳しい基準を設けて最初から間口を狭めることはしないようにしています。私が若い頃は職員の入れ替わりもありましたが、補充で採用するようになってからはほぼなくなりました。

 ──定着率の高さの秘訣は何でしょう。

 真島 誰でも失敗することがありますよね。その失敗例を皆に公開して情報共有するんです。そうすると、じゃあ次はどうすればいいかと再発防止策を話し合えるし、なんとかしようと皆がまとまる。明るく起き上がるというか(笑)。でないと、その人は孤立してしまって事務所を辞めざるを得なくなる……。それではかわいそうでしょう。皆が助け合う環境を大事にしています。だから倫理法人会への加入をきっかけに、毎日の朝礼で法人会発行の『職場の教養』という冊子を皆で唱和しています。結構良いことが書いてあって、1日の活力になりますよ。

 ──研修についてはいかがですか。

 真島 職員時代、私もTKCの職員研修に参加していましたし、第2期上級職員研修の合格者です。ですから職員には、積極的に研修に参加してもらっています。研修は基本的に希望制ですが、中級・巡回監査士研修については全員参加としています。現在、巡回監査士5名、中級合格者は5名。あと中級1科目を残している人が1名。皆頑張ってくれています。
 実務面では、月に1回担当SCGに来てもらって「TKCシステム研修」を開催しています。ここでは、システムやパソコンの意外と知られていない機能、知っていると便利なことを「小ネタ」として教えてもらっています。例えばFX2で「手形管理」をしていれば科目内訳とデータ連携するなど。事務所全体で使える機能が増えていって、相当業務効率が改善しました。関与先に普及したのは、USBフラッシュメモリの名前を変更すること。これで保存場所が分かりやすくなります。些細なことですが、結局、小さいことの提供がものすごく喜ばれる。その積み重ねが大事なんだと思います。

巡回監査支援システムの徹底活用ですっきりオフィスへ大変身!

 ──事務所内にモノが見あたりません。かなりすっきりしていて、驚きました。

 真島 ペーパーレス化は頑張りましたね。関与先に自計化を提案していて事務所が手書きというのはおかしいだろうと思って、ペーパーレス事務所を目指して、事務所の合理化を始めたんです。
 まずは給与計算をPX2に、請求業務をFMSに、事務所の経理処理をFX2へと移行していきました。ただペーパーレス環境を実現するにはどうしても職員の意識改革が必要だったので、見えるところから少しずつ整理整頓を開始。最初は壁にモノを貼らないようにして、時計まで外してしまいました。
 次は自分たちの机の上、それから机の引き出し、書棚、金庫の中……と範囲を広げていきました。何年も使っていないそろばんとか結構いろいろなモノが出てきましたよ(笑)。それで、不要なモノは捨てる、事務所にモノを残さない、という方針で進めていったんです。面白いもので、モノがないのがだんだん快感になってくるんですよ。事務所が整理整頓されてキレイになっていくと、今度は関与先のことが気になる。書類の管理方法や保存方法を提案してきたとか、関与先のトイレを掃除してきたという職員も出てきた(笑)。良いことだと思います。
 それから巡回監査支援システムの活用もペーパーレス化に一役買いました。それまでなかなか浸透しなかったのですが、紙ベースの「巡回監査報告書」の使用を止めたんです。字の上手な人は「手書きがいい」と言っていたのですが、決算が終わったら自動的に支援システムを使わざるを得ない環境にしました。退路遮断したおかげで、DAIC2も含め全TKCシステムが支援システムにのりました。
 いまでは「楽々ライブラリ」と複合機を活用して、決算関係書類をはじめすべてデータ化して管理・保存しています。FAXも掲示板やサーバーを活用し、紙での出力・保存を極力しないようにしています。おかげで事務所2階の書庫がガラガラになりました。それでも、もっと紙を減らせるんじゃないかと模索中です。

燕三条税理士法人燕事務所

「凡事徹底」を大事にし続け最も身近で頼りにされる存在に

 ──お二人の、今後の抱負を教えていただけますか。

 椛澤 後継者が最近入社した会社の社長から、後継者教育の一環として「何か困ったことが起きたら必ず燕三条税理士法人に相談するように」と一番に伝えたと聞いて、非常にうれしく思いました。
 うちの事務所は凡事徹底というか、何より基本を大事にしている事務所だと思います。これからも巡回監査を徹底して、関与先から最も身近で頼りにされる存在でありたい。どんなことでも一緒に向きあっていけるような強い信頼関係を、事務所全体で構築していきたいですね。

 真島 今回の取材が良い機会だと思い、『会計事務所の経営品質向上マニュアル』で事務所の経営品質を見直してみました。現状分析を楽しみにしてやってみたら、評価は「C+」。「標準的なレベルの会員事務所と思われます。しかし、ややもすると問題の先送りになったり、気付いた時には差をつけられたりするおそれが……」と書いてある。自分では結構頑張っていると思っていたんだけれど(笑)。現状がうまくいっているからこのままでいい、というわけではなくて、事務所の将来のためには継続的な改善を重ねる必要があるんだな、と改めて感じました。
 おかげで定期的な職員採用や潜在的な顧客に対する情報発信、関与先拡大に向けた積極的な活動など、漠然としていた事務所経営の課題が明確になりました。もっともっと事務所をよくして、関与先に良いサービスを還元して地域社会に貢献していく「総合力」ある事務所をつくっていきたいと思います。

燕事務所の皆さん

燕事務所の皆さん。真島会員の隣が社員税理士の椛澤綾子会員、
3列目の一番左が自計化推進を担当した小林国男氏。

(TKC出版 篠原いづみ)


真島一誠(ましま・いっせい)会員 ◎63歳
平成7年税理士登録、同年TKC入会。平成20年6月燕三条税理士法人設立、従たる事務所に。TKC関東信越会新潟支部支部長。

燕三条税理士法人 燕事務所
 住所:新潟県燕市水道町2丁目8番25号
 電話:0256-63-2369
 関与先件数220件(法人・個人)。税理士2名、職員数12名(巡回監査担当者10名)。

(会報『TKC』平成26年5月号より転載)