独立開業
ぶれずに巡回監査体制を構築し、お客さまを全力で支えたい
NMS委員会座談会「新規開業奮闘編」
とき:平成25年8月5日(月) ところ:TKC東京本社
30代の新規開業会員3名が集まり、現在までの関与先拡大や巡回監査体制構築などについて語った。司会は、佐藤正行全国会ニューメンバーズ・サービス委員会副委員長が務めた。
出席者(敬称略・順不同)
川名亘司会員(城北東京会練馬支部)
秋元 学会員(神奈川会横浜中支部)
友利勇栄会員(九州会沖縄支部)
司会/TKC全国会ニューメンバーズ・サービス委員会
副委員長 佐藤正行会員(近畿京滋会)
「ニューメンバーズの集い」に参加し入会を決意
──本日は、皆さんの新規開業の経験から関与先拡大の秘訣などをお伺いしたいと思います。まずは川名さんからTKC入会の動機を含めて自己紹介をお願いします。
川名 私の実家は祖父の時代から自営業で米屋でしたが、なかなか食べていくことが難しい時代になり、将来は独立したいと考えていました。卒業後にTKC会員事務所に就職して税理士を目指しました。
平成20年5月に東京の練馬で開業しました。周辺は農家が多く、人口が増えている地域です。独立後も迷わず、即TKCに入会。現在の関与先数は、法人14件、個人7件です。個人の関与先でも毎月巡回監査をしています。経営者の身近な相談相手として労務、人事、売上対策以外に家庭内のご相談などもあります。いまは私一人の事務所ですが、これから拡大に力を入れていくためにも職員を採用し、実務に追われている現状を改善していきたいと考えています。
秋元 私の事務所は、平成20年6月開業で、スタッフ4名、関与先94件、そのうち個人事業は9件です。特長は司法書士、社労士事務所を併設し、ワンストップサービスで関与先を支援する体制です。
職員時代にお世話になった事務所では、他社システムから、TKCシステムへの移行作業を経験しました。関与先100件ほどの移行を中心となって進めるよう任されたので、大変だった反面、良い経験をさせてもらうことができました。TKCは仲間とざっくばらんに話せる環境があることが良いですね。
友利 私は、平成19年5月に開業しました。関与先は50件、個人と法人が半々程度です。税理士の妻を含めて職員は5名です。
川名さんと同じで、私の父も事業を経営しています。もともと家業は兄が継ぐことになっていたので、他にサポートできることはないかと考え税理士の道に進みました。
職員時代は他社システムを使っていたので、入会前は「TKCは血縁的集団」と聞いて、どんな集団なのかと怖かったのですが、先輩に勧められて沖縄で開催された「ニューメンバーズの集い」に参加し、開業から半年後にTKCに入会を決めました。情報量がとても多くサポート体制がしっかりしているのがTKCの魅力だと思います。
司法書士や社労士と親しくなり関与先が増え始める
──関与先拡大のために、新規開業後1~2年の頃どんなことをされましたか。
川名亘司会員
川名 当初ゼロ件からのスタートで半年ほどは関与先がありませんでしたが、時間だけはあったので、とにかく税理士会やTKCの会務などに片っ端から参加しました。人とのつながりを大切にしながら、基本的にはどんな関与もお引き受けするようにしたところ、ある司法書士の方と親しくなり関与先を紹介していただいたり、関与先から独立してお客さんになってくれる方がいたりして、少しずつ件数が増えていきました。
秋元 私も開業当初はほとんど関与先がなく、本当に苦労しました。司法書士と一緒に始めた事務所は、机と椅子とパソコンだけ。棚すら買えずに書類はダンボールに入れていました。お客さまからは「また引越しですか?」と言われて(笑)、「このままでは、食べていけないので、どなたか紹介してください」とお願いしたこともあります。
関与先拡大で唯一失敗したことは、縁もない、金もない、コネもないなら知名度を上げようと、新聞広告を出したことです。広告費に10万円かけて、2、3件反応があればいいなと期待しましたが、結局何の問い合わせもなくてがっかりでした。それからは、「自分が売り物」と思って積極的に外に出ていくようにしたところ、いまではその成果が少しずつ形になってあらわれてきていると思います。
友利 私は職員時代に都内で働いていましたが、結婚を機に沖縄に戻って、妻とともに開業しました。3カ月ほどは、事務所の中で向かい合わせに机を2つ並べて。ですが、電話が1本も鳴らなくて毎日けんかばかりしていました(笑)。
開業直後は、自分で作ったDMを手当たりしだいに送って、飛び込み営業もしましたが、効果はほとんどありませんでした。訪問したときに、「税理士の友利です」と自己紹介したら顔色が変わって、「税務署の方ですか?」と間違えられる始末でした。
沖縄はもともと企業数が少ないので、専門分野で特化するとなかなか食べていけないからと最初はどんな案件でも引き受けるようにしていました。しかし、開業から半年ほど経って社労士と知り合いになり、私が職員時代に医業の関与先を担当していた経験があったことから、クリニックなどを紹介してもらえるようになりました。それが、結果的に事務所の差別化につながりました。いまでは関与先の3分の1がクリニックで、100%紹介された案件です。
「TKC会員なら開業資金を貸します」と言ってくれた
──金融機関とのつながりはどうですか。
川名 ニューメンバーズ・サービス委員会主催の関与先拡大セミナーで信金と知り合い定期積金を始めました。集金に来たときは、「記帳適時性証明書」のチラシを使ってアピールしたり、銀行回りも何回かしています。
──金融機関側に自分がどんな税理士なのか知ってもらうためには、関与先の社長に「うちの税理士は他の税理士とはちょっと違う」と言ってもらうことが大事です。第三者からの口コミが増えれば、いっそう拡大の効果が上がると思います。
秋元 学会員
秋元 私の場合は少し変わっていて、銀行に開業資金300万円の借り入れを断られたことがきっかけで、逆に銀行とのつながりができました(笑)。支店で融資を断られたので、本店まで掛け合った結果、「TKC会員なら貸します」と言ってくださったのです。それで私も、「ついでに金利は1%にしてください」とお願いしまして(笑)。期待して待っていたら、実際は3%ちょっとでした。それでもちゃっかり「お客さんも紹介してください」とお願いしたところ、やがてそのやりとりから銀行からの紹介が増えました。その後は、どんな案件でも引き受けるようにしました。
しかしそれだけでは差別化できないので、スピード感を持ってできる限りお客さまと直接会って「いい事業計画を作りましょう!」と積極的な提案を続けました。特に、新規の関与先には、「私も開業当時苦労しました。最初の事業計画がしっかりしていないと難しいですよ」と経験談を交えてお話ししたところ「こんなに熱い人は初めてですよ」と仰って、別のお客さまを紹介してくださったこともあります。
そのうち、銀行から「ちゃんと時間をつくってくれる税理士」と言われるようになり、コンスタントに紹介していただけるようになりました。
友利 これまで先輩の会員が銀行とのパイプづくりのために汗をかいてくださった土台があり、沖縄支部では、沖縄銀行と継続的に金融交流会を開催しています。最初は支店長と会員がメインでしたが、最近は行員と職員が交流を深めています。
私自身、開業1年目はほとんど相手にされませんでしたが、金融交流会に参加するようになって、支店長や行員に名前と顔を覚えてもらえるようになり、支店に挨拶に行くと応接室まで通していただけるようになりました。ある関与先のリスケの話になったときは、すぐに支店長から「進めましょう」と返事をもらいました。沖縄では、TKCブランドが浸透しているので、金融機関がだいぶ身近になったことがありがたいですね。
「一点突破、全面展開」で巡回監査体制をつくる
──事務所経営の根幹である巡回監査体制構築に取り組んでおられますか。
川名 私は、自分を追い込むためにも翌月巡回監査を必ず行うと決めていて、巡回監査のたびに翌月の日程を決めて帰ってくるようにしています。会務や研修等の日程でお客さまが後回しにならないようにしています。いまは、一人の事務所なので、急激に拡大を進めることは難しく、拡大を進めるためには、やはり従業員の採用がポイントだと考えています。
秋元 所内の巡回監査体制についてはまだ道半ばです。吉野太先生(神奈川会)の事務所見学会に行ったときに、「巡回監査体制こそが業務の基本的なポイント」と説明してくださいました。一言で言うなら「一点突破、全面展開」だと。事務所見学会のときからずっとその言葉が頭に残っています。ぶれずに巡回監査体制を構築することができれば、TKCシステムによる自計化をはじめ、すべての課題を突破することにつながるとの思いで、必死に所内体制を構築しているところです。
それを実現するための課題が、スタッフ教育です。ありがたいことに、私が想像していたよりも早いスピードで関与先が増えたので、まだ巡回監査がおぼつかないところも正直あります。拡大を進めていくと、どうしてもスタッフとの間で仕事に対する熱意に温度差を感じるときがあって、私の思いをどのように伝えていくかという悩みがあります。
──その問題は事務所経営の永遠の課題ですが、職員をTKCの研修に出すことで、克服できると思います。世代や立場が違っても、「所長と同じことを言っている」と職員に納得してもらうことが大事です。ニューメンバーズ・サービス委員会が新入会員のフォローもしますし、職員についても研修を通じて育て合う体制があるんですから。
友利 私は、職員時代に巡回監査の経験がなく、初めはどうすればいいのかまったく分からなかったので、毎朝15分間勉強会を開いて『巡回監査実践講座』テキストの読み合わせを始めました。また、月初ミーティングでは、私が社長役になって職員と巡回監査のロールプレイングを行っています。これを続けることで職員の不安を取り除き、お客さまとスムーズに話せるようになってほしいと考えています。
『BAST』の他社比較に発奮して黒字に転換した関与先
──初期指導と自計化はどのように進めましたか。
川名 自計化については、パソコンが苦手な関与先を除いて、ほぼすべての関与先が、TKCシステムを使っています。
それから自計化を進めたあとには、継続MASをフル活用できるようになりました。一番効果が上がった事例は、売上規模約3億円の会社です。社長はそれまで売り上げしか気にされていませんでしたが、継続MASを使って『BAST(TKC経営指標)』の同業他社比較等の数値を見せると、利益率に注意するようになり黒字転換し、関与から3年経ったいまでもその状態をキープしています。
継続MASを導入したおかげで、お客さまが作成した予算計画をそこに落とし込んでアドバイスすることも可能になりました。帳簿も手書きと違ってファイルの管理が簡単です。
秋元 以前、FX2のレンタル料を関与先からいただくことはできないと悩んだ時期がありました。事務所見学会に参加したときに猪熊正美先生(神奈川会)に相談したところ「それは、FX2の機能の良さを知らないからだと思う」と言われて、もっともだと反省しました。
他社システムを使っている関与先には「とにかく一度見てほしい」とお願いして、社長にデモ画面を見せてプレゼンテーションをしています。事前に画面展開や予算管理など、興味を持ってもらえるストーリーを準備して、あとは熱意でとにかく「だまされたと思って1年間使ってみてください。もしだまされたと思ったら1年分のお金を返しますから」と言って説得することもあります。それでクレームがきたり、返金した事例はありません。むしろFX2を導入した関与先からは、業績管理ができるようになったと喜ばれることが多くあります。
──単に帳簿を作るシステムという認識ではなく、業績管理体制を関与先にしっかり導入するためのツールだと認識することが大事です。これは、TKC会員事務所のビジネスモデルを確立するためにも重要なポイントだと思います。
友利勇栄会員
友利 関与先に初めて導入したTKCシステムはDAIC2でした。きっかけは、他社システムを使っていた関与先から「現場ごとに管理がしたい」と言われたことで、TKCのSCG社員の勧めもあって導入につながりました。
以前は、「経理の数字を把握するのが遅くて困る」と嘆いていた社長が、導入後はタイムリーに数字が確認できるようになったと喜んでくださいました。
それから継続MASを導入したことで、予算と実績の比較ができることも好評です。関与先の反応を見て、私自身もその良さを実感し、「絶対にいいから、このシステムを使ってください。後悔させません」と自信を持って強く言えるようになりTKCシステムによる自計化が進んでいます。
「自分が成功することでお客さまを支えたい」
司会/佐藤正行副委員長
──ビジョンや抱負を聞かせてください。
川名 私は、生まれ育った練馬の地域を活性化したい。そして、将来職員を採用したときには、職員に夢を与える事務所にしたいと思います。私自身も、職員時代に関与先から喜んでいただいたことからご紹介につながった経験があり、非常にうれしかったですから。職員がそういう思いにさせられる環境をつくりたいと思います。
いまは、税金計算だけでよいということはないと思うので、価格ではなく、サービス内容で勝負したいと思います。お客さまに「事務所を大きくすることで地域社会の役に立ちたい」と熱意を持って訴えて、拡大につなげたいと思います。
秋元 「自分が成功することでお客さまを支えたい」が私のモットーです。関与先の悩みにスピード感を持って対応し、レベルの高い業務を行うことを心がけています。この姿勢で積極果敢に新しい市場を開拓するべく、関与先の先手を打って行動していきたいと思います。
それから税理士もサービス業だと考えているので、お客さまから喜ばれる支援を心がけています。喜びの声をいただいたときには、その言葉に感動できる素直な気持ちを持ち続けたいですね。スタッフによく言うのは、「試算表は過去計算だけど、関与先は常に先のことを考えている。それを理解して、話し合える関係をつくろう」ということです。
友利 事務所のキーワードは心です。「お客さまに対して心を込めて行動することで、感動してもらえるようになろう」と職員に伝えています。これまでは関与先拡大で頭がいっぱいでしたが、いまはいったん、所内体制の構築に重点を置きたいと考えています。
お客さまにとっては、顧問税理士の事務所が、ある程度の規模でないと安心できないと思うので、所内体制を整えて一段落ついたときに、また拡大に向けて走りたいと思います。
──皆さんのお話を聞いて、事務所経営に終点はなく、日々の業務改善を続けていくことが大事なんだと改めて実感しました。悩んだときこそ、事務所体制をTKCの基本に近づけていくように努力することで、その先の活路が見いだせるのではないかと思います。皆さんのご健勝をお祈りしています。
(構成/TKC出版 益子美咲)
(会報『TKC』平成25年10月号より転載)